サウジアラビア料理で有名な「カブサ」は広義の料理名であり、イエメンではマンディ、バーレーンではマクブースなど、各地で様々な呼び方がある。
レバノンでは料理名が「رز باللحم」(直訳して、米と肉)と言うそうだ。今回その発音を検証して、今まで米はアラビア語で「ロズ」や「ルズ」と聞いてきたのが「レズ」という新発音登場! なので、レバント方言の勉強の良い機会と思い、自分も検証して記録しようと思いました。私は言語学者ではないが世界の料理研究家として料理名の言語は正確に知っておきたいと思います。
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◆1)الأرز باللحم على الطريقة اللبنانيه- rice & meat Lebanese recipe(≫こちら)
0:24 レズベラッハミ
7:45 ラッハメ
◆2)Lebanese Rice – أرز الحشوة اللبناني • yallazest(≫こちら)
0:01 ロズ
◆3)طريقه عمل اطيب منسف رز باللحم عالطريقه اللبنانيه مع تحضير الصوص الخاص به(≫こちら)
0:54 ベラッハメ
◆4)(無題)(≫こちら)
5:27 ラッハミ
14:33 ルズとレズの中間音
◆5)(無題)(≫こちら)
0:00 レズ
<ここまでのまとめ>
1)米の発音検証
米は「رز」が「ر ز」(z r)でこれを右から読む。文字に母音が含まれないので、アラビア語圏全般ではロズやルズの発音が多い。しかし今回はレバノンアラビア語限定で発音を確認したため「レズ」が相当目立った。
2)肉の発音検証
肉は「لحم」でよくあるアラビア語発音は「ラハム」や「ラッハム」だが、◆英語版Wikipedia「Lebanese Arabic」(≫こちら)には「語尾の母音はe音になる」(the final vowel ([æ~a~ɐ]) commonly written with tāʾ marbūtah (ة) is raised to [e].)ように書かれており、それが動画で「ラハメ」や「ラッハメ」のように発音されていた理由だろう(レバノンでのلحمةの綴りも見つかった)。もうひとつの情報では、◆アラビア語の格とその表し方|図解アラビア語文法(≫こちら)記載の属格の語尾変化で名詞の語尾にイの母音がついてラハミになっている。動画では「ラハミ」の発音も確認できている。
3)「بال」の発音検証
アラビア語の「باللحم」は、「ب」(bの子音、英語のwith)+「ال」(アル・エル・イル等の発音で、英語のtheのような定冠詞)+「لحم」(ラハム、肉)に分解される。◆Wikipedia「アラビア語の冠詞」(≫こちら)の「前置詞 بـ が付くときは بالـ のかたちになり、bil-と発音される。」の記載の通り、「ب」と「ال」は縮約して「بال」となり「ビル」と発音されるが、レバノン発音の動画では「بال」は「ベル」の音だった。米もレズだし肉もラハメだし、レバノン方言は何かと「エ音」が多いのね。
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さて、ここで疑問が出た。「باللحم」の発音を検証したい。
「باللحم」は「ب ا ل ل ح م」が「m h l l e b」でこれを右から読む。ここでこれが「ベルラハメ」ではなく動画で「ベラッハメ」と発音されていることを検証する必要がある。何が言いたいかというと、「باللحم」にはラ行子音が2つあるのに「ベラッハメ」はラ行子音が1つしかない。本当に1つでいいのか? 聞こえにくいだけで2つ発音してるのか? その検証だ。
◆定冠詞は簡単です|ARABANDアラビア語(≫こちら)
「結びつく単語の頭の子音が太陽文字(舌先を上あごにくっつけるか、それに近い形で発音をする文字)の場合は、al の l は発音されない。
すなわち「باللحم」の場合、「with theに相当するبال(ベル)」が「肉を意味するلحم(ラハム)」と接続しているが、ラハムの「ラ(ل)」が太陽文字なので、ベルのルが発音されなくなる。
よって、「باللحم」は「ب ا ل ل ح م」が「m h l l e b」でこれを右から読むが、「ベルのルが発音されなくなる」ため音価は「m h l e b」となり、ラ行の子音が1つ減って、動画のように「ベラッハメ」と発音されていたのだ。
<結論>
レバノン料理「رز باللحم」の発音例は、レズベラッハメ
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なお事の発端ですが、「カプサはレバノンでは「رز باللحم」と呼ばれる」ことの発音の検証でした。
カプサはサウジアラビア料理で有名で、通常は「カブサ」と日本語カタカナ表記されますよね。東外大サイト(≫こちら)のようにアラビア語にはpの子音がないので(※外来語のpをp音で発音することはある)、スタンダードには「كبسة」は「a/e s b k」を右から読んで「カブサ」や「カブセ」。これが「カプサ」音で発音される動画も見つけたし、◆トルコ語Wikipedia「Kepse」(≫こちら)のようにトルコ語では「カプセ」になっている。レバノンは接してはいないがトルコに近く、いわゆる北レバントでは発音上はカプセが多いのだろう。しかし文字はあくまで「كبسة」は「e s b k」なので、カタカナ表記はカブセで良いように思う。なぜならParisはフランス語でパヒと言うが日本語表記ではパリでよいように、あまり現地発音に傾倒しすぎてはこれまた問題になるからだ。それに本ケースでは「サウジアラビアなどで有名なカブサはレバノンではレズベラッハメと呼ばれる」という趣旨で、レバノンでカブサかカプサかを検証する場ではない。
<結論>
サウジアラビアなどで有名なカブサはレバノンではレズベラッハメ等と呼ばれる。英語に直訳すると「rice with meat」である。
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ということで、今回もふとしたきっかけで、アラビア語という地球広域の文化を作る言語を学ぶ素晴らしい機会に恵まれました。何事も勉強ですわね。きっかけに感謝!です!