<スパイスアンバサダー2022>
「スパイスアンバサダー2022」活動中です。どうぞよろしくお願いいたします。9~10月の活動テーマは、「新しい世界へ!スパイスを使う世界のサラダ」とし、今回より10回連載でレシピを掲載していきたいと思います。
野菜料理は私の得意料理? いえ日常料理! ファーム(家庭菜園)で収穫したての旬の食材を中心に食卓に乗せる日々は、一年を通して毎日欠かさない暮らしの習慣となっており、それこそ、世界200か国以上の野菜料理を作ってきました。世界中の野菜料理を作る我が家の暮らしはすがすがしく楽しいものです。
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さて、今回、世界のサラダ料理に取り組もうと考えたとき、まず取り組むべき課題を見出しました。それは、
サラダの定義とは!?
です。そう。なぜならサラダの定義についてこれまで真剣に考えたことがなかった。漠然としたイメージだった。でも物事はイメージで語るのは良くないというのも分かってる。
そんな自己疑問を抱いたので、私は、サラダの定義という「答えのない問い」を自己解決したく、取り組み始めました。
サラダの定義
日本は近代化するまで基本的に生野菜を食べる習慣がありませんでした。野菜は汚いものだったのでそのまま食べるのは危なかったのです。昔の日本は柿酢と塩が定番調味料だったので、酢の物は酢で殺菌し、あとはおひたしやごま和えのように、野菜をゆでて殺菌していました。近代化して、生の野菜を生で食べるとともにサラダという外来語が入ってきて、現代のわが国では「サラダは生野菜」のイメージが強く定着しています。
しかし!
私がインターネットを使って世界の料理の情報を探すとき、スーダン料理ならアラビア語とか、ギニアビサウ料理ならポルトガル語といったように現地の公用語を使います。今まで長年そのような情報収集をしてきたことで、私にとってはサラダの定義が日本人が日本で抱くイメージ以上に幅を持ってきました。
(1)サラダの定義・除外項目
ではまず、サラダの定義に該当しないものを排除することを考えます。なおここで言う定義は原則事項です。
- サラダの語源はラテン語の塩(Sal)。よってデザートや果物のみの甘いものを除外する。
- サラダは食事の中では野菜を食べるサイドディッシュの位置づけ(※)にあり、主食(ごはん・麺・パン類)や主菜(肉や魚のメインディッシュ)を除外する。
- 液体を飲むものではない。よってドリンク・煮汁の多い煮込み類(スープやシチュー類)を除外する。
- おかずとしてそこそこの量を食べうるものである。よって量を食べない前提の漬物類を除外する。
※菜食主義者は野菜料理がメインディッシュと言えるが肉類を排除していることには変わりない。
(2)サラダの定義・必要または許容項目
次は、サラダの定義を満たすための必要項目を考えます。
- 基本食材が野菜である。
- イモ類、豆類、海藻、きのこ、米等もサラダの基本食材になりうる。(→ポテトサラダ、ライスサラダ等)
- 葉野菜がよく使われるため冷菜が多いが、加熱しないと食べられない食材もあるため(例:じゃがいも)、定義上は温・冷を問わない。
- 野菜を使うサイドディッシュの中の位置づけであれば、上の除外項目の材料を含めても可。(→リンゴが入ったサラダ、チキンサラダ等)
(3)サラダの定義・世界の3大スタイル
さらに、世界の料理を俯瞰すると、サラダに該当するものには、大きく3パターンあります。
<1:生の野菜を加熱しないもの>
これが狭義のサラダです。生の野菜を加熱せずに食べるもので、主に葉野菜が使われます。あとは大根やにんじんなど生食可能な根菜類、トマトやきゅうりなど生食可能な実野菜など。
<2:野菜を加熱し、形が残るもの>
温野菜サラダやポテトサラダのような、野菜やイモ類を加熱し、野菜の形を残していただくものです。加熱が必須でない食材でも、例えばキャベツやにんじんは火を通すと甘く美味しくなりますよね。英語版Wikipediaの「List of Salad」(≫こちら)には「ごま和え」が掲載されており、日本料理で青菜をゆでる料理も世界的にはサラダの位置づけです。
<3:野菜を加熱し、ディップ状のもの>
箸を使って食べる日本料理には、伝統的にはディップ状の料理を食べることがあまりありません。しかし水が貴重な地域にはスープがなく、主食のパンなどを食べるにあたり、主食を飲み込みやすくするために、野菜や豆類はしばしばディップの形状になります。これは世界の食文化の考察において極めて重要な点であると考えます。つまりこれらの世界では野菜や豆類のどろどろ煮(いわゆるディップ)もサラダの位置づけです。
箸を使う日本人にはこれらをサラダと認識し難いのは分かりますが、手でパンをちぎって手で料理を食べる人々が世界には何億人ないし十億人以上の規模いるということを、忘れないでいてほしい。
実例として、下の画像は、スーダン料理の「サラタアスワド」(سلطة اسود)です。直訳して「サラダ・黒い」で、ナスをどろどろに調理したディップです。料理名にズバリ「サラダ」の名が入っています。
欧州にもこの例が少なくなく、下の画像はルーマニア料理の「サラタデビネテ」(Salata de vinete)です。直訳して「ナスのサラダ」です。これも料理名にずばり「サラダ」の名が入っています。
野菜の料理ならどろどろでもピューレでもディップ状でもサラダであることの好例です。
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以上をまとめます。
原則的には、サラダとは、おかずの1つとして野菜を食べるサイドディッシュであり、葉野菜・実野菜・根菜などのほか、イモ類、豆類、海藻、きのこ、米等もサラダの基本食材になりうる。サラダの定義には温・冷を問わず、そこに形状等を考慮していくと、<1:生の野菜を加熱しないもの>、<2:野菜を加熱し、形が残るもの>、<3:野菜を加熱し、ディップ状のもの>と、3つのスタイルに区分できる。なお除外項目は主食(ごはんや麺やパンなど)、主菜(肉や魚料理)、スウィーツや果物などの甘い皿、漬物など量を食べない添え物、スープやシチューやドリンクなどの液体料理など。ただし野菜を使うサイドディッシュの中の位置づけであれば、肉や魚や果物などの除外項目の材料を含めてもよい。
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以上のように、サラダの定義がまとまりました。
次回からは、「新しい世界へ!スパイスを使う世界のサラダ」として、今回の定義にしっかり沿った上で、<生食1~3>、<加熱1~3>、<ディップ1~3>と、3区分について3料理ずつ、合計9種類のスパイスを使う世界のサラダのレシピを掲載していきます。
【第1回】サラダの定義とは
【第2回】生食1
オレガノ使用、ギリシャ料理「ホリアティキ」
【第3回】生食2
パセリ使用、米国料理「ランチドレッシング」
【第4回】生食3
クミン使用、シリア料理「タブーリ」
【第5回】加熱1
こしょう使用、ロシア料理「サラートオリビエ」
【第6回】加熱2
ナツメグ使用、レユニオン料理「アシャール」
【第7回】加熱3
ガラムマサラ使用、スリランカ料理「ラトゥアラカリ」
【第8回】ディップ1
パプリカ使用、エリトリア料理「シャハンフール」
【第9回】ディップ2
ピンクペッパー使用、ジョージア料理「プハリ」
【第10回】ディップ3
コリアンダー使用、モロッコ料理「ザアルーク」