先日、島根県津和野町にお住いの方がご自宅付近で獲れたイノシシのお肉を分けてくださいました。いただいたお肉は、肩まわりと前脚の3650 gです(重量は脚の骨を含む)。そのお肉を大事に使い切り、下さった方への御礼の気持ちと、お肉に感謝の気持ちを込めて、いただいたお肉で作った世界の料理のレシピを掲載しています。
今回は、
一生のうちにどうしても作りたかった、北コーカサス料理のリャグールです。
日本語で情報もない、日本人にも知られていないその料理。でもそのような土地にも、人がいて伝統を守って文化が受け継がれている。今回作りたかったのはそういう料理です。
北コーカサスの全共和国という秘境を旅して。そして北コーカサス料理の総括。
ロシアの基礎知識として、
このように85の行政区域に分かれています(※)。
※クリミアとセヴァストポリを含めてカウントした数字
85のうち「共和国」をなす区域は22あります。
なぜ国の中に国があるのかというと、それは、ロシア人ではない民族が築いてきた土地だからです。チェチェン共和国はコーカサス系のチェチェン人の国、といった具合です。ロシアのインナー共和国ではチェチェンが一番有名だと思うので、上の地図からチェチェンを探してみてください。チェチェンは左下にあります。そしてチェチェンのあたりはインナー共和国がたくさん連なっていますよね。民族的にも複雑であることが一目で分かります。それらの南(この地図では左下)の国境線はコーカサス山脈ですから、山脈の北に連なるという意味で「北コーカサス」(別名北カフカス)と呼ばれます。
今回作った「リャグール」という料理はこの地域の特産料理。私はカバルダ・バルカル共和国で食べています。
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第8回、ロシア料理「リャグール」
お肉使用量:400 g(全量3650 g中累計2950 g)。
今回の記事では、リャグールを作る工程を写真で紹介します。
お肉を2 cm厚さくらいにし、2 cm間隔で浅く切れ込みを入れ、重量の1.5%の塩をなるべく均一にまぶして、冷蔵庫で1晩か2晩置いておきます。
きれいな色~♪ ひもをつけます。
燻製にするので、段ボールのてっぺんに穴をあけてひもを吊るします。
現地では炭にイラクサの葉をくべます。うちだと多分夏にならないと出てこないんじゃないかな。だから今あるスイバで代用。スイバもロシアの雑草だ。
市販の燻製チップのほか、自宅や周辺で採れるスモークに適した小枝などは常時ストック。
長火鉢を使って、炭を熾火(おきび)にし、スモークチップと葉をくべていい香りの煙を出します。
段ボールをかぶせて、
煙が中に充満しているとこのように煙が漏れ出てきます。
煙が漏れ出てこなかったら中の火の状態をチェックし、スモークチップと葉を追加します。
2時間燻製~。ちびちび飲んじゃおう♡ イタリアのリモンチェッロ、恩人の手作り♡
2時間経ったらスモークおしまい♪ さあ翌朝…、
めちゃくちゃいいジャーキーが出来た!
この状態でも「リャグール」と呼ばれます。
素晴らしい出来栄え♡
くわあ♡ 断面が素晴らしい色合いです。
肉に適切な量の塩をふって肉の中の水分を引き出し、肉質を硬化(キュア)させたからこそのこの肉の美貌。煙によっていぶされた表面が素晴らしく美味しそうです。このまま乾燥させれば良い乾燥肉になるでしょうね。牛肉ならこの状態で生食できますね。
リャグールにはパスタがつきもの。トウモロコシ粉やキビを炊いて練り固めたものです。イタリアンのパスタとは関係ありません。強いて言うならイタリア料理のポレンタと同じ料理です。というわけで北コーカサスのパスタを作りましょう。
輸入食材店などでポレンタを買い、パッケージの記載よりも少ない湯を沸かし、ポレンタの粉(トウモロコシ粉)を、入れ、パッケージの記載よりも長い時間練ります。あとでブロック状に切り出したいので、いったん容器に入れて、フタをして置いておきます。
乾燥ジャーキー肉もリャグールと言うけれど、それを調理したものもリャグールと言います。では料理としてのリャグールを作りましょう。
フタができる鍋(サイズはおまかせ)に、単層にじゃがいもを敷き、リャグールをそのままあるいは食べやすく切って乗せ、じゃがいもが浸るくらいの水を入れ、強火にかけ、沸騰させ、火加減を中火に落としてフタをし、鍋本体とフタの間にスプーンの柄をはさんで少しだけ隙間をあけ、15分くらい加熱します。
水分が枯渇しないように気を付けて。この間に玉ねぎを薄切りにします。
じゃがいもに菜箸を刺し、じゃがいもに火が通っていることを確認できたら、玉ねぎ薄切りを乗せます。
再びフタをして加熱し、水分がなくなってじりじりとした音が出てきたら加熱終了。
リャグールが出来ました♪
美味しそうに固まったパスタをブロックに切ります。
リャグールのよくある盛り付け例です♪
これぞ秘境・北コーカサス料理!
この料理は別途さっぱり系ソースがあると良いので、現地のソースに似たものを簡単に作って添えていただきました。ヨーグルトに、クミンパウダー、パプリカパウダー、カイエンペパーパウダー、チューブのにんにく、塩などを加えて混ぜた美味しいヨーグルト系ソースです。
ただ、ポレンタ粉を買ってパスタを作ると余計に骨が折れるので、下の写真の状態でリャグールを作ったことにしてよいです。
美味しいー♡ イノシシ肉が大変身♡
お肉の肉質が変化していてさくさくほろっと食べやすいです。今回はイノシシ肉を使いまして、イノシシ肉が大変身できました。いったん煙でいぶして、まるでイノシシの干物ですよ。
今の時代は冷蔵庫があるから干物なんて不要? いえいえそんなことなくて、お魚を考えたら分かる。今の時代だって干物は美味しい。業者はわざわざ干物を作り、どのスーパーでも干物を売り、みんなで干物を食べている。干物には価値があるから。干物は美味しいから。だから、このイノシシ肉のリャグールだって価値がある美味しさなのです。
私が今も恋焦がれる北コーカサスの伝統料理を自宅で作ることができ、この機会をくださった津和野の恩人には心から感謝しています。もっともっと、地球の素晴らしい地域の料理を作っていきたいなと、夢が1つ叶うともっと夢が増えてしまいますね。
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「地域活性化のために地域の資源を活用しよう」というコンセプトが是であるなら、ジビエは最高の地域活性化ツールの1つと確信しています。このような新しい料理への活用が地域のジビエ振興のツールになれれば嬉しいですし、地元の皆さんと美味しい料理でわいわい盛り上がるのも立派な地域貢献。世界の料理はこういうポテンシャルに溢れているから、私もわくわくして活動に取り組んでいられます。
いただいたイノシシ肉もあとおよそ700 g。最後の最後は「世界で一番料理が美味しい国の料理」(←日本以外で)と決めているので、中国のめちゃウマ料理でこのシリーズを締めくくろうと思います。