オーストラリア料理に「Chilli mussels」があります。これを「チリマッスル」と表記する日本語サイトが多いと気付いたことを契機とし、検証を重ね、今回自分の中で、日本語カタカナ表記としての最適解を「チリマッセル」としました。本記事ではその検証の過程を記事にします。
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白人と非白人を分けて国を仕切っていたオーストラリアは白人移民を受け入れました。イタリアは戦争による壊滅や貧困から外に出たいイタリア人が多く、イギリス系白人の受け入れだけでは労働力が足りないオーストラリアは「イタリア人なら白人だし」と移民協定を締結。そうして入ってきたイタリア出身の移民は、パースやフリマントル(パース近郊の街)で「にんにく・唐辛子・オリーブオイルが効いたイタリア南部風のトマトソースを絡めた絶品ムール貝料理」を生み出し、それが人気を博し、その土地の名物料理になりました。
現地のレストランメニューの表記は「Chilli mussels」です。

「Chilli」(チリ)は、オージー英語では「LL」の綴りが入ります。イギリス英語ではChilli(LL)、オーストラリアはイギリス英語を継承してChilli(LL)。でもアメリカ英語やカナダ英語ではChili(L1つ)。理由は19世紀のアメリカで起こった「綴り改革」で、イギリス英語の「traveller」を「traveler」に変えるような試みがあり、唐辛子もLLがLになりました。でもオーストラリアはイギリス英語を継承しているので唐辛子の綴りは「Chilli」(チリ)です。
オーストラリア料理「Chilli mussels」の現地の発音をカタカナにしたら、「チーマソー」みたいな感じですかね。かなりL音は落ちるし末尾のSも落ちるからね。上のレストランで注文するとき「アガッダチーマソー」(I’ve got the chilli mussels、※)と言って通じる自信あります。
※オーストラリア人はよく物を購入するときに「I’ve got」(アガッ)を使っていて、「なんでまだ手に入れていない注文段階なのに現在完了形を使うかな」と記憶に残りました。理由を聞いたら、「〜をください / 〜にします」という「これから手に入れる」ときの言葉でも心の中で注文する物を決めたから「I’ve got」なのだそう。オーストラリアの旅の便利フレーズになりました。
またメルボルン在住の女性と料理を話をしていたとき「今度私の家においでよ。ゴーメーパイを作ってあげるわ!ゴーメーパイよ!ゴーメーパイ!」と言うので、意味が分からなくて綴りを書いてもらったら、なんと「Gourmet Pie」(グルメパイ)だったんです。
でも、もし私が「Gourmet Pie」を作ってレシピにしたとして、日本人向けのカタカナ表記ではその料理名をいきなりゴーメーパイとは書かないでしょう。日本語カタカナ表記は発音記号ではないし、外国料理名のカナカナ表記には読み手がそのカタカナから元の単語を想起させるための責任があるのです。
だから私がいずれその「グルメパイ/ゴーメーパイ」のページを設けるとき、料理名タイトルは「グルメパイ」とし、英語表記「Gourmet Pie」を付記し、解説として「現地ではゴーメーパイのように発音されていました」と書きます。そうでなければ「グルメパイ」と「ゴーメーパイ」の両方のページを作るかも。前者は外国料理名のカナカナ表記から料理の意味を想起させるための責任により。後者は私のように現地でゴーメーパイと聞いた人が検索で入ってこれるようにするための入り口の機能としてです。
フランスの首都は、発音はパヒだけど綴りParisを想起させる責任からパリと書く。
油は、発音はオイゥやオイュだけど綴りOilを想起させる責任からオイルと書く(※)。
※日本語は音の数が少ないのでRight(ライト)とLight(ライト)のような書き分け不能な限界もたくさんあります。
「Chilli mussels」の結論も同様です。
ムール貝は、発音はマソーだけどMusselを想起させる責任からマッセルと書く。
だから、その想起させる責任を以って、「Chilli mussels」の日本語カタカナ表記は「チリマッセル」です。
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では、なぜこんなことを考えていたかを、最後に並べていきます。
「Chilli mussels チリマッセル」とネット検索をすると、「チリマッスル」と書き換えられて検索結果が並びました。

もちろん「Chilli mussels “チリマッセル”」と検索すると「チリマッセル」の検索結果が並びます。

正直、musselをマッスルと書くことに、日本で英語教育を受けてきた身として違和感を持ったんですね。そもそも発音はマソーだし。
ただよく見てみたら、日本語でマッスルと書く人の根拠が、見た全員において「ムール貝のmusselと筋肉のmuscleは同じ発音なので、筋肉のカタカナがマッスルだから、ムール貝のカタカナもマッスル」というものだったんです。
いや・・・、それ、大胆すぎるよ。大前提として、カタカナ表記は発音を示すためのものではないのだもの。Beautifulをビュリフォーと書かないですものね? カタカナ表記は元の綴りを想起するための責任なんです。だからBeautifulは日本語カタカナではビューティフルと書きます。
筋肉の発音は日本語カタカナ表記だと「マソー」のようなものです。筋肉をマッスルと書く理由は、上の外国単語のカナカナ表記にはそのカタカナから元の単語を想起させるための責任があるからです。「muscle」がマソーなのでC音は落としたまま、でも油の「oil」の発音がオイウでも「Lがあることをカタカナから示す」ためにカタカナでは「オイル」になったように、「muscle」もLがあることを示して「マッスル」になる。
だけど、ムール貝のカナカナ表記に筋肉を想起させるための責任はありません。たとえムール貝と筋肉の発音が同じく「マソー」でも、ムール貝のほうは「mussel」なので、そのカタカナから元の単語を想起させるための責任としては「マッセル」と書いて「mussel」を導くのがいい。
◆マッセルウォッチ:二枚貝を生物指標としたアジアの海洋汚染のモニタリング|KAKEN(≫こちら)
事実、日本では「mussel」を「マッセル」と書いてきました。

のように。
やはり、「mussel」を「マッセル」と書くのは、自然に見えます。
◆Cambridge Dictionary(≫こちら)
ケンブリッジ辞書を見ると、muscleとmusselの発音記号が同じです。
オーストラリアの話をしているのでUK発音のほうを引用すると、
mussel:/ˈmʌs.əl/
muscle:/ˈmʌs.əl/
でも、発音が同じだからといってもカタカナを一緒にする必要はないんですよ。他の例を挙げると、
sweet:/swiːt/
suite:/swiːt/
甘いという意味の「sweet」と連結部屋を意味する「suite」はどちらも発音記号が同じですが、日本語では、
sweet:スウィート
suite:スイート
と書き分けてますよね(※)。
※ウィをイにして簡単にスイートとすることはありますが、ヴァイオリンをバイオリンと書くような話は今回の主旨とはずれるのでここでは触れません)
それこそ、「スウィート」からはsweetの文字が想起できるから、好ましいのです。
だから、
mussel:マッセル
muscle:マッスル
と書き分けて、「マッセル」からmusselの文字が想起できることは、好ましいのです。


Weblio辞書では「その英単語を日本語でどう読むか」を解説しています。
mussel:マッセル
muscle:マッスル
としています。


英辞郎では、
mussel:マセル
muscle:マスル
としています。「ss」があるから「ッ」を入れたほうが自然に見える気がしますね。また、筋肉は伝統的にマッスルと書かれてきましたから、それも考慮に入れて、ムール貝はマッセルがよいと思うんですよ。
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以上、オーストラリア料理の「Chilli mussels」のカタカナ表記について検証を重ね、
日本語カタカナ表記としての最適解を「チリマッセル」としました。
日本語カタカナ表記は発音記号ではないこと。
外国料理名のカナカナ表記には読み手がそのカタカナから元の単語を想起させるための責任があること。
もし「チリマッスル」と書くと何かの筋肉かと思ってしまう。
でも「チリマッセル」なら唐辛子が利いたムール貝料理になる。
発音が同じでも目的があるならカタカナは変えていい(sweet:スウィート、suite:スイートのように)。
だから、カタカナからその元となる単語が想起できるためにも、唐辛子が利いたムール貝料理は「チリマッセル」と表記していこうと思います。

