ミャンマーのカレーの基本は「旨い油煮」です。ただ日本の調理ではおそらく滅多に見ない技法です。私は少しでも調理のコツを得たいと思い、ある日チェッターヒン(ミャンマーチキンカレー)を作る現地の動画を見ていました。
◆Burmese Fragrant Mild Chicken Curry with Lemongrass (All in one-pot recipe)(≫こちら)
おや、チキンカレーなのにフィッシュパウダーを入れるのですか。鶏肉だけでも十分美味しいはずだけど、なるほど、こういう「複合旨味」で一枚岩ではない美味しさを作るのだろうな。
で、この「フィッシュパウダー」を日本の調理でどう代用したらよいか、まずこの「フィッシュパウダー」のことを詳しく知りたいと思いました。
私は普段は絶対と言えるほど世界の料理情報を日本語では見ないのですが、ここでは「日本の食材でミャンマーカレーを作るミャンマー人の作り方」を知りたいので、その条件に合う動画を見つけました。字幕は日本語です。
◆【ミャンマー編】旨味しみ込む ミャンマーの「チキンカレー」|Myanmar|Curry(≫こちら)
日本のミャンマー大使館のミャンマー人がミャンマーカレーを作っています。
顆粒の和風かつおだし登場・・・
(しかも小さじ2って多いだろ・・・)
日本人視点からだと、ミャンマーカレーに和風だしを、しかもそんなにたっぷり入れることが不思議ですが、ミャンマー人視点だと、チキンカレーに魚の風味をつけたいから採用したレシピなのだろうな。
でも魚はかつおでいいのかな? ミャンマーで使われるフィッシュパウダーがかつおとは聞いたことがないし、また日本には様々な魚製品があるから、もっといい代用もあるんじゃないのかな?
* * *
検証してみましょう。
まずは、ミャンマー人が使っていた「フィッシュパウダー」に使われる魚の種類を突き止めたいです。
◆Maesri (Fish Powder)|NAN OO SHIN(≫こちら)
ありました。原材料は「ドライフィッシュ(リザードフィッシュ)、塩、砂糖、コーンスターチ」(Dried Fish (Lizardfish), Salt, Sugar, Corn Starch)のみ。化学調味料無添加で良いですね♪
リザードフィッシュ?
聞いたことあります・・・。多分食べたことあるんじゃないかな・・・。なんだったっけ。
◆Google検索「lizardfish」
エソか!
うちの近所の道の駅で買ったことあります。釣り師の嫌われ魚なのか、投げ売りのような安価で売られます。でもエソって、めちゃくちゃ身が美味しい んですよね。小骨が多いため、以前買ったときは、身の肉を丁寧に掻き出して包丁でたたいてつみれ揚げにして食べました。ふわふわほこほこして、絶品の味わいでした。
* * *
なるほど、確かにエソパウダーがあれば、いろいろな料理を美味しくすることができるだろうな。自宅でもやってみたいな!
そこで、今度ミャンマーのチキンカレーを複合的な旨味を出して作りたいとき、フィッシュパウダーを日本でどう代用調達するかを考察しました。
1)エソが手に入ったら
エソが手に入ったら自作する。塩と砂糖が入った溶液に浸けてから天日干しにして、滑沢剤や賦形剤としての目的でコーンスターチを混ぜてグラインダーにかければできそうだ。
2)エソが手に入らないときの代用は
まず上のミャンマー大使館のレシピの振り返りですが、日本に生まれて日本で育ってきた人はかつおだしが自分の味なので、顆粒かつおだしはやめたほうがいい。スリランカのモルディブフィッシュ(現地のかつおぶし)の代用なら良いけれど、そうじゃないので。
日本人は幼少よりの経験からかつおぶしの風味を知っており、かつおぶしの風味は日本料理のアイデンティティととらえているから、料理からかつおぶしを感じると外国料理を食べている気持ちが損なわれてしまいます。
別の例を出すと、例えばタイ料理のカプラオ(ガパオ)という、タイバジルとひき肉の炒め物料理を、青じそで代用すると、単に青じそのひき肉炒めになり、料理から出る香りがいつもの日本の食卓の青じそ風味になるから、食べた人の感覚が日本から出られなくなりタイを感じなくなる。料理において香りは重要で、和の風味を強く出す食材を使うと、それを食べた人の脳は日本味を呼び起こすため、感覚が和食の世界に引っ張られてしまうのです。
なぜタイ料理のバジル炒め「กะเพรา」を日本ではガパオと言うのか
ミャンマー人はいいんです。和風かつおだしを使えば「チキンに魚の風味がついた」ことが再現できるし、かつおぶし風味があっても脳が日本味を呼び起こさない。ミャンマー料理を食べている感覚はぶれない。分かってください、この違い。
ということで、世界の料理作りにかつおぶしの風味を使わないほうが、異国感を維持できるので成功します。
私は世界の料理の研究者という立場で、香りを重視して、いつもこんなことを考えているのです。
<代用フィッシュパウダーの条件>
- スーパーなどで手に入るもので
- 魚の粉で
- かつおぶし系統のようないかにも和食のアイデンティティを作るにおいを出さず
- 煮干しやアジぶしやサバぶしのような青魚の味でもなく
- 身が美味しい白身魚で作られたもの
そうなると、思いつく選択肢がでんぶになりました。
↓このような。
まあピンク色は不要なので白いでんぶがあればそっち推奨です。
日本のフィッシュパウダー(あるいはパウダーの一歩手前の薄片)って青魚が圧倒的に多いんですよね。煮干し、さばぶし、むろあじぶし、そもそもかつおも青魚だしね。だけど、上のでんぶは鯛(タイ)の白身から作っているので(※)、エソの身に旨味が近いのです。
※でんぶにはいろいろあるので購入時には材料欄を確認する必要があります。
チェッターヒン(ミャンマーのチキンカレー)を作るとき、白身魚のでんぶがなければ省いてよいです。実際ミャンマーの現地のカレー動画を見るとフィッシュパウダーを使うレシピのほうが少ないです。そしてもちろんかつおだしを入れる動画はありませんでした。ミャンマー人レシピでもかなり高頻度で見かけるナンプラー(魚醤)で魚の旨味をつけるのが、現実的にやりやすいです。
このように、「チェッターヒンに魚の風味をつけて複合的な旨味にする」ことは是非やってみたいですね!!!
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◆Burmese Fragrant Mild Chicken Curry with Lemongrass (All in one-pot recipe)(≫こちら)
改めて動画を見直したら、
おお、フィッシュパウダーがでんぶに見えてきましたよ (^^)v まじででんぶでいけるんじゃないかこれ?(しかもめちゃ大量に入れてんなーすごいなー、←ミャンマー大使館で顆粒かつおだしが異様に大量だったことと今つながった)
タイトルに「バーミーズ(Burmese)の香り高きチキンカレー」と書いてある。チキンカレーであっても海の魚の風味をつけること、これはミャンマーの主要民族であるバマー(ビルマ人)の味を誇っているように思いました。