写真はキューバでよくあるテイクアウト弁当。おかずの下にあるのはアロースモロという黒豆ご飯です。
日本に住むある日、是非このキューバの国民食を自分でも作ってみたいと思い、家にある キューバ料理の洋書を見ました。
1994年発行。キューバではスペイン語が話されますが、この本は英語で書かれています。でも「アロースモロ」(Arroz moro)を探したらそれはなく、この本には「モロスイクリスティアーノス」(Moros y Cristianos)という料理名で掲載されていました。
ここの料理説明も交えて解説すると、「Moro」(モロ)はムーア人のこと。「Cristianos」(クリスティアーノス)はクリスチャンすなわちキリスト教徒という意味でスペイン本土の白人を指します。ムーア人は711年から1492年までスペインの南部を征服していたイスラム勢力です。スペインの歴史において1492年は極めて重要で、本土ではイスラム勢力を駆逐(レコンキスタ)、コロンブスがアメリカを発見したのも1492年です。そしてレコンキスタ後は、それまで世界頂点に立っていたのはイスラム社会だったけれど、今度はスペインが世界頂点に君臨する時代が訪れます。
「モロスイクリスティアーノス」は、直訳して「ムーア人とキリスト教徒」の意味です。キューバに植民したスペイン人たちが黒い豆と白い米を使って考案した料理で、その名前にはレコンキスタに至るまでの間、肌が黒いムーア人と白いスペイン人とのせめぎ合いの歴史が込められているというのです。
◆英語Wikipedia「Moros y Cristianos (dish)」(≫こちら)
モロスイクリスティアーノスとアロースモロは、同じ料理で別名の関係であると分かりました。
◆Google 画像検索「Moros y Cristianos」
「モロスイクリスティアーノス」とはスペインの4月の祭りで、素敵な衣装のお祭りの写真がたくさん見られます。アラブに扮する人々とクリスチャンに扮する人々の行進から、アラブの駆逐を達成するストーリーを再現します。1492年のレコンキスタの完了は、今もスペイン人にとって誇りなのですね。
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「コモセジャマエスト?」(como se llama esto?、この名前はなんですか?)
スペイン語圏の旅で私の必須のフレーズ。
そして当時「アロースモロ」という名前を知った時、モロがムーア人を意味するだなんて思いもつきませんでした。世界のことは不慣れだったし、不勉強だったし、世界に出て次々と初めて訪れる国を旅していては、知ることだらけで、如何に日本にいて世界を知らなかったかよく分かった。
でも、自分の知識が少ないことには負けたくなくって、それはすなわち、自分の知識が少ないままではいたくなくて、「これまでの旅を無駄にしないために、自分の旅に関わる知識は今からでも取り込んでいこう。今からでも自分は茨の道を選ぶ、知識を増やしていく。」と、茨の道を喜んで進むようにもなりました。
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今なら、ムーア人について、いろいろと知識も増えてきました。
この料理は、「モロスイクリスティアーノス」
「モロス」and「クリスティアーノス」
「ムーア人」と「カトリック」。
それが、「黒い豆」と「白い米」。
歴史的にも、上のスペインのお祭りでも、イベリア半島においてイスラムの支配が終焉する時には、白人がムーア人を打ち負かしたというのは事実なんだろうけれど、
キューバにおけるこの料理は黒と白が一緒になって一つの美味しい料理を作っている。
どっちがどっちを打ち負かしたとかじゃなくて、協力している。
肌の色や宗教が違っても、協力しあって美味しい料理になっているというのが素敵だなと思いました。
それがキューバの代表すべき国民食。なんだか嬉しいですね。