アルメニア料理

[last update 2017/07/01]

+++新着+++

  • 本文はじめ」と「主食」を新規アップしました(今後の投稿は、肉類、乳製品、スープ、宗教料理などを予定しています)。

【基礎情報】

国名:アルメニア共和国Republic of Armenia、首都:エレバン、ISO3166-1国コード:AM/ARM、独立国(1991年ソビエト連邦より)、公用語:アルメニア語、通貨:ドラム

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【地図】

アルメニアは、北から時計回りに、ジョージア(グルジア)、アゼルバイジャン、イラントルコと接する内陸国で、国土のほとんどは高原または険しい山岳です。

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◆高原の恵みと、ディアスポラと、キリスト教が形成する、現代アルメニアの食文化

アルメニアは、岩手と福島を合わせたほどの面積しかない小さな国ですが、かつてのアルメニアの版図は広く、現在のジョージア(グルジア)、アゼルバイジャン、イラン、アルメニア、トルコ、シリア、イラクあたりまでまたがっていました。その土地は主に高原や山岳地帯であり、高地の自然と遊牧生活の恵みを受けた料理が主に食べられていました。しかし、紛争が絶えない地域であったため、国境線は次々と変わり続け、その土地を支配する国も次々と変わり、アルメニアは歴史の中で何度も消滅したのです。アルメニア人は世界各地へ離散し(ディアスポラ)、やがて再びアルメニアができると離散者やその子孫が帰還し、世界各地の料理が集まりました。「高原の恵みと、ディアスポラと、そして世界最古のキリスト教国家としての宗教色」、これがアルメニア料理を語る3つのキーワードです。

バストゥルマ
肉の保存食「バストゥルマ」。表面のねっとりスパイスが美味なのです。(撮影地エレバン)

離散と帰還・・・、アルメニアって、イスラエルに似ているところがあると思いませんか。中東や東欧に離散するアルメニア人が多かったのですが、再びアルメニアの土地に戻ってきた彼ら(あるいは子孫)のアイデンティティは「アルメニア人であること」です。現在、コーカサスとその周辺の民族分布を大まかに見ると、アゼルバイジャンとトルコはトルコ人、ジョージアはスラブ人、イランはペルシャ人と、そういった大規模民族エスニシティの中で、少数派であるアルメニア人が、現アルメニア(岩手と福島を合わせた面積の小さな国家)に狭く居住しているのが現状です。

民族地図の色分けだけでなく、宗教地図の色分けでもアルメニアは独特です。トルコ、アゼルバイジャン、イランがイスラム教、ジョージアはグルジア正教(ギリシャ正教と同系統)、アルメニアはアルメニア正教(それよりも古い正教)ですから、宗教を見ても、ぽつんと山の中に、古いキリスト教を守り抜く国があるのです。

国をなくし、虐殺を受け、散らばり、でも再び集結した。・・・今も生き続けるアルメニア人は、すごい民族だと思います。

アルメニア料理を語る基礎としては、次の4点を把握しているとよいと思います。

  1. かつてアルメニアは広大な高原・高地にまたがる大きな国で、そこに共通する伝統的な料理は、アルメニア、トルコイラン、アゼルバイジャンなどの共通の基盤である。そのため今もアルメニア料理は周辺国の料理と共通点が多い。
  2. トルコ、ペルシャ、ソ連による侵略を受け続け、支配者層が変わり政治が変わる背景で、料理が導入され、料理が持ち帰られ、互いに影響し合った。
  3. 国家がたびたび消滅し、アルメニア人は他国へ離散した。彼ら(あるいは子孫)が再びアルメニアに戻るときに周辺国家の料理が持ち込まれた。
  4. 世界で最も早くキリスト教国家となり、2000年近く続く、宗教に根付く食文化がある。

料理は、高原の食材を多様に用い、豊かなフレーバーがあります。ハーブ類がたっぷり。冬が厳しいのでドライハーブも積極的に利用します。そしてフレッシュあるいはドライフルーツも大事な食材で、具材としてアンズやマルメロ、酸味づけにはスマック、ブドウ、プラム、ザクロ、チェリー、レモンなどなどが用いられます。高原ゆえ遊牧民文化が継承され、肉を焼いたり生乳を酸乳(ヨーグルト)やチーズに変えて食べる文化も長く続いてきました。

春や夏は高原の恵みをいただき、冬には保存食を食べる、およそ2600年間、アルメニア料理は同じほぼ素材からなることが確立されています。

トルコイラン、イラク、ジョージア、アゼルバイジャン、そしてアルメニア・・・、現代の国境線など関係なく、それら国家の高原高地一帯に連綿と受け継がれ、互いに影響をし合いながら発展してきたアルメニア料理と、もうひとつ、厳格なキリスト教国家として形成されたアルメニアの料理の様相を、それでは見ていきましょう。
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主食 Staple

標高の高いアルメニアでは稲作は発展せず(トルコ人が多い居住区や比較的低地な平地では米も作られていますが)、主たる主食は小麦です。ラバシュは薄く焼かれたアルメニアのパンです。肉やおかずをくるんで食べたりします。歴史の古いアルメニアではトニールというかまどが早くに発達しました(6000年前にはあったことが分かっている)。生地を薄く伸ばして、枕やクッションみたいなものに乗せて、かまどの内壁に薄くへばりつくように貼りつけて、焼いたらパンはかまどの底に落ち、それをすくいあげ、薄いパンを次々と作ります。市場に行くと山積みになって売られています。また、薄いことからさっとぬらして温めるだけで食べられるので、秋に大量のラバシュを焼いて、冬のたくわえとしてきました。

ビョレック(アルメニア西部の呼称)あるいはハチャプリ(アルメニア東部の呼称)は、ジョージアやかつてのオスマントルコ圏に広く伝わる、チーズ入りのさくさくパイです。生地が少しクロワッサンに似ていてサクサク感があるのは、フィリョという、パン生地を極薄にしたものを重ねて作っているからです。「パニロフビョレック」と呼ぶことで「チーズ入りのビョレック」という意味を含めることもあります。また「スビョレック」は「水分のあるビョレック」という意味で、ラザニアのような料理です。

ジェンハローハーツは、ナゴルノカラバフ(アゼルバイジャン中にあるアルメニアの飛び地)の名物パンで、ラバシュの生地にハーブみじん切りをたっぷり包み込んで、麺棒で伸ばして薄焼きにして作ります。中国の葱油饼(ツォンヨーピン)、台湾の蔥油餅(ツォンヨーピン)という葱たっぷり巻き焼きパンに似ています。

麦が主食の国なので、粉にしない、麦粒も食べられています。ハリサ(別名チタプル)は、麦と肉をとろけるまで煮込んだ濃厚な粥です。寒い高地の冬の料理で、バターが利いているものは本当に美味しくて体が温まります。トルコではケシュケクといい、ケシュケクを作る文化がトルコ政府の申請により世界遺産に登録されましたが、アルメニアでは、その料理はアルメニア起源だと主張しているそうです。トルコはまだ建国90年の新国家ですから紀元前からあるアルメニアがその料理の起源と主張をすることに納得はできますよね。でも、かつての同じ国で同じ土地柄で生まれた同じ料理なのだから、どちらも起源というのが正しいところかしらね。

ブルグルは、西アジア広域で食べられている「ひき割り小麦」です。小麦の粒を砕いた程度のもの、お米で言うと「割れ米」の形状をしているのですが、これがアルメニアでは大変に好まれています。イーチはブルグルをトマトやハーブやにんにく、オイル、ビネガーなどで和えたさっぱりサラダで、トルコのクスルや、レバノンその他アラブ諸国のタブレと同じ料理です。
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料理名一覧 Food & Drink Glossary

【主食】
  • イーチ(Իչ)・・・ブルグルとハーブやオイルなどで和えたさっぱりサラダ。
  • ジェンハローハーツ(ժենգյալով հաց)・・・ハーブみじん切りを包み伸ばした薄焼きパン。
  • チタプル(ճիտապուր)・・・麦と肉をとろけるまで煮込んだ濃厚な粥。
  • ハチャプリ(Խաչապուրի)・・・チーズ入りのパイのようなさくさくパン。
  • ハリサ(Հարիսա、հարիսա)・・・麦と肉をとろけるまで煮込んだ濃厚な粥。
  • ビョレック(բյորեկ)・・・チーズ入りのパイのようなさくさくパン。
    • パニロフビョレック・・・チーズ入りのビョレック。
    • スビョレック・・・ラザニアのようなビョレック。
  • ブルグル(բլղուր)・・・ひき割り小麦。
  • ラバシュ(լավաշ)・・・紙のように薄く焼かれたパン。

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