オタかオタイカかイカマタか。ニウエでの生の魚料理の呼称。

2022/01/06

太平洋諸国には魚の切り身を柑橘果汁やココナッツミルクでマリネする美味しい料理が数多くあります。

ニウエ語では、「オタ」=生の、「イカ」=魚、という意味で、オタイカという表現で通じます。

オタイカ

ただし「オタイカ」はポリネシアの数か国で共通する呼称です。ニウエの地元の人は実際はどうそれを呼ぶのか? 今日の記事は、「ニウエでの生の魚料理の呼称」についてニウエ人友人とチャットでも確認し、検証しましたので、その過程と結果を記録で記します。

<結論>
ニウエでの生の魚のマリネ料理の呼称は「オタ」である。「オタ」には断りがない限り必ず魚(ニウエ語でイカ)を使うのでニウエ人同士はわざわざ「オタイカ」とまでは呼ばないが、オタイカはニウエ語として成立している。「イカマタ」はクック諸島での同系統の料理の呼称だがニウエ人にとって「マタ」は未調理の物を意味する用語なので、「オタ」(生食の料理)とは使い分けられている。「オタ」は「生の」とか「生食料理」いう意味しか持たないので、魚の種類を明示する場合は「オタハハベ」(ハハベ(トビウオ)のオタ)や「オタウリヘガ」(ウリヘガ(アジに似た魚)のオタ)のように、「オタ+魚名」をつける。これにより、総称的な料理名は「オタ+魚」=オタイカになる。特に外国人に食文化を紹介するような場では「オタ」(生)とだけ言っても理解を得にくいため、「オタ+魚」として「オタイカ」と表記される傾向がある。

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私はニウエに渡航したとき、たくさんの郷土料理に出会いました。ラッキーなことに、ニウエ観光の初日からショーデー(村の伝統のお祭り)に参加できたのです。

ショーデー

下の写真はショーデーの屋台のメニューです。「オタ」(生の魚のマリネ)と書いてあります。

ショーデー

でも、私はそれが現地では「オタ」(生)と呼ばれていて、「イカ」(魚)の文字がつけられていないことに考察することがないままスルーしてしまった。それまで他のポリネシア諸国では「オタイカ」と呼ばれているのを知っていたに、なぜスルーしちゃったんでしょうね(反省)。

What Niuean Food to Try|Niue Pocket Guide(≫こちら

オタ

ニウエガイドブックのオンライン版です。
タイトルの和訳は「ニウエ料理で何を食べたらいい?」。
ここに、「Ota ika」(オタイカ)が掲載されています。

Food Culture in the Pacific Islands(≫こちら

オタ

書籍名和訳は「太平洋の島々の食文化」。
ここに、魚の生食料理のニウエの呼称として「オタイカ」が掲載されています。

Niue Language Dictionary(≫こちら

オタ

ハワイ大学出版のニウエ語辞書。
魚の生食料理は「オタ」として掲載。
「オタイカ」の掲載はない。
「イカマタ」は未調理の魚として掲載。

Tohi Vagahau Niue(≫こちら

オタ

ニウエ語オンライン辞書サイトです。
「オタ」は生の魚料理として掲載。
「マタ」は未調理の魚として掲載。
「オタイカ」と「イカマタ」は掲載なし。

The Niuean language(≫こちら

オタ

ニウエにあるサウスパシフィック大学が制作したニウエ語の初級文法と語彙の古い書籍。
生の魚料理は「オタ」または「イカマタ」として掲載。

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ここまでのところ、ニウエの生の魚料理は「オタ」、「オタイカ」、「イカマタ」の3つの候補が出てきました。今度はニウエ語を母語とするニウエ人の生の情報を見てみましょう。

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ニウエ人のFacebook投稿

オタ

美味しそう!トビウオのオタ(トビウオの刺身を柑橘果汁やココナッツミルクで和えた料理)は「オタハハベ」。

オタ

これも美味しそう!現地のヒメジでオタを作ると「オタカロアマ」。

ニウエ人のFacebook友達とチャット
ニウエ人に聞きました。
彼はこう答えました。
「ニウエ語では生の魚料理をオタと呼ぶ。オタはイカ(魚のニウエ語)で作るものだからオタイカとは言わない。オタイカと言っても100%通じるしニウエ語として正しいけれど。」

この点で感じたのは、日本料理における「刺身」です。刺身といえば魚介類で作るものだから、たとえ牛刺しやレバ刺しがあっても、「刺身」とだけ呼べば通常の魚介類の刺身の意味になる。「魚の刺身」と言っても100%通じるし日本語として正しいけれど。

「魚の種類を表現しないときには、「オタ」とする。」
「魚の種類を表現するときには、「オタ+魚名」とする。」

これがトビウオのオタなら「オタハハベ」になることですね。日本でなら「トビウオの刺身」みたいな用法ですね。

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ここからが私の推測と、ニウエ人に「うん、そう」と同意してもらえたことなのだけど、

日本語で「焼き」と言っても料理が分からない。焼き肉も焼き魚も焼きナスも焼きそばもあるから。
だけど、日本語で「刺身」と言えば料理は分かる。定義が分かる。誰もが魚介類の切り身を想像する。
個別名称は、アジの刺身、ブリの刺身、etc。
総称名は、刺身。日本人同士ならそれで「魚介類の生食料理」と通じる。

しかし、もし魚にあまり縁のない肉食の国の人にこの食文化を紹介するとどうなるだろう? いきなりアジの刺身やブリの刺身という個別名称は出すわけにもいかない。生食とだけ言っても通じない。だから、総称名として「魚の刺身」(例えばSliced raw fish)のように記すことになる。

ニウエ人同士ならは普通に「オタ」と呼ぶ。定義が分かる。誰もが魚介類の生食料理(マリネ)を想像する。
個別名称はオタハハベ、オタウリヘガ、オタカロアマ、etc。
だけど外国人なり外国語(英語も含めて)でその料理を紹介すると、「オタ」(生)だけでは通じない。特に魚を食べない国の人には何のことだかわからない。だから、「魚で作る生食料理」であることを前提として伝えるために、総称名として「オタイカ」(魚のオタ)のように記すことになる。

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なお、「イカマタは未調理の魚の意味で、オタイカは生の魚料理の意味で、意味が違う。料理名のニウエ語はイカマタではない。」とのこと。

ここから結論として、以下のようにたどり着きました。

<結果>
ニウエでの生の魚のマリネ料理の呼称は「オタ」である。「オタ」には断りがない限り必ず魚(ニウエ語でイカ)を使うのでニウエ人同士はわざわざ「オタイカ」とまでは呼ばないが、オタイカはニウエ語として成立している。「イカマタ」はクック諸島での同系統の料理の呼称だがニウエ人にとって「マタ」は未調理の物を意味する用語なので、「オタ」(生食の料理)とは使い分けられている。「オタ」は「生の」とか「生食料理」いう意味しか持たないので、魚の種類を明示する場合は「オタハハベ」(ハハベ(トビウオ)のオタ)や「オタウリヘガ」(ウリヘガ(アジに似た魚)のオタ)のように、「オタ+魚名」をつける。これにより、総称的な料理名は「オタ+魚」=オタイカになる。特に外国人に食文化を紹介するような場では「オタ」(生)とだけ言っても理解を得にくいため、「オタ+魚」として「オタイカ」と表記される傾向がある。

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そうか・・・だから下のメニュー写真、

ショーデー

ニウエ人には「オタ」で100%通じる。
だけど、ニウエ料理名を知らないニュージーランド人や外国人に「オタ」(生)とだけ書いても通じないかもしれない。
だから、「Raw fish」(ローフィッシュ、生の魚)と、素材が分かるように英語で明記したのではないだろうか。

下の投稿もそう。

オタ

ニウエニュースとして英語で(つまり国外に)情報発信するときは、「オタイカ」(生魚の料理)と書いているのだ。

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ニウエはいい国です。
ニウエは、静かで、人が優しくて、自然に癒される素敵な国です。

体が大きな巨人の国。
恰幅の良い人たちが、おおらかに笑ってみんな優しくて、-それはポリネシア各国のみなさんがそうなんだけど- 行けば必ずニウエが一層大好きになります。

ニウエ

ただ滅多に行ける国ではないけれど、ときどきはこうしてニウエ料理のオタを作っていこう。

オタイカ

現地呼称としての料理名は「オタ」ですよ~。

新鮮なお魚に、レモン果汁やココナッツミルクの味付けで、玉ねぎがスパイスになってとてもとても美味しい料理です。是非皆さんも作ってみてください。レシピは、≫こちら



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