重曹とクエン酸の家庭内比重実験

2025/10/02

重曹とクエン酸は便利なものです。重曹はpHをアルカリにしたり、クエン酸は酸性にしたり、溶液pHを変えることで中性pHではできない調理や食材変化を可能にします。ドラッグストアなどで食用クオリティのものが購入できます。体に有益な面もあり、私は常に家に常備しています。

でも、いつも、適当に使っていたかも。だから、

重曹大さじ1杯は何グラム?
クエン酸大さじ1杯は何モル?

といった数字が分からないまま、疑問には思ってきたけれどもきちんと計算しないまま今日に至ってしまいました。そこで今回、大さじや小さじで量る重曹とクエン酸の数字を自分で解決したいと思い、「家庭内比重実験」を行うことにしました。

* * *

今回実験のために新規に購入しました。
購入したのは以下の2製品です。
どちらも容器の表示は500 g入り。

重曹とクエン酸

重曹のほうは、503g入っていて、見かけ体積(空隙を含む体積、以下すべて体積は空隙を含むものとする)を量ると、

重曹

見かけ体積は430 mLでした。

重曹

つまり、まったく圧縮せずに、大さじ1杯分(15 mL)あたり17.55 gです。

比重が1とは、つまりは水と同じ重さということで、15 mL=15 gですから、重曹のみかけ比重は1より大きいことが分かりました。重曹は見かけふわふわしている感じがするから見かけ比重が1より小さいと思っていたから以外だな。

それではより計量の実態に即した形で計量してみましょう。

大さじ1杯を丁寧にすりきります。すりきるときに若干の圧縮がかかる、これが大さじや小さじで物を量るときの実態です。

重曹

家庭の計量スケールは1 g単位までのことが多いから、1 g単位のスケールで量りました。

重曹

重曹大さじ1杯だけでは16gと表示されましたが、これでは16.0なのか16.9なのか分かりません。よって、より精度を高めるために、大さじ1杯ずつ入れては重量変化を記録し、より精密に量っていきます。

大さじ5杯=83 g、大さじ1杯平均16.6 g
大さじ10杯=172 g、大さじ1杯平均17.2 g
大さじ15杯=259 g、大さじ1杯平均17.27 g
大さじ20杯=346 g、大さじ1杯平均17.3 g
大さじ25杯=428 g、大さじ1杯平均17.12 g
大さじ29杯=495 g、大さじ1杯平均17.07 g

ということで、すりきり計量を正しく行い(つまり適切に圧縮して量ると)、大さじ1杯は17.0~17.2 gくらいになることが分かりました。
最後が17.07なので四捨五入して
重曹大さじ1杯=17.1g

重曹の比重は1.14

です。比重はあくまで見かけ比重(体積に空隙を含む)です。

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次にクエン酸です。

きれいな結晶性の物質なのでみかけ比重が1より大きいかと思ったら意外や意外。500 mL計量カップでは計れないほどたくさんありました。

クエン酸

ということで、300 mLを計った上で、追加の240 mL。合計540 mL

製品の重さは503 gだったので、つまり、まったく圧縮せずに、大さじ1杯分(15 mL)あたり13.97 gです。見かけ比重が1を下回るのは意外でした。

重曹と同様に大さじ1杯ずつ重量を量ります。

クエン酸

重曹と違ってクエン酸は圧縮しても体積が変わりませんでした。

大さじ5杯=69 g、大さじ1杯平均13.8 g
大さじ10杯=138 g、大さじ1杯平均13.8 g
大さじ15杯=208 g、大さじ1杯平均13.87 g
大さじ20杯=277 g、大さじ1杯平均13.85 g
大さじ25杯=345 g、大さじ1杯平均13.8 g
大さじ30杯=416 g、大さじ1杯平均13.87 g
大さじ35杯=487 g、大さじ1杯平均13.91 g
大さじ36杯=501 g、大さじ1杯平均13.92 g

ということで、大さじ1杯は13.8~13.9 gになることが分かりました。
最後が13.92なので四捨五入して、
クエン酸大さじ1杯=13.9 g

クエン酸の比重は0.93

です。比重はあくまで見かけ比重(体積に空隙を含む)です。

* * *

次に分子量計算をします。クエン酸は無水物で分子量192、市販品は一水和物なので分子量210です。

クエン酸

クエン酸一水和物(Mw210)大さじ1杯は13.9 gなので13.9÷210×1000=66.19 mmolです。

クエン酸一水和物66.19 mmolに含まれるクエン酸は66.19 mmolです(モル数は個数ベースの概念なので、クエン酸一水和物が1つあるときクエン酸が1つあるからモル数は1:1なので同じになる)。

よって大さじ1杯のクエン酸を量るとクエン酸は66.19 mmol含まれます。

重曹は化学物質名が炭酸水素ナトリウムで化学式がNaHCO3です。分子量は84です。

炭酸水素ナトリウム(Mw84)大さじ1杯は17.1 gなので17.1÷84×1000=203.57 mmolです。

よって大さじ1杯の重曹を量ると炭酸水素ナトリウムは203.57 mmol含まれます。

* * *

しかし、クエン酸は3価の酸です。上の構造式にCOOH(カルボキシ基)が3つあるからです。

よって大さじ1杯あたりのクエン酸の酸としての強さはモル数の3倍ですから66.19×3=198.57当量
重曹は1価のアルカリなので大さじ1杯あたりの重曹のアルカリの強さは203.57当量

198.57≒203.57

つまり、他の干渉条件がなければ

同体積のクエン酸と重曹は、酸塩基反応を過不足なく進行して中和します。

もちろんこの理論を成立させるためにはクエン酸が第3解離まで反応するという仮定が必要ですが、クエン酸のpKa1=3.15、pKa2=4.77、pKa3=6.40。

以下は私が以前作った分析化学の教材テキストですが、

重曹

重曹

と、このように、炭酸水素ナトリウムのpHは濃度によらず炭酸のpKa1(6.3)とpKa2(10.3)の中間になるので8.3です。よって炭酸水素ナトリウム中ではクエン酸は第3解離まで進行します。

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結論。

同体積のクエン酸と炭酸水素ナトリウムは酸とアルカリの強さが同じ。同体積で当量点反応する。

これは大発見でした!!!

以上、今後の重曹やクエン酸ライフに役立つ化学計算でした!! 家庭で主婦がやれる科学的な試験としては上出来だったのではないでしょうか。頑張りました!!♪


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