レバノンでお米が「レズ」と呼ばれる。レズビラッハメの検証

2022/10/21

サウジアラビア料理で有名な「カブサ」は広義の料理名であり、イエメンではマンディ、バーレーンではマクブースなど、各地で様々な呼び方がある。

レバノンでは料理名が「رز باللحم」(直訳して、米と肉)と言うそうだ。今回その発音を検証して、今まで米はアラビア語で「ロズ」や「ルズ」と聞いてきたのが「レズ」という新発音登場! なので、レバント方言の勉強の良い機会と思い、自分も検証して記録しようと思いました。私は言語学者ではないが世界の料理研究家として料理名の言語は正確に知っておきたいと思います。

* * *

◆1)الأرز باللحم على الطريقة اللبنانيه- rice & meat Lebanese recipe(≫こちら

レズベラッハメ

0:24 レズベラッハミ
7:45 ラッハメ

◆2)Lebanese Rice – أرز الحشوة اللبناني • yallazest(≫こちら

レズベラッハメ

0:01 ロズ

◆3)طريقه عمل اطيب منسف رز باللحم عالطريقه اللبنانيه مع تحضير الصوص الخاص به(≫こちら

レズベラッハメ

0:54 ベラッハメ

◆4)(無題)(≫こちら

レズベラッハメ

5:27 ラッハミ
14:33 ルズとレズの中間音

◆5)(無題)(≫こちら

レズベラッハメ

0:00 レズ

<ここまでのまとめ>
1)米の発音検証
米は「رز」が「ر ز」(z r)でこれを右から読む。文字に母音が含まれないので、アラビア語圏全般ではロズやルズの発音が多い。しかし今回はレバノンアラビア語限定で発音を確認したため「レズ」が相当目立った。
2)肉の発音検証
肉は「لحم」でよくあるアラビア語発音は「ラハム」や「ラッハム」だが、◆英語版Wikipedia「Lebanese Arabic」(≫こちら)には「語尾の母音はe音になる」(the final vowel ([æ~a~ɐ]) commonly written with tāʾ marbūtah (ة) is raised to [e].)ように書かれており、それが動画で「ラハメ」や「ラッハメ」のように発音されていた理由だろう(レバノンでのلحمةの綴りも見つかった)。もうひとつの情報では、◆アラビア語の格とその表し方|図解アラビア語文法(≫こちら)記載の属格の語尾変化で名詞の語尾にイの母音がついてラハミになっている。動画では「ラハミ」の発音も確認できている。
3)「بال」の発音検証
アラビア語の「باللحم」は、「ب」(bの子音、英語のwith)+「ال」(アル・エル・イル等の発音で、英語のtheのような定冠詞)+「لحم」(ラハム、肉)に分解される。◆Wikipedia「アラビア語の冠詞」(≫こちら)の「前置詞 بـ が付くときは بالـ のかたちになり、bil-と発音される。」の記載の通り、「ب」と「ال」は縮約して「بال」となり「ビル」と発音されるが、レバノン発音の動画では「بال」は「ベル」の音だった。米もレズだし肉もラハメだし、レバノン方言は何かと「エ音」が多いのね。

* * *

さて、ここで疑問が出た。「باللحم」の発音を検証したい。
「باللحم」は「ب ا ل ل ح م」が「m h l l e b」でこれを右から読む。ここでこれが「ベルラハメ」ではなく動画で「ベッハメ」と発音されていることを検証する必要がある。何が言いたいかというと、「باللحم」にはラ行子音が2つあるのに「ベラッハメ」はラ行子音が1つしかない。本当に1つでいいのか? 聞こえにくいだけで2つ発音してるのか? その検証だ。

定冠詞は簡単です|ARABANDアラビア語(≫こちら
「結びつく単語の頭の子音が太陽文字(舌先を上あごにくっつけるか、それに近い形で発音をする文字)の場合は、al の l は発音されない。

すなわち「باللحم」の場合、「with theに相当するبال(ベル)」が「肉を意味するلحم(ラハム)」と接続しているが、ラハムの「ラ(ل)」が太陽文字なので、ベルのルが発音されなくなる

よって、「باللحم」は「ب ا ل ل ح م」が「m h l l e b」でこれを右から読むが、「ベルのルが発音されなくなる」ため音価は「m h l e b」となり、ラ行の子音が1つ減って、動画のように「ベラッハメ」と発音されていたのだ。

<結論>
レバノン料理「رز باللحم」の発音例は、レズベラッハメ

* * *

なお事の発端ですが、「カプサはレバノンでは「رز باللحم」と呼ばれる」ことの発音の検証でした。

カプサはサウジアラビア料理で有名で、通常は「カブサ」と日本語カタカナ表記されますよね。東外大サイト(≫こちら)のようにアラビア語にはpの子音がないので(※外来語のpをp音で発音することはある)、スタンダードには「كبسة」は「a/e s b k」を右から読んで「カブサ」や「カブセ」。これが「カプサ」音で発音される動画も見つけたし、◆トルコ語Wikipedia「Kepse」(≫こちら)のようにトルコ語では「カプセ」になっている。レバノンは接してはいないがトルコに近く、いわゆる北レバントでは発音上はカプセが多いのだろう。しかし文字はあくまで「كبسة」は「e s b k」なので、カタカナ表記はカブセで良いように思う。なぜならParisはフランス語でパヒと言うが日本語表記ではパリでよいように、あまり現地発音に傾倒しすぎてはこれまた問題になるからだ。それに本ケースでは「サウジアラビアなどで有名なカブサはレバノンではレズベラッハメと呼ばれる」という趣旨で、レバノンでカブサかカプサかを検証する場ではない。

<結論>
サウジアラビアなどで有名なカブサはレバノンではレズベラッハメ等と呼ばれる。英語に直訳すると「rice with meat」である。

* * *

ということで、今回もふとしたきっかけで、アラビア語という地球広域の文化を作る言語を学ぶ素晴らしい機会に恵まれました。何事も勉強ですわね。きっかけに感謝!です!



* * *

本記事、レシピ内容及び写真の著作権はすべて管理人:松本あづさ(プロフィールは≫こちら、連絡方法は≫こちら)にあります。読んでくれた方が実際に作って下されば嬉しいですし、料理の背景やTipsなど、世界の料理情報の共有を目的として、大事に作成しています。
出典URL付記リンクを貼れば小規模な範囲でOKなこと】
・ご自身のサイト、ブログ、FacebookやTwitterにおける情報の小規模な引用や紹介。
事前連絡出典明記をお願いします】
・個人、団体、企業等の活動や出版等で、当サイトおよび当管理人のもつ料理レシピや写真を活用・使用したい場合(料金は≫こちら)。
事後連絡でもよいのでお寄せ下さい(楽しみにしています)】
・学校や大学の宿題や課題で当サイトを活用してくれた児童・生徒・学生さん。
ご遠慮ください】
・大々的なコピペや読み込み、出版物への無断転載。
・商用非商用ならびに営利非営利を問わず、個人、団体、企業等の活動や出版等での無断使用。
※免責事項:上記の引用に基づいて万が一損失・損害がありましても、対応はユーザーご自身の責任において行っていただきますようお願いいたします。