スイス独特のカレーライスとして知る人ぞ知る「Riz Casimir」という料理があります。
スイスなのに「カシミール」?って、不思議に思いますよね? ちなみにカシミールとは、主にインドとパキスタンが領有権争いをしている(狭い範囲ですが中国も領有権主張する地域がある)、日本発行の地図では主権国をそれらのいずれにも決められないことから通常グレーゾーンとなる地域です。一応中には事実上の境界線(Line of control(LOC)、管理ライン)があって、管理ラインを越えることはできませんが、日本人でもカシミール自体は旅行で訪問できる地域です。パキスタン側もインド側も美しい光景や文化が旅人を魅了します。
ともあれ、そういうカシミールの名を冠した料理が、欧州のスイスの名物料理であるのです。モーベンピック(Mövenpick)ホテルのシェフ考案の料理とのこと。この由来については別の機会に調べてみたいと思います。
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さて、スイスはスイス人が8割の国。国内には複数の言語分布があり、中部~北東部にかけて最も広い範囲がドイツ語圏(話者比率60%)、西部がフランス語圏(20%)、あとは少ないですがイタリア語圏(6%)とロマンシュ語圏(1%未満)があります。ここではスイス2大言語としてドイツ語とフランス語を取り上げます。
では、スイス独特のカレーライスである「Riz Casimir」は、ドイツ語圏とフランス語圏でどのように読まれるのでしょう? 「そのままそれぞれの言語の発音ルールどおりの読めばいいじゃん」って思われそうですけれど、外来語が流入したとき、流入先の発音ルール通りになるときとならないときがあり、流入元の発音がそのまま生きるときもそうでないときもあるのです。
ではまずドイツ語圏話者と思われる発音。
◆Riz Casimir | theclub.ch | Rezept #55(≫こちら)
0:08 リッツカシミア
ドイツ語で「Z」はズではなくツ音になるので、フランス語綴りでRizと書かれても読み方はリッツ。
※他のドイツ語動画ではリースカシミアの発音も見られました。
そしてフランス語話者と思われる発音。
◆CH17 – Recette du riz Casimir facile .(≫こちら)
0:08 ヒカジミルまたはヒカジミア
「ヒ」は「Ri」のフランス語発音です。フランスの首都の「Paris」も日本人の耳には「パヒ」ですが日本語のヒとパヒのヒは違うため日本語カタカナ表記はパリになります。だから、この「ヒカジミル」も日本語カタカナでは「リカジミル」で良いです。フランス語で「S」はス音で読まれるときも(例:ポワソン(Poisson、魚))、ズ音で読まれるときもあります(例:パリジャン(Parisien、パリ市民))。
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では、私がこの料理についてサイトや何かで執筆するとき、日本語カタカナ化表記はどうしたらよいでしょう。
日本語カタカナ化表記は非常に難しくて、上のParisの例だと、そのまま日本人読みのパリスでも、現地の発音のようにパヒと書くわけでもない。ただただ、日本では通例・慣例においてパリと書かれてきた。おそらくそれは漢字で「巴里」と書いてきた名残だから、そのような、地名や人名などで日本での通例と慣例がある場合は、その通例・慣例に沿ってカタカナにするのが最適だとも思える。
となると、カシミールやカジミアのあたりもやはり、日本語で表記するときにはカシミールです。
スイス料理「Riz Casimir」の日本語カタカナ表記は、ドイツ語圏料理としてリッツカシミール、フランス語圏料理としてリカシミールとする。Casimirの発音まで現地風に書くなら前者はリッツカシミアや後者はヒカジミルのようになるが、日本ではカシミールという地名はカシミールと書くのが通例・慣例なので、この料理の日本語カタカナ表記にも取り入れる。またフランス語で「Riz」が「ヒ」音になるのは首都パリ(Paris)が「パヒ」に聞こえるのと同じ現象だが、Parisをパヒとは表記しないように、Rizもヒとは表記しない。
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・・・とまあ、答えがあるわけではないものではありますが、答えがないものに対しても「自分はこうやっていこう」という方針を決めることは無駄ではないわけで。それに、何も考えずにテキトーにやっていくのも良くないので、検討して考えて、その上で「自分はこうしていこう」と答えを出す努力をしたという記録でした☆