昔発行された書籍で、タイムライフシリーズの「世界の料理」という本があります。
世界の広域にわたって写真や図説つきで食文化と料理を紹介しており、作られた時代からみると、未知の文化を日本語書籍で紹介するために多大な労力と尽力を経て作られたことがひしひしと伝わってくる良書です。世界の料理に関心がある人は読んだことがある人も多いと思います。料理名の日本語カタカナ表記についてはかなり言語学的な勉強をされていることが伺え、優秀な日本語訳者を登用したと思われます。
しかし、このカリブ海編でアルバ料理として紹介されている「Saucochi di gallinja」という料理には、「サウコッチデガジンハ」というカナカナが充てられていましたが・・・、
私にはこのカナカナ表記がどうしても納得がいかない。だいたい、料理の世界でガジンハという単語を聞いたことがない。普通ガリーナとかガジーナとかガリーニャとかだと思うんだけどな。サウコッチってなんだろう?サンコーチョなら食べたことがあるけどその同類ならもうちょっと似た名詞になるんじゃないのか?
そこで、自分の疑問はスルーせずに解決したいと思い、アルバを実際に旅した者として、アルバ料理「Saucochi di gallinja」の正しい綴りと発音を確認することにしました。
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アルバの公用語はオランダ語とパピアメント語です。家庭内言語はパピアメント語が最多で約6割。オランダ語とスペイン語を合わせた3言語で全体の9割。学校の児童教育はパピアメント語、やがてオランダ語が教育現場に導入され、行政関係の公式言語はすべてオランダ語になるという国です。
パピアメント語は中世に導入されたポルトガル語をベースにした言語です。「Saucochi di gallinja」自体がポルトガル語に最も似ていますから、より古く先住民族言語であるカケティオ語(Caquetío)に由来する可能性はないと思いましたが、一応カケティオ語のPDF辞書も幾つか見て、該当する単語がないことは確認しました。
「Saucochi di gallinja」の適切なカタカナ表記としての私の仮説は、綴りに誤りがないなら「サウコッチディガリーニャ」です。かなりポルトガル語(ブラジルポルトガル語)と同じです。
◆Dictionary English Papiamentu(≫こちら)
いいパピアメント語辞書を見つけました! しかもパブリッシュ(紙で発行されたもの)なので監修も入っている安心物件です。
まずは簡単な「di」。41ページ。
発音は「ディ」。英語のof、from、overに相当。
次に簡単そうな「gallinja」。55ページ。
綴りがgalinjaになってる!
発音はガリニャ。アクセントがリにつくのでガリーニャと書いてもよい。英語のhen(雌鶏)に相当する単語だ。
最後は料理名固有名称の「saucochi」。あるかな。
綴りがsancochiになってる!
発音はサンコーチ。意味は「Soup from greens and vegetables」と書いてある。15ページを見ると「green」と「vegetable」が一括して「berdura」(野菜類)として掲載されているのでサンコーチの意味は「野菜のスープ」でいい。
「n」が「u」に置き換わってしまった理由は分かる気がするなあ。手書きでメモを取るとよく間違えるやつだものね。取材時あるいはメモを文字に起こすときのミスだろう。
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この3つの単語をつなげて、パピアメント語での料理名は「Sancochi di galinja」(サンコーチディガリーニャ)と思われました。あとはこれが本当に現地での表記に存在すれば確定です。
あった!!\(^o^)/
拍手パチパチパチ☆
アルバ観光情報Webサイトである「Visit Aruba」のページです(≫こちら)。今回辞書で引いた通りの綴りで料理名が「Sancochi di galinja」(サンコーチディガリーニャ)と記載されていました。
これで確定です。
タイムライフシリーズの「世界の料理」のカリブ海編で紹介されているアルバ料理「Saucochi di gallinja」は「サウコッチデガジンハ」というカナカナ表記が充てられているが、パピアメント語に照らし修正として「サンコーチディガリーニャ」を提唱する。