ハイチ料理

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【基礎情報】

国名:ハイチ共和国Republic of Haiti、首都:ポルトープランス、ISO3166-1国コード:HT/HTI、独立国(1804年フランスより)、公用語:フランス語、ハイチ語、通貨:グールド

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【地図】

カリブ海の島を分断した西側をなすハイチは、島の東側をなすドミニカ共和国と直接陸で接しています。周辺国にはキューバジャマイカ、タークスカイコスがあります。

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◆想像を絶する黒人共和国に、香り高い美食がある。

「マンジェアイシエン(Manje Ayisien)、ハイチ料理の世界へようこそ。ハイチ料理はクリオージョ料理です。」・・・さて、ハイチ料理を語る基礎は、ハイチというブラックアフリカ国家の現状です。国民の95%が黒人(アフリカ人奴隷子孫)、残り5%はムラート(黒人と白人の混血)で、上流階級を占め良い職に就けるのはムラートなのだとか。他のカリブ海の国は、イギリス領だったりフランス領だったりオランダ領だったりする歴史がもっと長く続き、それらヨーロッパの宗主国による国づくりが進んできました。でも、1804年に中南米で最も早く独立を達成してしまったハイチにはそれがありません。その早すぎた独立と、独立直後から独裁政権でめちゃめちゃで、街中がまるでゴミ捨て場。「世界の指折りの最貧国の1つ」という言葉は、行った人は身をもって分かるという・・・。

ブヨン
土曜日料理ブヨン、これで1人分!鍋底も具だらけでおなかいっぱい!(撮影地カパイシェン)

カリブ海はリッチな観光国が多いですね。クルーズ船やヨットで多数の欧米人が往来し、美しいビーチに青い海、ブランドショッピング街をもつ国(アルバ、バルバドス、バハマ、プエルトリコなど)がいっぱい存在しているというのに、ハイチは、そういう国とはかなり違います。

国が貧しい。水道水も危なくて飲めない。ゴミ処理システムも未整備だから、人々が歩く道ではゴミがぺしゃんこになって、まるでごみが地面に圧着してアスファルトを作っているかのような場所もある。大雨が降ると低地は最悪です。排水がゴミで詰まっているから道中がヘドロとゴミの海になるのです。「世界で一番汚い国」という表現に同意できる人も多いのではないでしょうか。

治安が悪いところが多いから、食事を楽しむ目的だけでハイチに行くことはとてもじゃないけれども勧められない。だけれども、何故だろう、黒人共和国のめちゃくちゃな国は、底辺にある料理でさえ美味しいのです。見た目じゃなく、口に入れたときに体感できる、下味と香りがよいのです。

ハイチ料理の香りの良さの秘密、その1。
かんきつ類を肉や魚料理に多用すること。肉や魚を調理する前に、ライムジュースやオレンジジュースで肉や魚を洗ったり、あるいはジュースに、絞ったあとの皮と一緒に漬け込んでマリネするのです。ハイチのオレンジは私たちがイメージするものよりも酸味や香りが強く、その下味と風味がつけられたあとに調理された肉や魚はとても美味しいのです。

ハイチ料理の香りの良さの秘密、その2。
肉や魚を調理する前に、あらかじめ「エピス」と呼ばれる緑のシーズニングを作ります(プエルトリコやドミニカ共和国などスペイン語圏カリブ諸国ではソフリートと呼ばれます)。ネギ、にんにく、ピーマン、玉ねぎ、レモン果汁、タイム、パセリなどをミキサーにかけたもので、その緑の液体を肉にまぶしたり揚げ物の衣に混ぜたりするのです。美味しくてたまりません。

ハイチ料理の香りの良さの秘密、その3。
世界各地に唐辛子あれど、カリブ海の「シネンセ種」の唐辛子の香りの良さは格別です。ハイチではピマンと言います。例えば煮豆であっても、このピマンを少し加えるだけでとってもフルーティーなフレーバーがつきます。香りの良さにうっとりします。
やっと会えた。アフリカの「ピマン」栽培成功!

ある国が欧州の国の植民地となることなどを背景に、地元黒人と白人が混交して成立する人種や文化のことをクレオール(ハイチ語でクリオージョ)と言います。私はハイチ料理を「フランスの植民地だったからフランスの影響を受けている」などとは安直には思っていなくて(思えなくて)、でも単に黒人文化の継承だけでないことも、食べてみれば分かる。やはりハイチ料理はクレオール料理(クリオージョ料理)なのだ。そしてその独自の味わいや、料理を見ると「ハイチらしさ」を感じることは、「独自に発達した時間」が長いからこそ独自の調理法が確立してきた結果であると思います。
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主食 Staple

ハイチの主食は米。ハイチアンクレオール語で「ディリ」と言います。白く炊いたごはんは「ディリブラン」。

これを見ただけでも、フランス語の基礎単語をご存知の方ならばハイチアンクレオール語がフランス語にとても似ていることに気付かれたことでしょう。米のディリはフランス語の「du riz」(英語のthe rice)、ディリブランの「ブラン」はフランス語の「blanc」(英語のwhite)に由来する単語です。このように、フランス語を知っているとハイチ料理名を理解することはかなり簡単です。

ハイチの主食かつ国民食の筆頭は、ディリコレ(豆を炊き込んだごはん)です。「コレ」は豆などを混ぜて作る料理を指し、ディリコレ(豆ごはん)はディリプワディリアクプワとも呼ばれます(プワ=豆)。ジョンジョンという黒いマッシュルームの汁で炊き込んだ黒いごはんはディリジョンジョンディリアクジョンジョンと言います。

豆とごはんの組み合わせはハイチの料理の基本で、ディリコレ(豆ごはん)でなくディリブラン(白いごはん)を炊いたときには、煮豆の汁や煮豆ペーストをソースにしていただきます。メキシコのモーレやキューバのフリホレスと同じ文化ですね。煮豆ソースはソスプワと言い、黒い煮豆ソースの場合は、黒(ノワ)をつけてソスプワノワとも呼びます。

カリブ海の歴史は奴隷の歴史。ハイチ人が奴隷だった頃からの食べ物といえば、少し粗めに挽いたとうもろこしです。イタリアのポレンタやルーマニアのママリガと同じような食べ物で、フランス語ではマイス、ハイチアンクレオール語ではマイと呼びます。豆、肉、野菜なども入るとうもろこし粉のどろどろ煮はマイコレマイムラと呼ばれ、ハイチの国民食です。

トムトムは、パンの木の実を木臼(ピロン)でなめらかにマッシュしたもので、ガーナのフフやコートジボワールのフトゥに似た食感をもちます。噛まずに飲み込むようにして食べるものなので、指でトムトムをちぎってオクラのようなねばねばを持つカラルーという野菜のソースに一度浸してから口に入れ、喉に流し込みます。トムトムはハイチ南西の岬の先のジェレミー地方の郷土料理です。

また、甘くないイモのような味と食感のバナン(バナナ)も主食になります。ゆでバナナ(バナンと呼ぶ)のほか、バナンペセ(調理用バナナを1度目はカット状態で揚げて2度目はそれを圧し潰して揚げる)などがあります。
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肉のおかず Meat

肉料理の代表は、肉を柑橘の果汁やエピス(緑野菜のミキサーがけシーズニング)に漬けてから揚げた、タソです。ヤギ肉のタソはタソカブリ、牛肉ならタソベフ、豚肉ならグリヨ(フランス語でグリオ(Griot))と言います。この名称からも、ハイチで肉といえば豚肉なのだということが分かります。料理としてのグリヨ(豚肉ロースト)には、上述のシネンセ種の香り高い唐辛子を使うソスティマリスというタレを添えるのが定番です。

鶏肉はプルと言います。北部都市カパイシェン名物のプルヌワないしプルアクヌワは、マリネした鶏肉をカシューナッツと煮た料理です。
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野菜や豆のおかず Vegetables & Beans

「ハイチ味」の秘密は、上に紹介した柑橘類及び調味料類のほか、タイムというハーブを多用することと、マジー(工業生産のコンソメ)を使うこと、野菜料理であっても肉類を一緒に調理することなどにあります。だからハイチの野菜料理は美味しいです。

ハイチ人のルーツであるアフリカでも、野菜料理といえば基本的にどろどろ煮。だからハイチの野菜料理もどろどろ煮です。レギュムという料理名は、フランス語で野菜を総称するLegume(レギュム)に由来します。ナスやキャベツ、トマト、玉ねぎ、イモの葉など、そのときある野菜をくたくたに煮て、つぶすなどの手法でどろどろにされます。ごはんにカレーのようにかけて食べたりしますが、野菜の味が濃くてなかなか旨いもんです。モロヘイヤの葉はラロと呼ばれ、モロヘイヤ主体で作るレギュムラロまたはラロレギュムと呼ばれます。
ハイチのラロはどうやら日本のモロヘイヤと同じ植物のようだ。

その他野菜料理にはザボカ(カットしたアボカド)やピクリーズ(千切り野菜各種のミックスピクルス)などがあります。

豆料理には、主食の項で紹介したディリコレまたはディリプワ(豆ごはん)、ごはんにかけて食べるソスプワまたはソスプワノワ(豆ピューレ)などがあります。
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スープ類 Soup

煮込み類も、1皿でおなかにたまるような、ごった煮が主体です。
ブヨンはフランス語のブイヨン(bouillon)に由来する料理名ですが、料理自体は中南米カリブ各地のサンコーチョと同じです。イモ類、肉、カニ、野菜、ブイ(小麦粉を固く練ってモチのようにして入れる)など、具だくさんのスープをじっくりとごった煮にします。具に決まりはありませんが、各国のサンコーチョにはその国の食べ物や調味料が入りますから、ハイチのブヨンはやっぱりハイチ味です。ハイチでは、ブヨンは土曜日の食べ物です(私が写真のブヨンを食べたのも2009年10月3日の“土曜日”、改めて驚き!)。

スプジュムは、カボチャピューレが入った黄色い具だくさんポタージュスープで、独立記念日かつ新年(1月1日)の食べ物です。肉、いも類、キャベツ、パスタ、玉ねぎ、にんじんなどなどとにかく具だくさん。独立記念日には、自由を手に入れたお祝いとして、このスプジュムが国中で作られるのです。なぜならば独立前は支配者の許可なしにはカボチャなど食べられなかったから・・・。
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軽食 Quick Eats

軽食には、アクラ(マランガ芋(サトイモっぽい)や黒目豆の粉、塩漬け魚をほぐしたものなどを混ぜて揚げ団子にしたもの)やピスケ(小さな魚をマリネしてから揚げるサクサクフライ)などがあります。こういう揚げ物はフリタイと総称され、路上ごはん屋で気軽に食べることができます。
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果物 Fruits

ハイチの暑い気候のもと、トロピカルフルーツがよく育ちます。アボカド、マンゴー、グアバ、パイナップルなど。水道水も危険で飲めない国ですから、喉の渇きの癒しに、安全で美味しいです。フレッシュジュースを作って飲んだりもします。
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お酒 Alcoholic Drinks

ハイチのラム酒にはクレレン(外国で販売されるときはクレリンとも呼ばれる)があります。サトウキビから作る蒸留酒です。薬用効果から飲む人もおり市場では効能別に薬草を漬けた状態でも売られています。
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ノンアルコール Nonalcoholic Drinks

国民的飲み物ならアカサンをどうぞ。Akasanと書きますが、ハイチ語では100をサンというので、Aka100やAK100と書かれます。シナモンなどで風味をつけた湯にトウモロコシ粉やミルクや砂糖を入れて煮たとろみドリンクです。
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最後に Acknowledgments

以上、ハイチ料理について、概観いたしました。

ハイチを出来る限り理解して、ハイチのことを書いてみたら、私自身、再びハイチに行きたくなりました。地べたで現地の人々と同じ方法で町を移動するようなことは散々悲惨だったハイチの旅ですが、ここに来たからこそ見える世界、ここに来たからこそ分かる世界の一面があり、ハイチの旅は格段に有意義であるとさえ思います。

国の手入れがない町の悲惨さと、それでもそこで生きている人々の姿は、何か引き付けるものがあります。私は、そういうことも含めて、ハイチに愛着があるからこそ、しっかりとハイチ料理について書き残そうと思いました。

ハイチ料理に出会えたことと学べたことに感謝すると共に、本稿が、ハイチを旅して、ハイチの料理を知りたい人の一助になれれば、嬉しく思います。
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料理名一覧 Food & Drink Glossary

【主食類】
  • ディリ(Diri):ごはん
    • ディリアクジョンジョン(Diri ak djon-djon):黒いきのこごはん
    • ディリアクプワ(Diri ak pwa):豆ごはん
    • ディリコレ(Diri Kole):豆ごはん
    • ディリジョンジョン(Diri ak djon-djon):黒いきのこごはん
    • ディリブラン(Diri blan):白いごはん
    • ディリプワ(Diri ak pwa):豆ごはん
  • トムトム(tomtom又はtonmtonm):パンの木の実をマッシュしたもの
  • バナン(Banan):バナナ。
    • バナンペセ(Banan peze):2度揚げバナナ
  • マイ(Mayi):とうもろこし
    • マイコレ(Mayi kole):とうもろこし粉と豆を炊いたもの。
    • マイムラ(Mayi Moulin又はMais Moule):とうもろこし粉と具を炊いたもの
【肉類】
  • グリヨ(Griyo):マリネした豚の塊肉を揚げ焼き
  • タソ(Taso):マリネした肉の揚げ焼き
    • タソカブリ(Taso cabrit):ヤギ肉のマリネ揚げ焼き
    • タソベフ(Taso bef):牛肉のマリネ揚げ焼き
  • プル(Poul):鶏肉
    • プルヌワ(Poul ak nwa):マリネした鶏肉をカシューナッツと煮たもの
    • プルアクヌワ(Poul ak nwa):マリネした鶏肉をカシューナッツと煮たもの
【野菜や豆のおかず】
  • ザボカ(Zaboca):アボカド
  • ソスプワ(Sos Pwa):煮豆ピューレ
    • ソスプワノワ(Sos Pwa nwa):黒い煮豆ピューレ
  • ピクリーズ(Pikliz):千切り野菜のミックスピクルス
  • ブイ:小麦粉を固く練ったモチ状の具
  • ラロ(Lalo):モロヘイヤのどろどろ煮
    • ラロレギュム(Lalo legim):モロヘイヤのどろどろ煮
  • レギュム(Legim):野菜のどろどろ煮
【スープ類】
  • カラルー:ねばねばした野菜で作るソース
  • スプジュム(Soup joumou):カボチャピューレ、肉、いも類、野菜類の具だくさんポタージュ
  • ブヨン(Bouyon):イモ類、肉、カニ、野菜などのごった煮
【軽食】
  • アクラ(Accra):マランガ芋(サトイモっぽい)や黒目豆の粉で作る揚げパン
  • ピスケ(Pisket):小さな魚のサクサクフライ
  • フリタイ(Fritay):揚げ物の総称。
【飲み物】
  • アカサン(Akasan、AK100他):トウモロコシ粉やミルクや砂糖を入れたとろみドリンク
  • クレレン(Kléren):ラム酒(サトウキビから作る蒸留酒)
【調味料類】
  • ソスティマリス(Sos Ti-Malis):シネンセ種の唐辛子を使った辛いソース
  • ピマン(Piment):シネンセ種の唐辛子
  • マジー(Maggi):工業生産のコンソメ。

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