特にアフリカ料理。アフリカには我々日本人の知らない穀物がたくさんあり、知ろうとすればするほどミレットやソルガムの知識のなさの壁に当たります。知ろうとすればまだいいのだけど、その知識欲が芽生えないと「穀物の粉」とかで終わってしまう。これまで米と麦くらいしか食べたことがないからヒエやアワ系統のミレットの味に気づかない。下手したら、現地で「ミレット」と言われて→ミレーを連想し→落穂拾いを連想し→小麦を連想するなんて人もいるだろう(実際いたw)。
まじめな話に戻すと、さらにアフリカでは、各種穀類は、練ってもち状になればウガリとか、平たく焼けばインジェラといった、使う穀物の種類が違っても主食が単一の固有名詞で呼ばれてしまうことが多々あり、自分から聞きに行く積極性及び相当の穀物の知識がないと、料理を食べて写真を撮る程度では、穀物の種類などは本当に分からないものです。
実際、日本で普通に暮らしていると食卓にのぼることのないミレットやソルガムには、私自身、アフリカにいる時点で理解が浅かった。難しかった。反省。
そこで、勉強することにしました。このページでは、ミレットやソルガムについて勉強したことを、勉強の段取りとともにまとめます。
ミレットもソルガムもイネ科の穀物である。日本では米でも麦でもないので雑穀扱い。日本にあるメジャーな雑穀のうち、ヒエ・アワ・キビはミレットに属し、モロコシはソルガムに属する(ただしモロコシはトウモロコシではない)。アフリカの主流ミレットであるパールミレットはトウジンビエと言い、第二のミレットであるフィンガーミレットはシコクビエと言い、どちらもヒエと名がつきながらも日本のヒエとは違う植物である。アフリカ全体ではパールミレットが最多であり、西アフリカでは全国がパールミレット優勢。フィンガーミレットはアフリカの東部の一部の国で優勢となる。ミレットは(日本のアワやキビを思い出してほしい)小粒であり、ソルガムは大粒である。
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まず、穀物とは何か、穀物には何が該当するのかがあやふやなので、そこから学びます。
◆Wikipedia「穀物」(≫こちら)
「澱粉質を主体とする種子を食用とするもので、穀物は、狭義にはイネ科の種子のみを指し、広義にはマメや他の種子を含む。」
OK。要は、穀物は基本的にイネ科である。私は豆は穀物には区分しにくいので、狭義の定義を受け入れていこう。
なおここでは、擬似穀類として、ソバ(タデ科)、アマランサス(ヒユ科)、キヌア(アカザ科)を挙げています。
◆Wikipedia「イネ科」(≫こちら)
<代表的な使用例>
食用の穀物として:イネ・コムギ・オオムギ・カラスムギ・ライムギ・キビ・アワ・ヒエ・トウモロコシ・シコクビエ・モロコシ
その他食用として、タケ(新芽)・マコモ(新芽)・サトウキビ(髄)・ハトムギ(果実)。非食用として、材料(タケ・ヨシ・ススキ)、観賞用(タケ・ササ・ダンチク・シロガネヨシ・シバ)、その他飼料・牧草。
各論やその他を学んでいくうちに、食用穀物である「イネ・コムギ・オオムギ・カラスムギ・ライムギ・キビ・アワ・ヒエ・トウモロコシ・シコクビエ・モロコシ」を、日常よく使う名称で分けていくと、以下の4つに分けられるように思いました。
1)米(イネ)
2)麦(コムギ・オオムギ・カラスムギ・ライムギ)
3)雑穀(キビ・アワ・ヒエ・シコクビエ、モロコシ)
4)トウモロコシ
あとはここに上の
5)その他穀物(疑似穀類:ソバ、アマランサス、キヌア)
を加えれば5区分になります。
すなわち、穀物を大雑把に分けると、米、麦類、雑穀、トウモロコシ、その他(ソバ等)の5区分になります。
・・・ただ・・・、日本の食べ方では、トウモロコシは野菜のイメージもありませんか? 雄花は穀物っぽいけど食べるのは雌花の肥大部分であり、むしろ果菜です。BBQでトウモロコシを焼いたら穀物という感じはしないですよね。それとは別に、知らないとトウモロコシとモロコシを混同してしまうおそれもあります。このあたり、日本の基準ではどうなっているのでしょうか。見てみましょう。
◆日本食品標準成分表|文部科学省(≫こちら)
日本の栄養評価の基準となるのが食品成分表です。ここで「穀類」には、アマランサス、あわ、えんばく、おおむぎ、きび、こむぎ、こめ、そば、とうもろこし、はとむぎ、ひえ、もろこし、ライむぎの13種類を挙げていました。とうもろこしは穀類です。
この13種類を上の1)~5)のように分けると、
1)米
2)麦類(えん麦、大麦、小麦、はと麦、ライ麦)
3)雑穀(あわ、きび、ひえ、もろこし)
4)トウモロコシ
5)その他穀物(アマランサス、そば)
となります。だいぶ整理しやすくなってきました。
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では次に、トウモロコシとモロコシは確実に違うものであることを見ましょう。
◆Wikipedia「モロコシ」(≫こちら)
出てきた!!モロコシ=ソルガムです!!
モロコシの別名称は、ソルガム、タカキビ、コーリャン、ソルゴー。ソルガムがモロコシという名の雑穀であることが分かった。
◆Google画像検索「Sorghum」
ソルガムの写真を見ると、茎の先に、粒が丸くて大きな穂をつけています。
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次はミレットについて見てみよう。
◆Google画像検索「ミレット」
穂がすっと伸びています。ソルガムよりも粒が小さそう。
◆Wikipedia「ミレット」(≫こちら)
ミレットは様々な穀物を含む言葉で、「トウジンビエ(パールミレット)、シコクビエ(フィンガーミレット)、テフ、フォニオ、ヒエ、キビ、アワなどがある」。とのこと。
これ、上で作った穀物5区分の、
1)米
2)麦類(えん麦、大麦、小麦、はと麦、ライ麦)
3)雑穀(あわ、きび、ひえ、もろこし)
4)トウモロコシ
5)その他穀物(アマランサス、そば)
すべて3)の雑穀に属します。キビ、アワ、ヒエ、と言えば、日本でも昔から食べられてきた伝統的雑穀類です。
1)~4)はイネ科なので、「ミレットはすべてイネ科で、日本では雑穀扱い。すなわち日本伝統雑穀のあわ、きび、ひえもミレットに属する。」とまとめることができます。
◆Wikipedia「Millet」(≫こちら)
英語Wikipediaでも、「All are members of the family Poaceae」つまり「ミレットはみなイネ科である」と書いてある。
◆Wikipedia「Poaceae」(≫こちら)
イネ科植物の下分類には「PACMADクレード」や「BOPクレード」や「その他」がある。それは、「細菌」の下分類に、「グラム陽性菌」や「グラム陰性菌」や「その他いろいろ」があるようなものに似ています。例えば「黄色ブドウ球菌は細菌分類のグラム陽性菌に属する」ように、ミレットはイネ科分類の「PACMADクレード」に属するということです。「PACMAD」はその下位分類の頭文字6個を並べたものです。
以下は、Wikipedia「イネ科」(≫こちら)、Wikipedia「雑穀」(≫こちら)、Wikipedia「Millet」(≫こちら)とあわせて情報を統合し、自分の頭に入るキャパを考慮してw作ったまとめです。
<PACMADクレード>
- Panicoideaeキビ亜科
┣Andropogoneae:ソルガム(通常ミレットにみなさない。グレートミレットと言う場合はソルガムを指す。)
┗Paniceae:パールミレット(トウジンビエ)、プロソミレット(日本のキビ)、ジャパニーズバーンヤードミレット(日本のヒエ)、フォックステイルミレット(日本のアワ)、フォニオ(通常ミレットにみなさない)、 - Aristidoideae
- Chloridoideaeヒゲシバ亜科
┗フィンガーミレット(シコクビエ)、テフ - Micrairoideae
- Arundinoideae
- Danthonioideae
ここで大事なこと。
- 日本のキビ、ヒエ、アワは、学名にすべてミレットがつく。
- 海外でよく見るパールミレットは、日本の雑穀(日本のキビ、ヒエ、アワ)とは異なる。
- ミレットはほとんどがキビ亜科PanicoideaeのPaniceaeに属するが、フィンガーミレット(シコクビエ)は別。
- そして、ソルガム、フォニオ、テフは通常ミレットにみなさない。
あと、中国やロシアで食べて美味しくて気に入って食べていた「シャオミー(小米)」は、フォックステイルミレット(日本のアワ)でした(^^♪
◆Wikipedia「Millet」(≫こちら)
「世界で最も広く栽培されているミレットはパールミレットである。」(The most widely grown millet is pearl millet)
こういう記述がありました。これは本当でしょうか?
◆Relative importance of millet species, 1992-94.|FAO(≫こちら)
FAOの資料があります。これは各国別にミレット種類別の一覧表を示しています。
<表から読み取れること>
- この統計では、ソルガムはミレットから除外。テフとフォニオはミレット類に分類。
- 開発途上国におけるミレット比率のうち55%がパールミレット(トウジンビエ)。アフリカでは87%。よって、どちらにおいても、全ミレットの大部分がパールミレットと言える。
- 西アフリカの表の作り方がおかしいぞ(苦笑)。
- 全アフリカのミレットのうち80%が西アフリカ。
- 西アフリカの95%がパールミレット。
- とはいえ、0の欄が多すぎる。統計がちゃんととれてないんじゃないかな。
- コートジボワールの「その他ミレット15%」は何だろう、いい意味で気になる。
- ミレット大国はインド。ダントツ!
- この統計上日本は100%キビ。アワは無統計なの?
- フォニオなつかしー♪ マリで食べました。マリに5%ありました。他の国では0が連なります。
- アフリカでフィンガーミレット/パールミレット>1となる国は、ブルンジ、エチオピア、マラウイ、ルワンダ、ウガンダ、ザンビア。フィンガーミレット比率が高い国は東アフリカに多い。
- しかし、東アフリカの国はフィンガーミレット比率が高いと言ってはいけない。東アフリカの2大大国であるケニアとタンザニアはパールミレットが優勢だからだ。
- パールミレット(トウジンビエ)やフィンガーミレット(シコクビエ)はアフリカの主要ミレットである(アフリカでは全ミレットの94%。一方でアジアでは全ミレットの50%しかない)。
- プロソミレット(日本のキビ)やフォックステイルミレット(日本のアワ)はアジアでは全ミレットの37%(アフリカでは0%)。
- CISを先進国に区分して大丈夫なんだろうかこの統計(汗)。先進国群ではほとんどプロソミレット(日本のキビ)。でもアフリカ最大の先進国南アでも、やはりアフリカらしくパールミレット優勢。
- テフ大国はエチオピア、次いでエリトリア。インジェラ2大国家だぁ~。
- 20年以上前のデータなので、古いなぁ。同じ統計の新しい版を探したのですが見つからず残念。
- シメに書いておくがrelative importanceってなんだろう。importanceの評価尺度が分からない。。。マーケット量でしょうか?
・・・とまあ、統計というものは、見れば見るほど分かることが多くて楽しいものだ。大事なことはこういう観察を通じて世界をつかむことなのではないかと思っている。人がまとめた文章を読むだけなら、楽だけど、つかめないからね。
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ミレットもソルガムもイネ科の穀物である。日本では米でも麦でもないので雑穀扱い。日本にあるメジャーな雑穀のうち、ヒエ・アワ・キビはミレットに属し、モロコシはソルガムに属する(ただしモロコシはトウモロコシではない)。アフリカの主流ミレットであるパールミレットはトウジンビエと言い、第二のミレットであるフィンガーミレットはシコクビエと言い、どちらもヒエと名がつきながらも日本のヒエとは違う種類である。アフリカ全体ではパールミレットが最多であり、西アフリカでは全国がパールミレット優勢。フィンガーミレットはアフリカの東部の一部の国で優勢となる。ミレットは(日本のアワやキビを思い出してほしい)小粒であり、ソルガムは大粒である。
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あった、西アフリカのパールミレット♪ 私も写真に撮っていました♪
今なら分かります。この写真はパールミレットです。世界最大のミレットで、西アフリカは特にパールミレット主体である事実と、この写真をマリで撮ったことが一致して嬉しいです。
次にソルガムの写真!!
私はこの私の世界旅の最大の冒険を忘れたことなどありません。ケニアのトゥルカナ湖西岸ルートからエチオピアのオモラテへ入国した。「道なき道を行く、No-man-landへの挑戦」、のフィナーレ。オモ河にいた裸族の美女が、「ソルガム」と言って見せてくれたのは、大粒の穀物をふかしたものでした。確かに今写真を見ても、大粒です。大粒だからソルガムです。
\(^o^)/ヤッター
分かるようになってきたじゃん!!私!!
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この勉強をした目的は、大きく3つあります。
- 1)これまで穀物の知識がなさすぎた。現地で穀類を見ても、「麦っぽい」とかで終わってしまったことが多々あった。言い訳としては、日本にいると作物としても食糧としても見かけるのは圧倒的に米。あとは製粉後の小麦粉とか、ときどきハト麦とか。。。今や雑穀すら日常生活では食べないから・・・。
- 2)次に旅をするときには、もっと穀物について知識を持っていたい。そのために、世界の旅で多々見かける、ミレットとソルガムの知識は特にほしかった。
- 3)旅にでなくても、日頃の見聞の中でミレットとかソルガムとかが出てきたときに、あやふやなまま逃げるような人生は送りたくなかった。
この勉強には半月を遣いました。2週間ですよ2週間。私の2週間のうち取れる時間のほぼすべてをミレットとソルガムに注ぎました(苦笑)。でもいい時間だった。得る物が大きかった。私はいつも後悔しない道を選んでいるつもりだが、今回も結果的にまったく後悔していない。
今私は、次にミレットやソルガムのある地域を旅するのが楽しみです。今なら分かる。行けば必ず、今日の勉強を活かして情報収集ができるはず!!・・・そんな日が来ることを楽しみにしながら、今日からもまた、1日1日を、後悔しない時間として歩んでいこうと思います。