スパイスで新しい味わい【第8回】イベリア半島が受け継いだ世界の頂点文化『ピンチョモルノ』

2020/05/10

スパイスアンバサダーの活動報告
4月・5月のテーマは、いつもの料理がスパイスで新しい味わいになるという趣旨で、10回連載形式で、10通りのスパイスアレンジレシピをお届けしています☆

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第8回は、イベリア半島が受け継いだ世界の頂点文化、『ピンチョモルノ』です。

ピンチョモルノ

焼き鳥や肉の串焼きを感激の味で食べたいとき、ユーラシア大陸の西の果てまで行ってみようか。レシピをつかみに。

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ユーラシア大陸の西の果て、そこはイベリア半島。現在の国区分で言うと、主にスペイン、そしてポルトガル、海峡に面した小国家ジブラルタルと、山岳小国家アンドラが含まれます。

そこにはアラブの遺産として深く根付いた美味しい串焼き料理が存在します。その名前はピンチョモルノ(Pincho moruno)。ムーア人はスペイン語でモロ(Moro)、形容詞化してモルノ(Moruno)と言うので、ピンチョモルノは直訳して「ムーア人の串」という意味の料理です。

ピンチョモルノ「ムーア人の串」、ということはこの料理の最重要基礎としてムーア人のことを知っておきたい。大前提として、ムーア人とは時代と記録者により定義が異なるので正しく理解をするためにはたくさんの勉強が必要になりますが、私の知っている範囲でざっくり語ると、まず古代、ヨーロッパにブラックアフリカという概念が無かった頃にローマやギリシャから見たアフリカ大陸の住民です。語源には「肌が黒い人」という意味が含まれます(※)。

※現在のモーリタニアも「モーリ」の部分がムーアを意味し、現在も主要民族はムーア人です。

ただ「アフリカ大陸の住民」と一言で言うのは誤りで、ローマよりも早く発展していた古豪エジプトや、ローマであったチュニジアカルタゴなどはムーア人の地域とは異なる認識。彼らにとってのムーア人の地域は今のモロッコ、西サハラ、モーリタニア、アルジェリアそれからもちろんセウタやメリリャあたりだったのだと思います。

7世紀になると東方のアラビア半島でイスラム教が興ります。絶大なアラブ国家であるウマイヤ朝のアラブ人は、アフリカ大陸の地中海沿岸をに西へ西へと徐々に版図を拡大し、ついに、イスラム教徒化したベルベル人(ムーア人の一部の人々)主体でジブラルタル海峡を北に渡り、8世紀にイベリア半島へ進出。半島(特に南半分)は8~15世紀にわたるイスラム支配を迎えます(※)。

※北アフリカがイスラム化されたことによりやがてまたムーア人という定義もイスラム教徒という含みを持ったり持たなかったり、ひいてはイベリア半島へ上がった人々をムーア人と呼んだり、定義の多様性が生まれてきます。

当時ヨーロッパは後進国です。イスラムの文化・学問・技術が極めて高度で、イスラムは世界の頂点に立っていました。ムーア人/アラブ人の文化はイベリア半島に豊かさをもたらし、文化は共存し、ルネサンスが華開きました。ルネサンスってイタリアだけの言葉じゃないんです。それよりも2世紀も前にイベリア半島がルネサンス。まるで華の如き繁栄でした。

料理の点では、『ムーア人の料理は豊かさを映し出す料理』です。アラブの料理は多くのスパイスを使った料理であり、スパイスをあまり知らない中世ヨーロッパの料理とは美味しさが違います。それは一度味わうと私たちは夢中になるのです。こしょうが金と同じ価格で取り引きされていたのは有名な話です。

だから、スパイスにマリネされた肉は、ヨーロッパの人々にとってどれだけ美味しかったことか

ムーア人の名前を残してピンチョモルノと呼ばれる肉のスパイスマリネの串焼きは、美味しさの鍵がスパイスにあるということです。21世紀の今、スペイン各地、もちろん家庭料理としても人気の料理です。

レシピは簡単です。

heart『ムーア人の串焼き♪ ピンチョモルノ♪』
材料(4人分):

にんにく
2かけ
肉(※1)
400 g
パプリカ
小1/2
カイエンペッパー
小1/4
クミンパウダー
小1/2
乾燥オレガノ
小1/2
乾燥タイム
小1/2
白ワイン(※2)
大1
小1/4
こしょう
小1/4
オリーブオイル
大1

※1:お肉は豚肉の塊肉か鶏肉を使います。豚肉のトンカツ用の肉が合います。
※2:白ワインがなければ省くか水で代用してよいです。

作業工程:20 分(マリネする時間を除く)

  1. にんにくをクラッシャーで破砕するか極めて細かいみじん切りにし、ボウルに入れる。
  2. パプリカパウダー、カイエンペッパーパウダー、クミンパウダー、乾燥オレガノ、乾燥タイム、白ワイン、塩、こしょうを入れ、軽く混ぜる。
  3. お肉を食べやすい大きさより一回り大きなサイズに切ってボウルに入れ、全体が均一になるように手で優しく和え、5時間置いておく。
  4. 竹串に刺し、フライパンにオリーブオイルを入れて熱し、中まで火が通るように両面を焼く。
  5. Enjoy!
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ピンチョモルノ

これウマッ

う・ま・い・・・

うまいっ

スペインで食べても美味しかったものね

ああ食べたね

スペインに行ってたときって、後ウマイヤ朝とかよく分からなくて、ホント今更後悔してる

俺海外で時間が出来ると、ひたすらロンプラ(※)の歴史のページ読みあさってるからな

単語分かるの? ロンプラの言い回しって難しくない?

知らんのばっかりだよ。でも単語を調べちゃうと歴史の流れが切れることに気づいてから、単語が分からなくても読み進めてる。歴史は流れを読むもんだ

そっか、すごい

まあお前の場合は料理を作りながら勉強してればよろし

しかしなぁ、この料理、すげぇぜいたく品だっただろうな

香辛料?

そう

そうだね。そう思う


※ロンプラ:Lonely planet。世界的に有名な英語旅行ガイドブック。

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イベリア半島。
私は1492年という年号を忘れない。コロンブスが「アメリカ」を発見した年、スペイン本土ではレコンキスタ -国土回復- が完了した。8~15世紀にわたるイスラム支配・イスラム教徒を駆逐して、キリスト教が国土を奪回した。

それでも今、イベリア半島には、かつて世界の頂点文化に立ったムーア人/アラブ人の料理の影響が、良い意味でたくさん残っています。クリスチャンたちは、羊肉を豚肉に変え、お肉の風味付けに白ワインを使いながらも、料理の根幹はムーア/アラブの伝統を受け入れて、旅行者の我々にも美味しい料理を提供してくれます。

このピンチョモルノは、イベリア半島が受け継いだ、あのときの世界の頂点の文化です。

本当に美味しいので、是非一度作ってみてください。


※本記事はハウス食品及びレシピブログが主催するスパイスアンバサダーに就任したことに基づき執筆するものです。



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本記事、レシピ内容及び写真の著作権はすべて管理人:松本あづさ(プロフィールは≫こちら、連絡方法は≫こちら)にあります。読んでくれた方が実際に作って下されば嬉しいですし、料理の背景やTipsなど、世界の料理情報の共有を目的として、大事に作成しています。
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