今これを書いているのは10月下旬です。我が家の柿の木は多分8本くらいあり、柿の季節になると、毎日柿を食べてもまだ木に生っているという「柿祭り♪」状態になります。そこで、柿を使った新しい料理を作ろうと思い、朝鮮半島の「柿キムチ」を作りました。
「柿キムチ」は、韓国や北朝鮮の綴りでは「감김치」です。
「감」が柿で、「김치」がキムチ。
・・・さあ、この「감김치」の片仮名表記、どうしよう・・・。
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最初に。私は朝鮮半島の言葉には疎く、文字をカタカナにすることが精一杯で、実にビギナーです。
以前旅先(パキスタン)で知り合った、大阪に住む在日韓国人2世のカン君はバイリンガル。韓国出身の年配夫婦が作ったキムチチャーハンを囲って彼が私に教えてくれたことがあります(2011年)。
「韓国語では濁る音も単語の初めにくると軽い音になる。だから、「ㄱ」は英語でGと書いても「김치」はキムチと読む。チャーハンは「ポクンパ」だけど、頭に他の文字がつくとポは濁音のボに戻って、例えばキムチチャーハンは「キムチボクンパ」のような音になる。」
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かつて、2000年を境に、韓国政府によりハングル文字のローマ字表記のルールが改正されました(文化観光部2000年式)。例えば、それまでの表記法であるマッキューンライシャワー方式の場合、プサン(부산、釜山)は「Pusan」であり、現地の発音に近かったのですが、2000年を境に表記は「Busan」になりました。
◆Wikipedia「マッキューン=ライシャワー式」(≫こちら)
これを見ても分かります。初声子音(冒頭の子音)である「ㄱ」の表記は旧方式では「k」で新方式では「g」です。
旧方式は人の発音に近いため、これは、「冒頭の子音がgである場合はkの音になる」、つまり、カン君が教えてくれた「濁る音も単語の初めにくると軽い音になる」ことと矛盾しません。現地の話者は、語頭に濁音を発音しないのです。
◆動画「韓国語 /k/音と/g/音」(≫こちら)
0:00~0:15において、
「キムチ」は、「キムチ」と発音すること。
「水キムチ」だと、「ムルギムチ」と発音すること。
このキとギの違いはこれまでの記述と矛盾しません。冒頭にあるからキは清音のままキムチ。そしてキが冒頭にない場合は濁音になってムルギムチです。
◆清音と濁音の区別の有無
韓国や北朝鮮の言葉では、清音と濁音が識別されにくいそうです。上の動画の中盤と後半では、「金さん」と「銀さん」が区別できず同じ発音になり、「近郊」と「銀行」も同様であることを示しており、興味深いものがありました。アップロード主のコメントを引用すると「それは、韓国人の頭の中には/k/と/g/が別の音だという基準がインストールされていないから」とのことです。・・・私も経験があります。友人の奥さまがタイ人で、タイの首都のバンコクでその方の家に泊めていただいたとき、奥さまが卵の絵を見て「カイ」(ไข่)と言い、鶏の絵を見て「カイ」(ไก่)と言う。何度か交互に読み上げてもらったものの、私の耳には同じ「カイ」にしか聞こえなかった・・・私にはタイ語では息の吐き出し方が意味を変えるという音の識別がインストールされていなかったのです。
一方で日本語は清音と濁音の区別が明確です。「カキ」は柿や牡蠣や夏期などで、「ガキ」と言えばやんちゃな子供や餓鬼。意味が違っちゃう。だから、「カキが実る」や「生意気なガキ」のように、「カキ」と「ガキ」は明確に発音を分けていますよね。
でも韓国や北朝鮮の言葉では清音と濁音が識別されません(そのかわり、先ほどのタイ語の例で挙げた息の吐きだし方意味を変えるのと同様な、平音、激音、濃音があります)。そして冒頭は軽く音を出す(清音化)が発音の習慣になっています。だから表記方法が2000年に改正されて「김치」が「gimchi」になっても人の発音は「kimchi」のままなのです。
◆韓国語のカタカナ表記分類表案を作成。|韓食生活(≫こちら)
そもそも、「김치」を「キムチ」とカタカナ化する場合、「文字の末尾にある母音を伴わない子音」すなわちパッチムの片仮名化についても考慮する必要が生じます。「kimchi」の「m」の音です。「mu」なら「ム」で良いのですが、母音のない「m」をどうするかです。
ここで、とても良いページに出会えました。
料理名や地名を片仮名化する際のルールを「考えて実践」していらっしゃる方の自己結論が書いてあります。内容がしっかりされていて素晴らしくて、私も(自分で考えることは手を抜かないけれども)基本的にはこれに合わせていこうと思わさせられました。
ここでは、語頭の文字を清音で表記することと、「パッチムのm」は「ム」とすることが書かれています。
◆Google翻訳「감김치」(≫こちら)
柿キムチ「감김치」の発音。
音価は、「gamgimchi」になっています。
1)音を検証するために文字構成要素を全部ばらします。
「감・김・치」⇒「ㄱㅏㅁ・ㄱㅣㅁ・ㅊㅣ」
2)これを、ローマ字表記します。
「ㄱㅏㅁ・ㄱㅣㅁ・ㅊㅣ」⇒「g a m ・ g i m ・ ch i」
Google翻訳はここまでを示しています。
3)語頭gをkにし、パッチムのm(文字の末尾にある母音を伴わないm)を「mu」にします。
「g a m ・ g i m ・ ch i」⇒「k a m u・ g i m u・ ch i」
できたー\(^o^)/
1)~3)をまとめて、「감김치」は「カムギムチ」になりました♪♪
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<結論>
柿が採れる10月におすすめの、「柿キムチ」の韓国や北朝鮮の表記である「감김치」の日本語カタカナ表記は、当サイトでは「カムギムチ」とすることにしました。
主要材料は、柿とニラとナンプラー(現地で使われるイワシエキスの代用)という手軽さがとても良かったです。さっと作れるし、1日で本格的キムチ味になる。なんだろう、柿の熟成した旨味と甘味があるから、熟成したキムチの味が出せるのだと思いました。とにかく想像を遥かに上回る美味しさがありました。
この柿キムチと豚肉の炒め物も最高級に美味しいです。驚きの美味しさです。