夢の、「ジャフナ」へ。

2018/08/04

世界の歴史は、大航海時代に世界を制覇したスペイン・ポルトガルの時代から、急成長した英国の時代へ移行した。よって17~19世紀あたりは南アジアがこぞって英領なり英国支配下だった。「英領インド帝国」・・・その「インド」は今のインドじゃない。今のミャンマーも今のバングラデシュも今のパキスタンも含む、「当時のインド」は「広大なインド」だったのだ。スリランカは英領セイロンだという国だったが、「広大なインド」の一部分に編入されていた時期もある。

スリランカの基礎背景として、北部州はタミル人、中南部はシンハラ人が主体であり、両者は民族が違い、言葉や主要宗教を含め文化が違うことが挙げられる。英領だったスリランカはやがて英国から独立するが、英国という「お上」がいなくなったら、シンハラ人とタミル人の摩擦が絶えず、それはそれは不穏で、ずーっと戦争していた。旅行者どころか地元の人も行き来できない国内分断状態が続いた。南の都はコロンボであり、北の首府は、私が今回向かったジャフナである。

スリランカは2009年まで長い内戦を続けた。長い内戦・・・、その時間は、旅行者を排斥する時間でもあった。

なお、内戦終結イコール平和では決してない。内戦の一般論として、終戦ないし停戦から時間が経つと、今度は「戦争が終わったにも関わらず庶民の暮らしは良くならない」という国民の不満が立ち上ってくるもので、事実、2010年時点で、外務省海外安全情報においてスリランカ北部州には渡航延期勧告が出ていた。だから世界旅でスリランカを訪問するとき(2011年)も、北部は許可証取得も煩雑だし、地雷が残存すると聞くし、とてもではないが短い日数の滞在では北部には行くもんじゃないと思っていました(※)。よって北部州の旅情報を調べることは一切しませんでした。

スリランカでは中南部のシンハラ人が人口の7~8割を占めるマジョリティーであるため、スリランカ文化を学ぶのであればまずシンハラ人の地域すなわち中南部に行くべきであるのは論を待たず、だから2011年のスリランカの旅では北部州に来なかった、という理由もあります。

今、内戦は確かに(表向き上)終わっている。でも、「行っちゃいけないジャフナ」であることには、変わりなかった。

「行っちゃいけないジャフナ」・・・

これはいつしか私の中に形成されていたフレーズ。スリランカ北部州は、そういうところだったのです。

* * *

だけどジャフナに行く夢を持っていた。それは今日までずっと。

もちろん -いつ何が起こるか分からないとはいえ- 現在のスリランカ北部州は、普通に旅が出来るようになっています。内戦直後は渡航許可証を取らなければならない時期もあったようですが、現在はパスポートチェックすらなく、列車やバスが1日何便も往来し、普通に旅ができる地域です。

◆1)ジャフナ渡航の目的
観光や街歩きはもちろん大事な目的であり、筆頭の目的です。そしてその上に私はスリランカ北部州の料理を知りたいと思っていました。

再掲しますが、北部州はタミル人が主体で、中南部はシンハラ人が主体となる地域で、シンハラ人が人口の7~8割を占めるマジョリティーであるため、2011年のスリランカの旅ではシンハラ人の地域を訪問しました。ということは、今回は2度目のスリランカ渡航だからこそマイナー地域に来ることに大きな意味を持つのです! 順番が逆になると、自分の中に形成されるスリランカ像がおかしなことになるのが怖い。だから私にはこの順番でよかった。

スリランカの最大都市コロンボに住む友人の紹介から地元在住日本人の案内も得られ、今回のジャフナ滞在では素晴らしい体験を得ることができました。この記事ではジャフナでタミル人の家庭料理を学んだ件について、事前段取りと当日の様子を記載します。

◆2)カイスゲストハウス
ジャフナで料理を学ぶために、私は調理を見学させてくれる宿を探しました。booking.comで見た幾つかの宿に予約を入れ、「Special requests」(特別の要望)の欄に、Cooking demonstrationをお願いする一文を記入しました。その要望に対しOKが返ってきたのがカイスゲストハウス(Kais guesthouse)です。ここは宿泊料金も高いし、町の見どころや交通要所からも離れているので、通常のジャフナ旅行だったら選ばない。だけど今回は現地のクッキングを学ぶことが目的なので、宿泊することにしました。ただしbooking.comに出している部屋は条件が悪かったため、入れた予約は一両日中に完全に落とし、最終的に宿のホームページ(≫こちら)から直接予約を入れました。

この宿について、ネットから得ていた情報は以下の通りです。

  • 日本のNPO法人が現地スタッフを起用して運営していること。
  • その運営方針の1つに伝統料理の保存ないし普及が掲げられていること。
  • スリランカ料理を学ぶ日本人に対し調理披露をした実績があること。
  • 青年海外協力隊員に一室を滞在住居として提供していた実績があること。

上記より、地元の人が料理を教えてくれる点も、そして宿の人が親日ないし親日本人であると思われた点も、安心な点でした。

◆3)調理当日

宿からは、チェックインのときに料理内容や日時を決めようという連絡をもらっていました。しかし、コロンボから列車に乗ってジャフナに向かう途中、上述のジャフナ在住日本人の方が私の移動中にメニュー等の手配を済ませてくれ、到着直後よりジャフナ料理を学ばせていただけることになりました。

それは、心から嬉しいことに、素晴らしいタミル人の家庭料理でした。

* * *

コロンボを朝暗いうちに出て、列車でジャフナへ。

午後4時前にジャフナに着いた。駅の「JAFFNA」の看板を見たとき、何というか、とてもヤル気が出てきた。感激した。緊張もしてきた。

ジャフナ

駅前の道を進む。「メーターのないトゥクトゥク(自動三輪タクシー)はボッタクリの危険があるため乗らないで」とコロンボの友人に教わっていて、でもジャフナではどのトゥクトゥクもメーターがなくて、トゥクトゥクに乗れなかった(苦笑)。結局遠い宿まで荷物を背負って歩くことになってしまいました。

ジャフナ

でも歩いて良かった。歩くからこそ見えるものは多い。初めてのジャフナであるのに、見るものは南インドの旅を思い出す。この途上国っぷりは、旅人の心を満たす旅のご馳走です!

ジャフナ

これは、老朽化? それとも内戦跡?
弾痕が見える壊れた建物に、戦死者の追悼の気持ちを捧げ、通り過ぎる。

ジャフナ

中世のダッチフォート(オランダ建築要塞)。近年の内戦で壊れたのか、もっと古い時代の争いで壊れたのか。古くて壊れたのか。看板にはそのことは何も書いてありませんでした。

ジャフナ

タミル人女性の素敵な笑顔に、出会った。

ジャフナ

井戸水を汲む男性。後から知ることになるが、ジャフナの水道水は味にクセがある。井戸水の水質はどうなのだろうか。

ジャフナ

宿に到着しました♪ すでにメニューも手配済みですから、私が部屋に荷物を置いたらすぐに調理スタート!!しかも手配してくださった方は在住日本人を集めてくれ、おかげで数多くのおかずをたっぷり用意することになりました。作るバッチが大きいほど分量誤差が減るので、分量を目視で判断して記録する上でとても嬉しいです!! そして食べる人数は多いほうが食事は絶対に楽しいから幸せ!!

宿のママはスパイスをローストするところから教えてくれました。

ジャフナ

うわ凄い、この長い緑の実は今まで食べた記憶のない食材です。太鼓を叩く棒に似ているからか、英名で「ドラムスティック」と呼ばれる野菜で、モリンガ(和名:ワサビノキ)の実です。モリンガの葉っぱはフィリピンにいたときよくスープに入っていましたっけ。

ジャフナ

これはスリランカタミル語では「ムルンガッカーイ」と発音するのが一番近いと思います。
スリランカ北部でのドラムスティックの実の呼称は「ムルンガッカーイ」や「ムルッカンガーイ」。

美味しそうー♡ 「ラールカリ」(இறால் கறி、エビのカレー)を作っています!!タミル語の口語では語頭のイがよく落ちると聞きました。文字通り発音すると、「イラールカリ」です。

ジャフナ

こっちはイカのカレーを作っています♡ 「カナワイカリ」(கணவாய் கறி、イカのカレー)です。地図を見れば分かる。ラグーンに富んだジャフナとその近郊は、漁労民も多いし、海産物がその土地の食として根付いているのです。

ジャフナ

出来上がった料理が並びました!!!すごい、美味しそう。しかも主食も手間をかけて作ってくれました。プットゥは米粉をクスクスのような粒状に整粒して蒸す、手間のかかる主食です。

ジャフナ

  • ラールカリ(இறால் கறி、エビのカレー)
  • カナワイカリ(கணவாய் கறி、イカのカレー)
  • ムルンガッカーイカリ(முருங்கைக்காய் கறி、ドラムスティックのカレー)
  • カッタリッカーイサンバル(கத்தரிக்காய் சாம்பார்、ナスのさっぱり和え)
  • プットゥ(புட்டு、米粉を粒状に整粒して蒸したもの)

盛り付け例です。

ジャフナ

エビのカレーはトマト味が濃く、
イカのカレーはタマリンドの酸味が濃く、
どちらも手作りのカレーパウダーの旨さが濃い。

ドラムスティックのカレーはココナッツミルクがさわやかで、
ナスのサンバルは揚げなすとレモン果汁の組み合わせでさっぱりしてる。

そう、どれも味付けが違うんです。それを主食のプットゥと共に皿に盛り付け、指で混ぜ、口に運びます。

食べました。お腹いっぱい食べました。
ジャフナに行く夢を持っていたから。
今日それが叶ったから。
ジャフナの手作りの美味しい料理なんて、二度と食べられないと思ったから・・・。

* * *

料理を学ぶ反省点もあります。今回はコロンボのとき(≫こちら)と異なり、お宿のパパとママが2人で調理を進めたため、全瞬間を見れておらず、分量を自分の目で確認できていないものがあります。それでも「今どれくらい入れた?」と聞くなどして補完には努めたものの、ほかの見落としがないか等も含め、不安も若干残ります。

調理の調査に不安があるとしても、それでも私は、夢の「ジャフナ」で、大きな目的を達成したように思う。

それは今日の感激。
人懐こくて素朴な、旅人をもてなすタミル人の良さ。
平和でのどかで、心が解放され、のびやかに笑顔を発揮できたジャフナの町。
ここを歩く一歩一歩が落涙の感激だった。

紛争地に行くといつも思うのだけど、生きるか死ぬかを経験して優しくなった人は素敵ですよね。戦争の苦しみと共に生きる人々は、「様々な痛みが分かる人」は、本当に皆優しいのです。

お宿のパパ、ママ。ありがとう。私は今日の一日を一生忘れません。心に残る、あなたたちのいつもの料理をありがとう!!

ジャフナ

そして、ご一緒してくれたジャフナ在住日本人の皆さん、ご縁をつないでくれたコロンボのJuncoさん、本当にありがとうございました。

今日の海鮮カレー、日本でも作らなくちゃね(*^_^*)♪

* * *

【ここから後日談♡】
そして、これが後日自宅で作ったカナワイカリ(イカカレー)です♪

カナワイカリ

日本のカレーは酸味を加えないで作るものだけど、タマリンドの酸味が入ったカレーは、これはこれでぐっとくる美味しさ!!イカと相性も良いのです。

では、カナワイカリ(ジャフナのイカカレー)のレシピを書いておきます。レシピは簡単です(≫詳細はこちら)。

heart『スリランカ北部州ジャフナで学んだイカカレー♪ カナワイカリ♪』
材料(2~4人分):

フェヌグリークシード
大1/2
小さめのイカ
3はい
紫玉ねぎ
中1/2個
タマリンドペースト
小1
小2/3
1.5C
にんにく
3かけ
カイエンペパー(※1)
小2/3
コリアンダー(※1)
小2/3
ガラムマサラ(※1)
小1/3
ターメリック(※1)
小1/3
こしょう(※1)
少々
ベイリーフ(※1)
あれば少々
カレーリーフ(※1)
10枚
赤ピーマン
1/2個
ししとう
2本

※1:これらのスパイスはパウダー状のものを(ホールしかない場合はミルで挽いてパウダー状にして)使います。パウダー状のミックススパイスは現地(スリランカ北部)では「ムラガイトゥール」と呼ばれる辛いミックススパイスで、このレシピは日本で比較的手に入りやすいスパイスで作るその代用です。

作業工程:40 分

  1. 小さなフライパンを強火で熱し、フェヌグリークシードを入れて絶えず撹拌し、色が変わったら火を消して取り出しておく。
  2. イカの中骨や内臓を取り除き、吸盤の中の硬い部分を指でしごきだし、くちばしと目玉を取り除く。
  3. イカの胴体は輪切りにし、エンペラとゲソは食べやすいサイズに切り、フライパンに入れる。
  4. 紫玉ねぎを1cm幅のくし切りにし、ばらしてフライパンに入れる。
  5. フライパンにフェヌグリークシード、タマリンドペースト、塩、水を入れ、フタをして中火にかけ10分間煮る。
  6. 煮ている間に、にんにくをまな板の上に乗せ、平らなもの(包丁の腹や金属コップの底など)でつぶしてからみじん切りにする。
  7. 煮ている間に、カイエンペパーパウダー、コリアンダーパウダー、ガラムマサラパウダー、ターメリックパウダー、こしょう、ベイリーフパウダーを混ぜてミックススパイスを作り、強火で熱したフライパンに一瞬乗せて混ぜて炒ってから取り出しておく。
  8. イカが完全に煮えたらフタを外し、にんにくとミックススパイスとカレーリーフを入れ、とろみがつくように水分を飛ばしながら煮る。
  9. 煮ている間に、赤ピーマンや緑ししとうのヘタと種を取り、粗みじん切りにしておく。
  10. 味見をし、塩加減やスパイス加減を好みに調え、仕上げに赤ピーマンと緑ししとうを加えてひと混ぜして出来上がり。
  11. Enjoy!
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ジャフナカレープレート

ごはんできたよー。ジャフナのイカカレーだよ!!

え゛、

ジャフナのナスのサンバルにジャフナ味ゴーヤカレーつき!!

だからジャフナカレーだってば。

え゛、俺、イカ刺しを生姜醤油で食いたかったのに

(実食し)、あ、美味しいねこれ。イカうまーい。

うん。スリランカカレーにしちゃ旨いw

シンハラのほうが材料は豊富なんだろうけど、味はタミルのほうが良いんだろうな。

うん。コロンボでもね、安飯屋のシェフは結構タミル人だった。商売人もタミルが多い気がした。

(完食し)、旨かった!ごちそうさま!


なお、宿のパパはその日の手作りのカレーパウダーをお土産に持たせてくれました。いろんな料理に、そしてスリランカ北部料理をこれで作ったりし、大事に使っていき、大事に使い切ろうと思います。



* * *

本記事、レシピ内容及び写真の著作権はすべて管理人:松本あづさ(プロフィールは≫こちら、連絡方法は≫こちら)にあります。読んでくれた方が実際に作って下されば嬉しいですし、料理の背景やTipsなど、世界の料理情報の共有を目的として、大事に作成しています。
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