フィリピン料理「スープナンバーファイブ」に入る「Sibot」は漢方配合の「四物湯」でした

2025/11/01

知る人ぞ知るフィリピン料理に「スープナンバーファイブ」があります。Soup number 5、Soup number fiveの、Soup No.5、Soup #5と表記されます。ランシャオ(Lanciao)やリメンバーミー(Remember me)という名称もあります。

スープナンバーファイブ

スープナンバーファイブは、主に牛の男性器(陰茎と精巣/睾丸)を具にしており、首都マニラの中華街でしばしば見かける料理です。写真からも中国系料理であることが伝わりますよね。でも今では比較的全土で食べられ、家庭ごとの味付けもあります(トマト煮バージョンとか)。

世界の料理をとにかくいろいろ作りたい私は、スープナンバーファイブを作ることにしました。そこで料理レシピ情報を多数見ていくことにしました。

* * *

Soup Number 5|Panlasang Pinoy(≫こちら
タイトルの「パンラサンピノイ」は「フィリピンの味」という意味です。

スープナンバーファイブ

レシピを上から訳すと、牛の男性器、レモングラス、シボットハーブミックス(Sibot herb mix)・・・と続きます。

さあ出た!今回の疑問。

シボットとは何物!?

今回の記事では、シボットは漢方薬でもある天然物で、日本でも入手できるものだと分かりましたので、その検証の過程を記載します。

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Google 画像検索「Sibot」

シボット

出てきますねー。漢方薬がたくさん!! 綴りはSibotやSibutなどがありました。そして四物というパッケージの表記もありました。今は発音については深追いしませんが、四物は中国普通話でスーウー?広東語でセイマ?どこから「B」の字が来たのかしらね。日本語で無理やり読むと四物は「シブツ」なのだけど日本語からB音が来たというのも信じがたいしなあ・・・。でも「四物」の文字から4つの物が入っている物だと分かるので、料理レシピ化のためにもこの4つを突き止めたいです。

先に結論を見たい人のために書いておきますと、

<結論>
日本の四物湯(しもつとう、薬局製剤漢方配合薬のほか、エキス顆粒剤だとツムラ71番)、中国の四物汤、フィリピンのシボット(Sibot)は、すべてトウキ、ジオウ、センキュウ、シャクヤクの4つを含む。

ということで、フィリピン料理のシボットは漢方薬として使われている四物湯(しもつとう)そのものだったのです(※)。

※漢方薬としての四物湯は調剤によらず薬局製造業の製造行為として調製されるので処方箋なしで薬剤師の確認のみで購入できる。ドラッグストアの商品や処方箋医薬品として一般的な製剤はエキスを抽出して乾燥させた顆粒剤である。

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ツムラの71番

シボット

まずね、

四物

という文字を見ていて薬剤師として真っ先に気になったというか、ツムラの71番の記憶がふつふつと沸いてきました。漢方配合薬の「四物湯」(しもつとう)です。

成分は、添付文書(≫こちら)より

シボット

ジオウ(地黄)
シャクヤク(芍薬)
センキュウ(川芎)
トウキ(当帰)
でした。

ちゃんと4つ入ってるね♪ 漢字は私が付しておきました。

ではフィリピン料理に使うSibotの成分を突き止めましょう。

SIBUT / sibot chinese herbs and spices and condiment|Shopee(≫こちら

シボット

商品説明のところに、「ダングイ(Angelica Root)、シュディ(Rehmannia glutinos)、スープを黒くする)、ダンシェン(Codonopsis Root)、チュアンション(Ligusticum Striatum)」の4つが書いてありました。(normally include Dang Gui (Angelica Root), Shu Di (Rehmannia glutinosa)-which contributes to the black color of the soup, Dang Shen (Codonopsis Root), Chuan Xiong (Ligusticum Striatum).

学名があるので有難い!! 私は薬学部で漢方薬成分を教えていたのですが・・・ちょっとこの学名、あまり記憶にないのは日本の薬剤師国家試験に出ないからか? でも、今の国家試験出題基準ではラテン語は出題範囲外なのですが、私が薬学生だったときはラテン語も強制学習させられましたので、記憶にはかなり残っています(生薬、得意科目でした (^^)v)。ということで、1つめのアンジェリカってこれトウキ(当帰)だよな、セリ科の。

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それでは、4つの学名が分かったので突き止めていきます。

  • (1)Angelica Root
  • (2)Rehmannia glutinos
  • (3)Codonopsis Root
  • (4)Ligusticum Striatum

 (1)Angelica Root 

シボット

アンジェリカ(Angelica)はシシウド属。この中には、ビャクシとトウキという生薬が含まれる。さあそのどちらなのか? どちらも根を薬用部位とするのでAngelica Rootだけではどちらか分からない。

日本の漢方薬としてはトウキのほうが有名なので、Wikipediaの説明抜粋(≫こちら):「漢方では、補血、強壮、鎮痛、鎮静などの目的で処方に配剤され、四物湯、当帰芍薬散、当帰建中湯、補中益気湯、紫雲膏、当帰湯などの漢方方剤に使われる。民間療法では、冷え症、生理痛、生理不順、便秘に。」

 (2)Rehmannia glutinos 

シボット

ゴマノハグサ科のジオウ(地黄)でした。
Wikipediaの説明抜粋(≫こちら):「内服薬として利用した場合、補血・強壮・止血の作用が期待できる。地黄を使った漢方として有名なものは、六味地黄丸、八味地黄丸、四物湯、炙甘草湯、杞菊地黄丸などがある。」

 (3)Codonopsis Root 

キキョウ科のトウジン(党参)でした。
ツムラ71番の四物湯には入っていません。
東京生薬協会の説明抜粋(≫こちら):「補中・益気・生津作用があり、疲労倦怠・食欲不振・口渇・下痢・脱肛などに用いる。」

 (4)Ligusticum Striatum 
Wikipediaによると(≫こちら)、チベット圏のセリ科漢方薬。日本薬局方には非収載でした。

でもね、上の商品説明抜粋に「チュアンション」と書いたじゃないですか。日本の生薬の「川芎」(センキュウ)ってそのまま中国語読みすると「チュアンション」(ピンイン:Chuān xiōng)なんですよね。センキュウもセリ科だし、中国語Wikipedia(≫こちら)では「Ligusticum Striatumはセンキュウと同じ」と書いてあるので、同等とみなしてよい植物です。

百度「四物汤」(≫こちら

シボット

中国の四物汤(四物湯)に入っているものを見てみました。
「トウキ、センキュウ、シャクヤク、ジオウの4つの主成分から作られ、補血・滋養強壮に効果のある漢方薬として古くから親しまれています。」(以当归、川芎、白芍、熟地黄四味药材为主要原料熬制而成,是中医补血、养血的经典药膳。)

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日本の四物湯(ツムラ71番):トウキ、ジオウ、センキュウ、シャクヤク
中国の四物汤:トウキ、ジオウ、センキュウ、シャクヤク
フィリピンのシボット(Sibot):トウキ、ジオウ、センキュウ、トウジン

シャクヤク(≫こちら)とトウジン(≫こちら)は確実に別種なので、フィリピンのシボットは漢方薬の四物湯と4つ中3つまで成分が一緒、と言える。・・・が、誤記である可能性も捨ててはいけない。まだまだ情報を突き止めていきます。

* * *

そんなこんなでSibotについて探し物をして1日経過。
シボットの別商品で、漢字が書かれているものを見つけました。

Sibot / Sibut Spice 10g|Lazada(≫こちら

シボット

拡大しますと、

シボット

揃った!!

「当归」「熟地」「川穹」「炒芍」と書いてあります!!! 順に、トウキ、ジオウ、センキュウ、シャクヤクです!

フィリピンのシボット(Sibot)1:トウキ、ジオウ、センキュウ、トウジン
フィリピンのシボット(Sibot)2:トウキ、ジオウ、センキュウ、シャクヤク

フィリピンのシボットの2商品の違いは、1が誤記である可能性が高い。なぜならネットの文章はコピペミスや校正不十分による間違いだらけだからだ。商品パッケージに直接印刷された文字のほうが景表法のような規律に則っているだろうから正確である可能性が高い。よってフィリピンのシボット(Sibot)は上の2の「トウキ、ジオウ、センキュウ、シャクヤク」としたい

まとまりました。

<結論>
日本の四物湯(薬局製剤漢方配合薬のほか、エキス顆粒剤だとツムラ71番)、中国の四物汤、フィリピンのシボット(Sibot)は、すべてトウキ、ジオウ、センキュウ、シャクヤクの4つを含む。

まさに、シボットは四物湯だったのです。

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知る人ぞ知るフィリピン料理に「スープナンバーファイブ」があります。

スープナンバーファイブ

このレシピによく登場する「Sibot」が日本では四物湯(しもつとう)に相当することが分かりました。日本でも使用実績が長い漢方配合薬なので、身近さを感じます。

スープナンバーファイブは、主に牛の男性器(陰茎と睾丸)を具にしています。日本でもよく民間療法的に「具合が悪い部位を食べる」と言います。骨を強くしたければ小骨も食べるとか、心臓が悪いならハツを食べるとか。だから、男性にとって陰茎や睾丸を食べることは精力や男らしさの回復であり、そのようなイメージも持たれて食べられてきたことと思います。

でもね、漢方薬の世界では、セリ科トウキセンキュウは超代表的な女性向けの漢方薬です。血を養う効能があります。

よって、スープナンバーファイブは、男性の精力をつける具と、女性用の養血や益気の漢方が入って、すなわち男女問わずに元気が出る料理ということなのです。これは意図的に男女共用になるように作られていますね。いやあ、ホント実に上手いこと作られていますわ。

やはり私はスープナンバーファイブを自宅で作ってみたい。ここまで学んで、決意しました。


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本記事、レシピ内容及び写真の著作権はすべて管理人:松本あづさ(プロフィールは≫こちら、連絡方法は≫こちら)にあります。読んでくれた方が実際に作って下されば嬉しいですし、料理の背景やTipsなど、世界の料理情報の共有を目的として、大事に作成しています。
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