世界の料理に関するサイトを見ていたときのことでした。「ベトナムは、特に首都のハノイ北部では稲作が盛んに行われている。」という記述を見かけ、私は首をかしげました。「ベトナムで米どころを挙げるのならまずメコンデルタではないの?」・・・私は、自分のサイトであるNDISH(エヌディッシュ)の世界各国料理紹介のベトナムのページに、「メコンデルタは、作付面積と生産高のいずれにおいてもベトナムにおける米生産の大部分を占めている。」と書いたことがあるのです。
ハノイはベトナム北部にあります。メコンデルタはベトナム南部にあります。もちろん南部でも北部でも水田はありますが、「筆頭の米どころ」と言えるのは本当はどこなのでしょうか?
その疑問を抱いたことは、言い換えれば、私自身が腰を据えて調査に取り組む良い機会でした。私はこの機会を得て、ベトナムの地域別の米生産量について検証を行いましたので、その結果について概要を記載します。
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論文ベースのものや海外統計となると近所の図書館ではまるきり情報不足です。よって資料閲覧はインターネット経由です。「ならば論文ベースがいいな」と、信頼性の高い情報源を求めて検索をしました。
農林水産省の「ベトナム農業の現状と農業・貿易政策」(≫こちら)
早速冒頭から「メコンデルタが作付面積、生産高のいずれにおいてもベトナム全体の 50%を超え、輸出も大半が同地域から行われている。」と書いてありました。米生産は南部圧勝という気がしました。
途中にはこのような表が掲載されていました。
ここで大事なことはすぐに数字を見ることではなく、統計出所と統計年の確認です。2009年データでは古いと思われましたので、出所記載の「ベトナム統計局GSO」を見ることにしました。
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「GENERAL STATISTICS OFFICE of VIETNAM」(≫こちら)
日本語にすると「ベトナム一般統計局」といったサイト名です。英語の頭文字を並べてGSO。メニューの「Statistics」(統計)をクリック、左メニューの「06. Agriculture」(農業)をクリック、次が難所ですが「Production of paddy by province」(地域別米生産)をクリック。Paddyは米や稲作を意味します(Paddyが米というのはいつ見ても驚きます)。
あとは、全地域を選択して、新しい統計年度のデータを出力すればよいのです。ただし「2014」「Prel. 2015」と並んでいる場合、Prel.はPreliminary(推計値)の略であり、統計確定値ではないので、2014年データを見るほうが良いです。CSV形式でデータをダウンロードできるので、操作に慣れているエクセルに入れ替えて、それでは作業開始!
作業手順
- Wiki「ベトナムの地方行政区画」(≫こちら)を開く。ここに各省ならびに中央直轄市の日本語名称が記載されているので、まずはカタカナ表記を作っていった。
- Wiki「ベトナムの地方行政区画」(≫こちら)にある「南ベトナムはクアンチ省以南」という記述を見て、またクアンチ省省都のドンハがベトナム戦争時代の南ベトナムの北端にあたることを確認し、クアンチ省以南をベトナム南部とし、各省ならびに中央直轄市を南北に分けてチェックを入れました。
- 統計には、各省ならびに中央直轄市の米生産量だけでなく。メコンデルタ、東南部、中部高原、紅河デルタ、北中央と山地、中北部と中部沿岸、という6エリアの小計も記載されていたので、各省ならびに中央直轄市がどのエリアに属するのかもチェックを入れました。
- 紅河デルタについてはWikipediaと統計局で当該省数が違ったので、ベトナム統計局と一致するように、ハイフォン省とクアンニン省を紅河デルタに加えるための補正を行いました。
このように集計できた♪
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集計結果から分かったこと。
1)米生産量の多い地域ベストテン
・この図は多いものから順に並べています。トップ10は、キエンザン、アンザン、ドンタップ、ロンアン、ソクチャン、タインホア、ティエンザン、カントー、チャーヴィン、ハウザンの各市省です。
・10のうち9つがベトナム南部のメコンデルタ地域に属しました。
・ハノイは11位で、また唯一ベトナム北部でベスト10入りしたタインホアはハノイよりも南にある省です。よって冒頭で私が疑問を抱いた「ハノイ北部」は、全国的に見た場合は米生産量において抜きんでる場所とは言い難いと思われました。
・このトップ10の地域の合計米生産量は23767トンで、国全体(集計63市省)の44974.6トンの53%を占めます。
2)南北対決
・ベトナム北部:13418.7トン
・ベトナム南部:31555.9トン
ベトナム南部が北部の2.4倍の生産高をもちます。
3)南北デルタ対決
デルタは河川が入り組み水路網が発達したところで、米づくりに適します。
・紅河デルタ(ベトナム北部):6759.8トン
・メコンデルタ(ベトナム南部):25245.6トン
・デルタ合計:32005.4トン
・非デルタ(上記以外の地域):12969.2トン
南北デルタ合計で国全体の71%の米を作っています。総デルタの79%の米が南部メコンデルタで作られています。
「大部分」という言葉は50%を上回る要素に使えます。南部メコンデルタの米生産量は国全体の56%ですので、この時点で私がサイトに記述した「メコンデルタはベトナムにおける米生産の大部分を占める。」という表現が正確であることが確定しました。
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<結果のまとめ>
「ベトナムの米どころ」の筆頭は「メコンデルタ」です。そしてメコンデルタは国の米生産の大部分を担っています(2014年)。しかし1年経てばまた新しい統計数値が出てくるので、今後も年に一度はデータを再収集し、検証を続けていくことが好ましいのは論を待ちません。
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メコンデルタってどういうところ?
ギリシャ語のデルタは「Δ」の文字で表されますよね。日本語では三角州のこと。遥か遠くから流れてきたメコン川が下流域で分岐をなし、多数の三角州を形成しています。更にそこには長年人々が、水と共に生活をしています。その伝統的な暮らし方を見に行くことを含めて、この「メコンデルタ」はベトナム屈指の観光名所となっています。
すれ違う人々は、まさにここに暮らす人。地上のマイカーのごとく、この運河ではマイボートで買い物に行ったり用事を済ませにおでかけしたりしているのですね。運河では魚を捕獲する仕掛け網もたくさん見かけました。
雄大な水と暮らす人々の文化に踏み込んだ、充実した1日を無事に終えることができました。
メコンデルタ発祥のベトナム国民食に、カンチュア(カインチュア)があります。
直訳して「酸っぱいスープ」という意味で、よくパイナップルやトマトが入っています。デルタ地域ではもちろん定番の具は獲れたての新鮮な魚です。