今日のテーマは、標題の通り「油を活用して、塩分を減らす」ことについてです。
まずはじめに、極めて大事なことを書きます。
厚生労働省の「日本人の食事摂取基準」は2020年に5年ぶりの改訂を迎えます。塩分(ナトリウムイオンの食塩相当量)については、2015年基準から一層厳しい減塩を要求され、成人摂取目標量が男女ともに0.5g/日引き下げになります。
◆「日本人の食事摂取基準(2020年版)」策定検討会報告書|厚生労働省(≫こちら)
2015年版:男性8.0g/日未満(18歳以上)、女性7.0g/日未満(18歳以上)
2020年版:男性7.5g/日未満(15歳以上)、女性6.5g/日未満(12歳以上)。高血圧および慢性腎臓病(CKD)の重症化予防のための食塩相当量は男女とも6.0g/日未満。
私にとっても、医療や栄養の関係者にとっても、これは衝撃のニュースです。厚生労働省作成の表をご覧ください。
縦は年齢階級別区分。横には、男女ともにA~Dの4列ずつの数値が並んでいます。AはWHO推奨摂取塩分量、Bは日本人の実際の摂取量、CはAとBの中間でDはCをキリ良くした数字です。
問題は、B。日本人の実際の塩分摂取量。例えば50代男性は1日の塩分を5g以下にしなければならないところを10.5g~~!!毎日2倍以上の塩~~!!・・・とまあ、このように、日本人は悲しくなるほど塩分過剰な国民なのです。
塩分過剰はご存知のとおり胃がんや高血圧、ひいてはCKD(慢性腎臓病)を惹起しますから、「健康第一」という言葉に異論がないのであれば日本人は直ちに今の食生活から塩分を半分にしなければならない(※)と言っても過言ではない逼迫した状況に置かれています。
※詳細は年齢階級別摂取量や個人の摂取量ならびに性別を鑑みて計算しなければなりませんが、今はマスで物事を言っています。
では、なぜ日本はこのような食文化・・・塩分の健康被害が多い国になってしまったのでしょうか。
私は世界中を旅していて、それこそ外国で食事をとってばかりという生活になって始めて日本の料理が大変に異質だと気付きました。地球の広域は遊牧ないし牧畜の文化が基本です。ユーラシア大陸の広域で、欧州でも、アフリカでも、オーストラリア大陸でも、地球の広域では遊牧ないし牧畜が盛んです。乳製品にはバターやクリームなど美味しい脂肪分があります。人は、脂っけ(油っけ)があるといやおうなしにそれを美味しいと感じてしまう。一方で日本の伝統文化では、国民のほとんどは遊牧や牧畜の恩恵がなく、漁労や耕作の食文化、内陸の発酵食品や塩蔵、一般家庭では塩と醤油と味噌が必需品の調味料で、煮物やおひたしや焼き物が定番おかず、味噌汁が欠かせない、といったように、料理があまり油っけにまみれてこなかった。・・・日本は塩で美味しさを支えてきたのです。
でも今なら?
再掲しますが、「人は、脂っけ(油っけ)があるといやおうなしにそれを美味しいと感じてしまう」。そして、現代の日本人は誰だって油を入手できる。だから、油を活用して、塩分を減らすことができるはずです。
今日のテーマは、油を活用して、塩分を減らす。本記事ではこれをしっかりした塩分計算とともに実証しようと思います。
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さて、油を活用して、塩分を減らすとはいえ、仮にバターケーキを焼いて「ほら油が多いと塩分が減ります♪♪」みたいな記事を書いても、日本人の塩分過剰への固執は解けませんから。
日本人の減塩を真剣に考えるなら、例えば醤油に着目して、醤油が合う料理から如何に醤油を切り離させるか、というように、今の食生活から脱塩分への道筋を提示するのが適切であると思えます。
中国に、いい例があるんです。それは私が大好きな水饺(シュイチャオ)(水餃子)です!!!
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私は中国で餃子を食べるのが好き!!
中国の餃子は美味しい。
具のバリエーションも、皮の美味しさもさることながら、感激するのはその「食べ方」です。ごはん(米の飯)がなく「皮を主食にする」から、餃子だけで食事が完結できます。そしてタレに醤油を使わない。「タレは黒酢と辣油」、そしてときににんにく。だから、どれだけ食べても塩分が気にならないのに、美味しいのです。
中国の水餃子の作り方とレシピは、≫こちら。
これがあれば最高!!中国の黒酢です。
中国では、餃子や肉まんなどを置くお店の食卓には、よく酢と辣油とにんにくが置いてあります。下の写真は満州で撮影しています。
生にんにくが驚きです。生にんにくをかじりながら餃子や肉まんを食べるのです。あるいはおろしにんにくをタレに加えます。これが実に旨い。本当に旨い。みんながそうしてるから私も気にならないし、美味しいから食べずにはいられないのです。
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多分、日本人はごはん(白い米)があると何らかしら塩分を併せたくなりますよね。漬物でも、おかずでも。
だから日本式に餃子を食べると、餃子のつけダレに醤油を使ってしょっぱくしてごはんに合うようにしてしまうのです。
しかし中国式では餃子を食べるときはごはん(白い米)が不要なので、タレに醤油を使う必要性がなくなります。
◆モデル作成と塩分量計算
では、日本式と中国式の「餃子のつけダレモデル」を作り、塩分量を計算してみます。
取り皿に入れるつけダレの量など、誰も大さじ小さじを使うものではありません。しかし目安をつけて、計算して、比較の両者にどれだけ差異があるかを数字で示し、数字で把握することは大事なことだと思います。
事前計算として、濃口醤油大さじ1杯の塩分量を食品成分表データに基づき計算しますと、食塩相当量は14.5 g/100 g、100 g=84.7 mLと元データに書かれており、大さじ1杯の容量=15 mLなので、濃口醤油の塩分量は14.5 g/84.7 mL=X g/15 mL、これを解いてX=2.6 g。よって濃口醤油大さじ1杯の塩分量は2.6 gです。
◆日本式の餃子のつけダレ(1人あたり)
『小皿に濃口醤油大さじ1、米酢小さじ2、辣油少々』と仮定して、
塩分量は『2.6+0+0』=2.6 gです。塩味で美味しさを増す日本の典型です。
ただ、1日の塩分摂取量を6 g程度にしたい場合、この日本式の食べ方では、たったひとつ醤油があるせいで1日摂取量の1/3を上回ってしまいます。餃子の皮にも塩分が含まれるし、なにより日本式に食べる場合は、ひょっとしたらお味噌汁(塩分1.8 g)、サラダにドレッシングといったものも食卓に乗るとなると、1食で1日分以上の塩分を摂ることになりかねません。これでは減塩の意味がありません。
◆中国式の餃子のつけダレ(1人あたり)
『小皿に黒酢大さじ1と辣油小2、別途にんにく1かけ』
塩分量は、『0+0+0+0』、ゼロです。
圧倒的勝利。なんたって、つけダレに塩分ゼロですから。これ、不思議と、黒酢だけでは美味しくないんです。油分の美味しさがあるからこそ、酢の酸味をまろやかに変え、辣油の辛味が肉の味を旨くし、にんにくを生でかじったときの鮮烈な旨味が合わさって、餃子が塩分ゼロでぱくぱく食べられるのです。これは見事な減塩です!!
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日本人がつい醤油に頼ってしまいがちな餃子でも、隣国の完璧かつ美味しく食べ方を見習って、それが、日本でも実践できました。
上で書いた「醤油が合う料理から如何に醤油を切り離させるか」が日本人の食卓に導入可能な一例だと思います。
地球は広いから。
中国はユーラシア大陸にありながらも東アジアとして日本との食文化の共通点が多々ありますから。
だから、極東の島国という異質な食文化を背負ってしまった日本が、もう少し地球の平均へ向けて食の変遷を歩むのならば、中国での食のアイディアをもっと導入するのは、減塩の道への第一歩としても大変良いことだと思います。
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なお、欧米の大規模臨床試験の結果から見ると、事実として、少なくとも1日の食塩摂取量を6g前半まで落とさなければ有意の降圧は達成できません。これが、世界の主要な高血圧治療ガイドラインの減塩目標レベルが全て6 g/日未満を下回っている根拠となっています。
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私の水餃子レシピ(≫こちら)での餃子とタレをあわせた総合塩分量は、1食で、お腹いっぱい(18個)食べても、1人1.9 g程度となります(※)。
※餃子の皮の塩分がゆでることによって8割喪失すると仮定している。また日本式に餃子をフライパンで焼いた場合は皮の塩分が抜けないので、日本式の餃子の食べ方は、その点でも摂取塩分が多くなる。
1食でお腹いっぱい食べても塩分摂取量2 gを下回るのならば、今回の立役者としての辣油は立派ですよ。ちなみにヒトは塩がゼロでは生きていけないので、ゼロにすることは考えず、1日6 g未満を達成するために2 g未満となることをを考慮しています。
是非中国の多くの民に愛される水餃子をお作りになり、黒酢と、宜しければ生にんにくを添えて、「油を活用して、塩分を減らす」という食べ方をお試しください♪
それは高血圧の進行予防に気を遣う人に朗報の、
「美味しくて大満足の減塩レシピ」
であると、私は確信しています。