スーダン料理「サラタアスワド」が意味するもの

2024/07/09

以前、酢を製造販売する企業の仕事で「世界の酸っぱい料理」に取り組んだことがあります。ちょうど季節が夏だったから酸味が体に嬉しい季節。酸味は体を元気にするし、私も世界中の酸っぱい料理情報を一手に集め、情報を整理することができ、有益でした。

私はこういう「何かのきっかけ」を使って、昔旅先で出会った友人に久しぶりに交流するのが好きです。これまで出会ってきて、今もSNSでやりとりが可能な人たち全員に、「あなたの国の、酸っぱくて、元気が出そうな、美味しい料理を教えて♪」と連絡をしました。イスラエル在住ユダヤ人のおばさんも、フランスのパリに住むお兄さんも、パキスタンのカラチに住む富豪おじさんも、北欧のお兄さんも南の島のお母さんもみんなめいめいに素敵な料理情報を教えてくれた。嬉しい。本当に世界中から美味しいお返事が返ってきました。

スーダン人のお兄さん、オスマン君からは、
「ハーイ!! スーダンにはサラタアスワドっていう料理があるよ。」(Hiiii!!!! It is called in Sudan “slatat Aswad” (سلطة اسود))。

という返信が来ました。オスマン兄さんの喜び方がまた私にとっても非常に嬉しくて、早速作って美味しくいただきました♪

サラタアスワド

美味しいーー♡♡

ナスを油で揚げてトマトペーストやピーナッツバターや香辛料を入れてふわっふわにした美味しいサラダです♪ レモン果汁が入って美味しいー♪♪

私の習慣なのですが、世界の料理を食べるときには必ずその料理名の語源を知る努力をします。スーダン料理「サラタアスワド」が意味するものを考察しました。

まあ、スーダン人はなすをアスワド(※)と言うので、単に「サラタアスワド」は「ナスのサラダ」でいい。

※フスハー(正則アラビア語)ではバジンジャン。アラビア語は教典に使われるフスハーのほかにも地域ごとのアラビア語が多数ある。

だけど、私には、思いついたことが4つあって、それは単に言語遊びだったり料理名の語学遊びだったりするのですが、せっかくなのでここに記念で書いておこうと思います。言語学者さんに怒られちゃう? でも素人かつ他人の日記を見て怒る専門家っていたら変ですし、いないですよね(*^ ^*) それに、素人にだって言葉を知ろうとしている過程はあったっていい。

* * *

とまあ、そのようなわけで、検証したい仮説を以下のように立てました。
要は、スーダンのナス料理「サラタアスワド」の言葉の広がりを考えたら、黒いサラダ、なすのサラダ、黒人のサラダ、スーダンのサラダという4方向に広がりそうだなと。

日本語wiktionary「أسود」(≫こちら
アスワドの綴りは「أسود」で、黒い(または色が濃い)という意味。

ここまでで、「أسود」と「اسود」が出てきた。どっちも辞書では黒の意味がある。

HiNative(≫こちら
HiNative(ハイネイティブ)は語学や文化について、ネイティブスピーカーに質問できるオンラインサービスです。
質問を抜粋すると、
「 ا と أ はどう違いますか?」

その答えの1つにあって役立ったのが、
「 أ 」はアルバニアの最初のア(The first A in Albania)。声門が閉じてから発するアの音をうまく説明している。
「 ا 」はアルバニアの最後のア(The second A in Albania)。普通のア。

なるほど分かりやすい。確認できたことは「أسود」と「اسود」の頭の音はどっちをとっても日本語カタカナ表記では「ア」だ。

英語Wikipedia「Sudan」(≫こちら
スーダンの名前の由来が黒とか黒人であるのは割と常識だと思うんだけど、その根拠が書いてあった。
「スーダンの国名の由来はアラビア語の「بلاد السودان」(ビラドアッスーダン、※)であり、それは「肌が黒い人々の土地」という意味である。」(The name derives from the Arabic bilād as-sūdān (بلاد السودان), or “The Land of the Blacks”.)

※「س」(s)が太陽文字なので定冠詞「ال」(アル)は「アッ」の音になる(アラビア語における発音の同化)。

この「黒人」部分を指す単語の「السودان」(アッスーダン)に、「黒」の意味の「اسود」(アスワド)がまるっと入っているんだよね。ということは・・・

アラビア語Wikipedia「السودان」(≫こちら

スーダンという国のWikipediaのアラビア語版です。スーダンの国名は「السودان」(アッスーダン)で上の黒人の意味のアラビア語の「السودان」(アッスーダン)と完全に一致した。もちろん、国名「スーダン」を表す「السودان」(アッスーダン)に、「黒」の意味の「اسود」(アスワド)がまるっと入っている。

アラビア語版クックパッド「سلطة الأسود (الباذنجان)」(≫こちら

サラタアスワド

材料名としてのなすがどう呼ばれているかを、サラタアスワドのアラビア語レシピを無数にネットで探した。時間がかかった。見た限りではみんな「باذنجان」(バジンジャン)とフスハー(正則アラビア語)で書いている。上のページでは「باذنجان (أسود)」つまり「バジンジャン(アスワド)」と書いていたが、これでは分からない。この人が「なす(アスワドと呼ばれるもの)」と書きたいのか「なす(表面が黒いもの)」と色を指定したいのかが分からない。

* * *

ということで、「サラタアスワド」が意味するものは何か?

可能性は4つ。
1)「アスワド」が黒なので「サラタアスワド」は黒サラダという意味である。でも皮をむいて白っぽく作るレシピもあるので多分違うだろうな。
2)冒頭のオスマン兄さんは「サラタアスワド」を「なすのサラダ」と言う。なすが黒いのでなすが「黒」(アスワド)と呼ばれているという可能性。
3)「アスワド」の黒は「黒人」を意味する「アッスーダン」と関連する。黒人サラダの可能性があるか?ないだろうな。
4)「アスワド」の黒は国名の「スーダン」を意味する「アッスーダン」と関連する。スーダンサラダの可能性があるか? でもそれなら「السودانية」(アッスダニーヤ)のように「スーダンの」が末尾につくもんな。違うだろうな。

* * *

ということで、今のところではここまでアラビア語を勉強したのでヨシとしましょう。上述の通りスーダン人はなすをアスワドと言うので、単に「サラタアスワド」は「ナスのサラダ」でいい。スーダン料理に関してはオスマン兄さんの感触を私も持論にしていきたいと思います。

日本で普通に暮らしていたらアラビア語やアラビア文字を勉強することが皆無に近い。でも私はこれまでアラブの国は全部旅しているし、アラビア語系統の文字はかろうじて読めるし、アラビア語会話も旅するレベルで頑張ってきたし、アラブの料理が大好き。1つの料理から好きな世界の勉強に入っていけるのが嬉しい

料理は語学の良いきっかけになっているのです。



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本記事、レシピ内容及び写真の著作権はすべて管理人:松本あづさ(プロフィールは≫こちら、連絡方法は≫こちら)にあります。読んでくれた方が実際に作って下されば嬉しいですし、料理の背景やTipsなど、世界の料理情報の共有を目的として、大事に作成しています。
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