◆花卷、花捲、花巻
中国や周辺国で「花卷」や「花捲」と呼ばれる料理(主食)は、日本でも「はなまき」と言っても通じるくらいに有名です。
「花卷」は簡体字です。中国本土(特に中北部)に多い表記です。
「花捲」は繁体字です。中国の南方、香港、マカオ、台湾に多い表記です。
日本の漢字では、「花巻」ですが、どちらとも違うんですね。面白い。
さて、今回は、「花卷」や「花捲」の発音から、長年中国でつまずいてきた「yuan」の発音について解決したことがあるので、エッセイ形式でまとめました。
* * *
◆「a」が「エ」の発音になるときがある。
中国語はほぼすべての文字を漢字のみで表記します。ひらがなやカタカナがない、つまり「文字が読み方を示さない」ので、読み仮名ないし発音を記すために、ピンイン(拼音)と呼ばれるアルファベット表記法が一般導入されています。
ピンインで、「a」と書くものは、「ア」のような音を出すことが多いです。
しかし、「-ian」の場合は、「a」は「エ」の音になります。
慣れないと混同するのが、
- 「-iang」は、[iaŋ]。カタカナで「イアン」
- 「-ian」は、[iɛn]。カタカナで「イエン」
例としては、
- 「良」は、ピンインで「liáng」、カタカナで「リヤン」、「リアン」ないし「リャン」
- 「连」(連)は、ピンインで「lián」、カタカナで「リエン」ないし「リェン」
なぜ、「liang」と「lian」で、「a」の発音が、変わるの?
これは、「リエン」の「ン」と、「リヤン」の「ン」では、口の形が違うことから生じています。
- 「リヤン」の「ン」は、ピンインで「liang」、この「ng」で表される「ン」は、口の中で下あごがくっつかない「開いたン」。例えば「インコ」と言うときの「ン」の形です。
- 「リエン」の「ン」は、ピンインで「lian」、この「n」で表される「ン」は、口の中で舌を上あごにくっつける「ン」。例えば「インド」と言うときの「閉じたン」の形です。
※スピードを出して話してみると分かるのですが、「リアン」と言うときに、「閉じたン」がアの後ろにあると、「ア」と大きめに口をあけたくてもすぐに口を小さくする必要があり、結局口を大きく開けることなく「リエン」の音を出します。そう納得すれば、「lian」を「リエン」ないし「リェン」と発音することは、「閉じたン」の口の形を理由に納得ができます。
この画面の右、うまく工夫して説明しています(≫こちら)。
「lian」を「リエヌ」、「liang」を「リアン」と書くことで、「エ」と「ア」の違いだけでなく、「ン」の口の形も書き分けています。
◆「üan」は「ユエン」であり、jの後ろでは「jüan」と書かずに「juan」としてしまう。
「ü」は「ユ」の口の形をして「イ」。すなわち「y」の音になります。また「-üan」の「n」も上と同様で「閉じたン」ですから、「-üan」は「ユエン」のような音になるのです。
そう、ユアンではないのです!
そして、Wikipedia日本語版の「ピン音」のページ(≫こちら)や東外大言語モジュールのページ(≫こちら)に、やっと謎をとく鍵がありました。「ü は、j、q、x の後では u と表記する。」ことが書いてあったのです。
「ü は、j、q、x の後では u と表記する。」
「üanの前に付く子音はj、q、xに限られ,その際 ü は u と書かれる。」
なるほど。
※その理由を考えたのですが、おそらく、「j」(ジュ)に「üan」(ユエン)がついて「jüan」(ジュエン)の音になるのはいいとして、でも、仮に、「j」(ジュ)に「uan」(ウエン)がついても、「juan」(ジュエン)の音になる。つまり「jüan」(ジュエン)も「juan」(ジュエン)も同じならば、ウムラウト(・・の記号)はなくてもよい。なくても同じ。よって、ウムラウトを不必要とした。・・・と思いました。
◆花卷(花捲)のカタカナ表記は、「フアジュエン」。
花卷(花捲)のピンインは、「huā juǎn」です。
「huā」は、カタカナでは、「フア」、「フワ」、「ホワ」など、二重母音を保持した表記がよく充てられます。1声(-の記号)なので、高い位置で強く発音します。
「juǎn」は3声(∨の記号)なので、最初を低く保ち、終わりを高く、上げ調子で発音します。記号が「∨」なので下げて上げると書かれがちですが、「\/」はちょっと極端で、「_/」のようなトーンで大丈夫だと思っています(「旅の指さし会話帳・北京編」でもこう解説されています)。ということで、ジュは低く、エンを上げ調子にして、「_/」のようなトーンで「ジュエン」と読みます。
結論。
中国語には、地域による、あるいは個人による発音差があることは、重々承知&体験しています。
でも、地方料理の名称でなければ、標準的な名称でサイトに表記していくのがよいかと思い、当サイトでは、花卷(花捲)の発音を、日本人が耳にして口にしやすいカタカナ表記をすることを目的にして「フアジュエン」と表記することにします(ホワジュエン、ホアジュエン、フワジュエンも捨てがたいです)。
* * *
私は、中国語を学校で習ったことがなく、実にビギナーレベルです。でも今では逆に、「学校で習ったことがない」ことを強みに、本当の「音」を耳に入れて、本物を学ぼうという意欲は高く持っています。だからいつも現地では耳がダンボ。何を言っているか分からなくても、人の発する音を聞いて、聞きまくって、本物の音は多く耳に入れる努力はしています。日本にいるときなら字幕のある中国テレビ番組や中国映画を動画サイトで見るといいですね。これだと、自分が中国人と生の会話をすることができなくても、「会話」を耳にすることができますよね。
さて、そんな努力を細々と続けていても、いざ現地で切符を買ったり何かを訊ねるときなどは、いつも、こちらの発音が伝わらず、困難の連続です。
それでも、「今の会話の中で、何か1単語でもとどめよう」と、耳にした単語はその音を紙にメモして、現地であれば宿に帰ってからピンインを調べて、照合してきました。特に料理名や料理用語の場合は徹底的に発音を調べてきました。そこで、いつも「ian」を「イエン」と読むことが、上にも書いたような、地域あるいは個人による発音差なのか何なのか、よく分からないままここまで来ちゃいました。だって、「ian」を「イエアン」っぽく、アの要素を含めて言う人もいるし、なんだかよく分からなくなっちゃって(苦笑)
※後から知ったのですが、「ian」は標準語では「イエン」であっても、それを「イアン」っぽく読んだところで混同する対立語がない。上のWikipediaの画像にも、[iɛn]に対立する[ian]がない。[iaŋ]はあっても[ian]とは「ン」の口の形が違い、中国人は識別できるので、[ian]っぽく発音してもそれは[iaŋ]ではなく[iɛn]と認識される。しかし標準的にはあくまで「ian」は[iɛn]。
今回、上記のような調べものをすることで、その鍵は、「ン」と発音するときの口の形が2つあることを知りました。そしてそれは中国語を母語とする人には識別され、日本人は(トレーニングをしない限り)識別が困難であることにも気付くことができました。
今後は、「ン」の音が「n」なのか「ng」なのかを意識して全体を発音するようにしようと思います。そうすると、自然と、「ian」も「イエン」と、中国人がやっているように読めるのかもしれないです。
そして何よりも大事なこと。
言葉は、「言葉」なんだ。
文法書に頼りすぎることなく、できるだけ生の会話を重んじ、それができない日本での日頃のトレーニングは、動画サイト(中国語講座などはバツ。日本人の日本語解説が入るものではなく、中国人がひたすら中国語100%で話しているようなもの、映画や番組など)などを活用して、本物をいつも耳に入れていこうと思います。
中国語はできなくても、中国語を学ぶ努力はできる。ブイ (^^)v