カリブ海の中でも、ハイチ料理は独特です。
カリブ海の国は元英領の小国が多いので、「カリブ海の典型的な食文化」とは元英領の小国の料理が標準になるでしょう。でも元仏領の国々をみても、やはりハイチは独特です。カリビアンリゾートのイメージでフランスからの移住者が多いマルティニークやサンマルタンなどと異なり、フランス人すら気軽には寄せ付けないのがハイチ。かなり早くに独立した黒人国家であり、インフラが整わず、貧しい印象が持たれています。しかし、ハイチ料理は香り高く美味しいのです。
そこで出会った料理が、「ラロ」でした。そのとき、ラロはモロヘイヤのことだと教わりました。
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長年ずっと、「ラロ」は「モロヘイヤ」だと鵜呑みにしてきました。疑うことをしないだけでなく、ちゃんと調べることもしてきませんでした。
でも最近になってようやく「ラロは本当にモロヘイヤなのかな?」とふと疑問を抱くに至りました。これは学ぶチャンスです。そこで今回は、ハイチのラロはモロヘイヤなのか否か、日本のモロヘイヤと同じかどうかを検証します。
【結論】
ハイチのラロは日本のモロヘイヤと同じもの(Corchorus olitorius L.)だと思われる。私が数年前にホームセンターで買った種を数年継代しているものと植物の特徴が同じなので、現時点の調査範囲内ではハイチのラロは日本のモロヘイヤと同じである(あるいは近縁種)と推測される。
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◆Youtube「Haitian Food: How to cook Lalo ( jute leaves) Legumes Feuilles」(≫こちら)
私の知ってるモロヘイヤよりずっと色が薄い。なんだろう、これ。
◆HAITI IS A SLIDING LAND: DISPLACEMENT, COMMUNITY, AND HUMANITARIANISM IN POST-EARTHQUAKE PORT-AU-PRINCE(≫こちら)
500ページに及ぶハイチ料理を含むハイチの調査書です。ここに「lalo, dark-green jute leaves」(ラロという濃い緑色のモロヘイヤの葉)の記述がある。
いやしかし1つめの動画に映っているラロは明るい黄緑い色で、決してダークグリーンとは言えないぞ?
モロヘイヤの品種の違いがあるのかな? それともモロヘイヤ以外の植物なのかな? それともラロに広義と狭義があるのかな?
◆Youtube「How to Clean Lalo/ Jute Leaves Fast Prepping」(≫こちら)
モロヘイヤの葉。明るい黄緑色ですね。葉っぱの付け根に突起があるのが特徴です。私が自宅の菜園で栽培するモロヘイヤもこの突起がちゃんとあります。
◆Google画像検索「amaranth leaves」
明るい黄緑色で世界の料理にしばしば登場するのがアマランサスの葉で、葉っぱが明るい色をしているものが多いので、ひょっとしたらラロはアマランサスかも? と思って写真を見てみました。しかしアマランサスの葉にはモロヘイヤの突起はありませんでした。
◆Wikipedia「Corchorus」(≫こちら)
「Corchorus」にはCorchorus aestuans、Corchorus capsularis、(中略)、Corchorus olitorius、(後略)・・・など、多種類がある。
◆Google画像検索「corchorus lalo」
「ラロ」の名前をつけてcorchorusを探すと、ハイチの動画の色あいに似たモロヘイヤとして「Corchorus olitorius」(コルコラスオリトリウス)が上がってきた。
◆Google Books「Voodoo in Haiti」(≫こちら)
この書籍にもハイチのラロは「Corchorus olitorius」(コルコラスオリトリウス)としている。
◆Wikipedia「Corète potagère」(≫こちら)
「食用利用:Corchorus olitorius(コルコラスオリトリウス)の葉は、西アフリカ、マグレブ、中東などの多くの国で料理に使用されています。」
(Alimentation:Ses feuilles sont utilisées en cuisine dans de nombreux pays d’Afrique de l’Ouest, du Maghreb et du Moyen-Orient.)
ハイチ人の祖先は西アフリカから奴隷として運ばれてきた黒人が多い。アフリカの料理や食材も運ばれてきた。だから、ハイチのラロが西アフリカのモロヘイヤであることは、史実に矛盾しない。
なおこのページに書かれている「Corchorus olitorius」(コルコラスオリトリウス)は、日本によくあるモロヘイヤ(タイワンツナソ)と同じものか、あるいは大変似ているものである。
◆タイワンツナソ(台湾綱麻)|松江の花図鑑(≫こちら)
「ネットではシマツナソとタイワンツナソがモロヘイヤとして混同されているが、Ylistでは別種のものとしてシマツナソ(Corchorus aestuans)、タイワンツナソ(Corchorus olitorius)、ツナソ(Corchorus capsularis)とされている。3つは果実の形が違い、シマツナソは先端が4裂、タイワンツナソは先端が細まる、ツナソは球形」と記載されている。ネットが混同しているのか、そのもとになる書籍に混同がみられるのか、どうなのだろう。
しかし「タイワンツナソ(Corchorus olitorius)は先端が細まる」と書かれているのは1つ上のWikipedia「Corète potagère」すなわち西アフリカのモロヘイヤの絵と一致し、その絵は私が自宅の菜園で栽培しているモロヘイヤと一致する。そしてその学名がGoogle Books「Voodoo in Haiti」の記述と一致するのだ。
現時点での結論として、「ハイチのラロは日本のモロヘイヤと同じものである。」と言えるだろう。最初に気になった色の淡さであるが、日陰で育てる、密集して育てる、栄養不足で育てるなどすると、たいがいの植物は色が淡くなる。このどれかと同じことが起こったのだろう。
最後に。
◆Chapter 2, Corchorus(≫こちら)
ここでは、主要栽培品目はCorchorus olitoriusとCorchorus capsularis(タイワンツナソとツナソ)とした上で、アフリカにはこれを含めて46種類のモロヘイヤ(Corchorus)があるとしている。
非常に数多いモロヘイヤ各種を、遺伝子学的、顕微鏡的、マクロ形態的、電気泳動的など、さまざまな手法による鑑別方法を詳細に掲載している。これがあれば完璧に同定できると思われる。
しかしながら今回突き止めたいのは遠いハイチの植物なので、もう今更私が手にすることはないかもしれないが、いつかどこかで見知らぬモロヘイヤが我が家にやってきたら、私はこのPDFを使って出来る限りの同定を試みようと思った。
【結論】
ハイチのラロは日本のモロヘイヤと同じもの(Corchorus olitorius L.)だと思われる。私が数年前にホームセンターで買った種を数年継代しているものと植物の特徴が同じなので、現時点の調査範囲内ではハイチのラロは日本のモロヘイヤと同じである(あるいは近縁種)と推測される。
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ハイチってどんな国?
ハイチを旅した。
バスターミナルは、黒人さんが溢れかえっていて、売り子も路上ごはん屋も集合していて、いやはやアフリカンな世界です。彼らはアフリカ人の子孫ですから。
首都ポルトープランスには、独立英雄広場、ナショナルパレス、大聖堂といったきれいな場所や美しい建造物もあるものの、ひょっとして最大の見所といえば、そのきれいな残像を打ち消す汚いゴミの街、そしてそこで生きる人々の生業かもしれません。
個人商店(道に屋台のようにいろいろな売り子が連なっている)の多さが目立ちます。この光景が広大な範囲で続くのです。雇用状況が良くないから自分で商売をしていかないと生きていけない、ということなのでしょうか。
人々が歩くところには、ビニールなど“土に還らないゴミ”が踏まれてペシャンコになって何重もの層になっている。国の手入れがない町の悲惨さと、それでもそこで生きている人々の姿があるのです。
これがバスターミナルで食べた「ラロ」。モロヘイヤのどろどろ煮です。
・・・これは、ギニアのボラカイであり、シエラレオネのプラサスであり、マリのサカサカであり、ファカホイである。使用する植物云々以上に、「葉っぱをどろどろにして食べる」というアフリカの多くに根付く食文化が、ハイチでも受け継がれていたということが大事な点です。
さあ、バスが発車しましたよ。
首都から離れて、北上して、カパイシェンの町へ向かいましょう。バスの中もとってもアフリカン。でもここはカリブ海のハイチなのです。もし旅慣れていなかったら、この黒人だらけのバスに乗ることに、恐怖心を覚えていたでしょうか。
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さて、こんなにおっかなびっくりで散々なハイチの旅ですが、「ハイチ旅行、どう?」って聞かれたら、私は「いいね、好き」って答えるかもしれません。マゾとかそういう気質はないと思うのですが・・・だって、旅って、日本とかけ離れた場所に来るほど、旅に出た気持ちになれるものじゃない?
だから、私は、ハイチを旅して、心から満足している。