キシメジ(食だが美味しくない)

2019/08/26

キシメジ

7月中旬、梅雨の最中、いつもの広葉樹(近くにあるのはコナラや山桜やカシ)と竹林ミックスの、南向きのやや明るいところに、落ち葉のある地面に生えていた。なお針葉樹は離れたところにいかないと生えていない場所。ムラサキシメジに生える場所と生え方が似ている。点々と単独あるいは2個くっついたりして、1つ見つけると周辺半径2 mくらいにも生えている。大きなもので直径9 cmくらい。

傘は黄色、フチよりも中央部が色が濃い。ぬめりはない。

キシメジ

ヒダは黄色で割と粗い。上生ないし離生。

キシメジ

この様子が、ムラサキシメジの色違いのようで、実にシメジっぽいのだ。

柄は黄色。表面はササクレ?マダラ?鱗片?のようなものがある。幼菌はまんじゅう型。

キシメジ

基部になるほど太く、基部は白いふわふわに包まれている。ツバはない。

肉も黄色。においは、異臭や悪臭ではなく、普通にきのこの匂い。シメジの匂い。さわるともろい。かじると、芝刈りのときに舞う青っぽい匂いが口に若干広がる感じがして、苦みはまったくない。青変性なし。

キシメジ

軸は中実だがあまりしまっている感じではない。断面も黄色。水にさらしたら水が黄色くなった。

気になるのは、◆キシメジは苦いというネット情報が多いが、このきのこは苦みがまったくないのだ。

<類似きのことの鑑別>
シモコシ:晩秋のキノコ。柄に鱗片のようなものはない。肉は白色。
カラキシメジ:味が辛い。針葉樹林に発生。
アイシメジ(食):ヒダの色が周辺部黄色で柄側が白。苦い。
コガネタケ:粉が付着する。ツバがある。
コガネヤマドリ:網目の管孔。
キイロイグチ:粉が付着する。網目の管孔。青変性あり。
ニオイキシメジ:悪臭あり。
オオワライタケ:多数が一か所に生える。汗臭いにおい。ツバがある。
アイシメジ:ヒダが白い。
キショウゲンジ:ツバがある。

最も似ていると思うのは、ハエトリシメジだ。だが違う。
ハエトリシメジ(少量なら食):カサの中央が尖り気味。秋のきのこ。

<特に類似のキノコ>
フランス語Wikipedia:Tricholoma equestre(≫こちら
auratum(黄金色)とflavovirens(黄緑色)が、今日は別の種であると考えられています。(appelé auratum (doré) et flavovirens (jaune-vert) mais on considère aujourd’hui qu’il s’agit d’espèces distinctes.)

キシメジが、Tricholoma equestreまたはTricholoma flavovirens(黄緑色)。
シモコシが、Tricholoma auratum(黄金色)。
今回採れたきのこは一切緑がかっていないので、シモタケ(Tricholoma auratum)なのか??? しかしシモコシとは上述の鑑別の点で形態及び採集時期が異なる(晩秋のキノコ。柄に鱗片のようなものはない。肉は白色。)ので、矛盾する。

<毒きのこ疑惑>
ネット情報では、キシメジを食とするサイトと毒のサイトがある。
毒の根拠は、フランスで食中毒による死者が出たこと。その後ポーランドでも死者1名ありという情報に基づく。で、海外事例の信憑性はホントのところどうなの? と疑ってみた

<フランスでの食中毒を記す元論文を見つけた>
Wild-Mushroom Intoxication as a Cause of Rhabdomyolysis(≫こちら
論文タイトルを和訳すると、「横紋筋融解症を引き起こす野生きのこの食中毒」

要点を抜粋すると、
・採集時期は晩秋から冬のさなかの季節、針葉樹のある砂地で。(The implicated mushrooms were harvested from beneath pine trees on the sandy coast of southwestern France, between late fall and midwinter.)

私がうちでこのきのこを撮ったのは7月中旬。地中海の冬は日本の真夏と同じ気候なのか?と思ってマルセイユあたりの冬の旅行記写真を探したが、ダウンジャケットに毛糸の帽子にマフラーをする地元の人の写真だった。つまり、やはりフランスの食中毒菌とは季節が合わないじゃないか。しかもうちは広葉樹林で採ったし、フランスでは針葉樹で採ってる。針葉樹に生えるのだから食中毒を起こしたのはシモコシなのではないか?

・食中毒キノコは日本語で「シモコシ」である。(“shimokoshi” in Japan)
シモコシは日本の晩秋のきのこだから、シモコシのほうがフランスの食中毒死亡のきのこに近いだろう。

・食中毒キノコの写真は、同サイトから写真借用すると、
食中毒きのこ
よって、今回採れたきのことは違う。柄がきれいなのでやはりシモコシなのだろう。

<追加実験の論文を見た>
ポーランド2018年の研究で、健常ボランティア10名に1人1食あたり300 g(通常食用量の2倍)を炒めて食べてもらったところ、有害事象を発症した者はいなかった。(A 2018 research conducted in Poland with the recruitment of ten healthy volunteers, who ate 300 grams per head (about twice the normal dose) of fried T. equestre in a single meal, with no reported consequences or alterations, would rule out that this species contains any significant amount of toxic substances.[6])

その論文のWEBページ(≫こちら)を見た。
T. equestreを食べた人は血液学的データにも生化学的にも変化を示さず、そして有害事象は観察されなかった。つまり、健康な人が適量を食べるのなら、このきのこは食用である。(The volunteers consuming T. equestre revealed no hematological or biochemical alterations and no adverse effects were observed. The findings of this study support the view that T. equestre is edible if consumed in rational amounts by healthy subjects.)

この実験ではキシメジを食べていないシモコシを食べてみんな元気でしたという論文なのだ

<和文論文(研究成果報告書)を見た>
「横紋筋融解症を有するきのこの毒性と分類」(≫こちら

ここには、フランスとポーランドの食中毒きのこの死を受けたものである。冒頭に書かれていることは、「日本ではT. equestreはキシメジ(T. flavovirens)と同一とされるが、キシメジと食菌シモコシ(T. auratum)の区別が曖昧であり、他にも類似した菌があるため同定が困難だ。」ということで、同定を主に記載している。

抜粋すると
・カラキシメジは生のままだと口に入れただけで苦みを感じる。
・ゆでても苦い。
うちのきのこは苦くなかった。カラキシメジは除外できる

・シモコシが最も遅い時期(11月、12月)に発生した。
うちのは7月中旬だ。シモコシは除外できる

・カラキシメジとシモコシは針葉樹に依存して生えるがキシメジは広葉樹のみの林に生える。
うちは広葉樹と竹のミックス林に生えた(20 m離れると針葉樹があるにも関わらずだ)。やはりキシメジだろう

<食べてみた>
シメジ♪シメジ♪
なんたって、シメジですからね!! いいダシが出るのを楽しみに、ホイル焼きにしてみよう。もちろん万が一キシメジが毒きのこだったときのことを考えて、1人1本にとどめて、お酒を飲まずにいただくことにした。スライスして、ちょろっと酒と塩をふって、ホイル焼きにした。

焼き上がりは、黄色が褐色に変化して、きのこも褐色になっていた。そして・・・あれー?味がない?? 味がないきのこだよ!? 煮汁は、日本酒のうまみ成分は感じるし、そこに若干のきのこ風味はあるように思うんだけど、美味しくない。

翌日以降:体調変化なし。上に(シモコシの論文だが)横紋筋融解症の文字があったので尿の色の変化を注意深く観察したが変化はなく、肉体疲労も生じなかった。

きのこの記事について:我が家は、雪は滅多に降らない(降っても数cmしか積もらない)気候の、いわゆる日本の暖地~中間地で、海際から1kmくらいの、少し周囲より高い場所(標高約100m)の、南向きに見晴らしのよい場所に建っています。東の隣には住宅が続きますが、西の隣に今は誰も歩かない林道がきれいに残っていて、そこを500mほど西に進んで少し高度を下げると再び車道と民家があります。サイトに掲載するきのこの多くはその500m区間に生えます。きのこ鑑定については調べて調べまくる性格もあり、採取きのこを食べて体調に変化をきたしたことは幸い一度もありません。なお私も家族もお酒が飲める体質、概ね健康体質、アレルギーなし、服薬中の薬なし。また、記事掲載日はきのこ情報に関係しません。きのこへの考え方


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