インド料理「Dal Tadka」。日本語カタカナ表記では、「ダールタルカ」。
タドゥカやタドカではなく。
「Tadka」と書いてもタルカと読みます。
大前提として日本語カタカナ表記は正確なヒンディー語発音を表しません。日本人が日本語の音声で料理名を読み、言うための便宜的な文字です。それでも私は海外の料理名を日本語カタカナ表記で記したい。世界の料理名を自分が読み、言える形にしないと何もできなくなるので、いつもいつも、それこそいつも一生懸命、料理名の日本語カタカナ化表記についてはちゃんとやろうと思って頑張っています。
今回取り組むのはヒンディー語(※)です。
※ヒンディーという用語だけで言語を表すため「ヒンディー語」と語を付す必要はないが、日本の慣習で「ヒンディー語」と呼ばれていることから本ページでもヒンディーをヒンディー語と記載する。
本記事では、インド料理名としてよく英語アルファベット表記される「Dal Tadka」が日本語カタカナ表記では「ダールタルカ」となる過程を検証し、まとめます。
* * *
◆1)「Dal Tadka」の意味
はじめに意味を確認しました。
「Dal」はインド料理の定番の豆ポタージュ。「Tadka」はオイルにスパイスや玉ねぎを入れて加熱して作る風味付けオイルを指します。後者はテンパリングとも言います。語源は、「Tad」の部分が多数の物の混合を示し、「ka」が小さい様子を示すので、「ちょこっとテンパリング」のような、小さい雰囲気をもつ用語です。
◆2)「Dal Tadka」のヒンディー語の綴りと音価
「Dal Tadka」のヒンディー語の綴りは「दाल तड़का」です。
さて、ここから先の検証は、とにかくヒンディー語のアルファベットの仕組みを知らないといけないので、いつものように紙に書き…。
その上で音価を同定しました。
द --- d
ा --- a:
ल --- l
त --- t
ड़ --- ṛ
क --- k
ा --- a:
ड़は r じゃないんです。 ṛ なんです。これを並べて「da:l tṛka:」。
◆3)Wikipedia「デーヴァナーガリー文字/母音・子音」(≫こちら)
「 ṛ 」の発音が想像がつかないので、確認します。・・・しっかしすごいよね、子音の多さ。
ありました。「ड़」は反舌音(そりじたおん)にありました。
「ड़」は「舌を反らせ上の歯茎の裏を弾く」「ダ行とラ行の中間の音」「無気音」。音声を聞くと日本語の「ラ」音にかなり近いです。ですので、便宜的にカタカナを充てるとしたら「ラ行の子音」です。
◆4)母音を読む・読まないの確認。
基本的にヒンディー語の子音には「ア」の母音が付帯しますが、特定の条件で母音「ア」が脱落します。そこで、「da:l tṛka:」で母音がつく場所と脱落する場所を検証します。
・語尾の子音は「ア」なし。→「da:l」の「 l 」は語尾の子音なので「 a 」がつかないまま「da:l」。
・語頭の子音は「ア」つき。→「tṛka:」の「 t 」は語頭の子音なので「 a 」がつき「taṛka:」。
・前後に母音「ア」がある子音は「ア」がつかない。→「taṛka:」の「 ṛ 」はタとカ(ア母音つきの音)に挟まれているのでそのまま。
ついでに、
・語尾の長母音は軽くなる→「taṛka:」は「taṛka」のようになる。
よって、読み方が完成しました。「da:l taṛka」です。
da: --- ダー
l --- ル
ta --- タ
ṛ --- ル
ka --- カ
出来た!!\(^o^)/
ダールタルカになった!!\(^o^)/
* * *
まだまだ検証は続きます。
◆5)「तड़का」の「ड़」が「ル」の音に近いのになぜ「Tadka」と表記されるか。
そもそも「तड़का」の「ड़」が「ル」の音に近いとして、なぜ「तड़का」を「Tadka」と表記するのでしょうか?
実際、Google検索でも、「दाल तड़का dal」と検索して「तड़का」の英語アルファベット表記を探すと、「Tadka」と出てくるものが圧倒的に多い印象です。
◆6)「Dal Tadka」表記をするYoutubeで発音確認。
「Dal Tadka」と表記して紹介するYoutubeでは、「Tadka」で「タルカ」と本当に読んでいるのでしょうか?
◆Restaurant Style Dal Tadka Recipe – Authentic Easy & Tasty Daal – CookingShooking(≫こちら)
0:09 「ダールタルカ」
0:07 「ダールタルカ」
◆Dal Tadka (Lentil Curry)(≫こちら)
0:09 「ダールタルカ」
聞いたものはすべて「ダールタルカ」だ。
そもそも、デーヴァナーガリー文字って「ダ」や「ラ」の音が多いんですよね。挙げると、ड、ड़、ढ、ढ़、द、ध、र、ल、ल्ह…。これらに対し日本語では「ダ」と「ラ」の2つしかないのだから識別しようがない。
「タルカ」の「ル」である「ड़」は「 ṛ 」すなわちドゥとルの中間音で、日本人の耳には「ル」に聞こえても、ヒンディー語で典型的な「ル」の発音(र)とは違う。「र」に「r」を当てるほうが優先され、「ड़」の「 ṛ 」は英語アルファベットにない文字なので充てられず、結局「母音のないd」を充てることになってしまった。英語アルファベット化は英領だったインドの必然であり、議論も検討もされてここに落ち着いている。「ड़が日本人にはルに聞こえる」ことと、「ड़をdと表記する」ことが別ルートでたどり着いたので、「dがルの音である」ことが日本人に理解されなくてもいい。インド人からしたらdが日本語ではルになろうが何の問題もないのだ。
インドの豆ポタージュにスパイスフレーバーオイルをかけた料理はヒンディー語で「दाल तड़का」。母音含有有無の規則に照らすと読み方表記は「da:l taṛka」。「 ṛ 」はに日本人には「ル」の音に聞こえるのでカタカナでは「ダールタルカ」がよい(1)。一方「da:l taṛka」の「 ṛ 」は d(द)と r(र)の中間的な音とも言え、英語アルファベット化の際は便宜的に「dal tadka」になった(2)。よって「d」を「ル」と読むことに違和感があるとしても、(1)と(2)は独立しているため、「dal tadka」は「ダールタルカ」と読んで問題ない。
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出来た!!\(^o^)/
いやぁ、今回ね、ヒンディー文字は、あのタイ語アルファベットよりも難しくて、壁が高すぎて、とりかかるまでが大変でした。
いつも世界の料理名の日本語カタカナ表記には膨大な苦労をしています。
その国の料理名を、調べないで適当にネットからのコピペで・・・ということも、出来ないわけじゃないんだけど、どうしてもそれだと自分が納得いかなくて嫌なんですね。情報発信者はきちんと己を律しなければならないと思うから、まずは自分が納得いくように努力しようと思う訳です。
いつも、海外の料理名を知ろうと思うと、軟口蓋摩擦音とか口蓋垂破裂音とか、そういう言語音声学者並みに学力が必要で、壁に直面すること多々ですが、それでも、ちゃんとやればちゃんと分かるので、目の前のことだけでもちゃんとやろうとは思っています。
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ダールタルカ。
ダールというインドや周辺国の豆ポタージュが、スパイスを煮出したオイルのフレーバーで、混ぜるとぐっとぐっと美味しくなるごちそうです。特に唐辛子が程よく焦げたフレーバーが現地の香りをもたらし、うっとりします、めちゃくちゃ好物です。
これ、日本のパン食にもよく合うんです。
そうだ、私も今からまたダールタルカを作って、久しぶりに明日のランチにでも食べてみようかな♡ …インドやフィジーの思い出と共に。