チェコの料理背景の縮図とも言える「Vepřo-knedlo-zelo」。
「Vepřo」は豚肉という意味です。この「ř」ないし「Ř」(rやRにハーチェク(∨)が乗った文字)は、チェコ語およびその系統でしか使われない文字なのだそうです。そしてその発音がとても難しい。
今回、日本語ではよく「ジャ」行の音で表記される「ř」ないし「Ř」の文字が、チェコを代表する肉料理「Vepřo」の中では「ショ」と発音されることを確認したので、その過程をここに記録します。
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1)チェコ語のアルファベットと発音
「チェコ語のアルファベットと発音」(≫こちら)
チェコ語アルファベットの発音を1文字ずつ紹介するサイトを見て、ノートに写しながら、単語の文字を分解しました。
「v」-v as invane(英単語invainを読むときのvと同じ)
「e」-e as in set(英単語setを読むときのeと同じ)
「p」-p as in pet(英単語petを読むときのpと同じ)
「ř」-soft r with ž(žにソフトなrが混ざる、※後述)
「o」-o as in not(英単語notを読むときのoと同じ)
řの発音が難しい印象ですが、その他は英語読みができることがわかりました。
次に「ř」の検証をしました。
「ř」- soft r with ž(žにソフトなrが混ざる)
「r」- r as in rolling(ローリングと言うときのr)
「ž」- s as in pleasure(プレジャーという時のジャ行の音)
上の3つをまとめると、「ř」は「巻き舌のrとジャ行の音が混ざってできるような音」となります。
2)Wikipedia「Ř」の音声リンク(≫こちら)
チェコ語の「Ř」の音を動画で聞いてみました。
これによると、日本語の「ジュ」の音に聞こえます。
3)「Ř」の発音を動画で聞く
「Jak vyslovovat hlásky R a Ř v češtině, tip (fonetika)」(≫こちら)
3:17 巻き舌のルルルの舌から舌先を歯茎の裏に当てていってジュが交ざる過程が素晴らしく分かりやすいです。
0:11 「(ウ)ジュ」
よって、「Ř」は日本語の「(ウ)ジュ」のような音に聞こえます。
4)「Vepřo」の発音を動画で聞く
「Knedlo zelo vepřo」(≫こちら)
0:11 「ベプショ」
「Ř」は「ジュ」音なのに、「Vepřo」はベプショだった。
日本語にも、「しょ」が「じょ」になるケースはあります。例えば「醤油」は「しょうゆ」と読まれるけれど、「わさび醤油」や「生姜醤油」は醤油の部分を経験的に「じょうゆ」と読みます。そしてもう少し検証と勉強を進めたら、チェコ語において、「Ř」の「ジョ」の音が「ショ」になるときがあるということが分かったのです。
5)Wikipedia-「Ř」(≫こちら)
ここには、「Řは[r]と[ʒ]を同時に発音したような音である。」ことに加えて、「ただし、Řの直前や直後に無声子音がある場合は無声化し、[r]と[ʃ]を同時に発音したような音になる。」といったことが書いてあります。
無声子音は、pftskなどの、濁らない音です。そして「Vepřo」は無声子音pとŘが並んでいるので、「Řo」は「ジョ」のような音から「ショ」のような音になるのです。しかしあくまで日本語カタカナの「ショ」とは違い、巻き舌のrとショの音が同時に発せられるような音です。
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◆まとめ
チェコ語において、「řo」の部分だけを発音すると「ジョ」に近い音になりますが、肉料理で使われる「Vepřo」の発音は「ベプショ」に近い音になること検証することができました。
有声音と無声音は常に固定されるわけではない。それは、日本語だって先ほどの「醤油」の例のように、私たちは有声音と無声音が変化する現象を知っています。
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チェコの料理背景の縮図とも言える「Vepřo-knedlo-zelo」。これはチェコの有名な伝統料理で、「ベプショ・クネドロ・ゼロ」と読みます。ベプショ(お肉のローストやグリル)と、クネドロ(中欧に根付くゆでパン)と、ゼロ(発酵キャベツ)の盛り合わせで、これとビールやワインをいただくと、まるで食卓にチェコの歴史の縮図を見るようです。
私はまだこの料理を自分で再現していませんが、我が家の菜園で美味しいキャベツが採れて、やがて美味しく発酵したら、素敵な「ベプショ・クネドロ・ゼロ」を作って、またレシピと写真をサイトに掲載しようと決めています。