中国を旅して水餃子の美味しさに感動して、以来百回以上自宅で水餃子を再現しながら調理しています。「次はもっと美味しく」、「前回よりももっと美味しく」と、何度も作り方を向上させてきました。
でも例えば「前回はこうやって皮を作った。今回はこの点を変えて皮を作ろう」という流れで作り方を変えても、今回と前回は調理条件が同一ではないので、結果的に、今回が前回より美味しく出来たと感じても、それが今回の変更によって美味しさが向上したとは限らない。同時比較実験をしない限りどっちの方法が美味しいかが分からない。このジレンマとずっと葛藤してきました。
だって、餃子の皮から手作りするのってめちゃくちゃ大変なんですよ。具も作んなきゃいけないし打ち粉したら粉がキッチンに飛んでて掃除が大変、手間は想像以上にかかるから。それに、同時比較実験となると、異なる作り方で餃子の皮を2種類作ったとして、「ゆでたらどっちがどっちだか分からなくなる」ジレンマ。
だけど、同時比較実験をどうしてもやりたかった。特に、水餃子の皮を水でこねたら美味しく感じる日も、熱湯で作ったら美味しく感じる日もあったので、どちらがより美味しいかを決めるには同時比較実験をするしかなくなりました。
そこで本記事では、面倒で手間はかかりましたが水ごねと、熱湯ごねで、他の条件を同一にして同時食べ比べ実験を行いましたので、検証方法と結論を記事にします。
目で見てぱっと分かりやすいよう、
水ごね関係を青い文字
熱湯ごね関係を赤い文字
で記載します。
* * *
手作りの餃子の皮実験・制作
レシピは中国の満州で学んで作った私の基本レシピを基にしています。最小限の材料で作るほうが変動ファクターが少なくなるため、いつも加えている片栗粉を省きました。
- 小麦粉250 g(中力粉230 g+強力粉20 g)
- 塩3 g
- (A)水または(B)熱湯 115 g
です。こうして(A)水ごねの皮と、(B)熱湯ごねの皮を作りました。同日に作っているので気温気湿も同じです。

(A)水使用の皮のほうが、ひっつくし、伸びています。
同時比較実験はすべての調理条件を同一にするため、同じ鍋で(A)水ごねの皮の水餃子と(B)熱湯ごねの皮の水餃子を同時にゆでます。だから、食べるときにどちらなのかを判別できるようマーキングが必要です。そこで食紅を使い(B)熱湯ごねの皮生地の一部を赤くしました。

こうして包むと赤い色が透けて見えます。

ゆでた後も(B)熱湯ごねの皮には赤い色が透けて見えています。

なおもし赤いマーキングが見えないと(A)と(B)を取り違えるリスクが生じるので、(B)熱湯ごねの皮の水餃子は両端を折り込んで形も変えておきました。
ちなみに中身は豚ひき肉50%+ニラ50%。美味しいニラ餃子ですよ~♪
手作りの餃子の皮実験・ブラインド実食
判定は単盲検試験(シングルブラインド)形式をとりました。単盲検とは、調理者は正解を知っているけれど、もう一人は違いを知らされていない状態での食べ比べです。
夫には「こっちの餃子とこっちの餃子は皮の製法が違います。お味はいかがですか。」とだけ伝えて、私が両者を別皿に盛り、それを交互に食べてもらい、違いを述べてもらいました。
結論
その上で、2人の結論は、
変わんない
そして
どっちも美味しい
でした。もし「微細な違いも見逃さないように食べ比べる」のならば微妙な食感の違いは見いだせるのですが、どちらか片方のみが出てきた場合はどっちを食べてもいつもと同じ味と感じるのです。それが「変わんない」の意味です。
微妙な食感の違い
「微細な違いも見逃さないように食べ比べる」と自分に言い聞かせて、(A)水ごねと(B)熱湯ごねの水餃子の違いを探っていきました。
若干(A)の水ごねは、噛んだとき、皮を歯で押したときに微妙に跳ね返りを感じることがあります。だから、「両者は変わんない」範囲内ですが(A)水ごねのほうが食べていて硬いです。
理由としては(A)の水ごねは皮作成時に熱処理をしていないのでグルテンが普通に形成され、それが跳ね返りや硬さを生んでいます。
一方(B)の熱湯ごねは相対的に、噛んだときの柔らかさ感じる気がします。基本的に「差がない」範囲内ではありますが(B)熱湯ごねのほうがソフトと言えます。
理由としては(B)の熱湯ごねは皮作成時にグルテンの元タンパク質が熱変性しグルテン形成量が減っています。
だから、例えれば、(A)の水ごねのほうは小麦粉グルテンが生成していて、まるで、安いそば(小麦粉配合のそば)を食べるような麺の粘弾性を感じ、(B)の熱湯ごねのほうは十割そばを食べるような、すっと切れる食感が出ています。
どっちがいいかは、そりゃ好みです。私は十割そばのファンなので小麦粉が混ざったそばは買いません。そういう人きっとほかにもいるでしょ? だから美味しさを求める場合、弾力が必須&グルテンが必須ということはありえないのです。
そして次に記すような、作業性の違いも重要です。
作業性の違い
皮生地の扱いやすさは断然(B)熱湯ごねの勝ちです。
(A)の水ごねの皮は柔らかすぎて形が変わるし扱いにくいし形がよれてだらしなくなる。
そして手にくっついてくるので扱いにくく打ち粉がたっぷりないと無理。打ち粉って家庭の調理では少ないほうがいいんです。打ち粉が多いと掃除が大変なので。
その点(B)熱湯で作る皮はよれないし扱いやすいしベタベタしないし、打ち粉が少量で成形しやすく綺麗に作れます。
この違いもグルテン形成量の差で説明できます。(A)水ごねの皮はグルテンがよく形成され、(B)熱湯ごねの皮はグルテンが少ないからベタベタしないし伸び縮みが少ないしよくまとまります。
餃子って、例えば4人家族だと軽く more than 50個は作るだろうし、食べ盛りさんがいると over 100個ってこともあるじゃないですか。それだけ大量に皮を作って置いておくとき、(A)水ごねの皮は重ねているとよくくっついてしまうんですよ。日本の普通のキッチンだと100枚の皮を重ねずに打ち粉して乾燥防止のシートをかけて置いておくって、場所の確保も要るし、手間のかかりようも半端ないし、非っ常~に大変じゃないですか。後の掃除も厄介です。でも(B)熱湯ごねの皮なら最小限の打ち粉で皮を延ばして重ねて置いておけるんです。普段の調理においてこの差は大きいです。
「(A)水ごねの皮が扱いにくいなら水分減らせはいいじゃない?」と言われそうですが、水分を減らしても解決しないと思います。今回の調理レシピでは理論上368 gの材料を混ぜて、(A)水ごねの皮は366 g、(B)熱湯ごねの皮は363 g出来上がりました。これにより(B)熱湯ごねの皮のほうが水分の蒸散が多いことが示唆されますが、じゃあ(B)に水3 g追加すれば(A)になるかと言われれば、絶対ならない。3 gの水の差程度じゃあれだけの皮生地の粘弾性の差は出ない。根本的に2つの生地が異質なのです。
ちなみにもうひとつ不満を言うと(A)水ごねの皮づくりの場合グルテンが多いから伸ばした皮が縮んでしまう。せっかくきれいに理想サイズに延ばしたのに、具を包む時点でちっちゃくなっちゃって、作業がしにくいです。(B)熱湯ごねの皮は安定しています。
ちなみに中国で聞いたときも水ごねの人と熱湯ごねの人がいました。水ごねの餃子屋さんは大量の粉の中で皮を伸ばす作業をしていました。(A)水ごねの皮は柔らかくて皮は延ばしやすいが、打ち粉がたっぷりないと扱えないから、商売のスピードでは(A)水ごねで皮を作って打ち粉たっぷりで重ねていくのが速くて良いのですね。
(B)熱湯ごねの水餃子の皮は、やはり中国北方(満州など)のような、皮も主食にする地域風の餃子づくりには合う要素もあります。なぜなら皮が主食になり水餃子だけで食事が完結するので、皮を厚く作るからです。(A)水ごねで弾力が強くて硬い皮を作ると厚い皮の場合は食べにくいことがある。そういうときは(B)熱湯ごねで厚いがソフトな皮を作ると食べやすいと言えます。
なお、手作りの餃子の皮に対する定番の美辞麗句に「もちもちの皮」という言葉があります。そこで「もちもちした餃子の皮を生むのは。(A)水ごねと(B)熱湯ごねのどちらか(あるいは両方か)?」という質問に対する私の答えは決まっています。その質問の背景にある比較対象の原点は「市販の焼き餃子の皮」なので、「どっちでも、すごくもちもちですよ」と答えます。だって比較の相手が薄々のペラペラなんだもん。この考察は正しいと思います。
次はおまけの焼き餃子編です。
焼き餃子にした場合
(A)水ごねの餃子の皮と、(B)熱湯ごねの餃子の皮は、実は2倍量作っておきました。そうして水餃子と焼き餃子で2回の同時比較実験を行うことができました。
水餃子と違って「左が(A)、右が(B)」みたく分けたまま焼いていけます。

水餃子と同様に単盲検で実食し、その上での結論は、やはり、
変わらん
そして
どっちも美味しい
でも、
どっちも違う
でした。
焼き餃子の場合、水餃子よりも皮を薄く作るので、皮づくりの作業に一層の手間がかかります。焼き餃子のほうが、皮生地の違いによる作業性の違いが重要ポイントになります。
(A)水ごねの皮は、作業しにくい!!くっつくし、伸ばしても縮んでくるし、重ねられないし、食べるときも弾力・噛み応えがあるので餃子の食感ではなくなる。皮がハード。硬い。とにかく薄く作れば良いが縮んで来るので結局厚くなるし、くっつくなら粉を多く水を少なく、でもそれでは薄く伸ばせず結局厚くなって歯ごたえが大、・・・と、作る側からしたら結構不満な皮です。美味しいんですよ、美味しいんですけどね、期待していた焼き餃子を食べる食感ではないです。
(B)熱湯ごねの皮は、相変わらず作業がやりやすい。口の中ですっと切れるので美味しく食べられるし、食べた時の皮がソフトに感じるのが良いのだけれど、厚めでソフトな皮は、期待していた焼き餃子を食べる食感ではないです。
と、このように焼き餃子でも手作りの皮の同時比較実験をしたわけですが・・・・・・・・、でもね、(A)でも(B)でも期待していた焼き餃子を食べる食感ではないと思ったんです。
それはなぜだろう? と考えているときに、頭に浮かんだことは、「そもそも中国ってあまり焼き餃子食べないしな」って。
そう。根本的に、
焼き餃子は日本料理なんです。
中国に焼き餃子はありますよ。でも見かけるのは稀だし、中国全体の中では圧倒的に水餃子シェアが高いです。もしかして「ほぼ10:ほぼ0」くらいになりうるんじゃないかな。だから、私たち日本人が食べる焼き餃子や、我々が焼き餃子に期待するものは、日本の餃子なんです。
ここが大事。
そして、日本の餃子は、我々が幼少の頃から、お母さんがスーパーや肉屋で餃子の皮(市販品)を買ってきて作るものだし、餃子の王将とかで食べるような工業製品の薄皮だから、いくら自宅で手作りしたってあの工業製品は作れません!!! できないことはないのだろうけれど、50個とか100個とかの餃子を作るときに、手作り餃子の皮を市販品の如く薄々のペラペラに作るのは、忙しい主婦には極めて大変です。でも市販品のように薄く作らないと「期待される焼き餃子」の味にならない。手作りによって作れるのはもちもちの皮だけど、我々が焼き餃子の皮に求めるのはもちもちではない。
私と夫の意見の一致つまり結論として、焼き餃子を作るなら市販の皮を買えばいいということになりました。手作りしなくていい(しないほうがいい)。ただし、水餃子の皮は美味しい市販品(中国北方本場の味が出せる市販品)がないから、手作りする価値があります。
ところで、以前友人夫婦宅に招かれてホームパーティーしたとき、先方ご夫人の提案で「餃子パーティーしましょ☆」ってなったので、女性陣で焼き餃子の皮を手作りしました。市販の皮を使うよりも、調理や食事の会話が弾んで楽しさが増しましたね。手作りの皮の良さです。なので焼き餃子で手作りしてもそりゃ問題はありません。
冒頭に書いたように、(A)水ごねの皮も(B)熱湯ごねの皮も食べたときの美味しさはどっちも美味しいし差異を感じない。その状況において、どっちが美味しいかは好みだから、味の好みと作業のやりやすさ、それから上のホームパーティーの例のような楽しさも、いろんなことを勘案して決めればよいのです。
では最後は、作る対象を水餃子に戻して、好みの皮になるコントロール方法を考察します。
好みの皮を作るコントロール方法
上述のように、水餃子は、(A)水ごねの皮と(B)熱湯ごねの皮のどちらで作ってもどっちも美味しいし味は変わらないという実験結果の中で、微細な特徴としては、
(A)水ごねの皮で作る水餃子は、弾力・噛んだときの跳ね返り・硬さが微妙に強い。生地が扱いにくく形がだれてしまう。(B)熱湯ごねの皮を作るメリットは作業性で、生地がベタつかず扱いやすいし少ない打ち粉で作業できるので家庭の調理に向いている。噛んだときの食感は十割そば(小麦粉由来の跳ね返りがないそば)に例えられる。
私は(A)水ごねの皮が持つ微妙ながら感じる粘弾性に魅力を感じ、(B)熱湯ごねの皮の扱いやすさも魅力を感じました。
だから、今後私が作っていこうと思う水餃子は、
(A)と(B)の中間です!
(B)熱湯ごねの皮のほうが微妙に弾力が弱い理由は、小麦粉に熱湯が当たることでグルテン生成の前駆タンパク質が失活したことによります(失活度合いは不明ですが)。一方で(A)水ごねの皮はグルテンが生きています。
だから、グルテンの生き残り割合をコントロールできたら自分の理想の水餃子の皮が作れると思うのです。
ただ、安易に「水と熱湯の間だからぬるま湯」と考えるのはいけません。
グルテン前駆タンパク質の失活温度を68℃とすると(※)、その他の変動因子を排除して単純に考えた場合67℃までなら(A)水ごねと同じですから、ぬるま湯(40~50℃くらいの湯)を加えても水ごねと同じです。
※グリアジンは68℃以上、グルテニンは95℃以上で変性する。
つまり、ぬるま湯は水と熱湯の中間値をとれないのです。
となると、やることは、「小麦粉と塩を混ぜておいて、2分割して、片方に水、片方に熱湯を入れてこねてから2つを合体させ、よく練って均一にする」やり方です。この手法だと、粉を2等分したら単純計算ですがグルテン形成率を50%下げることができますし、水ごねと熱湯ごねの比率を1:2なり3:1なりに変えることで、任意のグルテン形成率となるよう自分からコントロールできるのです。実際は比率どおりの単純計算ではいかないのでしょうけれど、試す価値ありです。あくまで、温度を変えるのではなく水ごねと熱湯ごねの比率を変えることが、自制コントロールの正しい手法です。中国では「半烫面」(バンタンミェン)と言う確立された手法です。
* * *
今回、念願だった「水餃子の皮の同時比較実験」を行うことができました。
今回得た結論は、4つありまして、
- 水餃子及び焼き餃子の両方において、水ごねの生地でも熱湯ごねの生地でも美味しさは変わらない
- 美味しさが変わらない以上、後の掃除しやすさや作業のしやすさ、楽ちんさ、楽しさ、気分などで決めていい
- 微かな差に注目してより美味しいほうを作りたい場合、私の味覚と好みにおいては、水餃子では熱湯ごねの生地の作業しやすさを保持しながら水ごねの生地がもつ弾力性(グルテン感)もほしいから、両方のミックス生地を作って良いとこどりするといいだろう
- 焼き餃子の皮は市販品がいい
です♪
やっぱり、自分の頭で考えて、ネット見て終わりじゃなくて、自分が行動して検証して、自分と家族が「美味しい」と思うものを追求していけるのは本当に有意義なことだと思いました。ネットを見てると、みなさん口をそろえたかのように(コピペ祭りしたかのように)水餃子は水で焼き餃子は熱湯でって書いてあるけど、自分がちゃんと作って実験してみたらそれも違ったので、私は今回の結論を自分の努力で得たことには大変満足しています。
これからは、熱湯ごねと水ごねのミックス生地の配合比率をいろいろと試しながら、大好きな水餃子を、一生美味しさ向上させることを楽しみに頑張っていこうと思います。
