セルビア料理

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【基礎情報】

国名:セルビア共和国Republic of Serbia、首都:ベオグラード、ISO3166-1国コード:RS/SRB、独立国(2008年コソボ独立分離)、公用語:セルビア語、通貨:セルビアディナール

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【地図】

セルビアは、北にハンガリー、東にルーマニアとブルガリア、南にマケドニアとコソボ、西にモンテネグロ、ボスニアヘルツェゴビナ、クロアチアと接しています。

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◆アジアの東から、西へ西へとセルビアへ運ばれた料理たち

セルビア史を俯瞰していると「まわりのメンバーを見てると、バルカン半島は戦争ばかりしてて当然かな」と頷いてしまいます。なぜならばそこはいつも「狭間」。古くは東と西のローマ帝国の狭間、中世期はオスマントルコとハンガリー=オーストリア帝国の狭間、指導者チトーの時代(20世紀)は「西」と「東」の狭間。バルカン半島はいつも大国の狭間で、渦中だったのです。戦争、戦争、また戦争。第一次世界大戦の火だねを作ったのもセルビア人で、戦争ばかりしているから国境線が次々と変わり、民族がどんどん入り組み、混淆とし、もつれていく。そうして激動の渦を作ったユーゴスラビアは20世紀末に解体し、「ユーゴスラビアの中心を担っていた国」は、後にモンテネグロが分離し、コソボが分離し、次第に小さくなり、今はセルビアという単一民族にかなり近い国になりました。

*セルビア・モンテネグロから2006年にモンテネグロが独立したときは、コソボはセルビア内自治区でした。コソボはその2年後に独立宣言をしますが、セルビア政府は非承認のため、コソボからみたらセルビアは別国でも、セルビアから見たらコソボは同国です。このサイトでは、日本を含めて世界の百か国以上がコソボを独立国として承認していることを鑑み、コソボとセルビアをそれぞれ1か国として食文化を記載していきます。

チェバプチチ
セルビアの国民食チェバプチチ(棒状肉団子)。(撮影地ベオグラード)

セルビア料理の特徴は、区別がつかないくらいに周辺国と似ていることにあります。その理由は、

  1. セルビアとその周辺国(つまりは旧ユーゴスラビアのあたり)には、セルビア人、クロアチア人、ボスニア人など、一見多種の民族が居住しているように見えても、それらは皆南スラブ人。宗教は多様でも、民族は同じである。
  2. バルカン半島が狭い。かつてユーゴスラビアだった7つの国を全部あわせても日本より小さい(本州くらいの面積です)。同じ土地柄で育まれた食文化には差異が少ない。
  3. オスマントルコ(オスマン帝国)が広く支配していた。バルカン半島の大部分は14世紀から20世紀までの数百年にわたってオスマントルコの支配が続き、多くの異教徒を抱え込みながら「イスラム国家」への統合が進められました。トルコ人も入植し、トルコの美味しいものが広まり、根付いた。

といったことが挙げられると思います。

トルコ料理のページにも書きましたが、「トルコ人はもともと今のトルコにはいなかった」。彼らは、古くは今のモンゴルのあたりから西へ西へとユーラシア大陸を移動していったテュルク系遊牧民が起源です。農耕よりも遊牧。野菜よりも肉と乳。中世期のオスマントルコ料理の記録を見ると肉がよく食べられていることが分かりますが、それは遥か東から遊牧民の食文化を継承した証でしょう。そこに、周辺国となるギリシャ、アルメニア、ペルシャ、アラブなどの影響が加わってオスマントルコの料理は豊かに膨潤し、それがバルカン半島に広まりました。セルビア料理を見ていて「肉類が多いな」と思うのは、セルビアが内陸国であることだけでなく、トルコ、ひいてはテュルクの料理を受け継ぐ影響が強いのだろうと思います。

セルビアに「グラーシュ」がある一方で中国新疆の肉料理に「グシュ」がある。セルビアのチェバプトルコの「ケバプ」で、ひいては中国新疆の「カワプ」ですよ。この長い長ーい、悠久の浪漫をも感じる「東西の食文化の帯」を追いかけると、セルビアの料理、ひいては世界の料理の研究は、楽しくてやめられません。
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主食 Staple

セルビアの主食はフレブ(パン)です。ペカラ(ベーカリー)に行くと色々なフレブ(パン)が見られて楽しいです。

よく見かけるものはレピーニャという円盤状のパンです。普通にパンとして食べるほか、水平に切れ目を入れてチェバプチチや野菜をはさんで、めいめいがハンバーガーのようにしておかずとパンを一緒に食べたりもします。セルビア西部のウジツェ地方では、ウジツカレピーニャまたはコンプレットレピーニャという、レピーニャにチーズやカイマック(乳脂肪分)を詰めてオーブンで焼くというパン料理もあります。その他、キフレ(ロールパン)、プロヤ(トウモロコシ粉で作る黄色いパン)、カチャマックイタリアのポレンタやケニアのウガリのような粗挽きトウモロコシ粉を湯で練って固めて硬くしたもの)もあります。
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肉のおかず Meat

セルビアでは畜肉は重要で、古くから牛の繁殖の開発が進められ、ドングリを飼料とする養豚も行われました。生肉は高価であり、中世期より基本的に肉は塩漬けや燻製(ベーコン)にされるものであり、これは今もセルビアや周辺国で「異様に肉の加工品が目立つ」ことと矛盾しません。

セルビアのメインディッシュは肉料理で、肉を焼くグリル料理が人気です。セルビア国民食の代表であるチェバプチチ(またはチェバピ)はスパイシーひき肉を短い棒状(フィンガー状)に成型して焼いたもので、ピエスカビッツァチェバプチチの形違いでハンバーグ状に成型して焼いたものです。グルマンスカピエスカビッツァの一種で、ひき肉生地に刻みベーコンを加えて更に美味しさを増したものです(グルマンスカはグルメという意味です)。

そのほかの肉料理には、ペチェネ(ローストした肉(豚、羊、ヤギ)、脚だったり丸焼きだったり)、ジュベチ(肉野菜煮込み)、ムサカ(ひき肉炒めとじゃがいもスライスの重ね焼き)、サルマ(発酵キャベツでひき肉を巻くロールキャベツ)、グラーシュ(肉煮込み)などがあります。グラーシュは、例えば豚肉を使った場合はグラーシュオドスビニェティーネのようにも呼ばれます。
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野菜や豆のおかず Vegetables & Beans

セルビアの気候は寒冷(ケッペン気候区分のD)なので、ギリシャ料理やトルコ料理(温暖地、ケッペンC)とは野菜の顔ぶれや潤沢さが違ってきます。寒冷地の野菜(例えばキャベツなど)の顔ぶれが増すところに、トルコ圏とはいえセルビア料理ならではの基盤を感じます。

セルビア語でセルビアは「Србија」(スルビヤ)、セルビア人は「Српски」(スルプスキ)と言い、その名を冠したサラダがスルプスカサラタ(きゅうりトマトパプリカオニオンのシンプルサラダ)です。スルプスカサラタはよくショプスカサラタと対比され、ショプスカサラタは白チーズが乗ったきゅうりトマトなどのサラダです。

セルビアを代表する野菜料理に、アイバル(焼き赤パプリカのディップ)、クリスマスやイブに食べるプレブラナッツ(白豆の土鍋焼き)などがあります。
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料理名一覧 Food & Drink Glossary

セルビア語はキリル文字(лやжやяなどを使用、ロシア語アルファベットに類似)とラテン文字(英語アルファベットに類似)を併用しています。公式の文字はキリル文字でも、実際に街中に出ると両方を見かけます。このサイトでは現状を鑑み、両方の綴りが分かる場合はキリル文字を優先して表記します。

【主食類】
  • カチャマック(Качамак、Kačamak):湯で練った粗挽きトウモロコシ粉を固めたもの
  • キフレ(Кифле):ロールパン
  • フレブ(Хлеб):パンの総称
  • プロヤ(Проја、Proja):トウモロコシ粉で作る黄色いパン
  • レピーニャ(Лепиня、Lepinja):円盤状のパン
    • ウジツカレピーニャ(Užička lepinja):レピーニャにチーズやカイマックを詰めてオーブン焼き
    • コンプレットレピーニャ(Комплет лепиня):レピーニャにチーズやカイマックを詰めてオーブン焼き
【肉類】
  • グラーシュ(Гулаш、Gurash):肉煮込み
  • グルマンスカ(Gurmanska)・・刻みベーコンを生地に加えたハンバーグ
  • サルマ(Sarma):発酵キャベツとひき肉のロールキャベツ
  • ジュベチ(Ђувеч、Đuveč):肉野菜煮込み
  • チェバピ(Ћевапи、Ćevapi):ひき肉を棒状にして焼いたもの
  • チェバプチチ(Ћевапчићи、Ćevapčići):ひき肉を棒状にして焼いたもの
  • ピエスカビッツァ(Пљескавица、Pljeskavica):ひき肉をハンバーグ状に成型して焼いたもの
  • ペチェネ(Pečenje):ローストした肉
  • ムサカ(Мусака、Musaka):ひき肉炒めとじゃがいもスライスの重ね焼き
【野菜のおかず】
  • アイバル(Ајвар):焼き赤パプリカのディップ
  • ショプスカサラタ(Шопска салата):白チーズが乗ったきゅうりトマトなどのサラダ
  • スルプスカサラタ(Српска салата):きゅうりトマトパプリカオニオンのシンプルサラダ
【豆のおかず】
  • プレブラナッツ(Пребранац、Prebranac):白豆の土鍋焼き
【乳製品】
  • カイマック(Kajmak):乳脂肪分

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