アフリカ大陸の西に浮かぶ島嶼群のひとつであるカーボベルデで、「Atum ala Vassa」という料理をいただきました。カーボベルデは大西洋の孤島、マグロ(Atum、アトゥン)をどーんと食べるのもこの国の食です。
この記事の結論を先に書くと、料理名を「Atum a la Vasca」に修正してレシピ化することにしましたので、その経緯と根拠を以下に記します。
* * *
私は、カーボベルデは、主島(首都プライア)だけでなく、船を使って3つの島を旅しました。この料理は離島の小さな港町で食べたもので、当時の旅メモには、この料理名を「Atum ala Vassa」(アトゥンアラバッサ)と記録しています。これは料理店のおばさんに書いてもらったものです。「Atum」(アトゥン)はマグロないしツナの意味ですが・・・。
・・・しかし、今になっても、「ala Vassa」が分からない。旅している当時は、カーボベルデの公用語であるポルトガル語はほとんど話せなかったのです(せめて中米でスペイン語学校に行った後ならばやりようがあったのだけど)。
* * *
「ala」(アラ)は、方向性を指す単語の「a」(ア)と定冠詞の「la」(ラ)。すなわち正しくは「a la」だと思う。これは間違いないだろう。
通常料理名に「a la」ないしその同様の「aux」などが含まれる場合、「○○風」や「○○仕立て」という意味になる。よって「a la」のうしろには地名や食材名が続くことが多い。
例)
イガドアラポルトゥゲーサ
訳:「イガド(レバー)のポルトガル風」
ブールオーセップ
訳:「ブール(バター)のイグチ仕立て」
ただ、現時点では、「a la Vassa」の「Vassa」が何を指すのかが分かりません。
「Vassa」を突きとめようと探しました。ポルトガル語(カーボベルデの公用語)の辞書やネット検索を主とし、そしてスペイン語やカタラン語あたりまであさりました。時間は随分とかかり難航しました。近そうな単語は以下のような感じです。
・Vassoura(ほうき)
・Vassa(スウェーデンの地名)
・Vassar(家臣)
・Vassar(米国の大学)
・Vasco(ヴァスコ、つまりバスコダガマ)
・Vaso(船舶)
・Vasco, Vasca(バスク地方あるいはバスク語)
「a la」に続く単語は通常食材か地名という前提に立ち、この中で料理名になりそうなのは「Vasca」(バスカ、バスク地方)だと思いました。つまり「Atum ala Vassa」は、「Atum a la Vasca」(アトゥンアラバスカ)つまり「バスク風のマグロソテー」ではないかと推測できます。
西アフリカには、料理店にメニューを置くところは多くありません。このカーボベルデの料理店でも、「今日あるのは、パスタに、アトゥン(マグロ)に、・・・」という具合です。そして出てきた料理について、お店のおばさんに、料理名を紙に書いてほしいとつたないポルトガル語(カーボベルデの公用語)でお願いをして、その場で紙に書いてもらったのでした。識字率が高くない地域では、スペル違いはしょっちゅう起こります(なので私はしょっちゅう苦労します)。
最後に、「ほかの食材を使った a la Vasca」がどういう料理なのかを見てみました。「Pollo a la Vasca」(鶏肉のバスク風)を画像検索しました。
ああ、これは似ている!!
* * *
<推論>
「Atum ala Vassa」は正しくは「Atum a la Vasca」。
「ala」は前置詞の「a」と定冠詞の「la」を並べた「a la」。
「Vassa」は「Vasca」すなわち「バスク風」とすれば料理の整合性が極めて高くなる。
よって当サイトでは、この料理をアトゥンアラバスカ(Atum a la Vasca)とします。
* * *
バスクとカーボベルデについて。
記録が残っているカーボベルデ諸島の発見は15世紀で、ポルトガル冒険者がたどり着いたとされています。やがて、ポルトガル居住者やアフリカからの居住者と血が混じり、時を経て現在のカーボベルデ国民の姿があるそうです。
また、バスクはスペインとフランスが入り込むように領有分割された地域で、イベリア半島の付け根の大西洋側に面しています。スペイン側は自治州として、ある程度の自治権を有しています。バスクは数世紀の間、捕鯨で栄えました。大西洋を船で席巻したバスクと、貿易中継地として栄えたカーボベルデにはつながりがあって当然で、だから、今ここにこういう料理があるのかもしれません。
ねーねーポジョでアラバスカって入れたら料理そっくりだったよ。
じゃあバスク決定かな、決定だね。
バスクって捕鯨長いらしいね。クジラってヒゲも皮も高く売れるのかな。バスクって栄えてるよね。あでもビルバオは普通に工業都市って感じ?
スペインで一番進んでるところだからね。
あ、でもカーボベルデはスペインじゃなくてじゃなくてポル領か。
いいのいいの他の国の船が停まっちゃいけないわけないんだから。香港にイギリス以外の船よーけ来てただろ!
はーい。
* * *
カーボベルデを旅する人は、元宗主国であるポルトガルから飛行機で飛ぶほか、最寄りのセネガルから飛行機で飛ぶことになると思います。私は後者です。それまでの砂っぽい旅(モロッコ、西サハラ、モーリタニア、マリ、セネガル)から一転して、カーボベルデの町や人は大変に彩り豊かな印象を与えてくれました。更に、ムスリムの習慣がほとんどないためか、市場では、豚肉を含め、肉売り場も盛況です。島国なので当然売られている魚も豊かです。
大西洋の孤島らしさがあふれるこの料理、アトゥンアラバスカ(Atum a la Vasca)。美味しいですよ♪