ワインに合うビリヤニへの挑戦

2018/11/17

ワインに合うビリヤニ

一般に「カレーはワインに合わない」とよく言われますよね。これは概ね私も家族も同意事項です。インド人も、私の見る人知る人、カレーと酒を一緒に食しません。香辛料は舌に刺激を与え、ワインの繊細な味を味わえなくなるからだと思います。それでもネットを見ると、カレーとワインはイケるという記事も散見されるものの、それは、「呑めないという仮説を棄却する」といった、統計学的手法のようなというか、背理法のようなというか、ともあれ否定を否定することで肯定を生む文章であるように感じるものが多くて。でもそれを書いている人も分かってるんじゃないかな、土台として、カレーは -チーズやステーキや生ハムやオリーブなどと比べると- ワインに合わないことを。

事実、私の家でも、スパイスから作る自慢の旨いカレーを作っても、その他香辛料を使う南アジアや西アジアの料理を作っても、夫はワインをあけるのを嫌がる。「カレーに一番合う飲み物はパニだろ」って言って(パニ=水)。ワイン好きな私も、カレーと一緒に万が一ワインを飲むとしても、お高いワインを開ける気にはならない。もったいないから。

でも、やってみたくなった。
「カレーはワインに合わない」と言われていることを未検証のまま鵜呑みにしたくない。

だからこれは、題して、「ワインに合うビリヤニへの挑戦」

やってみよう。

カレーの原料を1つ1つ、ワインに合うか検証してみよう。そもそも、何がワインに合うのかも、振り返って再確認してみよう。そして、ワインに合うようにレシピをコントロールしてみよう。

その結果、80点ないし90点くらいの出来でしたが、それでも十分合格点♪ のビリヤニを作るに至ることができました。・・・でも、ワインったっていろいろあるし、人の味覚には好みがあることも大前提だけど、ともあれ、作る過程も検証過程も、ワインと一緒に美味しいビリヤニをいただくことも、どれも楽しかったです。

なお、私が好きなのは辛口フルボディの赤です。あまり高いワインを買うことはなく、でもあまりに安すぎるワインに走ることもせず、1本1000円台(ときたまに3000円くらい)のものを飲んでいます(※)。

※しかしCGCグループが売っているプリンスデバオは別格。3本1000円で買ってハウスワインとして頂いています♪w

* * *

そもそもこのきっかけは、夫と「インド人って酒を飲む習慣が、多分あまりないよね」という会話をしているときのことだった。もう何年も前のことです。そして、東京在住インド人の家庭に昼食を招かれて訪問したときのことです。タミル語やテルグ語圏のあたりの出身の日本語ペラペラのインド人も言っていた。「インド人はインドの料理で酒を飲む習慣がないから」と。

◆ワインに合う食べ物の検証
まず、ワインに合う料理がどんなものかを列挙してみよう。

  • チーズ。乳製品フレーバーとまったり濃厚さを口にして、次に果物由来のワインでそれを洗い流すと、また次のチーズを食べたくなる思いになる。つまりワインが進む。
  • クリームソース:製品の旨味と香りって、いいよねえ。そして塩分もある。ワインを飲むことで洗い流されながら、次の一口に進みたくなる。
  • ステーキやハンバーグ:肉を食べるという満足度の高い味。肉汁の旨味と塩味と、ハンバーグの場合は玉ねぎの甘さ。ワインを飲むことで洗い流されながら、次の一口に進みたくなる。
  • 生ハムやカルパス:肉の凝集された旨さと塩味。ワインを飲むと(以下同文)。
  • トマトソース:加熱したトマトの旨さ。イタリア人はトマトとワインの相性を日常的に味わっている。いいなあ。
  • オリーブ:オリーブと言えばワインに合う最高のつまみの1つじゃないか。油分の一口のあと、ワインの一口。よいよね。
  • 天ぷら:油分の一口のあと、(以下同文)
  • テリーヌ:油分の一口のあと、(以下同文)

ここまで書いて思ったこと。フランス料理ってワインに合うおかずに恵まれているなあと。油分と塩分が多いし、刺激の強い味がないし、ワインにチーズにオリーブなんて絶対的な組み合わせだし、料理はフレンチの技巧でクリーム仕立てのソースなどが濃厚で、肉の旨味も豊か。次に、イタリア料理ってワインに合うおかずに恵まれているなあと。生ハムにカプレーゼにチーズ盛り合わせ。油分と塩分が多い料理が多い上、トマトを使ったソースなどが濃厚で、刺激の強い味がないし、いいよね。

◆カレーに使う材料の検証
ワインに合う食べ物のイメージが強く沸いてきたところで、次に、香辛料以外のカレーの材料を検証してみる。

  • 玉ねぎ:オニオングラタンスープやオニオンソテーはワインに合うね。
  • にんにく:ガーリックステーキはワインに合うね。
  • 生姜:生姜が利きつつワインが定番という料理が思い浮かばない。ひりっと舌に残るフレーバーがワインの味を変えてしまうしワインを美味しくなくしてしまう。
  • トマトイタリアマルタバチカンを1か月まるまる旅行していたときは、毎日ワイン攻め&トマトソース攻めだった。トマト仕立ての料理はワインに合うんだ。
  • :塩味がついた料理はワインに合うね。イタリアの生ハムバーで生ハムやアンチョビとワイン三昧を思い出す。
  • 肉や魚介:鶏肉、豚肉、牛肉、羊肉、どんな肉類もワインでいただける。ただし魚介類は口に海の香りが残るとワインの味を損ねてしまうものもある。

次に、香辛料を検証してみる。

  • 唐辛子:多分カレーとワインが合わないと言われるゆえん。これが最も舌に鈍麻を残す。ヒリヒリ感という舌の感覚異常が持続してしまう。その状態でワインと合わさると違う味が持続的に残る。よってワインの味も分からなくなる。
  • コリアンダー(種子):コリアンダーの種子自体がオレンジのフレーバーがするし、ワインに悪い気はしない。
  • ターメリック:独特の土臭い風味がする上、舌もざらつくし、ワインとの相性はどちらかというと良くないように思う。でもウコンはお酒を飲んだ体に良いからなあ(ぶつぶつ)。
  • クミン:これもスーッと系。クミンを料理に多用するところでワインをよく飲む国って知らないなあ(むしろビールを飲んでるもんな)。
  • こしょう:こしょうはワインに合う味わいを作る。何より肉や野菜の旨さを増す。こしょうがワインに合わなかったら欧米は中世にアジアに執着しなかったのではとさえ思う。
  • カルダモン:スーッと感が残るからワインの味わいを変えてしまう。しかしビリヤニが旨くなる秘訣でもあるんだよなー。
  • クローブ:カレーの中のクローブを口に入れ、取り出してからワインを飲むと、甘味が同調する気がします。つまりクローブの風味とワインは合うんです。そりゃそーか、ホットワインには大抵クローブを入れるもんね。
  • シナモン:シナモンの香りはワインを口にすると潔く流れてくれる。ホットワインにシナモンは確かに良い相性だし。

◆最後に、米の検証
ほかほかの白飯はワインに合わない。
でもなぜだろう、焼き立てのフランスパンはワインに合うのにな。
小麦はワインと合う。でも米は合わない。

だったら、ポルトガルのアロースコンパトのように、米に、ワインに合う味わいの旨い油と塩と肉を合体させてみようか。油と塩と肉の味はワインに合うからだ。

でもまあそもそも、ワインを楽しむ大前提として、エンプティ感が必要なんじゃないかな。炭水化物は控えめがいい。

◆ワインに合うビリヤニの方向性
ということで、ワインに合うビリヤニの方向性をまとめます。

  • 増やすもの:玉ねぎ、にんにく、塩、油分(油やバター)、乳製品、肉、トマト、こしょう
  • 減らさないもの:クローブ、シナモン、コリアンダー(種子)
  • 減らすもの:唐辛子、生姜、カルダモン、クミン、ターメリック、米

ワインに合わせるカレーの方向性は、以下のようにイメージが固まってきました。

  1. カレーはトマトを濃厚にして、
  2. ホールのクローブやシナモンがかぐわしく、
  3. でもワインの味わいを損なうスパイスは控えめにして、
  4. トマト、玉ねぎ、にんにくの旨さ、
  5. バターその他乳製品の旨さ、
  6. ほろほろ♪のチキンの旨さ、
  7. 塩味はきっちりと、
  8. 隠し味の砂糖は是非入れてこくとまろやかさをプラスして、
  9. フライドオニオンも欠かさずに、
  10. ワインに合うようにサラダ仕立てにして、
  11. 米は控えめに。
  12. パクチー(コリアンダーの葉)は個性が強いからイタリアンパセリにしよう。

なお、日本の一般家庭でインディカ米が常備されている家はごくわずかでしょ。だから私は世界の料理であっても日本米で作っています。インディカ米でレシピを作ると、ほとんどの家庭では、作れない料理になっちゃうから。

では、インド料理の最高峰の1つ、「ビリヤニ」です!!! しかも、ワインに合うビリヤニです!!!

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ワインに合うビリヤニ

レシピは簡単です・・・と言うと、以下のレシピの材料欄を見た人に「手間はかかるだろー」と言われちゃいそうですけれど、要は「旨いカレーを作って、米の粘り気を捨てるように火を通して、あとから合体させるだけ」なので、やっぱりこうやってレールをイメージしておけば簡単な気がするんです。

heart『ワインに合うビリヤニ♪』
材料(2人分):

骨付き鶏肉
小2本
ヨーグルト
1/2C
赤玉ねぎ
中2個
サラダ油
大1
バター
大3
チューブにんにく
小1
チューブ生姜
ごく少々
ターメリックパウダー
小1/3
コリアンダーパウダー
大2
カイエンペパーパウダー
小1/6
こしょう
小1/2
クミンパウダー
小1/5
トマトペースト
大2
はちみつ
小1
小2/3
1合
ベイリーフ
2枚
カルダモン
2さや
シナモンスティック
4cm
クローブ
5粒
サフラン
10本
薄力粉
少々
イタリアンパセリ
少々

作業工程:2 時間

  1. 【米の事前準備】米1合を研いで吸水させておく。
  2. 【カレーの準備開始】骨付き鶏肉をヨーグルトに1時間浸けておく。
  3. その間に、赤玉ねぎ1.5個分をみじん切りにし、0.5個分を薄い千切りにする。
  4. 小鍋にみじん切りの赤玉ねぎを入れ、サラダ油、バターの9割、チューブにんにく、チューブ生姜を入れ、炒める。
  5. ターメリックパウダー、コリアンダーパウダー、カイエンペパーパウダーを入れて混ぜ、チキンをヨーグルトごと入れて全体を混ぜ、フタをして弱火で15分、ときどき混ぜる(鶏肉から水分と油分が出てくる)。
  6. こしょう、クミンパウダー、トマトペースト、はちみつ、塩を入れて全体を混ぜる。
  7. 火を止めて、味見をして、塩加減をややきつめに調え(なぜならばごはんを食べる塩分が必要だから)、トマト加減や甘さやバター風味をリッチに調える。
  8. 【米の準備開始】鍋に1Lくらいの水(分量外)、ベイリーフ、カルダモン、シナモンスティック、クローブを入れて沸騰させ、米をザルにあげて水気を切って鍋に入れ、米粒がくっつかないように菜箸でほぐし、8分間あるいは食べてみて芯がほぼなくなるまでゆでる(ゆですぎ厳禁、パスタのアルデンテ状態がよい)。
  9. その間に、小さな容器にサフランを入れ、沸騰した湯(米を煮ている湯でよい)を大1入れ、黄色い色を抽出しておく。
  10. 下に大きなボウルか鍋を置き、米をザルにあげ、固形の香辛料を取り出し、水気をとことんよく切る。ゆで汁は使わないが香りの良い美味しい重湯になるのであとで飲むとよい。
  11. 【ビリヤニの仕上げ】カレーの鍋からチキンとカレーソースを取り出し、鍋底にカレーソースが少々残る程度にする。
  12. 取り出したカレーソースに好みでバター(残りの1割)を加えてリッチな風味にする。
  13. ザルにあがっている米を半量入れる。
  14. チキンとカレーソースの半量を入れ、米の残り半量をその上に入れる。
  15. 一番上に、部分的にサフラン水をかけ、一部分だけを黄色くしておく。
  16. フタをして、その上にタオルを乗せて上部を保温し、10分程度ごく弱火にかける(もちろんタオルに引火しないようにする)。
  17. 火を止めたら、極力混ぜないように全体を上下返し、更にフタをしてタオルを乗せて再度ごく弱火で10分置く。
  18. 混ぜないように全体を上下返し、味見をして、米の水分加減を確認し、フタをして10分以上置いておく。芯なくゆでているので固いことはないと思うが、ゆるい場合はあり得るので、その場合はより長い時間置いておく。
  19. 10分置いておく間に、スライスした赤玉ねぎに薄力粉を薄くまぶし、サラダ油(分量外)で揚げ、フライドオニオンを作り、紙の上に乗せて油を吸わせておく。
  20. 【盛り付け】白い米、カレー色の米、サフラン色の米がむらになるように(すなわち均一に全体を混ぜないように)しながら、米の2/3を皿に盛り、チキンを乗せ、残ったカレーソースをチキンにかけ、残りの米をチキンが一部隠れるように盛る。スパイスを見せたい場合は米から取り出したスパイスを盛り付けに添え、上にフライドオニオンをちりばめ、イタリアンパセリを乗せてできあがり。
  21. Enjoy!
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ワインに合うビリヤニ

* * *

サラダ仕立てのリッチ風味のビリヤニは、玉ねぎとバターとトマトがリッチで、舌に残る香辛料が控えめです。でも単にトマトバターチキンリゾットではなくて、ちゃんとビリヤニとして成立しています。それはワインに合う香辛料を選び、香辛料全体のバランスを取りながらも、舌に触る香辛料を控えめにしたからです。

もっと言ってしまうと、香辛料を全廃して、単にトマトバターチキンリゾットを作ったほうがワインに合ったかもしれない。だから出来映えは -それを100点とすると- 80点とか90点とかの出来に着地しています。

でも、今回の成果は、タイトルの通り「挑戦」にあると思います。そして満足が得られたことです。

「大切なことは問うことをやめないことだ。」とアインシュタインも言っていました。初めからダメだと言われていることにも、工夫の努力で挑戦してみることは大事なことで、今回はこれが「料理」という身近なテーマで実践でき、何というか、「努力が楽しくなる」ということが実践できて、とっても有意義でした。

サラダ仕立てのリッチ風味のビリヤニが、ワインを楽しむ私のよいお供になり、「明日から、これから、さあ次は何を頑張ろうか」という問いかけをくれ、心からわくわくしました。

幸せは、心の流れによって決まるもの。

2018年度は「スパイス大使」として活動していることもあり、この、ワインに合わないとされている(しかもインド人がそう言う)インド圏の料理のグローバリゼーションに、自らも小さくであっても貢献できた気がして、ホント、やってよかった♪

美味しくできたわー♡ 感激♡ ワインおいしー♡

(ぼそっ)いややっぱりビリヤニに合う飲み物はパニ(水)・・・

しかしこのビリヤニ、超旨いな。美味しいビリヤニであることは認めよう(笑)

ワインおいしー♡ チキン柔らかーい♡ いいと思うよぉこれ♡

お前楽しそうだね。良かったね。

飲まないのぉ!? だったらチャイ(インドのミルクティー)淹れたげるけど。

いや、今ワイン飲む!


(笑)



* * *

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