エジプト国民食コシャリに添える「ダッア」の名前を検証したら、「アラビア風味のミックス」の意味があることが分かった。

2017/11/07

コシャリ

エジプト国民食のコシャリ。この料理には唐辛子液体「シャッタ」(※)及びにんにく酢水「ダッア」がついてきます。

※シャッタは唐辛子というアラビア語エジプト方言。コシャリのお供の場合は唐辛子の入った液状調味料を指します。

さて、日本人にも人気のコシャリゆえ、「ダッア」の名もネットで散見されます。しかしアラビア語表記やその意味を解説するページは今のところ見当たらず、そこで今回私は「ダッア」について検証しましたので、このページに検証の過程を記録します。

【結論】「ダッア」の最も適切な日本語カタカナ表記は「ダッア」でよい。「ダッア」は本来「アラビア風味のスパイスミックス」であり、コシャリにかけるにんにく酢水にもこのアラビア風味をつけたことから、にんにく酢水も「ダッア」と呼ばれる。

* * *

1)「ッア」の書き方を不思議に思った。

「ダッア」での違和感は、「ッア」という不思議な書き方です。そこでまず「ダッア」のアラビア語の綴りを検証しました。
Egyptian “Koshari” طريقة الكشري المصري بالصور(≫こちら

ダッア検証

これはコシャリとその調味料の作り方を英語とアラビア語で書いているサイトで、この文中から「Daqah (cooked garlic)」を見つけました。「ق」(q、ク)の音はアラビア語エジプト方言では落ちることは現地で体験しているので、「Daqah」は「ダッア」を指すでしょう。アラビア語文中から「Daqah」に相当する単語を探し「دقة」を見つけました。

日本語Wikipedia「アラビア語エジプト方言」(≫こちら)では、「 ق (qの音) が多くの場合、声門閉鎖音(ハムザ)に変化している。」と書かれています。つまり「ق」は「ク」ではなくなり息をいったん止める音に変わるのです。

「دقة」 a q d(右から読む)→変化して、「ア (息止め) d」

「ة」は「ア」としましたが、アラビア語は通常子音しか書かないので、「د」だけでは「ダ」か「デ」かも分かりません。

2)アラビア語の母音付きの文字を探す。

「دقة」の読み方が「ア (息止め) d」まで絞り込めたところで、「d」の音を確定させるために、「دقة」のネット検索結果を追い続けて、母音付きの綴りを見つけました。

「دَقَّة」です。近傍に「Egyptian dressing」(エジプトのドレッシング)と書いてあります。拡大して見てみます。

ダッア検証

Google翻訳。日本語訳が(今のところ)「精度」なのね。

ダッア検証

3)アラビア文字の発音補助記号の検証

では記号が揃ったので「دَقَّة」を検証します。

ダッア検証

1文字目(右から1つめ)。
「دَ」は「د」に「/」が乗っている。
「/」はファトハと言い「ア」の母音を与える。
これで、「دَ」は「da」つまり「ダ」の音になる。

2文字目
「قَّ」は「ق」に「/」と「ω」が乗っている。
「ω」はシャッダと言い同じ子音が2つあるときに片方の子音を省略して書くために記される。

ということは!(ここからが今日の一番の発見かもしれない。)

「قَّ」は「قَ ق」である(そして ق が1つ落ちた)。
よって「دَقَّة」は「 دَ ق قَ ة」である。

「 دَ ق قَ ة」 a aq q da ダッカア

といったんなり、再掲しますが、エジプトでは、 ق (qの音) が多くの場合声門閉鎖音(ハムザ)に変化する、つまり「ق」は「ク」の音ではなくなり息をいったん止めて吐き出す音になるので、これを数字の「2」で表記し、

「 دَ ق قَ ة」 a 2 2 da ダッッア

となりました!!

!!!やった!!!ダッアになった!!!
すごいわー、アラビア語、おもしろーいヽ(・∀・)ノ!

流石に「ダッッア」と「ッ」が2度も出てくるので、日本語カタカナ表記を「ダア」や「ダー」にしようとは思いません。「ダッア」と書くのが最良だと思いました。

なお、「フランコアラブ」という、アラビア語の音を示すために数字に発音ルールを持たせるものがあるのですが、ここでハムザ(声門停止音)は数字の2で表記されます。

エジプト国民食コシャリ屋で「サクサクフライドオニオン」を増やしてほしいときに言うアラビア語名

4)「da22a」をネットで検証。

Google検索「da22a كشرى」:da22aだけでは意味不明な記号っぽいので、コシャリをアラビア語で併記して検索しました。
大丈夫。「にんにく酢水」の説明がちゃんと出てきました。

ダッア検証

なお、今回は幸いにも正確なアラビア語である「دَقَّة」が見つかり、そこから検証できたから、実は子音が2つあって2つともハムザ化したことが分かりましたが、もし簡易版(通常)のアラビア語表記である「دقة」から検証するとハムザは1つだけで、例えばda2aという表記になります。大丈夫。これを使っても「にんにく酢水」が検索できました。もちろん日本語カタカナ表記の点もダッアで問題ありません。
「دقة」 a (息停止) da ⇒これでもダッアが成立します。

5)気になったこと。デュカって何?

「دقة」、すなわち「ダッア」。
しかしこれをアラビア語で検索すると、粉も液体も登場します。そこで疑問を抱きました。ひょっとしたら、今まで「にんにく酢水」をダッアだと思っていたが、スパイスパウダーもダッアなのではないでしょうか。

ダッア検証

予感的中。
しかもちょっと見てみるだけで日本語で「デュカ」とまで出てくる。ついでに言えば、上の画面で、古代ローマ遺跡が映っているのは、チュニジアのドゥッガだよね?

そこで「دقة」にはいろんな意味がある可能性を検証しようと思い、アラビア語ウィキペディアから入り「دقة」を検索しました。

再確認ですが、「دقة」の機械翻訳は「精度」となります。

ダッア検証

アラビア語ウィキペディアから入り「دقة」を検索し、日本語自動翻訳すると、以下の画面が出てきました。

ダッア検証

・チュニジアの都市(これがドゥッガ、※)
・「アラビア風味のミックス
(あとはデジタルや数学関連、まさに精度関連)

※ドゥッガはアラビア語チュニジア方言の発音です。リビアやチュニジアでは ق は g の音になるそうで、なるほど「دقة」はドゥッガになるわけです。

「アラビア風味のミックス」(≫こちら)に入ると、アラビア語で次のようなことが書いてありました。

ダッア検証

「ダッアの配合は国によって異なります。最も有名なものはエジプトのダッアとガザ(パレスチナ)のダッアです。エジプトのダッアは、コリアンダー、クミン、こしょうなどで、ローストして粉砕します。」

更にここから、英語版(≫こちら)へ飛ぶと、冒頭に発音が書いてあります。

「Duqqa (Egyptian Arabic: دقة‎ pronounced [ˈdæʔʔæ]) is an …(後略)」

つまり、この「アラビア風味のスパイスミックス」は、これまで検証してきたにんにく酢水のダッアと同じ綴り「دقة‎」で、発音も同じく「ダッア」(dæʔʔæ)であることが分かりました( ʔ は声門停止音です)。

なーのーにー。
日本語のほう(≫こちら)が、ダメですね。「デュカ(アラビア語: دقة‎ 発音 [ˈdæʔʔæ])は、エジプト料理に使われる調味料。」と書いてあります。パレスチナではデュカと呼ばれているとしてもエジプト料理として書くならエジプトの言葉の音の通り「ダッア」と書けばいいのに。しかも発音記号にハムザ「ʔ」を入れているから、それに沿って「ダッア」でまるきり問題ないじゃない。

6)ダッアという「アラビア風味のスパイスミックス」。そしてそこから分かったこと。

デュカ、正しくはエジプトではダッア。これは「アラビア風味のスパイスミックス」です。コリアンダー、クミン、こしょうなどが入っています。

なんか、これで、つながったものが見えました。
「にんにく酢水」も「スパイスミックス」も、どっちも同じ綴りでかつ「ダッア」と同じ呼称なのは、にんにく酢水に「ダッア」を使って「アラビア風味」をつけているからなんじゃないかな。

つながった。

【結論】「ダッア」は本来「アラビア風味のスパイスミックス」であり、コシャリにかけるにんにく酢水にもこのアラビア風味をつけたことから、にんにく酢水も「ダッア」と呼ばれる。

* * *

エジプト国民食のコシャリ。この料理には唐辛子入り調味料「シャッタ」及びにんにく酢水「ダッア」がついてきます。手作り調味料ですからお店や家庭によって味が違うのは大前提としても、私は、自分が美味しいと思って食べてきた庶民の食堂の「ダッア」の味を追求し、研究を重ね、自分と夫がエジプトの記憶をよみがえらせるような再現に成功しました。そのときも、ほんのひとつまみずつですが、コリアンダー、クミン、こしょうなどを入れたんです。まさにこの少しずつのスパイスが、スパイスミックスとしてのダッアの原義そのものだったのだと思うのです。

* * *

エジプト国民食のコシャリ。今まさに私は、ご家庭でもこの味を味わっていただけるよう、コシャリを総合レシピ化しています。

コシャリ



* * *

“エジプト国民食コシャリに添える「ダッア」の名前を検証したら、「アラビア風味のミックス」の意味があることが分かった。” への1件の返信

コメントは受け付けていません。

本記事、レシピ内容及び写真の著作権はすべて管理人:松本あづさ(プロフィールは≫こちら、連絡方法は≫こちら)にあります。読んでくれた方が実際に作って下されば嬉しいですし、料理の背景やTipsなど、世界の料理情報の共有を目的として、大事に作成しています。
出典URL付記リンクを貼れば小規模な範囲でOKなこと】
・ご自身のサイト、ブログ、FacebookやTwitterにおける情報の小規模な引用や紹介。
事前連絡出典明記をお願いします】
・個人、団体、企業等の活動や出版等で、当サイトおよび当管理人のもつ料理レシピや写真を活用・使用したい場合(料金は≫こちら)。
事後連絡でもよいのでお寄せ下さい(楽しみにしています)】
・学校や大学の宿題や課題で当サイトを活用してくれた児童・生徒・学生さん。
ご遠慮ください】
・大々的なコピペや読み込み、出版物への無断転載。
・商用非商用ならびに営利非営利を問わず、個人、団体、企業等の活動や出版等での無断使用。
※免責事項:上記の引用に基づいて万が一損失・損害がありましても、対応はユーザーご自身の責任において行っていただきますようお願いいたします。