さて今回は、「お家(うち)がイタリアンバール」(※)というテーマでレシピを構築しようと思います。しかし・・・、
※当サイトではイタリアのBarを「バール」、スペインのBarを「バル」と表記します。理由:スペイン語は本来長母音がないこと、イタリアでは長母音化していること。ただしスペイン語でも強く抑揚をつけて言うとアクセントがつく母音が長音化しやすく、イタリア語でも前後語彙や早口によって短母音になるため、「スペインだからバル、イタリアだからバール」と厳密に区別することはできません。
ネットで見ていて「日本のイタリアンバール」の料理の異様さに気が付きました。
◆Google 画像検索「イタリアンバール 料理」
・・・なに? この豪華な料理たち…?
私はイタリアもさんざん旅行したけれど、
バールってのはね、濃いコーヒーを1杯ひっかけるところ。あと、公衆トイレの機能をもつ場所。そしてちょっとお腹が減ったときに立ち寄る場所。あとは人と会話に行く場所。それから朝ほかのお店が開いていない時間にも朝食が食べられる場所。
◆Google 画像検索「Cibo da bar italiano」
次に上の「イタリアンバール 料理」の検索をイタリア語で行いました。
うん、これならいい。
例えば3つめにはパニーニ(サンドイッチ)、そのほかピザやテイクアウトおかずや軽食が写っていますね。
◆私が撮影した現地写真
イタリアでバールと言うとこういう場所が普通に多い。
赤いコートの女性はエスプレッソコーヒーを立ち飲みしています。
着席での写真ですが、こういうものを食べたり飲んだりもします。
ちなみに、立って飲食するのと着席では、同じものを注文してもお値段が結構違います。
* * *
その上でもう一度見てください。
◆Google 画像検索「イタリアンバール 料理」
・・・おかしいでしょ。バールっていうのは、こんなレストラン風やオステリア風の料理を出す場所ではないのです(店によっては出すところがあってもよいが)。
ここまでくると、「日本人が抱くイタリアンバールの認識はイタリア国内の実態と異なるのではないか」という疑問が一層強くなります。私は、外国の食文化は日本でも正しく広まってほしいという想いを持って活動しているので、「まずは隗より」と思い、まずは自分から調査と検証をしたいと思いました。
ちなみに、下の写真の左上にも写っているように、イタリアのバールはお酒を飲むこともできます。
ではイタリアのバールの食事とは、いったいどのようなものなのでしょうか。
* * *
今回、サントリーワインインターナショナル株式会社(≫こちら)のワインを2本受領しました。私が大好きなボローニャを州都とするエミリア=ロマーニャ州のオーガニックぶどうワインです。
エミリア=ロマーニャ州の旅は素晴らしかった。特にボローニャのポルティコ(柱廊)を歩いたことは、脳裏に焼き付いています。
今年世界遺産にも登録されたボローニャのポルティコ(柱廊)。こういうポルティコが街じゅうにあるからすごい。かつてボローニャは中世学問的水準が際立って高く、今もその偉大な遺物を見学することができます。ひいてはイタリアの偉大さを知ることもできる、素晴らしい街でした。大好き。
なお、今回のレシピ投稿テーマには、8つの条件が付されています。
『お家が』、『イタリアン』、『バール』、『簡単』、『本格』、『ワインと楽しむ』、『手軽な』、『おつまみ』
…素敵ですね♡
となると、このレシピの構築のためには、「イタリアのバールとは何か」について正しく知ることが必須ですね。そこで私は、Google mapを入口にして膨大な現地情報と現地写真を収集することにしました。
* * *
◆Google books「るるぶイタリア」
普通、「イタリアで軽くお酒を飲むところ」は、エノテカやオステリアです。あとは「生ハム屋で生ハムを切ってもらって一杯やろう」というのなら「プロシューテリア」とか、メルカート(市場)の中に立ち飲み屋もあれば、オステリアで2品頼んで2人でシェアして軽く飲むこともよくあります。上の誌面では、一般的な解説として、
・リストランテは高級レストラン
・トラットリアやオステリアはカジュアルな食堂
・エノテカはワイン屋で酒とつまみを提供する
・バールはコーヒーや軽食を出すところ
・カフェは着席型
と解説しています。もうほんとそれ!!という感想を抱きます。リストランテやトラットリアがあれば、バールはちょっとコーヒーをひっかける場所でいい。疲れたときに立ち寄るとか、バス待ちの時間潰しとか、おトイレに行きたくなったときに行く(そのかわり1ユーロくらいで何か飲んでく)公衆トイレの役割をもつところです。朝早くから開いているのもそういう文化。
* * *
さて、Google mapを使う現地料理リサーチは、現時点では以下の方法が最も現地に密着した調査ができると思いました。
イタリアの一地方に偏らないほうが好ましいので、イタリアの全部の州を網羅(特別自治州を除き)したいと思いました。まずGoogle mapでイタリア地図を表示し、州名を1つ入れて州境を確認し、その州内で「bar」を検索。マップにピンが出た店のうち、店名が「bar」であるものを詳細表示し、メニューが確認できる店を手あたり次第に探す。このとき、できるだけ純粋に「Bar」を見たいので「Wine bar」のように店名が明らかに酒の場合は除外。「Bar & Ristorante」みたく、バー以外の明確な飲食店形態名がある場合も除外。
こうしてイタリアの全土全州において、半日かけて多分1万店舗は研究しました。ただメニュー写真まで見られるお店は少なく苦労しました。
◆1)ピエモンテ州|Summer Bar tavola calda
店名の「タボラカルダ」は直訳して「熱いテーブル」です。ホットミールを食べることができます。お皿が、スペインのバルのような小皿と違って、普通の1皿料理が出されていますね。メニューにはパスタ、ラザニア、チキン、カプレーゼ、リゾット、サルシッチヤ(ソーセージ類)など。写真にはピッツァのほか、私がイタリアで何度も遭遇したナスの薄切りのグリルもあります。
◆2)ベネト州|Bar Aperol
ワインやビールと同じメニュー表に、トラメッチーニやパニーニ(どちらもサンドイッチ類)やピッツァなど、炭水化物の食事があります。
◆3)リグーリア州|BAR MATTY
プリモ(第一の皿、前菜やスパゲティー類)と飲み物をセットで販売。プリモには、ラビオリ、ニョッキ、ペンネ、リゾットなど、炭水化物の食事があります。写真右ではセコンド(第二の皿、肉や魚)も選べて、肉の炙り焼きやムール貝のおかずが選べます。
◆4)ロンバルディア州|Bar La Fontana
酒類のメニューに料理もあります。読み取れませんがアペリティービ(前菜)の欄に幾つか料理があり、パニーニ(サンドイッチ類)、インサラトーネ(サラダ)、そして一番下にはタリエーリ(冷菜盛り合わせ)。タリエーリはチーズとサラミ。
◆5)エミリア=ロマーニャ州|Bar Lime
飲み物と料理のセットがありました。お酒に、サラダクロワッサン、グリッシーニ、クロスティーニなど炭水化物の食事類。
◆6)トスカーナ州|Bar della Scuola
このバールはお酒も置いてあって、食事メニューにはリゾット、ニョッキ、ラザニア、それから多数のパスタ類。炭水化物の食事類です。
◆7)ウンブリア州|Bar del Sole
このバールはお酒が置いてあって、食事には、ピアディーナ(フラワートルティーヤのようなもの)、パニーノ(サンドイッチ類)など炭水化物の食事類。
◆8)マルケ州|New Bar Europa
このバールの食事メニューは、ピッツァ、パニーノ、ピアディーナなど炭水化物の土台をチョイスし(非炭水化物としてはサラダがある)、そこに、チーズ、肉類、野菜類などの好みの具を選ぶ形式でした。
◆9)ラツィオ州|Bar Frattina
このバールの食事メニューには、プリモのページとセコンドのページがあり充実していました。プリモにはペペロンチーノやアラビアータなどスパゲティ各種やラザニア。炭水化物の食事類です。
◆10)アブルッツォ州|The Wizard Bar
サラミとチーズの盛り合わせもあります。あとはブルスケッタやグリッシーニやサンドイッチなどの炭水化物の食事類。
◆11)モリーゼ州|Feni’s Bar
このバールのメニューはピッツァなどの炭水化物の食事類が充実しています。
◆12)カンパニア州|Seventy bar
サラミやチーズを盛り合わせるタリエーリのほか、サンドイッチ類があります。
◆13)プッリャ州|Bar Veneto
バゲットやクロスティーニなどの炭水化物の食事類が充実しています。
◆14)バジリカータ州|Seventeen Bar
スパゲティやラザニアなどの炭水化物の食事類が充実しています。
◆15)カラブリア州|EL Costa Bar
じゃがいも料理やブルスケッタなどの炭水化物の食事類が充実しています。
* * *
そう。イタリアのバールとは、基本、
酒に合う料理が置いてあるのではなく、食事になるFoodが置いてある。
イタリアンバールでよく見かける料理としては、スパゲティ、パスタ、ブルスケッタ、パニーニ、トラメッチーニなどの、炭水化物の食事類が充実している印象を強く受けました。あとはタリエーリ(サラミやチーズの盛り合わせ)という、お店が手間暇をかけない簡単なもの。それから一品料理やサラダ類。
結局、イタリアのバールはスペインのバルとはそもそも文化が違うのです。
夜9時くらいまでレストランが開かないスペインの場合はバルが夜6時くらいから飲み始めたい人にピッタリの小皿おつまみ飲み屋として機能するのに対し、イタリアのバールはそもそもが早朝からやってる朝ごはん&コーヒーどころで、お腹がすいたらサンドイッチか何かでもかじるところ。同じBAR(バル/バール)でもスペインとイタリアは文化が違うことが、日本ではまだまだ周知されていないのです。
だとすると、今回のこの記事には、日本でのバル/バール認識の周知へ向けて価値があるのだとも思いました。
* * *
さあ!! ここまで自分なりにイタリアンバールについてつかんだよ。だからその上で今回のレシピ投稿テーマの8つの条件に合う、最適な料理を選んでいけますね!!
- 『お家が』…日本の標準的なスーパーで買える食材で
- 『イタリアン』…スペインの小皿料理でなく普通の一皿スタイル、イタリアの典型食材(オリーブオイルやトマト)
- 『バール』…炭水化物系の食事を作る
- 『簡単』…火を使わずに作ろう
- 『本格』…イタリア普遍的かつ伝統料理を現地レシピで
- 『ワインと楽しむ』…現地で実際にワインと楽しまれているもの
- 『手軽な』…すぐに作れる
- 『おつまみ』…フィンガーフード(指でつまむ)
そして私はそのすべてを満たす最適の料理としてブルスケッタを選びました。
知っていましたか? ブルスケッタは簡単に見えて芸術的な料理です。ブルスケッタは「焼かれたもの」のような意味をもつので、パンは熱くトマトマリネは冷たく、この温度差を壊さないように作って提供するのが要となる料理なのです。
レシピは簡単です。
材料(8個分):
- トマト(※1)
- 3~4個(※1)
- にんにく
- 1かけ
- 塩
- 小1/3
- フランスパン
- 1/2本(※2)
- バジルの葉
- 5枚
- オリーブオイル
- 大3(※3)
※1:トマトは完熟の生トマトを使用します。8個分で300~400 g使用します。
※2:市販バゲット1/2本でおよそ100~120 gを使用しています。ただ斜め切りにして1/2本を取る場合はバゲットは1/2本分以上の長さが必要になるので1本用意しておきます。
※3:バゲット1つに小さじ1杯ずつのオリーブオイルを塗ると、大さじ3杯弱のオリーブオイルを使うことになります。好みで増減してよいです。
作業工程:20 分
- <事前準備>トマトは前日に冷蔵庫に入れ、よく冷やしておく。
- <当日>トマトを1~2 cm角切りに、にんにくを2つ割りにしてボウルに入れ、塩を入れて全体を優しく混ぜ、冷蔵庫に入れて10分置いておく。
- この間にトースター予熱開始
- バゲットを45°斜め切りにしてスライスを8枚作り、トースターに入れて焼く(焼けたら取り出す)。
- バジルの葉を7 mm角くらいに刻む。
- トマトがジューシーになったらにんにくをボウルから取り出して切断面を熱いバゲットにこすりつけるようにしてバゲットににんにくの香りをつける。
- バゲットにオリーブオイルを塗る(小さじ1/2~1杯くらいをたらしてから拡げる)。
- トマトのボウルにバジルを入れてひと混ぜし、バゲットをボウルの上にかざして(トマトがこぼれ落ちてもボウルに入るようにして)あまり汁気をかけないように、固形部分をバゲットに乗せる。
- お皿にならべて上から好みでオリーブオイル(分量外)をまわしかけて出来上がり。
- Enjoy!
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出来たー♡ 美味しいー♡
伝統を守って、きちんと作ったブルスケッタです。トマトは完熟を使い、味付けは塩のみ。にんにくとオリーブオイルの風味を生かし切って作りました。カリっと温かいバゲットと、冷たくて美味なるトマトマリネが口の中で心地よく、トマトのフルーティーさに付随するにんにく風味をオーガニック白ワインで洗い流す瞬間の美味しさったら・・・♡
ああ、何よりも、その国の伝統に則ってきちんと料理を作ると美味しいなあ・・・。これが、どこのスーパーでも売っているような日常的な食材で作れるのだから、とても嬉しい・・・。
* * *
今回、イタリアのオーガニックワインを頂いたことを契機とし、そしてレシピ投稿テーマに「イタリアンバール料理を作る」ことを提示してもらえ、「イタリアンバールとは何か」からきっちりと検証することができ、私自身も非常に良い勉強になりました。ほんと、とても良い勉強になり、心から感謝しています。これからも、正しいものを正しく知る姿勢を崩さず頑張っていこうと思います。よい機会を本当にありがとうございました。