エジプトに行くと、私はあちこちでコシャリを食べることにしています。地域差や店の差があって、面白い。美味しいし、エジプト人のマンウォッチングがこれまた楽しいんです。
コシャリは、米、パスタ、豆などを盛り合わせて、トマトソースやサクサクフライドオニオンをかけたもの。ここに各自が好みで唐辛子ソースやにんにくレモン水や塩をかけて食べるのだから、なお美味しい。肉類を使わないため、エジプトの各種宗教上もおそらく格差なしに食べることができ、かなり万人のための料理であると思います。
コシャリはテイクアウト料理の定番でもあり、注文すれば目の前でよそってくれますから、いつも私はそこですかさず「玉ねぎ増やして~♪」とお願いしてきました。アラビア語で玉ねぎはバサル(※)です。覚えやすく発音しやすい便利な単語なので、片手で盛り付けるジェスチャーをしながら「バサル、バサル」と言えば、お店の人も「フライドオニオンを増やしてほしいのだな」と分かってくれます。
※アラビア語は地域差(方言)が大きく、モロッコのアラビア語をイエメンで話しても通じないことばかり、といった現象が生じます。よって、エジプトから離れたアラブ地域では玉ねぎを別の単語で呼ぶこともあるかもしれませんが、方言までは検証していません。
あの、コシャリの上にかけるサクサクフライドオニオンは実に美味しい。そこで今回、「玉ねぎ」という一般名からさらにステップアップして、「サクサクフライドオニオン」を明確に言えるようになりたいから、名称を検証しました。
◆Egyptian “Koshari” طريقة الكشري المصري بالصور(≫こちら)
アラビア語と英語の両方でコシャリ作成を解説しているサイトです。
英語文中から「crispy onions」を探し、アラビア語の該当箇所を見たら「بصل مقرمش」がありました。最初(右側)の単語がバサル(玉ねぎ)ですね。
بصل l s b (右から読むので)バ サ ル
مقرمش sh m r q m マカルムシュ?
日常用いるアラビア語は母音を書かないんです。子音ばかりでは、音が想像つきません 💦
ただし、「ق」(q)の音は、エジプト方言だと抜ける(qaがアの音になる)ことをたくさん経験してきているので、この「مقرمش」も注意が必要です。「マルムシュ」のようになるかもしれません。日本語Wikipedia「アラビア語エジプト方言」(≫こちら)では、「 q が多くの場合、声門閉鎖音(ハムザ)に変化している。」と書かれています。
◆Youtube「سر عمل البصل المحمر المقرمش – Crispy Fried Onions」(≫こちら)
さきほどのアラビア語の単語を使い、Youtubeで動画検索。
「Crispy Fried Onions」(サクサクフライドオニオン)というピッタリの動画がありました。タイトルにはアラビア語で「البصل」(玉ねぎ)も入っています。
動画スタート時の画面内タイトルに、「البصل المحمر المقرمش」(サクサクフライの紫玉ねぎ)と書いてあります。英語の「Crispy Fried Onions」のことですね。
المقرمش sh m r q m l a (アル)マカルムシュ?マルムシュ?
المحمر r m h m l a (アル)ムハマラ?
البصل l s b l a (アル)バサル・・・玉ねぎ。
「アル」は定冠詞(英語のtheに相当)なので、単語の意味に影響しません。
発音がありました!!
0:07 「バサル ムハマラ マルミシュ」
「玉ねぎ 赤 クリスピーフライ」 です。
ここで「q」はクと読まれていません。「مقرمش」sh m r q m はマルミシュと読まれています。「مق」(qm)を「マ」と読んでいるのです。「ق は声門閉鎖音(ハムザ)に変化する」という上の記述と矛盾しません。
【結論その1】
フライドオニオンは、「バサルマルミシュ」。
* * *
手持ちのエジプト会話集の料理のページを見ると、コシャリと調味料の呼称が載っています。フライドオニオンは「タアレイヤッ」と書いてありました。綴りを使って検証したいと思い、まずは t や l をアラビア語文字にしてつなげて、自己流でターレイヤをアラビア語にしてからネット検索しました。
そうすると、インスタグラムのようなハッシュタグつき画像検索結果に、「#koshary #ta2leya (中略)#كشري (中略) #تقلية (後略)」と出てきました。
・・・「ta2leya」!? 何この数字交じりの単語は!?
直ちに、アラビア語の英語アルファベット表記に数字が入り込むことについて検索をしたところ、「Franco-arabic」が出てきました。パソコンや携帯電話での文字通信機能が必須になった今、アラブ人はラテン文字を使ってアラビア語を翻字させる必要があった。しかし英語アルファベットでは表せない音がある。そこで数字に発音を持たせて混在させることになったのです。
その「フランコアラブ」の一例が数字の2で、息をいったん止めて吐き出す声門停止音。
「ta2leya」は、「タッアレイヤ」のように、息を途中で止めるように「ア」を吐き出すことを意味します。そしてそれがアラビア語ハッシュタグの「تقلية」の右から2つめの「ق」(q)。まさに「ق は声門閉鎖音(ハムザ)に変化する」とこのページでも何度か書いている発音なのです。息をつっかえさせて吐き出すような音ですね。
タッアレイヤのアラビア語も分かったので、意味を調べることは簡単だ。「揚げる」という動詞が出てきました。よって「タッアレイヤ」自体には玉ねぎの意味は含まれないことが分かりましたが、コシャリ屋で揚げ物といえばフライドオニオンなのだから混乱はありません。
【結論その2】
フライドオニオンは、コシャリ屋でなら「タッアレイヤ」。タとアを区切って発音できるなら「タアレイヤ」でよい。従って「ターレイヤ」とは書かないほうがよい。
【結論その3】
フライドオニオンは、同様にコシャリ屋でなら「バサル」。単に玉ねぎという意味ですが、コシャリ屋で客が玉ねぎと言えばフライドオニオンを指すだろうから混乱はありません(そしてそれは私がやってきたフライドオニオン追加注文の方法である)。
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◆まとめ
エジプト国民食コシャリの店で「サクサクフライドオニオン」を増やしてほしいときに言うアラビア語名。
- バサルマルミシュ。(フライドオニオンの意味)
- タアレイヤ。(揚げ物の意味だがコシャリ屋ではフライドオニオンを指す)
- バサル。(玉ねぎの意味だがコシャリ屋ではフライドオニオンを指す)
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いつも、世界の料理についてレシピ化やサイト作成をするとき、現地の発音を確認したくなってしまいます。今回だってたったトッピング1つに、結局1日の半分を費やしてしまいました。
時間をかけて調べているので、時間ばかり経ってしまって、何をやってるんだろうと思うこともあるけれど、情報性と希少性の高いサイトを作り、知りたい人の役に立てるサイトを作りたいと思っているので苦にはならないのが幸いです。
でも、各国の言語を尊重して世界の料理について学んでいくことは、本当に有意義なんです。言語は文化の最たるものの1つだからです。
アラビア語はビギナーだし、覚えてもすぐ忘れちゃうほどにしか足を踏み入れていない。私はアラビア語はできない。
-でも、アラビア語を努力することはできる-
これからも、努力に時間を遣うことは惜しまず、そのかわりに暮らし全体をきちんと段取りを組んで、時間を無駄にしないで、頑張っていこうと思います。