下は、先日のケーブルテレビの番組表です。番組コーナーのタイトルに『世界6か国の料理教室』。
私はこの講師を務め、会は盛況裏に終了しました。本記事では、関連各位への報告書にもできればいいなと思い、そのコンセプトや料理内容などを振り返ってまとめます。
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この会の主催は益田市連合婦人会です。女性の社会的地位の向上を推進し、もって地域社会の健全な発展を図ることを目的として運営されています。日頃からお世話になっている婦人会会長からは、「世界中に旅したことのある女性で世界の料理をやってる人がいるから、お越しいただいて、みんなで美味しいものを作って食べて、世界のお話しを聞いてみましょう。」という主旨で私を起用してくださったと聞いています。大変に光栄なこと!!
わくわくしてきました。だって、ひとりでは出来ないことも、大勢集まれば出来るよね!!
その楽しみに向けて、さあ、壮大な料理計画が始まりました。
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◆ブランディング
楽しい料理教室づくりはブランディングから。
能動性を生む仕組み、失敗しない仕組み、口に合う料理が必ずあるという仕組み、それからテレビでタイトルにもなった「世界6か国の料理教室」もブランディング。
そして狙いは「教えない料理教室」。
◆みんなで楽しいカフェランチ風
あるご婦人が仰っていた。「家ではいつも和食ばかり、作るの飽きた、食べるの飽きたw」と。
だから「みんなで楽しいカフェランチ風」に想定した。婦人会は女子会だもの。いつもと違う目新しい気分で、わいわいと♪ 会話を楽しもう!
◆参加者÷6=6か国料理
カフェ料理の楽しさは、ちょこちょこと多種類の料理。6料理あればカフェ風かつコース料理風に仕立てられるから、参加者を6グループに分けて同時進行で6料理を作る。
公民館調理台を事前見学し、6グループが最適であることも確認した。
◆口に合わないリスク回避
人には好みがあることは承知している。1料理だけ提供してそれが口に合わなかったら全滅だが、6つも作れば全滅は回避できる。カレーとデザートがあれば間違いない。何かしらが絶対に「美味しい」と思ってもらえるのだ。
◆6か国料理の決め方
「世界の料理」だから、アフリカも、アジアも、オセアニアもと、地球の広域の料理を集めなくちゃね!
わくわく感のある異国の料理にしよう。日本でなじみの料理を作っても新鮮味がないからね。サンドイッチやパスタは作らない、カツレツも作らない、ポルトガルの焼き魚もドイツのゆでじゃがも外す。
8月の猛暑の中作るのだから、冷たいスープと冷菜を作ったら有難いし美味しく感じるよね。
私の信念として、地元の食材を使うことは、地域貢献になると思うから、畑から会場に直接持ってこれるくらいの、すなわち「旬の野菜」を多用したかったんです。だからなす、トマト、きゅうりなどの夏野菜を大量に使うレシピにしました。旬のものを使うと美味しいからです。その願いが叶い、数名の方が本当に畑から野菜を持ってきてくださったのは心底嬉しいことでした。
それらと併せ、調理が失敗しにくい(しても復旧可能)もの、材料が高額でない&市内のスーパーで買えるもの、白・黄・赤、茶・緑と卓上がカラフルになることなどを考慮してレシピを決定していきました。レシピ決定には最も長い時間を要しました。
◆日本人が取り入れるべき健康に良い料理
減塩と、高カルシウム。これが日本人に長年求められている栄養改善だが、和食の習慣が尾をひき改善見込みが立っていないのが事実。でもみんな健康には関心があるはずだから、料理のアイディアを伝えたい。今回1人あたり塩分約1.7 g&カルシウム約300mgと事前試算しました。大奮闘の設定だと思います。
◆美味しいだけでなく文化の学びにもなる
【午前中】
レシピには料理の背景文を掲載した。調理するときにもなぜその国にその料理があるのかを見てもらえる。
【正午】
正餐スタート。良いレストランほどシェフや支配人の料理説明があるように、各グループに班長を選定して班長が料理紹介をするように企画した。レシピ掲載の文章を読み上げても、自分の言葉で語ってもいい。話が上手い人はいっぱいいるもので、6人6様のトークは場を盛り上げる絶好ツールとなりました。
【食後】
私の世界旅の講演(約1時間)があり、世界各地の写真や料理の話をします。
◆スパイス大使のスパイス普及活動
「家ではいつも和食ばかり」というご家庭では、一般に香辛料と認識されるものをこしょうと唐辛子程度しか使わないかもしれない。
そこで今回5か国の料理にスパイスを使用した。1か国は対比でスパイスを使わない料理とした。特にシメの料理にカレーを選んだのは、本格スパイス料理の王様本格インド料理を含めたかったからだ。
◆スパイス大使としての想い
スパイスは、料理の幅が広がる絶好の存在だと思う。
私はレシピブログ・ハウス食品(株)主催のスパイスブログ認定スパイス大使に就任しており、スパイスはすべてハウス食品&GABAN製で統一し、ハウス食品提供のものと、不足分は地元の有力大型スーパーで購入。
1社で揃えると、ボトルが揃って卓上がきれい♪
女子会ですからね。「コレクション」的に揃っているのが素敵♡
スパイスはビンごと調理台に置きます。ラベルとにおいを照合しながら使ってもらうことが大事かつスパイスの仕組みが分かってよいのです。
「コリアンダーってこんなにおいなんだー」とか、「クミン?あ、これ好き!」といった初体験コメントもあれば、
「えー、バニラって1滴たらす液体だと思ってたw」みたいな声もあがって微笑ましい(笑)し、調理途中の味見の上で「これいいね、買って帰ろう」と言ってくれるご婦人もいて、嬉しかった。
デパートの試食会がなぜ経費を使ってまで食べ物を無償提供するかを考えれば分かる。食べてもらうことは食品の販売促進の難関越えの最大の手法だからです。だから私も、今日の料理会でのスパイス使用がレシピブログならびにハウス食品(株)への恩返しになれば無上の喜びです。
◆計画と段取りを細かく完璧に
ゆるく楽しい会というのは確かに楽しい。でも、ゆるくやりたいなら計画と段取りを細かく立てないといけない。NHKの国民的子供番組の制作には優秀な人が就く(東大卒とか)と高校生の頃に聞いたことがあって、私は仕事をもつようになってからも、どんなに楽しい講義や講演でも準備は細かく完璧に行うことにしている。
まず、レシピは「これを読めば完璧に作れる」ように細かに丁寧に用意しました。結果としてそのほうがちゃんと作れるからです。
また参加者には、料理をしたい人も、友人との会話好きな方も、食べる派の方もいらっしゃるでしょう。何かのご病気などで立ちっぱなしがしんどい方もいらっしゃるかもしれません。
だから、1)調理しっぱなしのグループ、2)最初と最後に調理をして中間があくグループ、3)調理時間が短く終盤があくグループ、というように、調理の手の込み具合を変えました。
よって、2)のグループはテーブルセッティング、3)のグループは紅茶を淹れてパンを切る係と、段取りが一層完璧になりました。
当日は、私の企画書類を大きく印刷して壁に貼ってくれました。
左は10分刻みの6レールのスケジュールです。事前準備から多くを可視化したのも、料理教室の成功の秘訣です。
◆「教えない料理教室」
レシピ、段取り、計画がしっかりしたら、あとは調理が失敗しない仕組みを作ること。
班長を立てたのはそのため。監督兼指揮者がいれば料理は失敗しないのです。
さらに最初にグループ全員で流れを確認し合うために、調理の最初の10分はレシピの読み合わせと什器準備の時間としました。
その結果、調理は好調です。
ピエロギの皮が綺麗で(私が作る以上にw)完璧!
盛り付けがアラブ諸国そのもの!
・・・なんたって婦人会ですもの。下地がちゃんとしていれば完璧に作ってくださいます。だから「教えない料理教室」でいいのです。
◆みんなでおもてなし、みんなでお客さん
自分のグループが1品作ってみんなで6品を食べあう形式だから、美味しかったら「美味しいね」に続き「何が入ってるの?」という会話の種が生まれますし、口に合わなくても批判が生まれない。仲間が作ったものだから。みんなが仲間なのだから。
自分の担当料理があるから責任が生まれ、おもてなしの心が生まれ、結果として美味しく作れ、高い満足度につながります。
なお、全員に全料理のレシピを差し上げ、ご自宅に持って帰っていただけるようにしました。
◆テレビカメラが生むやりがい
当日はテレビ取材が入りました。これはすごくいい!! 私にも皆さんにもやりがいが増しました。
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それでは、当日作った料理を紹介します。
1)【スターターの冷製スープ】トルコ料理:ジャジュック
概要 :ヨーグルトときゅうりの冷たいスープ
選定理由:女子会ランチにスープ必要ね。暑いから冷たいスープにしましょう。塩を使わない&高カルシウムで健康に素晴らしく良く、地元栽培のきゅうりは旬の美味しさです。西アジアのトルコ料理。
使用スパイス:クミン
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2)【前菜の冷菜1】シリア料理、レバノン料理、ヨルダン料理、パレスチナ料理、イラク料理:ホムス
概要 :ヒヨコマメのレモンにんにくペースト
選定理由:前菜の冷菜その1。日本と違って豆をにんにくや塩で旨くする開眼の料理ですし、作り置きおかずによく、食パンの朝食に合うので暮らしに取り入れやすい、かつ減塩料理です。中東アラブ大定番の美食。
使用スパイス:クミン
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3)【前菜の冷菜2】モロッコ料理、アルジェリア料理:ザアルーク
概要 :酸味と旨味のあるなすとトマトのペースト
選定理由:前菜の冷菜その2。旬のなすとトマトが大量消費できる家庭菜園者に適したレシピ。地元栽培のなすとトマトは旬の美味しさで、なすをゆでる目新しい料理法を学べます。作り置きおかずによく、食パンの朝食に合います。北アフリカマグレブの美食。
使用スパイス:パプリカ、クミン、コリアンダー
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4)【前菜の温菜】ポーランド料理:ピエロギズヤゴダミ、ロシア料理:スメタナ
概要 :ブルーベリーを具にした餃子、サワークリームがけ
選定理由:温かい前菜。フルーツがおかずになるナチュラルな料理で、減塩&高カルシウム生活に良いレシピです。スラブ(東欧や中欧の民族)の美食、東欧最高の調味料スメタナも手作りで。
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5)【シメのカレー】インド料理:バターチキンマサラ
概要 :バターの香りが濃厚なチキンカレー
選定理由:シメはカレー、夏はカレー、スパイスから作る香り高きカレーの世界へようこそ。定番スパイスを網羅し、地元の玉ねぎやトマトをたっぷり使って南アジアのインドの頂点のカレーを作ります。ご飯も地元の米だから最高。
使用スパイス:コリアンダー、カイエンペパー、パプリカ、ターメリック、クローブ、クミン、カルダモン、シナモン、ガラムマサラ
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6)【デザート】仏領ポリネシア料理料理:ポエ
概要 :オーブン焼きプディングのココナッツクリームがけ
選定理由:女子会だから甘いデザート必須♪ 太平洋の南の島の料理、ココナッツミルクとバナナ、タヒチアンなバニラ、莢から取り出す本物のバニラの高貴な香りがただよいます。南の島ポリネシアでは国の行事にも出される美食。
使用スパイス:バニラ
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以前、市内で「地域づくりについて」という主題で講演をしたとき、私は「地域活性化で最も大事なことは、一人ひとりが暮らしを楽しむことだ。」という結論を述べました。何かをするということはすべてがそのためにあるのだし、住民が活発に生き生きしていれば移住者誘致にもつながるのですから。そしてその当時の話を聞いてくださった方々が、今回の参加者にも大勢いらっしゃいました。
今日が楽しかったらいい。今後の料理が楽しくなればなお一層いい。料理研究という仕事は、その最終目的へ向けて種を蒔くことにあるのだとも確信しました。
世界を旅した私が伝えたかった「美味しいだけじゃなくて、文化の学びにもなるような会」というコンセプトは受け入れられ、いつのまにか、この料理の会は、「料理の向こうに地球が見える」と呼ばれるようになりました。それは私の希望・イメージ・願いの通りとなりました。
午後の講演では、ハウス食品(株)から提供していただいた「スパイスガイドブック」をもスライドに投影して解説するばかりでなく、1人1冊お土産に進呈しました。
うち2冊にこっそり当選の紙を挟み、当選者にはハウス食品(株)の詰め合わせをプレゼント。
こうして、暑い1日、熱い1日が、成功裏に終わりました。
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このような料理の会の形式が万人にとって良いものなのかどうかは私にも分かりません。しかし参加者のご家族から(ご家族からっていうのが嬉しいポイント!)「家内が楽しかったようです」「会は盛況裏と伺い何よりです」といったご連絡をいただけたので、やって良かったという想いは確信しています。この地域に移住してきて以来様々な人にお世話になりっぱなしでしたが、やっと地域活性化の一端の主導に立て、地域に恩返しができるようになってきたことも、とっても嬉しい。
この機会を与えてくださいました益田市連合婦人会会長ならびに会員の皆様方、スパイスやガイドブックを提供してくださったハウス食品(株)、スパイス大使に任命してくださいましたレシピブログ・ハウス食品(株)には、深甚なる謝意を表します。地域づくりに欠かせない存在のケーブルテレビと、連合婦人会を支援してくださる益田市と市を率いる市長にも、本当にありがとうございました。