私にとって宝物の思い出となるウイグル料理の記録、第3回です。
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ウイグル家庭料理、第3回・蒸しパン
◆モマ(موما)/モモ(مومو)
モモと呼ばれる料理はアジアに広域に分布し、例えばネパールでは蒸し餃子をモモと言い、四川省や青海省でモモはパン類を指すこともある。ウイグル料理では、モマ(موما)は具が入らない蒸しパンである。この家族はカシュガル出身なのでカシュガルでの呼称としてモマと呼ぶが、ウルムチ方言はモモ(ماما)である。モマ/モモを日本人に分かりやすく伝えるなら「肉まんの皮だけを、何かのおかずやミルクティーなどで食べる料理」である。
「مومو」(モモ)は「م و م و」が「o m o m」でこれを右から読む。
◆モマ(موما)の作り方
<モマの作り方>このときママが作ってくれたモマ(موما)は、発酵した小麦粉(おそらく薄力粉)の生地を長さ22~25 cm×幅8 cm×厚さ5 mm程度に延ばし、ラーザ(لازا、唐辛子)(正確にはヤグラーザ(ياغ لازا)、辣油)を生地に塗ってからねじり巻きにして成形している。唐辛子が嫌いでない人なら分かるが唐辛子はただ単に辛さを与えるのではなく、旨味を与えてくれるのだ。だから、これは大変美味だった。蒸し時間は強めの蒸気でおよそ25分。蒸し終わったあとは熱いが我慢して取り出して両手でパフパフして底の面に空気を入れるようにするとふわっと美味しくなる。
*写真のおかずはセイ(سەي)(野菜を使ったおかずの総称)で、その1つとしてコールダク(قورداق)またはコウルダク(قۇرداق)と呼ばれる。
「ياغ لازا」(ヤグラーザ)は「ي ا غ ل ا ز ا」「a z a l gh a i」でこれを右から読む。
「سەي」(セイ)は「س ە ي」が「y a s」でこれを右から読む。
「قورداق」(コールダク)は「ق و ر د ا ق」が「q a d r o q」でこれを右から読む。
「قۇرداق」(コウルダク)は「ق ۇ ر د ا ق」が「q a d r u q」でこれを右から読む。
◆モマ(موما)の作り方とモームセイ
モマ(موما、蒸しパン)はセイ(سەي、野菜が入った汁気あるおかず)をたっぷり吸わせて食べるのが美味しいと言う。「私はよくこうやるんです~」と幼少のみカシュガルに住んでいた娘がお気に入りの食べ方を教えてくれたので、その食べ方を真似してみた。楽しそうだよね。幼少時代のカシュガルの良い思い出。きっと子供心に、食卓がモマ(موما)とセイ(سەي) -2つあわせてモームセイ- が出たら喜んで食べていたのだろうと、幸せな画が頭をよぎる。
◆マンタ(مانتا)
マンタ(مانتا)は中国語の馒头(マントウ)と同じ語源だが意味が違う。馒头(マントウ)は発酵した小麦粉のふっくらした皮をふかしたもの(白い蒸しパンみたいな)を食べ、具が入ることも入らないこともあるが、上のように、この「具が入らないほうの馒头(マントウ)」の場合ウイグル語ではモマ(موما)と呼ぶ。要は、マンタは具が入り、モマは具が入らない。
◆ペテルマンタ(پېتىر مانتا)とボラックマンタ(بولاق مانتا)
マンタ(مانتا)は小麦粉で作る皮に具を入れて蒸す料理だ。そしてマンタは皮により2種類ある。一つは皮が発酵していない(日本の餃子の皮のような薄皮の)マンタでペテルマンタ(پېتىر مانتا)と言う(写真の右3つ+重なりの上1つ)。もう一つは皮がふっくら発酵した(日本の肉まんの皮のような厚皮の)マンタでボラックマンタ(بولاق مانتا)と言う(写真の重なりの下の4つ)。ボラックは「良く出来た」という意味であり、マンタにつける場合は良く発酵したという意味になる。
「بولاق」(ボラック)は「ب و ل ا ق」で「q a l o b」を右から読む。
◆マンタ(مانتا)(ボラックマンタ(بولاق مانتا))とアチックスーラーザ(ئاچچىقسۇ لازا)
これはボラックマンタ(بولاق مانتا、皮が発酵したマンタ)のほう。羊肉と玉ねぎが入って美味。この具は皮と調理法を変えればグシュナン(گۆش نان)やサムサ(سامسا)と同じだからウイグル料理の基本が学べる良い料理だと思った。アチックスーラーザ(ئاچچىقسۇ لازا)は辣油入り黒酢。
<マンタの作り方>発酵させた小麦粉(薄力粉)の皮で羊肉や玉ねぎなどの具を包んで蒸し器で25~30分蒸して作る。
*「アチックスーラーザ」(ئاچچىقسۇ لازا)は、「アチックスー」(ئاچچىقسۇ、酢)+「ラーザ」(لازا、唐辛子)の組合せで「黒酢と唐辛子(辣油)のタレ」を意味する。アチョスーラーザやアチェックスラーザにも聞こえるなど、発音は日本人にはかなり難しい。
*「アチックスー」(ئاچچىقسۇ、酢)は「アチック」(ئاچچىق、怒ったとか辛(から)いの意味)と「スー」(سۇ、水)からなる単語で「刺激的な水」のような意味に由来する。
「سۇ」(スー)は「س ۇ」が「u s」でこれを右から読む。
「لازا」(ラーザ)は「ل ا ز ا」が「a z a l」でこれを右から読む。
◆マンタ(ペテルマンタ(پېتىر مانتا)、カワワマンタ(كاۋاۋا مانتا))
(左上)これはマンタ(مانتا)のうち皮が発酵していなくて薄いペテルマンタ(پېتىر مانتا)のほうである。また具材を特定した名称として呼ぶ場合、「カワ(كاۋا、カボチャ、日本のカボチャではなく写真のようなバターナッツカボチャ)のマンタ」という意味でカワワマンタ(كاۋاۋا مانتا)とも呼べる。(左下)いつものマンタのようにアチックスーラーザ(ئاچچىقسۇ لازا、辣油入り黒酢)をもらって食べようとしたら「カボチャのマンタはそれをつけずに食べて」と言われた。だから素手でつかんで直接口に入れる。(右上)材料のバターナッツ。(右下)カワワマンタの中身。カボチャがメイン。甘くて素晴らしく美味しくて、驚いたし、感激したし、本当に驚いた一品。
「كاۋاۋا」(カワワ)は「ك ا ۋ ا ۋ ا」が「a w/v a w/v a k」でこれを右から読む。
◆カワワマンタ(كاۋاۋا مانتا)
(左上)塊肉で購入しているという羊肉。いいなあ美味しそう。私もこういうお肉が欲しい。(左下)包丁で粗いミンチにした。これがグシュナン(گۆش نان)やサムサ(سامسا)やマンタ(مانتا)など様々な料理の主役になる。(右上)今回はカワワマンタ(كاۋاۋا مانتا)なのでカボチャが主役。子供たちも頑張って包んでくれたそうだ。(右下)サランラップを蒸し器にかける発想はなかったから驚いた。だから私にとって新しいナイスアイディアになった。蒸し器にふわっとラップを敷き、その上に蒸したいものを乗せる。ちなみに蒸し物が2段になるときは1段めの中央にお碗などを置いてから2段重ねにするそうだ。
<カワワマンタの作り方>バターナッツの実を刻み、羊肉と玉ねぎも少々刻み、塩と黒こしょうで軽く味付け。強力粉を練って延ばした餃子の皮状の生地(直径およそ10 cm)に乗せて包んで閉じて、25~30分くらい強めの蒸気で蒸す。
◆マンタ(ペテルマンタ(پېتىر مانتا))
実は私が上のカワワマンタ(كاۋاۋا مانتا)がペテルマンタ(پېتىر مانتا)であると知ったとき、「ペテルマンタは(本来は薄皮の包み物という定義であるが)ベジのマンタ」と思ってしまったようで、それを察したママが続いて「肉入りのペテルマンタ」を用意してくれた。なお、上述のように、通常マンタ(مانتا)は具が入り、モマ(موما)は具が入らないため、マンタと言えば何かしらの具が入るのだけど、もし具を特定せずにマンタとだけ言えば、肉入りマンタを意味するのだそう。
*敢えて肉入りマンタと言う場合はグシュマンタ(گۆش مانتا)(グシュマンタ=肉+マンタ)。
◆ホーシャン(خوشاڭ)
名前がモンゴル料理のホーショールに激似のウイグル料理、ホーシャン(خوشاڭ)。これがめちゃくちゃ美味しい。中身はグシュマンタ(گۆش مانتا、肉のマンタ)と同じく、羊肉、玉ねぎ、塩、こしょう。
<ホーシャンの作り方>まずはマンタ(مانتا)を作る。マンタの蒸し時間をちょっと短くして、蒸したあとで表と裏を油で焼いて作る。表面は油がついているし箸も添えてくれたが、これは手で食べてよい。
*手前はアチックスーラーザ(ئاچچىقسۇ لازا、辣油入り黒酢)。
◆ホーシャン(خوشاڭ)とエッケンチャイ(ئەتكەن چاي)
(左)ホーシャン(خوشاڭ)やマンタ(مانتا)などを蒸している。冬なので蒸気が見えやすいのかもしれないが、それなりに強い火加減で蒸している。(右上)ホーシャンの断面。皮はふわふわ、表面は油で焼かれて旨い。中身は羊肉で旨い。(左下)ホーシャンをエッケンチャイ(ئەتكەن چاي、塩入りミルクティー)でいただくスタイルの朝食。
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以下は全7回の見出しINDEXです。次回につづく。
第1回・茶とパンと甘味
第2回・揚げパン
第3回・蒸しパン
第4回・水餃子とショルパ
第5回・手打ち麺
第6回・具入りご飯と具入り粥
第7回・ガンペンとセイ、謝辞