「コスタリカ料理」という私の雑メモに、「白人の国、白人比率が高い」と書いてありました。雑多なメモなので、いつ聞いたのかどこで見たのかは覚えていません。でもコスタリカってそれほど白人度がないような記憶が・・・。
ということで今日の勉強の目的は、「コスタリカが白人国家」と言われるゆえんの検証と調査です。
<結論を先に書くと>
コスタリカは白人国家とは言い難い。理由は国勢調査上「白人とメスティソ(混血)」をひっくるめて集計しており、近隣国に見られる「明らかな白人」という民族区分が存在しない。「白人又はメスティソ(混血)」に該当すると回答した人がざっと80%であったが、その内訳は不明である。また別結果から得られる自己申告による白人比率は40%であるが、メスティソ(混血)も白人と申告する傾向があり、実際の数値は実際はもっと少ない可能性がある。よってコスタリカの主たる国民が「明らかな白人」であるとは言い難い。
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◆日本語Wikipedia「コスタリカ」(≫こちら)
「コスタリカ国民は、他の中米諸国とは異なり白人の割合が多いとされ、人種構成は白人94%、黒人3%、インディヘナ1%、中国系(華人1%、その他1%)だとされている。」
と書いてあるが、来たよ、日本語Wikipediaの脆弱な点。ここに出典が書かれていない。しかも「他の中米諸国とは異なり白人の割合が多いとされ」と書いてあるが、誰によってそうされているのかも書いていない。うーん、良くない良くない。
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もうちょっと調べてみよう。一気にCIAへ。
◆The World Factbook、CIA(≫こちら)
CIAは米国の中央情報局です。有名なThe World Factbookです。ここに世界中の国勢調査などの結果をまとめたEthnic groups(民族構成)の国別一覧があったので、中米8か国の数値を取り出しました。
- メキシコ:mestizo (Amerindian-Spanish) 62%, predominantly Amerindian 21%, Amerindian 7%, other 10% (mostly European)
- ベリーズ:mestizo 52.9%, Creole 25.9%, Maya 11.3%, Garifuna 6.1%, East Indian 3.9%, Mennonite 3.6%, white 1.2%, Asian 1%, other 1.2%, unknown 0.3%
- グアテマラ:mestizo (mixed Amerindian-Spanish – in local Spanish called Ladino) and European 60.1%, Maya 39.3% (K’iche 11.3%, Q’eqchi 7.6%, Kaqchikel 7.4%, Mam 5.5%, other 7.5%), non-Maya, non-mestizo 0.15% (Xinca (indigenous, non-Maya), Garifuna (mixed West and Central African, Island Carib, and Arawak)), other 0.5% (2001 est.)
- エルサルバドル:mestizo 86.3%, white 12.7%, Amerindian 0.2% (includes Lenca, Kakawira, Nahua-Pipil), black 0.1%, other 0.6% (2007 est.)
- ホンデュラス:mestizo (mixed Amerindian and European) 90%, Amerindian 7%, black 2%, white 1%
- ニカラグア:mestizo (mixed Amerindian and white) 69%, white 17%, black 9%, Amerindian 5%
- コスタリカ:white or mestizo 83.6%, mulato 6.7%, indigenous 2.4%, black of African descent 1.1%, other 1.1%, none 2.9%, unspecified 2.2% (2011 est.)
- パナマ:mestizo (mixed Amerindian and white) 65%, Native American 12.3% (Ngabe 7.6%, Kuna 2.4%, Embera 0.9%, Bugle 0.8%, other 0.4%, unspecified 0.2%), black or African descent 9.2%, mulatto 6.8%, white 6.7% (2010 est.)
これをざっと和訳しました。
- メキシコ:メスティソ(アメリインディアン-スペイン)62%、かなりアメリインディアン21%、アメリインディアン7%、その他10%(主にヨーロッパ人)。
- ベリーズ:メスティソ52.9%、クレオール25.9%、マヤ11.3%、ガリフナ6.1%、南アジア系ディアスポラ3.9%、メノナイト3.6%、白人1.2%、アジア人1%、その他1.2%、不明0.3%。
- グアテマラ:メスティソ及びヨーロッパ人(アメリインディアン-スペイン)60.1%、マヤ39.3%、マヤでもメスティソでもない0.15%、その他0.5%。
- エルサルバドル:メスティソ86.3%、白人12.7%、アメリインディアン0.2%、黒人0.1%、その他0.6%。
- ホンデュラス:メスティソ(アメリインディアン-ヨーロッパ人)90%、アメリインディアン7%、黒人2%、白人1%。
- ニカラグア:メスティソ(アメリインディアン-白人)69%、白人17%、黒人9%、アメリインディアン5%。
- コスタリカ:白人またはメスティソ83.6%、ムラート6.7%、先住民2.4%、黒人アフリカ系1.1%、その他1.1%、なし2.9%、不特定2.2%。
- パナマ:メスティソ(アメリインディアン-白人)65%、先住12.3%、黒人アフリカ系9.2%、ムラート6.8%、白人6.7%。
これを見て思ったこと。
メキシコが「メスティソ62%」とか、グアテマラが「メスティソ及びヨーロッパ人60.1%」とか、コスタリカが「白人またはメスティソ83.6%」とか、統計母体が異なると人種区分方法が異なることが汲み取れる。当然ですね。
そこで、「コスタリカが白人国家と言われるゆえんを調査する」という目的のために、上記統計をざっとまとめることにしました。国別に、1)白人まざり、2)白人が混ざらない、3)明らかに白人、の3つを算出しました。あまりガタガタした見映えにならないように、国名を2文字表記とし、数値は小数点以下第一位までの表記に統一しました。
<統計まとめ>
- 白人混ざり:白人、ヨーロッパ人、メスティソ、クレオール、ムラート、メノナイトの合計
- 白人混ざらず:アメリインディアン、マヤ、インディヘナ、固有土着部族名があるものの合計
- 明らかに白人:「white」のみの数値。
国名:白人混ざり%|白人混ざらず%|明らかに白人
メヒ:72.0%|28.0%|-
ベリ:83.6%|22.3%| 1.2%
ガテ:60.1%|39.5%|-
エル:99.0%| 0.3%|12.7%
ホン:91.0%| 9.0%| 1.0%
ニカ:86.0%|14.0%|17.0%
コス:90.3%| 3.5%|-
パナ:78.5%|21.5%| 6.7%
<考察>
- 中米8か国はどこも人口比率において白人系統が優位である。
- 白人が混ざらない比率が高い国は、私の旅の経験と一致する。メキシコ、ベリーズ、グアテマラ、パナマなど、先住民文化が残る地域があり、その文化を高度に保存している国である。
- 白人が混ざる比率99%という圧倒的高値を出したのはエルサルバドルである(うそでしょ?)。
- コスタリカは上記1.と2.の中間に入っていて、突出した統計結果を示していない。
- そもそも、メキシコ、グアテマラ及びコスタリカは国勢調査において白人区分を設けていない。
- 白人区分を設けている中ではニカラグアの白人17%が圧勝であり、エルサルバドルがそれに続く。
- これを見る限り、中米随一の白人国家はエルサルバドルに軍配が上がるんじゃない?
これらのことより、冒頭の日本語Wikipedia中の「コスタリカ国民は、他の中米諸国とは異なり白人の割合が多いとされる。」という文章は不適切である可能性が高くなりました。
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◆INEC(≫こちら)
INSTITUTO NACIONAL DE ESTADÍSTICA Y CENSOS、これはコスタリカ国立統計研究所のサイトです。
トップページから「social」(社会)をクリックして、「grupos étnicos – raciales」(民族、人種)をクリックします。様々な統計の中から、とりあえず良さそうな「Censo. 2011. Población total por autoidentificación étnica-racial, según provincia, sexo y grupos de edad」(2011年国勢調査結果:自己識別による人種別、州別、性別、年齢層別の人口総数)を選びました。国勢調査Excelファイルをダウンロードできました。
この民族区分に「Blanco(a) o mestizo(a)」(白人または混血)の欄があります。これにより白人だけをカウントするような調査はしていないことが確実です。統計がこの状況なのに、冒頭の日本語Wikipedia中の「コスタリカ国民は、他の中米諸国とは異なり白人の割合が多いとされ、人種構成は白人94%。」という文章はもはや嘘であると思いました。
なぜならば、このエクセルファイルからも分かるように、上述の通り「白人またはメスティソ83.6%」(エクセルファイルで確認するならば4301712人中3597847人=83.6%)しか読み取れる結果がないからです。そしてその内訳が不明である。内訳は安易に白人とメスティソを分割計数するだけではうまくいかなくて、スペイン語版Wikipedia「Castizo」(≫こちら)に書いてある「カスティソ」という、白人とメスティソの混血も考慮する必要が生じるから、この「白人系統」を細かに分類することには無理があるのだと思うのです。
さらに国勢調査以外に全国民を俯瞰できる大規模調査を実施しているとは思い難いという理由もあります。
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◆Why is Costa Rica the only country in Central America with a sizeable white population?|Quora(≫こちら)
中米人口の白人比率に関してはこちらのフォーラムでも語られています。
タイトル:「コスタリカはなぜ中米で白人比率が一番高いのですか?」
いい回答がありました。
回答1:「That’s not true at all, every Central American country has a sizeable white population. The difference comes with the parameters that the country use to define who is a “white”. In Costa Rica for census effects, there’s no difference between a “white” and a “mestizo”, that’s why the 2011 census gave a result of a 84% white population in Costa Rica. I’m myself quite dark skinned but I was considered “white” for census effects.」(んなわけねーだろ。中米はどこも白人比率がかなり高いぞ。「白人」の定義が国によって違うんだ。コスタリカでは白人とメスティソを同じとみなして国勢調査を行ったから「白人84%」みたいな結果が出たんだ。ちなみに僕は肌が黒いけど国勢調査のせいで白人になってるよ。)
回答2:「If you’re considering C Rica with a “big White population”, think twice. El Salvador has a 98% white population. Constitutionally other skin colors were not accepted until recently!」(コスタリカが白人が多い国だと言うならよく考えろ!!エルサルバドルは白人98%だぞ!?それはな、近年まで憲法上白以外の肌の色は受け入れられなかったということがあるからだ。)
・・・どちらの回答も、コスタリカを安易に白人国家とみなすことを否定するものでした。同時に、「白人」とみなすための基準の各国の違いや、肌の色で人を区別する政治的背景を訴えるものでした。
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◆スペイン語版Wikipedia「Composición étnica de Costa Rica」(≫こちら)
タイトルの日本語訳は「コスタリカの民族構成」です。
ここにおいて、まず上記の国勢調査エクセルの結果を述べています。「Según los datos arrojados por el Censo de 2011, de los 4301712 habitantes, 3597000 se consideran blancos o mestizos.」(2011年国勢調査結果では、4301712人のうち3597000人が白人またはメスティソである。」と述べています。これは上の「白人系統84%」のことです。
そして、さらにその年と4年前の年の別調査の結果を記述しています。
「En la encuesta de Latinobarómetro de 2007, el 49% de los costarricenses declaró que era blanco, en tanto que el 21%, mestizo. Para el informe de Latinobarómetro de 2011, se profundizó aún más el tema étnico, esta vez los costarricenses encuestados fueron 40% blancos, 31% mestizos, 17% mulatos, 4% amerindios, 3% negros, 1% asiáticos y 1% otra raza.」
Latinobarómetro(直訳:ラテンアメリカのバロメーター)の調査では、
2007年:コスタリカ人の49%が白人と回答し、21%がメスティソと回答した。
2011年:コスタリカの民族問題がさらに深刻化した。白人と回答する者が40%、メスティソと回答する者が31%と変化した。
・・・すごいですね。たった4年で、「自分は白人と言っているメスティソ」が減り、自らをメスティソと言うようになったのですね。それは上のように、「僕の肌は黒いけれど国勢調査上は白人」のような問題点を浮上させます。
日本語ウィキペディア「メスティーソ」(≫こちら)に書いてある「(国勢調査の)パーセンテージは印象による推定で、数字そのものを信用すべきではない。自己申告にもとづく調査は、人種調査ではなく帰属意識調査と言うべきものである。」というくだりと、「厳密にはメスティソであっても、白人の血が濃い者は白人と自己規定することが多い」というくだりが、とても納得のいくものでした。
自分がメスティソであっても白人と言う。
それならば、統計数値を見るときに心得なければならないことは、民族調査で得られる数値以上にメスティソが多いということなのだ。
「コスタリカにおいて「白人系統」を細かに分類することには無理がある」と上で書きました。でも、結論としては、それでいいんです。コスタリカの国勢調査も「白人またはメスティソ」まで。それ以上細かいことは聞いていない。だから「じゃあカスティソはどっち?」っていう議論にも至らない。なによりも、コスタリカでは白人文化とメスティソ文化が区別されていないということである。今日の結論の要諦はまさにここにあります。
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私は、日頃から「コスタリカ料理の真髄というか根幹というか軸は何だろう」と考えてきました。日本料理の寿司やおむすびのような、スイス料理のフォンデュのような。なんというか、イコニック(象徴的)な料理を、自己結論として持っていたいのですね。そのために考えたいんです。
白人料理を強調するならオジャがいいかな。スペインのコシードとドンピシャ一緒の料理だし。
メスティソのような混合を前面に出すなら、ガジョピントがいいかな。スペイン由来の米と中米カリブの豆の融合だし。
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コスタリカを旅したときの写真を見直しました。
例えばこれ。オーパーツ(球形の石)が映ってる教会の広場前。
白人は、オーパーツのむこうにいるおねーさんくらいでしょうか。
街中の写真。
白人は、敢えて言えば左のおねーさんくらいでしょうか。
パレード観光客の写真。
白人は、敢えていえば後方の背高おにーさん2人でしょうか。これだけたくさんの人がいるのに白人度をほとんど感じません。
コスタリカ国民のマジョリティーは、どの都市の記憶や写真をたどっても、メスティソのように思えます。そしてだからこそ、コスタリカを白人国家のように扱うのは無理があるように思います。
でもね、統計や論文って、調査手法を見ずに結果だけをぱっと見ちゃうと、だめなんです。例えば下の図表は、社会実情データ図録(≫こちら)のものです。ぱっと見、コスタリカ白人国家じゃないですか。しかもメスティソが一人もいないw 真実を伝えられていない。
併記されている「メスチソなどが自らを白人と見なすようになったためであると考えられている。」という解説文章も、私が思うにそれは主要因ではなく、「国の人口統計調査でメスチソと白人を合算集計しているためである」とし、グラフの見出しも白人としない(白人あるいはメスチソ)とするほうが、上のエクセルファイルから得られる生データとも一致するんじゃないかな。
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さあ、これは私の自己結論なのですけれど、コスタリカを代表する料理は「ガジョピント」という軸を持とうと思います。スペイン由来の米と中米カリブの豆の融合です。これは、コスタリカの歴史をまさに象徴する料理と言え、混血者がマジョリティーをなすであろうコスタリカの民族特性にも合致した料理ではないかと、私は感じました。
中米カリブはこういう豆ごはんにあふれていますよ。
今回の推論も、調査は不十分だと思いますし、ほかに統計データもあると思うので、正確を期していないかもしれません。しかしながら自分の中でコスタリカをより理解するための取り組みや学びとしては有意義なものであったと思っています。いつもこうして一つの疑問から知識に幅が広がる勉強ができるように、努めて心がけていこうと思います。