昨日は、中国の広東省のレシピで、麻辣雞球(マーラーカイカウ)(元レシピは、≫こちら)を作りました。ただし、スパイスに工夫して。
そう・・・、スパイスに、「工夫」して!!
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きっかけは、レシピブログ・ハウス食品(株)主催のスパイスブログ認定『スパイス大使』としての活動です。定期的にモニター商品(スパイス)を受領し、レシピをサイトに掲載しています。世界中のどんなスパイスが来ても、その国の本物のレシピを日本の一般家庭の調理条件で作れる形で公開していける器量はあるかと思っているのですが、今回の商品は日本企業のオリジナルのチューブ既製品です。日本にしか存在しない商品からは世界の料理そのものは作れません、が・・・、
左:わささんしょう。主にわさびと山椒と塩のペースト。
右:麻辣醤。主に山椒と唐辛子/豆板醤と塩のペースト。
ちょっとまって、この組み合わせ・・・、
ひらめいたのは、バニロイド受容体!
TRPV1(トリップ・ブイワン)!
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人の体は細胞がたくさん集まってできています。
細胞にはON・OFFの状態がある。筋肉細胞がONだと収縮しOFFだとのびる。神経細胞のON・OFF、血管の細胞のON・OFF、眼の視覚の細胞のON・OFFなどなど。体はON・OFFの組み合わせで複雑かつこまやかに動き、今の我々の日常の動作が出来ている。
細胞のON・OFFの切り替え方法の1つに「チャネル」があって、チャネルが開いてできる通路を細胞内外のイオン(ナトリウムとかカルシウムとか)が通り、細胞内の電荷状態が変わって、細胞のON・OFFが変わる。この研究は随分古くから行われていて、幾千幾万の物質とチャネルの組み合わせと細胞の動きの変化が既に発表されている。今やドラッグストアに行けば、脳の細胞の塩素チャネルを開いて脳細胞をOFFにして快眠をもたらすような物質が入った機能性食品も売っている(※)。
※薬機法に基づき規制区分が医薬品以外ものは効能を明示できないのでうま~くにおわせるようにして売っています。
しかし、チャネルを開いて細胞のON・OFFを変えるのは、物質だけじゃなかった。近年の大発見が温度感受性Transient Receptor Potential(TRP)チャネルである。要は、チャネルが温度センサーでもあり細胞の活動を制御するのだ。総説などは以下のサイトなどを参照されたい。
◆温度感受性TRPチャネル(≫こちら)。
温度感受性Transient Receptor Potential(TRP、トリップ)チャネルスーパーファミリーの最初の分子は1989年に眼の光受容応答変異株の原因タンパク質として報告された。TRPV(トリップ・ブイ)やTRPA(トリップ・エー)などの種類が含まれ、これらは温度を感じて活動し、細胞のON・OFFを変える。
そしてこれらのチャネルは、山椒や唐辛子やわさびの成分も感じて、細胞の活動を制御するのだというから驚きではないか。
<スパイスの主要成分>
山椒:サンショオール
唐辛子:カプサイシン
わさび:イソチオシアネート
<温度感受性TRPチャネルと温度とスパイス成分の主な対応>
TRPV1:熱(43℃~)、カプサイシン、サンショオールで活動する。
TRPA1:低温(~17℃)、イソチオシアネートで活動する。
これってすごいよね。よく知られているのはTRPV1(トリップ・ブイワン)である。私たちが熱いものを口にすると「熱い」と思うのはTRPV1(トリップ・ブイワン)が活動したからであり、同じくTRPV1を活動させるカプサイシンは高温でなくても熱さ感覚を与えることになる。それは山椒にも言える。
また、唐辛子や山椒を食べた後にぬるいお茶を飲むと実際の温度よりも熱く感じることは経験済みであろう。これはTRPV1(トリップ・ブイワン)の温度閾値が下がったためなのだ。
* * *
では、実際にやってみよう。できれば自分のフィールドである「世界の料理」で応用してみたい。着目したのは、TRPV1(トリップ・ブイワン)の、「唐辛子や山椒を食べた後にぬるいお茶を飲むと実際の温度よりも熱く感じる」点の料理への応用です。
ということで、麻辣雞球(マーラーカイカウ)(元レシピは、≫こちら)を、わささんしょう(わさび+山椒)または麻辣醤(唐辛子+山椒)を使って、TRPV1(トリップ・ブイワン)の温度閾値を下げて、冷めても(何もしないよりは)熱く感じることができるように作りました。わさび入りのほうは日本風の味わいになるので青のりを入れています♪
レシピは簡単です。
材料(2人分):
- すりごま(黒)
- 大1
- 塩
- ひとつまみ
- こしょう
- 少々
- 卵
- 1個
- 鶏もも肉
- 200g
- 青のり
- 大1
- わささんしょうペースト
- 大2
- 片栗粉
- 大2
- 揚げ油
- 適量(※2)
作業工程:30 分
- すりごまをフライパンで乾煎りする。
- ボウルに塩、こしょう、卵を入れ、といて卵液を作る。
- 鶏肉を2~3cmの角切りにしてボウルに加え、卵液と混ぜる。
- ボウルにすりごま、青のり、わささんしょうペーストを入れて全体を均一に混ぜる
- ボウルに片栗粉を入れて全体を混ぜ、揚げ油を170℃に熱し、鶏肉に衣をたっぷりつけながら、揚げる。
- Enjoy!
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材料(2人分):
- すりごま(黒)
- 大2
- 塩
- ひとつまみ
- こしょう
- 少々
- 卵
- 1個
- 鶏もも肉
- 200g
- 麻辣醤ペースト
- 大2
- 片栗粉
- 大2
- 揚げ油
- 適量(※2)
作業工程:30 分
- すりごまをフライパンで乾煎りする。
- ボウルに塩、こしょう、卵を入れ、といて卵液を作る。
- 鶏肉を2~3cmの角切りにしてボウルに加え、卵液と混ぜる。
- ボウルにすりごま、麻辣醤ペーストを入れて全体を均一に混ぜる
- ボウルに片栗粉を入れて全体を混ぜ、揚げ油を170℃に熱し、鶏肉に衣をたっぷりつけながら、揚げる。
- Enjoy!
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唐揚げなんて熱い方が美味しいに決まってる。でも、山椒や唐辛子の温度感覚変動効果により、冷めてきている唐揚げに対し、舌が実際の温度よりも熱く感じる気は、確かにした。
上述の文章を再掲し、その理由を解説しますと、「唐辛子や山椒を食べた後にぬるいお茶を飲むと実際の温度よりも熱く感じることは経験済みであろう。これはTRPV1(トリップ・ブイワン)の温度閾値が下がったためなのだ。」
※今回は、唐辛子や山椒の作用点であるTRPV1のみに着目しています。わさびの作用点であるTRPA1は冷感との連関に不明な点が多く、今回はTRPA1は考慮しませんでしたが、味わいというのは様々な食品側分子と生体側分子の相互作用により生まれるため、TRPA1は決して無視できない存在であることは承知しています。
大事なこと。
スパイスにより、感じる温度が変わるということ!!
もし味と香りに温度感覚を加味したデータを体系的に収集したら、スパイス業界は新しい道を歩みだせるんじゃないかな。だから、今回のような検証すなわち「冷めても熱く感じるスパイスの温度感覚制御」については、コントロール(唐辛子/山椒抜き)を用意して対応のない群間比較を行い、被験者数を増やしてp<0.05(※)みたく有意水準を出して結果をまず出す。再現性のある結果が出たら、あとは一気に飛躍するはずだ。
※簡単に言うとp(有意水準)<0.05は100回に5回未満の確率で期待される結果が外れるといった意味になる。
なぜならば、熱い料理をアツアツに食べることは食べる人によって喜びだから。「実は冷めているのに、熱く感じる」、「熱く感じるから、実は冷めていても、熱いものを食べているように美味しい」だなんて、こんないい話、ないと思うんだよね。
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私の好きな言葉は、「美味しさは、香りで作る」。
今日のタイトルは、スパイスが「熱」を制御する、温度感受性TRPチャネル。
「美味しさは、香りで作る。」だけでなく、「美味しさは、香りがもたらす熱い感覚で、もっと美味しくなる。」のだから、唐辛子と山椒は偉大ですね。
なお、唐辛子が入ったシップや山椒が入った胃腸機能活性化の漢方薬など、すでにスパイス成分がTRPチャネルに関連して治療効果をもつことが明らかにされ、医薬品として既に上市している。スパイスの熱制御や温度感受性TRPチャネルとの関連から、将来的にはスパイスが難病を治療する画期的な治療薬の糸口にもなるかもしれない。
「スパイスが熱を制御する」、これには、偉大な可能性が秘められているのだから。
今後TRPチャネルについて詳しく解明され、そのアゴニストである香辛料/スパイスが機能性をもつ食品や医薬品として一層発達し、国民の食と健康の増進に寄与していくことを期待します。