ニジェールのサヘルで出会った「ジュレ」を売る少女。アラビアゴムの検証。

2020/12/27

旅はニジェールに入国した。移動はすべてローカルバスである。そしてサヘル地帯を行く。

ニジェール

こんな光景に出会えるから、西アフリカの旅は美しい。

ニジェール

サヘルとは、サハラの淵(フチ)を意味する用語で、セネガル、マリ、ニジェール、チャドなど、東西に広く長く連なるサハラ砂漠の南縁地帯を指す。サヘルの旅は、人も文化も風景も美しくて、西アフリカや中央部アフリカの旅の醍醐味である。

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旅の風景は美しいが、実際は、数か国後に訪問予定のチャドが内戦を始めたことでビザ取りの順序が狂い、旅の行程が狂い、先々を計算して残金を所持していたのにその金勘定も狂い、ベナンから逃げ出すようにニジェール行きのバスに乗り込んでいたのだ。

こんなに早くニジェールに来るつもりもなかったから、戸惑いながらも、素晴らしいバスの光景は次々と移ろっていった。

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バスが停車する場所には、村人が乗客によく食べ物を売りに来る。

アフリカの旅だと、肉の串焼きだったり、バナナやパイナップルだったり、サトウキビだったり、ピーナッツだったり。

ニジェール

そんな中、ある少女が綺麗なクリスタルを持って近寄ってきた。

ニジェール

この子は何語を話しているんだろう? アフリカのローカルな言語は分からない。そのクリスタル状の物の名前を「ジュレ」と言っていた。今思えばフランス語の「gelée」(ジュレ)。ゲルやゼリーも同じ語源で、すなわち、半固型体のものに充てられる用語を言ってくれたんじゃないかな。この少女は、少しだけ、公用語でもあるフランス語を知っているようだったから。

あづさ「口に入れてもいいの?」(ジェスチャーで)
少女「OK」(伝わったようで、1粒差し出してくれた。)
他の乗客「薬だよ」

1粒食べてみた。

うっ…(*◇*)
「アラビックヤマト」、あの液状のりの味だった。

その体験はそこで終わり。「ジュレ」の名前と味の記録を書き留めて、そこで終わった。

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最近になり、このときの写真を再び見た。

ニジェール

あのときは分からなかった、この物の正体を突き止めたいと思った。樹脂状の天然物でこうしてローカルで売るような物の候補は3つあって、
1)乳香
2)没薬
3)アラビアゴム
である。

1)乳香は、多分違うだろうな。もっと黄色みがかり、もっと白っぽいからだ。2)没薬(ミルラ)については英語Wikipedia「Myrrh」(≫こちら)を見ると、生産地が紅海付近だ(ソマリア、エチオピア、イエメン、オマーン、エリトリア、サウジアラビア)。3)アラビアゴムについては英語Wikipedia「Gum arabic」(≫こちら)を見るとスーダンからセネガルにかけてのサヘル一帯と、生産地域が一致する。

よって、写真の「ジュレ」はアラビアゴムの可能性を増したと思う。幾つかアラビアゴムの主要生産地に関するサイトを見ると、ニジェールは世界的に知られるアラビアゴム生産国の1つであるようだ。ただ、ニジェールで没薬が摂れないという否定を決定づけたわけではないので、もうちょっと検証していこう。

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少女が言った「ジュレ」について、現地の主要言語であるハウサ語の辞書を見てもピンと該当する単語には出会えない。形状と公用語の点から、知っているフランス語で「ジュレ」(gelée)と言ったように思う。なおアラビアゴムはフランス語では「ゴムアラビック」(Gomme arabique)だが、生産地の呼称とは思えない(わざわざ自分んちの樹木にアラビックとはつけないだろう)。

なお、アラビアゴムは日本薬局方収載生薬である。水溶性が高いことから食品添加物、製剤添加物、その他さまざまな粘調体として使用される。

私が1粒口に入れたとき、唾液で表面から溶けてきた。そこから水溶性があることは確かで、水に溶けて粘調性の高い液体を生むなら、それこそそれが「ジュレ」と呼ばれて不思議ではない。いや、ものの順番を考えれば逆だ。樹皮に傷をつけて樹液を得る時にゲル状やゼリー状になるのだからフランス語が公用語の国でそれが「ジュレ」と呼ばれることは自然なことなのだ。

ハッ!

フランス語でゴムアラビック(Gomme arabique)、英語でガムアラビック(Gum arabic)、アラビアゴムは水に溶けやすい・・・

アラビック、アラビック・・・

アラビックヤマトのアラビックってアラビアゴムか!?

ヤマト株式会社|Facebook≫こちら

アラビックヤマト

「昭和30年代まで、アラビアゴムを含む液状のりを「アラビアのり」と呼んでいた。容器の工夫などを重ね、1975年『アラビックヤマト』が誕生した。」

そう。アラビックヤマトの味は、アラビアゴムの味が含まれる。間違いない。薬学部の授業中に授業で使うアラビアゴムをこっそり味見したこともある。そっか、ニジェールのジュレの味がアラビックヤマト味だったのは、ジュレがアラビアゴムである確たる証拠だ

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ということで、ニジェールのジュレがアラビアゴムであることがほぼ確定しました。乳香や没薬なら香りがかなりするでしょうしね。

最後にまとめて終わります。

【まとめ】
ニジェール南西部で村人が売っていた樹脂はジュレと呼ばれた。ニジェールの旧宗主国がフランス語であることから、ジュレはフランス語の「gelée」の可能性があり、ジュレ・ゼリー・ゲルなど半固形の態様を示すことが考えられることから、樹液を表現する用語として適切である。なおそのジュレは唾液で表面が溶解する水溶性をもち、アラビックヤマトのりの味がすると当時感じた。アラビアゴムは水溶性であり、アラビックヤマトのりはアラビアゴムを含む液状のりであり、またニジェールはアラビアゴムの世界的主要生産国の1つである。これらのことから、当時見たジュレはアラビアゴムであると強く推測された。なお似た形態をする乳香や没薬は香りが強い。ジュレを口に入れてもあまり香りを感じなかった点で、この2者は除外できるものと思われる。


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