イエメン料理


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・外食産業があまり発展していないため、旅行者が食べられる食事のバリエーションは少ない。


基礎情報イエメン共和国Republic of Yemen、首都サナア、ISO3166-1国コードYE/YEM、独立国(1967年英国より独立した南イエメンと1918年オスマントルコから独立した北イエメンが1990年に南北統一)、公用語アラビア語、通貨リアル

◆神秘と伝統文化を守る、強烈な部族社会の国

イエメンがアラビア半島の端にあり、対岸はエリトリア・ジブチ・ソマリアです。

アラビア半島といえば砂漠のラクダ引きのイメージですか? いえいえ。イエメンの場合、サナア、タイズ、イッブ・・・昔から人口の多い都市はたいてい山の中にあり、今も人口のほとんどが高地に集中し、むしろ山岳国家と言う方がふさわしい。山があるからこそ雨が降り緑が茂るイエメンは、砂漠主体の他のアラビア半島の国とは違うのです。イエメンには太古から町があって伝統がある。それが今も多く残る。世界でも最高級の「エキゾチックな国」なのです。

イエメンの料理の1つ1つをゆっくりと思い起こしてみると、その土台は、中東の他の国よりも、北東部アフリカ料理に近いものがあります。紅海の海洋交易路に位置するイエメンは、エジプト、スーダン、エリトリア(※エリトリアは昔エチオピアでした)、ソマリアと物や人や文化の往来がありました。特にソマリアは香辛料を運ぶ海のシルクロードの超重要交易中継地でしたから、その影響でイエメン料理も香辛料を豊かに使うようになったのでしょう。イエメン料理は香り高くて本当に美味しいんです(しかも辛くない)。

イエメンの主食はパンと米です。イエメンの場合、朝食と夕食が軽い食事でホブズ(釜焼きの薄パン)を主に食べますから、ホブズのほうが主食の座を得ているでしょうね。イエメンのホブズは他のアラブの国のホブズよりも一回りも二回りも大きく焼き上げられるのが特徴です。それをちぎってフール(ソラマメで作るスパイシー煮豆)やファスーリャ(インゲンマメで作るスパイシー煮豆)をすくって食べるのです。フールやファスーリャはまさに国民食。刻んだビスバス(イエメンの付け合わせの定番の青唐辛子)やハワイジュ(香り良いイエメンのスパイスミックス)の風味も最高、そしてイエメンの調理技法として、豆を潰してほぐれたデンプンの粒子に旨い煮汁が絡まる美味、更に更に、炎の柱が立つほどの全開ガスバーナーの火力が料理を美味しく仕立てます。だからイエメン料理は、煮豆やサルタ、その他いろいろな料理が石鍋で作られることが多いですね。エジプトのタギンという火柱石鍋料理に通じるものがあります。

サルタは、一人用サイズの石鍋にじゃがいもや野菜のトマト煮、肉や米などを入れて、超強火で調理する料理です。ぐらぐら沸き立ったら仕上げにヒルバ(フェヌグリークの種の粉末をビスバス(青唐辛子)と共にミキサーがけしたような青臭い泡状ピューレ)をかけます。肉は、イスラム教の国らしく羊肉がメインとなり、豚肉は見かけることがありません。ちょこっとのひき肉使用(又は肉なし)なら普通にサルタと呼ばれますが、細切りの肉が多く入るごちそうサルタはファハサ(またはファハササルタ)とも呼ばれます。

その他、朝食の定番はキブダという羊のレバー細切り炒めや、ベイドという卵のトマト炒めが定番。イエメン料理はスパイスを使っていてもあまり辛くないので、辛いのが好きな人は無料でもらえるビスバス(青唐辛子)をかじりながら、そのフレッシュな唐辛子の生の香りと辛みを楽しみながら、おかずとホブズ(薄パン)を食べるのです。

昼は、一日で一番ガッツリ食事をいただく時間です。ラハムはずばり肉。羊肉をドカンとゆでたりして豪快にいただきます。ゆで汁はマラックという美味しいスープになります。だからお昼時の食堂では、サービススープとしてマラックを無料でいただくことができます。ケバブは、ひき肉を串に巻きつけて焼いたもので、世界中にケバブあれどエジプトスタイルのケバブに近いものがあります。アクダは羊肉や鶏肉を細切りにしてじゃがいもなどと汁気を少なく炒めたものです。

イエメン料理の特徴には、『米&肉』のコンビネーションがあります。
マンディはイエメンの国民食で、釜(伝統的には地面に掘った穴)の中で2段仕掛けにし、下段で米を炊き、上段で肉を網焼きグリルにして調理します。美味しい肉汁や脂が米にしたたり、ライスが美味しく炊き上がるという巧妙な技法は、砂漠のハドラマウト地方の発祥と聞きます。マンディは実に美味しく、また砂漠に合った調理法なので、サウジアラビアやオマーンにも広まり国民食になっています。ライスには仕上げにサフランでまだらに黄色をつけ、肉をドンと乗せていただきます。

米&肉の料理はほかにもあります。ズルビヤンは肉シチューを作ってそこに生炊けのごはんを入れて加熱を続けて完成させるもので、サウジアラビア国民食であるカブサのオリジン(本家本元)と言われる、イエメンの港町アデンの郷土料理です。名前がインド料理のビリヤニと似ています。一方で肉を蒸らし焼きにして作ったものはハニーズと呼ばれ、マンディ同様にごはんに肉を乗せて供します。ごはん単独を指す場合はオロズと呼ばれます。

穀物の粉(小麦粉やソルガム粉等)を湯で練ってもち状にする。・・・こういうの、ブラックアフリカでは定番の料理法ですね(南アのパップ、ケニアのウガリ、コンゴのシクワング、ガーナのフフ、etc)。アフリカのアラブ地域では広くアシードと呼ばれ、チャドやスーダンでよく食べられており、イエメンでも国民食です。アッセル(ハチミツ)やセムン(澄ましバター)あるいは肉のトマト煮をかけたりします。そうそう、アッセル(ハチミツ)はイエメン特産物の1つなので、帰国時のお土産におすすめの一品です。

ハチミツを使ったマッシュ状の料理にはファッタがあります。残ったパンを使い、バナナ又はナツメ、アッセル(ハチミツ)やセムン(澄ましバター)と和えてマッシュしたものです。バナナを使うとファッタモウズ、ナツメを使うとファッタタマルと言います。

次は魚料理について。
イエメンではサマック(魚)がよく食べられています。首都サナアは内陸高地に位置するにもかかわらず、毎日氷とともに新鮮な魚が搬入されています。開いて内臓を取って香辛料をたっぷりかけて、釜の中で焦げるくらい焼き、ホブズ(薄パン)と共に食べます。パンと焼き魚なんて喉が渇きそうな組み合わせですが、イエメンでは、サハワ又はサハワクと呼ばれる「付け合わせのタレ」があるので大丈夫。トマト玉ねぎその他野菜をミキサーがけした瑞々しいフレッシュソースです(スペインのガスパチョがちょこっとサイズで出てくる感じです)。入れる人は白チーズを入れてフレッシュベジマヨ風のサハワを作ったりもします。米料理にもサハワは付け合せられ、イエメン料理を大変に美味しくしています。

その他のイエメン料理にはムタバク(ネギ炒めなどを小麦粉の皮で包み焼きにするもの、イエメン発祥)、ラホーフ(発酵生地を薄焼きにする酸っぱいクレープパン、エチオピアのインジェラやソマリアのアンジェロと同じ)、シャフート(ラホーフにヨーグルトと緑野菜のミキサーがけをかけたもの)、サンブーサ(インドのサモサみたいなひき肉の三角春巻き)などがあります。

飲み物の定番といえば、まずは、シャイマハリーブ(濃厚ミルクティー)。南の港町アデン風のミルクティーは他の国に負けない格別の美味しさがあります。それからアセーラ(氷と果実をミキサーにかける美味しいフレッシュジュース)もオススメです。イエメンにはジューススタンドが至るところにあって、ライム、りんご、パイナップル、バナナ、オレンジ、マンゴー、生姜など、色とりどりの果物等が軒先を飾っています。コーヒーも栽培されていますが、コーヒー豆は主要輸出産業として外国に売られていき、イエメン人は残ったコーヒーのサヤの部分を焙煎して淹れるギシルをよく飲みます。コーヒー味とも濃い麦茶味とも言えるギシルは、美味しいという人もいれば不味いという人もいるのが現状です。

イスラム教の国なので、年に一度ラマダン(断食月)があります。ラマダン期間中は日の出から日没まで何も食べず何も飲まず、日没を迎えるとまずはデーツ(ナツメ)やサンブーサ(サモサ)でお腹を落ち着けて、だんだんボリュームアップしたごちそうをいただきます。

また、食に大いに影響を及ぼすイエメンの重要な習慣として、「カート」を紹介しましょう。
エチオピアソマリア、イエメンあたりでは、月桂樹っぽい葉をもつ植物が枝つきで束ねて売られています。この葉をちぎってたっぷり噛んで、ほっぺたの内側にためておくと、唾液とともに滲出した有効成分カチノンが頬の粘膜から吸収され、頭はすっきりし、疲れを感じず、気分が良くなります。イエメン人にとって毎日の午後はカートタイムです(男性は大っぴらに、女性はあまり人に見えないところでカートを噛むが、男女混合はない)。働かず、皆で集ってカートを噛んでまったりと時を過ごします。カートを噛むと食欲が減退するので、イエメン人が総じて痩せているのはカートのせいだと言われています。しかもカートは外貨獲得農産業の筆頭だったコーヒーと土地が競合するがゆえ、イエメン人は耕作地をコーヒーからカートに変えてゆき、折角のコーヒー産業も斜陽の一途をたどったのです。

以上、特異なイエメン料理の世界について、いろいろと書いてきました。
イエメン料理は独特とは言われるものの、やはり基礎はソマリア料理に一番似ているように思います。ソマリ人とアラブ人で民族は違うけれど、香辛料の使い方や、調理の細かい点や、食習慣のあちこちが似ているのですね。・・・ああそうか、強い部族社会で国家が統一されてなくて危険がいっぱいっていう点も似ているかもしれないなあ。。。

冒頭にも書きましたが、アラビア半島の中でも雨が降り緑が茂るイエメンは、太古から町があって伝統がありました。イエメンの美味しい料理は、砂漠主体の他のアラビア半島の国 -サウジアラビアやオマーン、アラブ首長国連邦等- へ伝播しました。これら近隣国で国民食を求めると、それはイエメン発祥だった、ということがしばしばあります。本当にイエメン料理って偉大だと思います。

あと、イエメン料理が広まっている国として重要なのが、ユダヤ人国家イスラエルです。イエメンは旧約聖書のシバの女王の国ですから、紀元前よりユダヤ人はイエメンに住み移り、およそ2000年が経った1949年の “マジックカーペット作戦” で、相当数のイエメン系ユダヤ人が一斉にイスラエルに帰還しました。で、今やイスラエルでは、イエメン料理の素やイエメン味のスパイスミックスなどが売られ、イエメン料理が日常生活に浸透しています。その点をイスラエル生まれのイスラエル人友人と話しをしたら、彼女はイエメン起源の料理も「私たちの料理」と言うのですね。なるほど深い発言だなと、ユダヤ人の精神社会にまた一つ興味を持ったのでした。

最後になりますが、あまりに部族社会のならわしが強いイエメンでは、中央政府の支配が地方部族に及ばず、地方部族は中央政府への交渉の材料にするため外国人誘拐事件を立て続けに起こしています。だから、ちょっと地方を旅行するにも許可証を取らなければならないなど、イエメンでの自由な旅行は難しいのが現実です。しかもあの強烈なイスラム社会ゆえ、女性の一人旅は避けるべき国です。ただ、旅人を魅了する最高の魅力がある国であることも間違いありません。どうか、少しでも多くイエメンとイスラムの文化を理解してから、足を踏み入れてください。治安情報にはお気をつけて。

◆イエメンに行ったら、これ食べよ♪

【主食】
・アシード・・・穀物の粉を湯で練ったもの。ハチミツやバターで食べることが多い。
・オロズ(أرز)・・・ライス。オイルやスパイスと共に炊いたりまだら黄色をつけたり。
・ホブズ(خب)・・・釜焼きの薄パン。他の国のホブズより大きい特大モノ。

【豆料理】
・フール(فول)・・・ソラマメで作るスパイシー煮豆。
・ファスーリャ(فاصوليا)・・・インゲンマメで作るスパイシー煮豆

【肉料理】
・アクダ(عــقدة)・・・羊肉や鶏肉を細切りにしてじゃがいもなどと汁け少なく炒めたもの。
キブダ(كـــبدة)・・・レバーの炒め物
・ケバブ(كباب)・・・肉の串焼き。エジプト流にひき肉を使うことが多い。
・ラハム・・・ずばり肉。どかんとゆで肉だったり。

【米&肉のコンビネーション】
・ズルビヤン(زربـيـــان)・・・肉煮込みに米を入れて炊く。
・ハニーズ(حــنــيذ)・・・ズルビヤンやマンディの肉を蒸し焼きにしたものらしい。
・マンディ(مــندى)・・・肉グリルの下にごはん鍋の2段焼き。肉汁が米にたれて美味しい。

【その他食事】
・サマック(سمك)・・・魚。釜焼きで焦げが出るまで焼く。揚げることも。
・サルタ(سلتة)・・・イモや野菜のトマト煮、ひき肉、米などを一人用石鍋で強熱。肉は少ないかない。
・シャフート・・・ラホーフにヨーグルトと緑野菜のミキサーがけをかけたもの。
・ファハサ・・・サルタより肉が大きかったり肉が多いもの。
・ベイド(بيضة)・・・卵のトマト炒め
・マラック(مرق)・・・肉のゆで汁で作るスープ。
・ラホーフ・・・発酵生地を薄焼きにする酸っぱいクレープパン。エチオピアのインジェラみたい。

【道端軽食】
・サンブーサ・・・インドのサモサみたいなひき肉や野菜の三角春巻き。
・ムタバク(مطبق)・・・薄く延ばした小麦粉の皮で作るネギ挟み焼き

【飲み物】
・アセーラ(عصير)・・・フレッシュジュース。
・ギシル・・・コーヒー豆のサヤで淹れるドリンク。生姜や砂糖フレーバー。
・ブン(بن)・・・コーヒー
・シャイ(شاي)・・・紅茶
 ┗シャイマハリーブ(الشاي مع الحليب)・・・ミルクティー

【その他】
・アッセラ(عسل)・・・ハチミツ。砂漠地方ハドラマウト特産。
・サハワ(زحاوق)・・・野菜ミキサーがけのフレッシュソース。料理にかける。
ハワイジュ(حاوايج)・・・ターメリック、クミン、カルダモン他のスパイスミックス(辛くない)。
・ビスバス・・・イエメンの付け合わせの定番の青唐辛子。

【噛む覚醒剤風】
・カート(قات)・・・噛んで覚醒作用を得る葉(合法です)。

Tips about cuisines

・イエメンのハチミツは「Sidr Honey」(シダーハニー)が有名。Sidr(シダー)はナツメの木。
・有名なモカコーヒーの「モカ」はイエメンの港町の名前。
キブダ(レバー)は朝に最も食べられるが夜に食べることもある。ラマダン明けなどの祝事にも食べる。しかし昼食に食べることはない。


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