イラク料理に「マスグーフ」という、魚の背開きの直火焼き料理があります。
これを作りたくて、私は焼くと白身がぷりぷりとして美味しい、新鮮な一匹魚の調達を狙っていました。そして釣りがご趣味の優しいご近所さんがくださったのが、獲れたての、それはそれは立派なイサキでした。
イラクではチグリス川やユーフラテス川の川魚を使ってマスグーフを作ります。主には鯉(コイ)が使われ、あまりにマスグーフが人気なため、鯉は養殖されているそうです。
ところでもし北欧のレインディアの料理を日本で作ろうと思ったら日本の鹿肉を使いますよね(それもダメなら牛肉とか)。英国のパースニップの代用には日本のカブを使ったり、アンデスのじゃがいもとは違う日本の品種のじゃがいもを使ったりします。世界の料理を日本の一般家庭の調理で再現するなら、日本で手に入りやすい食材の中から代用を見出すことになります。
だから、イラクの魚料理は日本でなら近海で獲れるような新鮮な一匹魚を使えばいい。だから私は以下の5つを理由として、近海の海の魚でマスグーフを作ろうと思いました。今回の記事ではその理由も併せて記事にします。
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<海の魚でマスグーフを作った理由>
- 日本では川魚があまり流通しないため、上の、パースニップをカブに変えたりするような、日本の一般家庭の調理者が手に入れやすい代用として海の魚を提案することになる。
- 「マスグーフ」という料理名は調理法を指す用語で魚の種類を特定していない。例えば魚で焼肉と言ったらダメですけど(料理名に肉とあるのに魚を使ったらおかしなことになる)、マスグーフたる調理法を守れば魚の種類は厳密には限定されないのではないかと。
- イラクの首都バグダッドはチグリス川流域なのでマスグーフは川魚で作るが、イラク南部のペルシャ湾方面では海魚のマスグーフもある。
- バーレーンやクウェートなどペルシャ湾の国では海魚でもマスグーフが作られている(白身が美味しい魚を使います)。
- マスグーフをバグダッドで食べた夫によると焼かれた白身がぷりんぷりんしていて美味しかったとのことで、同じ魚がない以上、「焼くと白身がぷりんぷりんする魚」であることを最重要条件とすれば、川魚か海魚かは最重要要素ではなくなる。
今回は獲れたての体長40 cmもの大きなイサキ、しかも6月の旬で美味しいイサキでマスグーフを作りました。
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さあ!!
大きな魚だよ!!
新鮮だよ!!(さっき釣れたばかり)
頭からカチ割るのも大変だったし、2つ割りにするのに腹は切り離してはいけない点も大変だったけど、慣れない手法での魚さばきを終えて無事にイラク味の調味液を塗るところまで成功しました。
焦げないような火加減で、じっくり30分~1時間はかけて焼きます。
薪から出るスモークの香りが素晴らしい♪
ちなみに魚を太めの枝に刺して魚を立てて、炎と同じ高さに設置して焼くことが多いのですが、ここまでさばくのも、普通の日本の調理ではやらない方法だったので、さらに設備的に難易度を上げると一般家庭の調理者が作れないレシピになるので、その点を考慮してバーベキューのような網焼きにしました(これでも実現できないご家庭があるだろうとは思うのですが、その場合は魚焼きグリルやオーブンで焼いてOKです)。ちなみにイラク現地でも網焼きはメジャーです。
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できたー♡♡
イラク料理を勉強するところから、マスグーフの来歴を調べるところから、マスグーフに憧れ続け、マスグーフの調理技術を学び、日本で作るマスグーフを追い求め、・・・こうしてやっと自宅でマスグーフを作ることができました。
イスラム教が主体の国なのでマスグーフは通常炭酸飲料とあわせていただきます。なぜならイラクではレストランに入るとペットボトル飲料が無料で選べる(あるいは店の人が置いていってくれる)からです。普通日本でこういうスパイシーな魚のメインディッシュが卓上に乗ったらビールや酎ハイが美味しそうですか? いえ、でもイラクでは炭酸飲料でいいんです。
夫が私に教えてくれたことは、「焼くと白身がぷりんぷりん」という、バグダッドで食べたマスグーフの記憶でした。
だから、今回はイサキを使って、これだけ白身が美味しそうに焼くことができたから、とてもとても大満足の出来栄えです。
そうだ。この記事のタイトルは、「イラク料理マスグーフを食べるときは炭酸飲料で」としました。飲める人には冷えたビールが欲しくなる味ですけどね。でもそれではイラク味にならないばかりか、せっかく作ったイラク味の調味料の味付けも台無しにしてしまうと思ったんです。でも普段ペットボトル飲料を飲まない我が家ですが、マスグーフを作ると決めたときはペットボトルの炭酸飲料を買ってきました。そして、炭火焼きでアツアツの魚を右手でつまんで食べて、「美味しいー♡」と声を上げてから炭酸飲料を飲んだとき・・・・・・・、イラクやその南に隣接するサウジアラビアの旅の味わいと同じものを感じたのです。これがムスリムの国の食文化なのか・・・。
マスグーフは今後きちんとレシピを公開します。どうぞまた見に来てください。