「Ceviche」は中南米の特に太平洋沿岸地域の代表的な料理です。昔からこの存在を知っている人・・・南米を愛する旅人も含め、多くの人がこれまでこの料理を「セビッチェ」と呼んできました。
美味しそー💖
というか実際に美味しいんです。刺身クオリティーの美味しい白身の魚に、柑橘の香りただようフレッシュレモン。レシピは、≫こちらです。
でも、あれ? 今インターネットのレシピ名などを見ると、セビーチェ表記が多い? 違和感があるなー。私自身の中南米の旅メモや耳の記憶をたどっても、セビーチェってなんか変な感じ。そこで今回「Ceviche」の適切な日本語カタカナ表記について検討しました。
【先に結論】
「Ceviche」の最も適切な日本語カタカナ表記は「セビッチェ」としようと思います。次いで「セビチェ」。理由は、日本語話者がビとチェを連続発音すると「ビッチェ」になりやすく、「セビチェ」より「セビッチェ」のほうが自然な発音に近いこと。「セビチェ」表記の場合セやチェにアクセントを間違えて置かれるおそれがあるが、セビッチェであれば「ビ」にアクセントをつけやすくなること。また本来スペイン語には長音母音がないので「セビーチェ」表記は避けたい。ただし、強調をこめて長音にする(素晴らしいをエクセレーンテ、学生をエストゥディアーンテと言うような)のも自然な範囲と思えるので、セビーチェ表記を否定はしない。
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1)ceviche の発音の仕方|FORVO(≫こちら)
まず、生の発音を聞いてみました。全員スペイン語圏の話者、全員の発音がセビチェです。全員アクセントがビについているのは最後から2つめにアクセントを置くというスペイン語の基本発音ルールの通りです。
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2)英語版Wikipedia「Ceviche」(≫こちら)
冒頭に「Ceviche (Spanish pronunciation: [seˈβitʃe] ) is a seafood dish popular in the coastal regions of Latin America and the Caribbean.」
つまり、「Cevicheの発音は「セビチェ」であり、中南米やカリブ海沿岸地域の海鮮料理である」と書いてあります。
IPA発音記号は「seˈβitʃe」です。カタカナにすると「セˈビチェ」。「ˈ」は、その後ろの音がアクセントになるという表記なので、アクセント部分を太文字にすると、「セビチェ」が発音記号を忠実に日本語カタカナ化したときの適正表記となります。
ただし、「βitʃe」すなわち「ビチェ」の部分は、日本語話者にとってはビとチェは口の形が連続しにくいという理由から、「ビッチェ」とするほうが自然かもしれません。もうひとつ重大なことなのですが、「セビチェ」と書いてしまうと「セビチェ」と、チェにアクセントを置く人が多くなるおそれがあります。そのおそれを解消するためにも、「セビッチェ」としたほうが、日本語話者は「ビ」にアクセントを置きやすくなると思います。
3)昔の本
昔の本はどうだろう。
地球の歩き方ペルー、2005年第4版(ダイヤモンドビッグ社)では「セビッチェ」と表記しています。
NHK INTRODUCCIÓN AL ESPAÑOL、昭和54年初版(山田善郎著、日本放送出版協会)では、直接cevicheの発音が見当たらないものの、
amigo アミゴ
favor ファボル
señor セニョル
casa カサ
excelente エクセレンテ
すべて伸ばす音を書いていません。そもそも、ここ大事な点ですが、スペイン語に長母音は存在しないのだから、amigoやfavorはアミーゴでもファボールでもない。スペイン語の国語発音としては、やはりアミゴやファボルなのです。ただしこの本は「うしろから2つめにアクセントを置く」ことを別途解説しているため、amigoはアミゴ、favorは「ファボル」と書いても大丈夫なんです。この本の読者はアミゴ、ファボルと、アクセントを正しく読むことができるのです。
もしこのNHKの本が「ceviche」をカタカナ表記していたら確実にセビチェだったことでしょう。しかし、例えばレシピサイトなどで安易に「セビチェ」と書いてしまうと、「うしろから2つめにアクセントを置く」ルールを知らないために、つい「セビチェ」と読まれてしまうおそれが強まるのではないでしょうか。
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アクセントをつける文字に伸ばす音を安易につけてしまうと、excelenteは「エクセレーンテ」になってしまう。発音としてはもちろんアリです、大アリです。私だって中南米で「キャー素敵ー」と言う時、何度も「エクセレーンテ♡」と言って会話をしてきた。しかし「excelente」の標準表記として「エクセレーンテ」とするのはやりすぎだ。英語の「I have an apple.」を「アイハバナポー」と書くのはやりすぎだ。カタカナ表記は発音を再現すればいいというもんじゃない。
だから、セビーチェも、もちろんビにアクセントが置かれるわけだから発音としてはアリなんだけど、セビーチェはカタカナ表記としてはやりすぎなんじゃないだろうかという懸念もある。
ただし、taxiのように、日本語として完全定着した場合は話が別。通常表記を「タクシ」ではなく「タクシー」と、伸ばす音をつけて書けばいい。でも、「ceviche」は日本語に完全定着していません。
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ペルー駐在経験者や、旅人の旅日記や、古くからある書籍や旅ガイドブックなどを見ると、現地で発音を聞いて耳で音を覚えた人の記述はセビッチェが最も多いと思う。
つまり、音を聞かず、文字から(インターネットから)入ってしまった人がセビーチェと転記してしまうんじゃないかな。
一応、思うところはこんなところです。
まとめると
- 文字を起こすと「セビチェ」。上のNHKの書籍のように、別途「うしろから2つめにアクセントを置く」ことが解説されていればいいんだけど、解説がない場合、「セビチェ」と間違えて読まれるおそれがある。
- 「セビッチェ」や「セビーチェ」と表記すれば、多くの日本語話者が「セビッチェ」や「セビーチェ」のように、正しく「ビ」にアクセントを置きやすくなる。しかしスペイン語には本来長音母音がないので、会話の中で「セビーチェ」と言うのはアリでも、標準表記に第一採択するのは抵抗がある。
- 従来より、日本語書籍等では、「セビッチェ」と表現されてきた。
ということで、
【結論】
「Ceviche」の最も適切な日本語カタカナ表記は「セビッチェ」としようと思います。次いで「セビチェ」。理由は、日本語話者がビとチェを連続発音すると「ビッチェ」になりやすく、「セビチェ」より「セビッチェ」のほうが自然な発音に近いこと。「セビチェ」表記の場合セやチェにアクセントを間違えて置かれるおそれがあるが、セビッチェであれば「ビ」にアクセントをつけやすくなること。また本来スペイン語には長音母音がないので「セビーチェ」表記は避けたい。ただし、強調をこめて長音にする(素晴らしいをエクセレーンテ、学生をエストゥディアーンテと言うような)のも自然な範囲と思えるので、セビーチェ表記を否定はしない。
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中南米の特に太平洋沿岸で食べられる、生の魚介類をレモン果汁でマリネして作る「セビッチェ」は、魚介類を最も美味しく食べる世界最高の調理方法の1つだと確信できる美味しさがあります。
美味しそー💖
というか実際に美味しいんです。刺身クオリティーの美味しい白身の魚に、柑橘の香りただようフレッシュレモン。
でも不思議よね、魚とレモンだけだと、ペルーの風味を思い起こさないのだけど、紫玉ねぎとコリアンダーの葉(パクチー)を少し入れてなじませるだけで、「ペルーで食べた!この味!」って、感動が蘇るんです。不思議です。
レシピは、≫こちらです。
本当に美味しいので、是非お作り下さい。