アフガニスタン料理

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  • 乳製品」の項を新設しました(今後の投稿は、肉のおかず、豆のおかずなどを予定しています)。

【基礎情報】

国名:アフガニスタン・イスラム共和国Islamic Republic of Afghanistan、首都:カブール、ISO3166-1国コード:AF/AFG、独立国(1919年英国より)、公用語:パシュトゥー語、ダリ語、通貨:アフガニー

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【地図】

アフガニスタンは海のない内陸国です。西にイラン、南~東にパキスタン、北にソ連構成国だった3か国(トルクメニスタン、ウズベキスタン、タジキスタン)、そして東にわずかですが中国と接しています。

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◆ここは大文化圏の狭間です。中央アジアとペルシャとインドの狭間の食文化。

アフガニスタンと国境を接する国は6つ。ペルシャ系のイランタジキスタン、トルコ(テュルク)系のトルクメニスタンとウズベキスタン、わずかに接する中国(中国の中でもタジク人の居住地域と接している)、そしてインド系のパキスタンです。アフガニスタン料理を見れば見るほど、どれも接する国の料理との共通点があることが分かります。アフガン料理には、質素で素朴な中にも、確実にそれら大国の影響が表れています。

アフガニスタン料理
アフガニスタン料理の夕食。パロウグシュトゥアシュなど。(撮影地イシュコシム)

アフガニスタンは200年以上前にペルシャから独立し、イランと別れました。そして100年以上前に英国によって国境線が確立しました。そのときわざと民族が分断するように国境線が引かれ、紛争の大きな要因となりました。アフガニスタンにはおよそ20もの民族がいると言われていますが、紛争期間が長く総人口すら分からない状態なので、出典によって数値はかなり異なるものの、

  1. パシュトゥン人:40~60%、ペルシャ系。隣国パキスタンでは1割を占める
  2. タジク人:30%、ペルシャ系
  3. ハザラ人:10%、モンゴル系
  4. ウズベク人:10%、テュルク(トルコ)系
  5. その他

という民族プロファイルを見せています。

アフガニスタン料理を本当に理解するためには、これら各民族が分布する土地ごとに理解していかなければならないと思いますが、アフガニスタンは本質的に農耕と遊牧(牧畜)経済とはいっても農地に適した土地はわずか7%程度。中央アジア(ウズベキスタンなど)と同様、食べるものの種類は多くない印象もあり、同じ土地柄で育まれた料理の差は、民族差ほど大きくないという印象です。

アフガニスタン料理を語る基礎事項を数点挙げてみます。

  1. 完全な内陸国であり、海を持たない。食文化における魚介類の寄与は少ない。
  2. イラン-アフガニスタン-タジキスタンの一連のペルシャ文化圏に位置する。イラン料理や中央アジア料理との共通点が多い。
  3. シルクロードの一部であり隣国から文化の流入があった。中央アジア料理との共通点が多い。
  4. パキスタンと大きく接している。特に首都カブールがパキスタンの首都イスラマバード及び大都市ペシャワールに近く、交通網の点からもパキスタンと共通する料理(ひいてはインドと共通する料理)が多い。料理に香辛料が多用される。
  5. 厳格なイスラム教国家で、国民はムスリムであり、ムスリム料理が全土に広まっている。

アフガニスタンは大文化の「狭間」たる食文化、すなわち中央アジアとペルシャとインドの狭間に形成された料理を、それでは見ていきましょう。
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主食 Staple

アフガニスタンの主食はナン(平たくて大きな釜焼きのパン)です。形は、中央アジアのリピョーシカのような円盤状だったり、イランのバルバリのような波形状の薄く長いパンだったり、インドやパキスタンのナンのような大きい薄い円盤状だったりと、様々な形状があります。ナンを焼く土間をもつ家もたくさんあります。

米も食べられています。パロウ(又はパラウ)といい、長粒米を玉ねぎや油、トマトなどと炊き込んで食べます。バターや油の香りがよいイランのポロと共通するパロウから、ウズベキスタンのプロフや中国新疆のポロにそっくりの、にんじんと油をたっぷり使って炊き込んだパロウもあって、ごはん1皿からもアフガニスタンがペルシャ系とテュルク系(トルコ系)の接点であることを感じます。

アフガン料理の代表格でもあるボラニは、小麦粉を練った生地の中にゆでじゃがなどを入れて、平らに伸ばして焼いたもので、インドやネパールの「アルパロタ」によく似た料理です。

アシュ(またはオシュ)はイランやアフガニスタンでポピュラーな麺料理です。小麦粉を打って麺にしてゆでて(市販のスパゲティー乾麺を使ってもよい)、スープやヨーグルトと合わせて食べる料理です。不思議なことに、イランやアフガンのアシュは、タジキスタンでは(同じペルシャ系民族なのに)オシュという名の「炊き込みごはん」になるから面白い。アフリカのスーダンやチャドにも広がるアシ(アシード)は粉を湯で練ったものだし、エジプトのアエーシは薄いパンです。私は、アシュオシュ)は「主食となる炭水化物類(命を支えるもの)」という意味を持ちながらも料理形態を変えて世界広域に存在すると思っています。それが、ここアフガニスタンではアシュは主として麺料理という形態なのです。
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野菜のおかず Vegetables

アフガニスタンの食卓には生野菜が頻繁に登場します。パキスタンから国境を越えたとしても、タジキスタンやウズベキスタンから入国したとしても、これは驚く食文化の変化と感じるはず。バザール(市場)に行って野菜を買ったり、また野菜を自分で育てたりして、大根、きゅうり、トマト、ディル、レタスなどの盛り合わせが食卓にのぼります。野菜はパキスタンと同様にサブジと呼んだり、ロシア語同様(※お隣のトルクメン、ウズベキ、タジクはロシア語圏です)サラタと読んだりします。サラダはその土地柄や季節を感じるよい料理です。

主食の項で、パン生地で具を包み焼きにするボラニを紹介しましたが、イランやアフガニスタンでは、ヨーグルトの和え物もボラニと呼びます。日本語発音だとどちらもボラニですが、前者は「Bolani」で後者は「Borani」なので発音が違い、現地では混乱なく識別されています。
アフガニスタン料理の「Borani」と「Bolani」の違いをアフガニスタン人に教わりました。

ボラニ(ヨーグルト和えのほう)の代表例はバンジャンボラニ(またはボラニバンジャン)という焼きナス(ナス=バンジャン、周辺国ではバジンジャンだがアフガンではジが無音となる)をヨーグルトで和えたもの。もうひとつカチャルボラニ(ボラニカチャル)というゆでじゃがのヨーグルト和えも人気です。

トルシーと呼ばれる漬物ないし酢漬け野菜もあります。イラン、イラクやシリア、離れたところではエジプトにも同様の料理があります。
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乳製品 Dairy Products

遊牧民の文化はアフガニスタンの基盤の1つです。乳製品はアフガニスタン料理にとって大事なものです。私が連れて行ってもらったアフガニスタンの家庭では、おもてなしにナン(釜焼きパン)とパーイ(別名チャカ、ヨーグルト)が出されました。中央アジアやモンゴルと同様に、羊の乳からバター分を取ったあとに丸く乾燥させた保存用ヨーグルトであるクルトがあります。クルトを水で戻すと再びヨーグルト状の液体が得られます。クルトを戻したもの(もちろんあれば新鮮なヨーグルト)を使う料理に、アシャック(野菜を詰めたワンタンのようなものにミートソースとヨーグルトをかけていただく料理)があります。
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料理名一覧 Food & Drink Glossary

【主食類】
  • アシュ・・・スープ麺
  • オシュ・・・スープ麺
  • ナン・・・釜焼きのパン
  • パラウ・・・炊き込みごはん
  • パロウ・・・炊き込みごはん
  • ボラニ・・・パン生地で具を包み焼きにしたもの
【野菜類】
  • サブジ・・・生野菜盛り合わせ
  • サラタ・・・生野菜盛り合わせ
  • トルシー・・・漬物あるいは酢漬け
  • ボラニ・・・野菜類のヨーグルトの和え物
    • バンジャンボラニ・・・焼きナスのヨーグルト和え
    • ボラニバンジャン・・・焼きナスのヨーグルト和え
    • ボラニカチャル・・・じゃがいものヨーグルト和え
    • カチャルボラニ・・・じゃがいものヨーグルト和え
【乳製品】
  • アシャック・・・野菜ワンタンのヨーグルトがけ
  • クルト・・・乾燥ヨーグルト
  • チャカ・・・ヨーグルト
  • パーイ・・・ヨーグルト

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