私にとって宝物の思い出となるウイグル料理の記録、第6回です。
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ウイグル家庭料理、第6回・具入りご飯と具入り粥
◆ポラ(پولا)またはポロ(پولو)
じゃじゃん!!ウイグル料理の代表格の、にんじんたっぷりお肉炊き込みご飯です。ウルムチ方面ではポロ(پولو)、カシュガル方面ではポラ(پولا)と呼びます。
<ポロ(پولو)/ポラ(پولا)の作り方>
実食して作り方を教わり、それをかなり再現したレシピは、≫こちら。レシピを見ると日本料理との違いに驚くがここで日本料理風に油を減らしたりすると美味しくない。実は私は、ここに通う前に2回ポロ/ポラを作ったが納得いく出来にならなかった。しかしここでウイグルママに作り方の疑問点を質問して解決したら一発で完成度の高いものが出来た。
「پولا」(ポラ)は「پ و ل ا」がで「a l o p」でこれを右から読む。
◆ポロ(پولو)/ポラ(پولا)いろいろ
これは全部違う日に出していただいたポラ(پولا)です。
(左上)大きな骨付き羊肉がドンと入ったポラ。(左下)ケティック(قېتىق、ヨーグルト)を添えて食べるポラ。ポラは油を多く使うので無糖ヨーグルトが極めて相性が良く、美味しい。(右上)目玉焼きが乗ったポラ。ポラはトホム(تۇخۇم、卵)と相性が良い。(右下)ゆで卵と一緒に食べるポラ。
<ケティック(ヨーグルト)の関連事項>
ケティック(ヨーグルト)に氷が入るとドーグ(ﺩﻭغ)になる。ドーグには甘いドーグ(クィヤム(قىيام)すなわちシロップが入っている)と甘くないドーグがあり、前者はサランドーグ(ساراڭ ﺩﻭغ、サランは馬鹿という意味)、後者はオンドーグ(ئوڭ دوغ、オンはノーマルという意味)と呼ぶ。
「ﺩﻭغ」(ドーグ)は「ﺩ ﻭ غ」が「gh o d」でこれを右から読む。
「قىيام」(クィヤム)は「ق ى ي ا م」が「m a y i q」でこれを右から読む。
「ساراڭ ﺩﻭغ」(サランドーグ)は「س ا ر ا ڭ ﺩ ﻭ غ」が「gh o d ng a r a s」でこれを右から読む。
「ئوڭ دوغ」(オンドーグ)は「ئ و ڭ د و غ」が「gh o d ng o」でこれを右から読む。
「تۇخۇم」(トホム)は「 ت ۇ خ ۇ م」が「m u x u t」でこれを右から読む。「خ」(x)は「ハー」の音。
◆ポラ(پولا)とピンタン(پىنتاڭ)
写真でポラ(پولا)の手前にある汁物がピンタン(پىنتاڭ)というトマト仕立ての赤いスープである。ウイグル料理のスープで有名なショルパ(شورپا)は具材を炒めずに肉中心の旨味でクリアスープに仕上げれたもので、具が多くて主にトマトの赤が出るようなスープ料理はピンタンである。このピンタンは鶏肉が入っているので「鶏のスープ」という意味で(ピンタンではあるが)トフショルパ(توخۇشورپا)とも呼べる。
ショルパの綴りは、ウイグル(カシュガル)で大人まで育ったママは「شۇرپا」と書き娘は「شورپا」と書く。前者はシュルパ、後者はショルパとなるが2人は齟齬なく会話できている上ネットでもどちらの綴りも散見される。私の耳には「ショルパ」と聞こえる。
「トフショルパ」の「トフ」(鶏)の綴りは、カシュガル育ちのママは「تۇخۇ」と書き、Google翻訳では「توخۇ」。
「ۇ」は「ウ」の音で「و」は「オ」の音であり、「تۇخۇ」は「トゥフ」で「توخۇ」は「トフ」になるのだろうけれど、どうもトホに聞こえて仕方がない。
◆ポロ(پولو)/ポラ(پولا)の裏ワザ1・バーセイセイ(بەسەي سەي)
これ、ものすごーく気に入ったウイグル料理アイディアです♪ ポラ(پولا)を作るとき、ごはんとフタの間にバーセイ(بەسەي、白菜)を入れておきます。ポラが炊けるときにはバーセイ(白菜)が十分に蒸し上がっているので取り出して、黒酢と辣油(アチックスーとラーザ、後述)をかけて、サイドディッシュとしていただきます。油を多く使うポラの箸休めに、蒸されて甘さを増した白菜に酸っぱ辛い味付けがめちゃくちゃ美味しいんです。
*同様のものをキャベツで作ると「ランハーセイ」(لانخا سەي?綴り不明)。
◆ポロ(پولو)/ポラ(پولا)の裏ワザ2・パーパーヤンユー(پاپا ياڭيۇ)
これも、ものすごーく気に入ったウイグル料理アイディアです♪ ポラを作るとき、皮をむいて大きく切っただけのヤンユー(ياڭيۇ、じゃがいも)を入れておきます。ポラが炊けるときにはヤンユー(じゃがいも)がほくほくに蒸し上がっているので取り出して、アチックスーラーザ(ئاچچىقسۇ لازا、黒酢と辣油)をかけていただきます。もちろんじゃがいもがあればいつでもふかすだけで作れるおかずです。ほくほくじゃがいもにアチックスーラーザ(黒酢と辣油)がすごく合い、とても美味しいです。
「アチックスー」(ئاچچىقسۇ)は酢の意味で、「アチック」(ئاچچىق、怒ったとか辛(から)いの意味)と「スー」(سۇ、水)からなり、「刺激的な水」のような意味に由来する。
「アチックスーラーザ」(ئاچچىقسۇ لازا)は、「アチックスー」(ئاچچىقسۇ、酢)+「ラーザ」(لازا、唐辛子)の組合せで「黒酢と唐辛子(辣油)のタレ」を意味する。
「ئاچچىقسۇ لازا」(アチックスーラーザ)は「ئ ا چ چ ى ق س ۇ ل ا ز ا」が「a z a l u s q i ch ch a -」でこれを右から読む。なお「ئ」は母音が語頭にくるときに母音が単独で存在しないようにつける無音価母字なのでこれ自体に意味も音もない。
◆おまけ・ノコート(نوقۇت)
上のパーパーヤンユー(پاپا ياڭيۇ)に似たおかず・軽食にノコート(نوقۇت)があります。ノコートはヒヨコマメのことで、塩ゆでにして、アチックスーラーザ(ئاچچىقسۇ لازا、黒酢と辣油)をかけ、パクチーやジラ(زىرە、クミン)をふりかけるものだそうです。小学校の校門の近くでとても安い値段で売られていたりして、子供の大好きな軽食なのだそうです。
「زىرە」(ジラ)は「ز ى ر ە」が「a r i z」でこれを右から読む。
◆ショイラ(شويلا)
ショイラ(شويلا)はポロ(پولو)/ポラ(پولا)味で水分が多くなった料理です。一言で言うと「ポラが粥になった」料理です。もともとポラはにんじんがたっぷり入って甘い炊き込みご飯なのだけど、そこにドライフルーツが入り、甘味が決して薄まらず、しかし羊肉が入っていて依然として美味しい肉料理の一面があります。
<ショイラ(شويلا)の作り方>
米とドライフルーツ(イチジクやレーズン)を別々に水に浸けておく。フライパンにサラダ油を入れて熱し、羊肉と塩を入れてじっくり炒め、みじん切りの玉ねぎを入れてじっくり炒め、細切り(細かいしりしりのような)のにんじんを入れてじっくり炒め、水を入れてじっくり長時間煮て、米を入れる。米を入れるときに塩加減を見て塩を足す(※最後に塩加減を整えると不味いショイラになるらしい)。米どうしがくっつかないようにときどき混ぜながら煮て、ふやけたドライフルーツを入れて煮て、甘味を引き出す。食べるときはこしょうをかける。
「ショイラ」(شويلا)の発音は、日本人が字面を見て読むとショから下げ調子で読みがちだが、「ショイラ」と、ショは低くイとラを高く読む。
◆いろいろなショイラ(شويلا)・1
(左)赤いショイラ(شويلا)。1度だけだが赤みのあるショイラをいただいた。写真にトマトが写り込んでいるのでおそらくトマト入り。(右)ショイラの中のイチジク。これが美味。
◆いろいろなショイラ(شويلا)・2
(左)鶏肉で作ったショイラ(شويلا)。右:ショイラの中の、左から順ににんじん、生姜、ヒヨコマメレーズン。豆を入れるショイラもあるということだ。この日のショイラは生姜風味が美味しかった。
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以下は全7回の見出しINDEXです。次回は最終回です。
第1回・茶とパンと甘味
第2回・揚げパン
第3回・蒸しパン
第4回・水餃子とショルパ
第5回・手打ち麺
第6回・具入りご飯と具入り粥
第7回・ガンペンとセイ、謝辞