私にとって宝物の思い出となるウイグル料理の記録、第4回です。
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ウイグル家庭料理、第4回・水餃子とショルパ
◆チュチュレまたはチュチュラ(چۇچۇرەまたはچۆچۆرە)
チュチュレまたはチュチュラ(چۇچۇرەまたはچۆچۆرە)はロシア料理で有名なペリメニと同じく、小さいサイズの水餃子料理だ。写真左のようにショルパ(شورپا、具を油で炒めないで作るクリアスープ)に入れて煮て食べる(※別ゆでせずにショルパの中でゆでる)。だからチュチュレが入ったショルパを敢えてチュチュレショルパと名付けたりはしない。またショルパに麺類が入るときはチュチュレかウグレ(ئۇگرە、素麺のような麺)など他の麺も入れるのでショルパ=チュチュレ入りというわけでもない。
また発音だが、再掲するがウイグル人の説明では「ウイグル語は、話すときは語尾があいまいになりやすい」ため、末尾の「ە」がアに聞こえるときもエに聞こえるときもある。だからチュチュレまたはチュチュラは区別なく話される。
「چۇچۇرە」は「چ ۇ چ ۇ ر ە 」が「æ r u ch u ch」でこれを右から読んで「チュチュレ」または「チュチュラ」。
もうひとつの表記では、「چۆچۆرە」は「چ ۆ چ ۆ ر ە」が「æ r ö ch ö ch」でこれを右から読む。
「ۇ」(u)も「ۆ」(ö)も日本語カタカナ表記では「ウ」。発音を聞いたら「ۇ」(u)は口がとがったウ(日本語のウに近い)で、「ۆ」(ö)はあいまいなウだった。でもどちらの文字で書かれても日本語カタカナ表記では「ウ」になる。
◆ベンシ(بەنسي)
ベンシ(بەنسي)は水餃子。ちなみにモンゴル料理のバンシと同じ料理だ。
◆ベンシ(بەنسي)の作り方・1
<ベンシの作り方・1>この日のベンシ(بەنسي)は、羊肉のミンチ、にんじん、玉ねぎが具だった。にんじんは包丁の背で柔らかく削ぎ落していた。皮を作る小麦粉は中力粉。これを水と塩で練って、約3 cmの太さの棒状にする。
◆ベンシ(بەنسي)の作り方・2
<ベンシの作り方・2>棒状に成形した中力粉の生地を包丁で厚さ約1 cmの輪切りにし、指の腹で軽く潰して、麺棒で直径約7 cmの円形に延ばす。具を包んで閉じるが日本の餃子と違って角を入れ込んでいる。これを沸騰した湯に入れてゆで、浮いたら取り出す。
◆水餃子を食べるのはコショ(قوشۇق)
ウイグル料理は実によくコショ(قوشۇق、レンゲ)を使って食べる。日本のレンゲと同じ陶器のコショ(قوشۇق)を使うことが多かった。写真は水餃子ベンシ(بەنسي)。日本人がこういう餃子を食べるときは箸を使うものね。でもここではコショ(قوشۇق)でいただきました。その他、ちぎり麺類などもコショで食べる。基本的に何でも箸を使う日本とは文化が違うことが理解できる。
*陶器のコショ=チネコショ(چىنە قوشۇق)(チネは中国の意味)。
*木のコショ=ヤガチコショ(ياغاچ قوشۇق)
*鉄のコショ=トモコショ(تۆمۈر قوشۇق)
◆ハニシ(خان ئىش)またはハニシアシ(خانئىش ئاش)
ハニシ(خان ئىش)は高貴な料理です。写真は3回別々の日に食べたものです。ハン(خان)は王様、イシ(ئىش)は食事(食事はアシ(ئاش)だがここではイシになるらしい)。つまりハニシ(خان ئىش)は王様の食事という意味になる。ハニシの定義はウッシャクアシ(ئۇششاق ئاش、クスクス(小粒パスタ))が入ったショルパ(شورپا、肉ダシスープ)だ。昔クスクスは手間がかかる贅沢品ゆえに王族が食べる料理だったことに由来する料理名らしい。ウッシャクアシのウッシャク(ئۇششاق)は細かい、アシ(ئاش)は主食となる食糧の意味で、ウッシャクアシは「細かい主食」という意味でクスクスを指す。
なおハンとイシをつなげて書いてハニシ(خانئىش)になるとそれ自体が女王様や皇后様の意味になる。料理名としてのハニシ(خان ئىش)は「王様のごはん」の意味だが、この料理は女王の意味のハニシ(خانىش)にごはんの意味のアシ(ئاش)をつけてハニシアシ(خانىش ئاش)とも呼ばれる。
「خانىش ئاش」(ハニシアシ)は「خ ا ن ى ش ئ ا ش」が「sh a sh i n a x」でこれを右から読む。なお「ئ」は母音が語頭にくるときに母音が単独で存在しないようにつける無音価母字でこれ自体に意味はない。アシの場合の「ئ」は「ا」(ア)が語頭にくるときに「ئا」という形で始めるために設けられた文字である。
「ئۇششاق ئاش」(ウッシャクアシ)は「ئ ۇ ش ش ا ق ئ ا ش」が「sh a q a sh sh u」でこれを右から読む。末尾の「ق」(ク)はあまりはっきり聞こえないのでどうも「ウッシャアシ」に聞こえる。
◆ショーグルチ(شوگۈرۈچ)
実際には食べてはいないが上のハニシ(خان ئىش)の関連料理として話題に上がったのがショーグルチ(شوگۈرۈچ)。「ショー」はショルパ(شورپا、肉ダシスープ)の「ショ」でグルチ(گۈرۈچ)は米。よってショーグルチは「米入りの肉スープ」という意味になる。
しかし面白いよね、ショルパにウッシャクアシ(ئۇششاق ئاش、クスクス(小粒パスタ))が入ると「女王様」の料理名(ハニシ)になるのにショルパに米が入ると単に米ショルパ止まり。如何にこの名前がつけられた当時クスクスが素晴らしい価値を持った食材だったかが伺い知れる。
<ショーグルチの作り方>
水で肉と塩を煮込んで、にんじんや玉ねぎなどの野菜を入れてショルパを作り、米を入れる。米は洗って吸水させた生米でも、炊いた残りごはんでもよい。
◆マシショルパ(ماش شورپا)
マシショルパ(ماش شورپا)は、マシ(ماش)が豆でショルパ(شورپا)が肉スープを意味するので、直訳すると「豆入りスープ」になる。なおかつ通常マシはレンズマメや緑豆など小さい豆を指す。
<マシショルパの作り方>
ピンタン(پىنتاڭ)やショルパなどのスープ料理にマシを直接入れて20分程度煮ればよい。
◆マシショルパ(ماش شورپا)
この日のマシショルパ(ماش شورپا)は赤レンズマメ(皮むきレンズマメ)を使った。レンズマメがほくほくに煮えて旨い。
◆ハラルソーセージ
2つ上の写真でマシショルパ(ماش شورپا)の後ろにちょこっと映っている料理について。
私は最初このソーセージのおかずが「ソーセージ」だと思って驚いた。ソーセージは豚肉使用でムスリム(イスラム教徒)は宗教上食べない食材と思ったからだ。しかし話を聞くと日本在住ムスリムとソーセージの関係は3つあるそうだ。1)食べない・忌避する。2)ハムやベーコンくらいなら食べちゃうムスリムもいる。そしてこの家のように、3)ハラルソーセージを買って食べる。ハラルソーセージとは豚肉を使わずに豚肉ソーセージに限りなく似せて作る、ムスリムの食事に適合した規格のソーセージ。写真のハラルソーセージは材料は鶏肉でオーストラリア産。味は豚肉ソーセージに限りなく似ていたからすごい。美味しかった~。
◆ピンタン(پىنتاڭ)
ピンタン(پىنتاڭ)は具が多くて主にトマトの赤が出るようなスープ料理である。ピンタンとは如何にも漢民族の言葉で、ピンタンの語源は漢語の「粉汤」。「粉」は春雨やマロニー系統の麺に充てられる言葉で、ピンタンは文字どおりには春雨を入れるのが定番/本式ではあるが、春雨が入らなくてもピンタンらしい。この写真のピンタンは、トマト、油、鶏肉、じゃがいも、ブロッコリーが入り、八角(バージョー)、花椒(カワウィチン、كاۋاۋىچىن)、塩、唐辛子で味付けしている。
「كاۋاۋىچىن」(カワウィチン)は「ك ا ۋ ا ۋ ى چ ى ن」が「n i ch i w a w a k」でこれを右から読む。
◆ピンタン(پىنتاڭ)とコショ(قوشۇق)
写真の料理は上と同じピンタン(پىنتاڭ)。ウイグル料理はスプーンというかレンゲで食べることが多く、これをコショ(قوشۇق)と呼ぶ。
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以下は全7回の見出しINDEXです。次回につづく。
第1回・茶とパンと甘味
第2回・揚げパン
第3回・蒸しパン
第4回・水餃子とショルパ
第5回・手打ち麺
第6回・具入りご飯と具入り粥
第7回・ガンペンとセイ、謝辞