ケキキはトルコ料理にはよく使われるハーブで、食堂ではよく卓上に乾燥ケキキが置いてあります。いろんな料理で調理者にレシピを聞くと本当によくケキキが出てくるので、私も興味を持ってケキキを食べて(笑)いました。
私が食べたときの化学的な感想ではチモールをあまり感じずカルバクロールを感じサビネンをも感じる、この点でオレガノからマジョラムにかけたあたりの印象を持ちました。類縁植物としては私は自宅でタイムもオレガノもマジョラムも栽培していて、さらに日本の市販品も使っている上で、トルコで食べたときにマジョラムに近いものがあるなと思ったのです。
でもまあ、うちの庭のとトルコの品種は一緒ではないわけだし、実際問題として、トルコのケキキは日本語表記した場合何と呼ばれるハーブなのかが当時は分からずじまい。日本に住む今、トルコ料理のレシピ化にあたり日本でならどのハーブを使えばいいのか、この疑問の壁を乗り越えたいと思いました。
◆Google検索「トルコ ケキッキ」「トルコ ケキキ」
なぜか日本語のWEBページではケキッキと書かれるものが多い。綴りは「KEKIK」。パンである「EKMEK」をエキメッキと書く人なら「KEKIK」はケキッキと書けばいいし、私はパンの「EKMEK」をエキメキと書くのでハーブの「KEKIK」もケキキと書きます。私はトルコで発音を耳にしたときも明確な促音(※ッのこと)を聞いた記憶がなく自分の手元のメモはすべてのケースでケキキです。なお、WEBサイトを見ている限り現地の発音を耳で聞いて覚えた人のほうが「ケキキ」と書いている人が多いように思います。
日本語でGoogle検索にかけるなら両方使おう。「トルコ ケキッキ」や「トルコ ケキキ」として結果を表示させ、そのすべてを見て、ケキッキないしケキキの日本語表記を数えました。
タイム 8件
オレガノ 3件
オレガノまたはタイム 5件
どれとも違う 1件
言及せず 14件
ネットの情報なんてコピペだらけだから数なんて当てになりませんが。そして、タイムとかオレガノとか書いた人も、分かって書いてるのかな・・・?
* * *
ここから私の膨大な調査が始まる。できることをやってみよう。
私は草本植物学者ではないので正確な情報源にはなれないと思います。しかし正確につかむよう何日も時間を費やして膨大な努力をしました。今回の記事はその過程と考察と結論について記事にしたものです。
まずは自分が分かるように書きました。知りたい人に分かることを目的に書いたため、興味のない人に分かりにくいのは承知してます。
なお私は植物学については、薬学部(生薬学や漢方薬の授業があります)で薬用植物について学名表記も含めて授業をしていたので、リンネの分類体系なら知識を持っていますが、新分類も生じる中でどれだけ役に立つでしょうか。
<目的>
まずはこの調査の目的を明確にしました。
目的1:トルコのケキキの植物学的な日本語名称を突き止める。
目的2:トルコ料理のレシピにケキキと出てきた場合、日本の市販品では何を使うのが最も近いか? タイムか、オレガノか、マジョラムか?
* * *
先に結論を書いておこうっと。
結論1:トルコで商業的に流通する主要なケキキの和名はポットマジョラムである。
結論2:トルコ料理レシピに出てくるケキキを日本の一般的な市販品で代用する場合はマジョラムがよく、次点はオレガノ。
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◆トルコ・エーゲ地方のケキッキ(≫こちら)
論文ベースで日本語で書かれているPDFです。私もしっかり追求したいと思ったきっかけです。感謝しています。
これによると、
(1)トルコの書籍ではケキキは多くがタイムと記載されている。
(2)ケキキは複数の植物を含む。
(3)オリガナムOriganum属(※)に5種、サトゥレジャSatureja属に13種、シンブラThymbra属に3種、チムスThymus属に39種のケキキと名のつく植物がある。
※ここで「Origanum属」をオレガノと表記していたのですがオリガナム=ハナハッカであり日本のハーブの認識ではオリガナム属のハーブとしてオレガノとマジョラムが独立して存在するのでオリガナム=オレガノではない。そのためここではオリガナム属と表記しました。※なお学名はドイツ人ならドイツ語風とかアメリカ人なら英語風に発音してよくカタカナ表記に統一がない。私は学会などで音を耳で聞いたことがないので米国風と日本風の両方を勘案してカタカナ化表記しています。
(4)日本で栽培されるオレガノはオリガナムブルガレOriganum vulgare(※)が多い。
※ブルガレVulgareはラテン語で一般的とか普通という意味である。
(5)オリガナムブルガレOriganum vulgareはギリシャに多く分布する。
※ここで「Origanum vulgare」は元原稿の「Origanum urgale」(※学名が存在しなかった)が誤植と思われたためここでは直して記載している。(参考先:≫GKZ植物事典グリークオレガノ)
(6)オリガナムブルガレOriganum vulgareに4種あり、その1つにオリガナムブルガレサブスピーシーズヒルタムO. vulgare subsp. hirtumとして「グリークオレガノ」(ギリシャのオレガノ)が存在する。つまりグリークオレガノではないオリガナムブルガレOriganum vulgareもある。
(7)トルコのオレガノというとオリガナムオニテスOriganum onitesをいう。
(8)トルコではケキッキが主要貿易産品であり輸出産品として商業的に流通している。これらのケキッキの種はオリガナムオニテスOriganum onitesであり栽培されている。
◆The trade of wild plants that are named as thyme (kekik )collected from Kazdağ(≫こちら)
タイトルは「カズダー(エーゲ海沿いの街)で収穫されケキキ/タイムと名がつく野草の流通について」。
(9)タイトルにthyme (kekik )と書く点は(1)と同じだと思った。中を読むとケキキとしてタイムはほぼ流通しないと書いてあるのにケキキを英語読者にはタイムと書くのがトルコ人。
(10)ケキキは5つの属に属するタイムに似た香りをもつ植物の集合名称(※(3)より1属多い)
(11)この表は観測した地域での流通量で、オリガナムブルガレサブスピーシーズヒルタムO. vulgare subsp. hirtum((6)のグリークオレガノ)とオリガナムオニテスOriganum onites((8)のトルコのケキキ)が集中的に多く(50トン)、サトゥレジャSatureja属も見られ(10トン)、その他は数量記載なし。
(12)「Thymus is not seen in the markets as much as Origanum, Satureja and Thymbra. Villagers use Thymus at their homesmore than to sell it at the bazaars.」つまり(9)のように「チムスThymus属つまりタイムはあまり流通せず、収穫者が家庭で消費する程度である。」
(13)表中でオリガナムブルガレサブスピーシーズヒルタムO. vulgare subsp. hirtum((6)と(11)のグリークオレガノ)には「イスタンブールケキイ」( İstanbul kekiği)の別名がある。イスタンブールはトルコの主要都市の1つ。
※ケキイ(kekiği)は2単語連結によりケキキ(kekik)が属格語尾の格変化した。「k」で終わる単語の前に単語がついて2単語連結するとき末尾の「k」が「ğ」へと子音変化した上で母音がつき、「k」の前の母音が「i」なら語尾に「i」がつく。参考:ケバプとケバブの違いをまとめました-トルコ語の「ABという表現」(複合名詞)
(14)表中でオリガナムオニテスOriganum onites((8)と(11)のトルコのケキキ)には「イズミールケキイ」(İzmir kekiği)の別名がある。イズミールはトルコの主要都市の1つ。
◆Discrimination of Thymus, Origanum, Satureja and Thymbra species from the family Labiatae by untargeted metabolomic analysis(≫こちら)
タイトルは「非標的メタボローム解析を用いたシソ科植物におけるチムス属、オリガナム属、サトゥレジャ属及びシンブラ種の鑑別」
(15)ここに「The genera Thymus, Origanum, Satureja and Thymbra of the family Labiatae are traditionally named as thyme and locally known as ‘kekik’. Unlike Turkey, these species are globally called differently.」つまり「トルコではこの4つの属はタイム(現地語ではケキキ)と名付けるが、トルコの外では別々の名前がある。」と書いてある。つまりトルコではケキキをタイムと称してしまうのは(1)や(9)と同じである。(8)・(11)より商業的に流通するケキキはオリガナム属であり、(9)・(12)よりタイムは自家消費が多く流通しない。つまり、トルコ国内でタイムと書かれているケキキであってもタイム(チムスThymus属)ではなくオリガナムOriganum属のハーブである可能性が大きいと考えられる。
なおマジョラムもオレガノもOriganumオリガナム属のハーブゆえ、ここではこれを一律にオレガノとして記載している。今後はマジョラムとオレガノを分けて検証する必要が生じた。
◆Google画像検索「Chinese cabbage」
さてここで「チャイニーズキャベツ」の画像を見てほしい。
名前にキャベツがついたらそれはキャベツですか? 否。どうみても白菜だろーこれ。
名称の出来方は、
・中国のこの植物を表す単語が英語にない。
・英語、どうしようか。
・大根がDaikonみたいな荒技しますか?
・いやそれじゃ何も伝わらんから却下w
・英語に存在する野菜の名前を充てるしかないよな。
・でもキャベツって書いたら違っちゃいません?
・「中国の」をつけて書けばいい。そうやって回りくどく書くことで誰も西洋のキャベツと一緒だなんて思わないさ。
・「Chinese cabbage」の出来上がり。
・でも実態は日本語では白菜(※)です。
※小白菜としてはチンゲン菜のような野菜も含める。
つまり、
(16)「Chinese cabbage」の「Chinese」は生産地を表し「Cabbage」は強引に充てた単語である。よって「Chinese cabbage」は「中国にある、キャベツではないが強いて言えばキャベツと説明するしかない野菜」という意味なのだ。その他の事例は単語背景などから個々に検証するしかないが、この場合、2単語連結のチャイニーズキャベツのキャベツをキャベツと訳したら食文化として間違いなのである。
これをオリガナムOriganum属のケキキに充ててみる。
なぜなら地名をつけた2単語連結が登場するからだ。
◆Determination of Yield and Quality Properties of Selected Istanbul Oregano Populations(≫こちら)
タイトル訳は「イスタンブールオレガノ群から選出した品種で量的及び質的に特性を決定する」
(17)ここで、流通する品種をすべてオレガノとひっくるめるところから始めている。よってここで言うオレガノにはマジョラム類が含まれるかもしれない。輸出の8割が栽培品で2割が自然採集品とのこと。
(18)またここで「商業的価値がある品種」(the species with commercial value)としてイズミールオレガノ(Izmir oregano)とイスタンブールオレガノ(Istanbul oregano)を記述している。
(19)イスタンブールオレガノ(Istanbul oregano)は(6)・(13)のオリガナムブルガレサブスピーシーズヒルタムO. vulgare subsp. hirtumのことである。(4)の普通のオレガノとして記載される4品種のうちの1つなので、普通のオレガノでよい。(4)のように日本のオレガノでもあるだろう。また本論文にはトルコは世界で流通するオレガノ類の大部分を輸出する国、かつ、イスタンブールオレガノはトルコ国内では利用されないと書いてある(※)。まあ国内利用がゼロってことはないのだろうけど、大まかには(18)の商業的価値がある品種のうちイスタンブールオレガノつまりオリガナムブルガレサブスピーシーズヒルタムO. vulgare subsp. hirtumが国外に出されて欧州や日本のオレガノになり、イズミールオレガノつまりオリガナムオニテスOriganum onitesが国内に残る。これは(7)の「トルコのオレガノというとオリガナムオニテスOriganum onitesをいう」の記述と一致した!!パチパチ
※輸出されてアロマオイルの原料になる。
確定した。日本のオレガノは、特に品種が特定されて書かれていない場合は、「普通のオレガノ」であるオリガナムブルガレOriganum vulgare類と捉えよう。
(20)イズミールオレガノ(Izmir oregano)は(8)・(11)・(14)のオリガナムオニテスOriganum onitesのことで、(7)よりトルコ国内で使用される主要品種である。ここで留意したいのは(15)の「チャイニーズキャベツはキャベツと名がついていてもキャベツじゃない」ことより「イズミールオレガノはオレガノと名がついていてもオレガノではない」可能性だ。オリガナムオニテスOriganum onitesは(4)・(19)より日本のオレガノでもないので、日本語としてオレガノとは表記できないのではないか。これは後述の(21)(22)(30)(31)(33)(34)で正となる。
* * *
さてそろそろトルコ国内の主要流通品種であるオリガナムオニテスOriganum onitesの和名を知る必要がある。
◆Taxon: Origanum onites L.|U.S. National Plant Germplasm System(≫こちら)
米国農務省(USDA)のサイトでオリガナムオニテスOriganum onitesの和名を探す。
(21)すごい、英名・ドイツ語名・スウェーデン語名がすべてマジョラムがつく…!。これは昔オリガナムOriganum属に統合される前にはマジョラナMajorana属があってオリガナムオニテスOriganum onitesがマジョラナオニテスMajorana onitesだったからなんだろうけれど(≫こちら)、オレガノがある地域でマジョラムを名につけるのだからオレガノと識別できるんだろうとも思う。英名にはもうひとつ「Turkish oregano」(ターキッシュオレガノ=トルコのオレガノ)とも記されているがこの引用先文献を読むと、なんだ、ちゃんと「Pot marjoram」(ポットマジョラム)を優先して書いているではないか。なので問題ない。(15)のChinese cabbageのこともあるからターキッシュオレガノがオレガノだなんて安易に思っちゃいけない。「オリガナムオニテスOriganum onitesは和名はポットマジョラムなのでマジョラム類である」と解釈できる。これは後述の(30)~(34)で正と決着つけています。
◆オリガヌム・オニテス|GKZ植物事典(≫こちら)
(22)オリガナムオニテスOriganum onitesの和名はポットマジョラムである。(21)とも一致する。
つまり英名が和名になっている。
結論1:トルコで商業的に流通する主要なケキキの和名はポットマジョラムである。(7)(8)(11)(14)(20)~(22)
なお、
◆英語版Wikipedia「Origanum onites」(≫こちら)
これは引用元と違うことが書かれていたので信頼性が薄いと判断した。
◆Oregano and Marjoram(≫こちら)
米国ハーブ協会のPDFです。
(23)オレガノとマジョラムの分類史は複雑で最初リンネはオリガナムOriganum属を単一に定義したにも関わらず、ここに属する植物らはアマラクスAmaracus属だとかオリガナムOriganum属だとかMajoranaマヨラナ属だとか学名に様々な属名がつけられてきた。リッピア属のように関連性のない植物もオレガノとされたりも。
(24)こういうふうに専門家も混乱しているので「オレガノやマジョラムは属や種ではなく風味の点から分類するのが最善である。」と主張する専門家の意見。
(25)オリガナムOriganum属の主要化学物質は2つあり、カルバクロールはオレガノらしさを出し、サビネンはマジョラムのような甘い香りを出す。
* * *
では、トルコ料理の現地のレシピに出てくるケキキを、日本で一般に市販されているハーブで代用する場合は何を使えばよいのか、という点について検証します。まず、タイムを除外することになった考察背景を記します。
ケキキは(2)より単一植物を示さないので、(3)のリストから見ると日本によくある流通品で該当しうるハーブは以下の3つです。いろんな会社が販売していますが、ざっと見た限りGABANシリーズがHPで原材料のハーブを記載していました。
GABANオレガノ(≫こちら)
(26)インド産ワイルドマジョラム使用。ワイルドマジョラムは(4)で「普通のオレガノ」と記載したオリガナムブルガレOriganum vulgareであり日本ではマジョラムとは呼ばれない。スタンダードなオレガノを指す品種名である。
GABANマジョラム(≫こちら)
(27)エジプト産スイートマジョラム使用。品種はオリガナムマヨラナOriganum majorana。
GABANタイム(≫こちら)
(28)モロッコ産コモンタイム使用。品種はチムスブルガリスThymus vulgaris。
科はFamily(ファミリー)
属はGenus(ジーナス)
種はSpecies(スピーシーズ)
カツオの場合、
目:スズキ目
科:サバ科
族:マグロ族
属:カツオ属(カツオナスKatsuwonus属)
種:カツオ(K. pelamis)
と階級分類名にはスズキ・サバ・マグロ・カツオが入って賑やかww だが、種名(スピーシーズSpecies)が属名(ジーナスGenus)までは同じである。
学名はカツオナスペラミスKatsuwonus pelamisと属&種でつけられている。実態を知るには属と種を見るにとどめる。
だから羊の場合、
科:ウシ科
属:ヒツジ属(オビスOvis属)
種:ヒツジ(オビスアリエスO. aries)
つまり羊のことを「ウシ科だから牛!」とか「ウシ科だから牛の仲間!」と言ったら和訳として間違いだ。羊は我々の生活では牛と確実に区別されるので、羊の和名を牛と書いてはいけない。
その動物が羊であることを知るには属&種を見る。「羊」はオビスアリエスOvis ariesで、「羊の仲間たち」なら羊属オビスOvisをひっくるめていい。
日本の市販タイムは
科:シソ科(ラミアシーLamiaceae)
属:イブキジャコウソウ属(チムスThymus属)
種:タチジャコウソウ(チムスブルガリスT. vulgaris)
日本の市販オレガノは
科:シソ科(ラミアシーLamiaceae)
属:ハナハッカ属(オリガナムOriganum属)
種:オレガノ(オリガナムブルガレO. vulgare)
日本の市販マジョラムは
科:シソ科(ラミアシーLamiaceae)
属:ハナハッカ属(オリガナムOriganum属)
種:マジョラム(オリガナムマヨラナO. majorana)
トルコで流通する主要ケキキである「オリガナムオニテス」は
科:シソ科(ラミアシーLamiaceae)
属:ハナハッカ属(オリガナムOriganum属)
種:ポットマジョラム(オリガナムオニテスO. onites)
(29)その種が何であるかを検討する場合カツオや羊の例のように科を見ると実態からかけ離れるから見るのは属と種。ケキキはハナハッカ属(Origanum属)なのでオレガノとマジョラムの仲間であるがタイムとは違う属だ。これが、トルコの主要ケキキの代用としてタイムを除外しマジョラムとオレガノを優先する2つめの根拠である。1つめの根拠は本文冒頭の通り私がトルコでケキキを食べたときにタイム以上にマジョラムやオレガノを感じたこと。トルコの主要ケキキはタイムではない他の根拠は(1)(7)~(9)(11)(12)(15)。
* * *
さあ2択だ。トルコ料理の現地のレシピに出てくるケキキを、日本で一般に市販されているハーブで代用する場合は何を使えばよいのか、という検証において、次はオレガノとマジョラムの2者で検証します。
◆英語Wikipedia「Oregano」(≫こちら)
◆英語Wikipedia「Marjoram」(≫こちら)
この双方を読み、味や風味についての言及は、
(30)「ポットマジョラム」はマジョラムと同様に用いられる(Pot marjoram(O. onites) has similar uses to marjoram)との記載。
◆Handbook of Herbs and Spices (Second Edition), Volume 1, 2012(≫こちら)
タイトルは「ハーブ&スパイスハンドブック」。
本文は(≫こちら)
(31)「ポットマジョラム」はスイートマジョラムと同じように使える(it can be used to some extent for the same purpose as sweet marjoram)との記載。(30)と同じだ。
◆Dried Oregano Fact Sheet(≫こちら)
タイトルは「乾燥オレガノの説明書」
(31)オリガナムオニテスOriganum onitesはマジョラムとオレガノの間のようなハーブで、普通のマジョラムほどは甘い香りではなく、ビターさも持ち合わせている。普通のオレガノほど刺激的ではなくマイルドである。
(32)つまり、オリガナムOriganum属のハーブの分類史は混乱と複雑で(23)「これとこれがオレガノでこれとこれはマジョラム」のような学名ごとの分類ができず、オリガナムOriganum属に属するハーブをオレガノと呼びたいかマジョラムと呼びたいかは風味で分けるしかない(24)という専門家の意見に着地せざるを得ない。トルコの主要ケキキであるオリガナムオニテスOriganum onitesはマジョラムのように使うことが示唆されており(29)(30)、日本に流通するオレガノで代用するときついかもしれないことも伺える(31)。マジョラムで代用するほうがやや甘い香りが再現できてよいだろう(31)。
◆マジョラムの仲間|ハーブショップSORAMIMI(≫こちら)
日本のハーブショップの分類。
(33)マジョラムの風味を正しくつかんでいる上で、ポットマジョラム(トルコの主要ケキキ)をマジョラムの仲間としている。風味で分ける(24)前提にも立っているし、日本の分類感覚としてはこれは否定されるものではない。
* * *
最後の考察です。
(34)トルコの主要ケキキであるオリガナムオニテスOriganum onitesは、厳密には日本のオレガノと日本のマジョラムとは違う種なので(26)(27)どっちを使っても完全には一致しない。しかし日本でレシピ化するにあたり「代用」は必要である。和名がポットマジョラム(21)(22)であること、昔マジョラナMajorana属という分類があった頃オリガナムオニテスOriganum onitesはマジョラナオニテスMajorana onitesとしてマジョラム属だったことからマジョラムの一種としてよいし(21)、ケキキは日本の感覚ではマジョラムの仲間(33)で、風味や用途もマジョラムに近い(30)(31)。だから「ケキキとは何か」という問いの解としてマジョラムが第一優先されてよい。
味や香りの感じ方には人種差や個人差があるし植物側の個体差による成分のバラツキもあるが、私が冒頭でサビネン(マジョラムにある香り)を感じた体験からも、トルコの主要ケキキを日本市販ハーブで代用する場合はマジョラムを第一優先にする。次点はオレガノ。
しかし本来トルコのケキキは複数のハーブを含む用語であり(2)(3)(10)、オレガノ各種も含まれ(3)~(6)(11)(13)(19)、タイムを収穫した家庭ではタイムも自家消費される(12)から、あなたにトルコ料理の体験があるならそのときの香りを最も再現できるものを選べばよい。ただしここでは一般的かつ最適な代用として、優先順位をマジョラム>オレガノ>タイムとする。
結論1:トルコで商業的に流通する主要なケキキの和名はポットマジョラムである。
結論2:トルコ料理レシピに出てくるケキキを日本の一般的な市販品で代用する場合はマジョラムがよく、次点はオレガノ。
そしてあなたにトルコ料理の体験があるならそのときの香りを最も再現できるものを選べばよい。なぜならばケキキは1つじゃない。
* * *
1週間ぶっ続けで、1日18時間ほぼぶっ続けで、ずっとできる限り論文ベースで検証しました。専門家でもバラつく世界へ入っていったので、私もこうして結論を出すという行為自体にすっきりはしていませんが、それでも料理の代用は必要なので、頑張りました。自分から自発性を以って取り組んで最善の解を出せたことには、やってよかったし、自分も成長できたと思います。
あとは自分の官能試験が必要と思います。トルコに次いつ行くか分からないから、今出来ることとして、日本のハーブショップで実際にトルコの主要ケキキであるポットマジョラムを購入して、自宅で栽培してみたいと思います。
真剣に学んだから愛着があります♪ 「世界の良いところを我が家に」という一生モノのコンセプトのもと、素敵なハーブを庭に増やして、これからも世界の料理作りを楽しんでいきたいです。
トルコ料理、作るぞー☆(笑)
::: 後日談 :::
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