写真は、ベトナムから中国へ国境を越える日、ベトナムで食べた最後のお昼ごはん、「Bánh xèo」です。
米粉で生地を作り、少しのひき肉を具にして薄焼きにして、生野菜を添え、オブラートで包み、タレをつけていただきます。
今回、気になっていたこのベトナム料理名の発音について教えてもらうことができ、「bánh」の発音について私なりに大発見があったので、エッセイ形式で記事にしました。
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◆ベトナム人女性との再会
1年前に行ったレストランでベトナム人女の子が働いていました。話しかけてみるとベトナム中部のダナン出身だそう。1年経ってまたそのお店に行ったら、同じ女の子が働いていました。日本では学校に通いながらアルバイトをしているのだそう。日本語も中程度までマスターしていて、努力家なんだなと思ったこともあって、だからつい再会できたときは嬉しくて、私から「1年ぶりですね」と話しかけました。
◆ベトナム人がバンセオと発音したこと
日本語で「バインセオ」や「バインミー」と表記される料理は、日本でも人気の出ているベトナム料理です。日本語でネット検索しても多数の記事が出てくることからも日本人の関心が高いことが分かります。ただ、そのベトナム人の女の子は、「Bánh xèo」を常に「バンセオ」と発音するんですね。
その料理名のベトナム語の綴りを書いてもらいました。彼女は日本語の読み書きもできるので、私はバンともバインとも言わずに、「次はその文字の発音を日本のカタカナで書いてください」と伝えました。
そうしたら、彼女の書くベトナム語は「bánh」、彼女の書くカタカナは「バン」だったのです・・・。
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◆「Bánh」の「á」について
日本語で「バインセオ」とよく表記される料理は、ベトナム語表記では「Bánh xèo」です。また「バインミー」とよく表記される料理は、ベトナム語表記では「Bánh mì」です。「Bánh」はパンやお菓子など、広く粉ものを指す言葉です。確かに「バン」と読んだときは、フランス語やポルトガル語(そして日本語でも)の「パン」と発音が酷似しています。中国語では「ピンないしビン(簡体字:饼、繁体字:餅、ピンイン:bǐng」で、粉もの料理に使われる漢字です。これらはどれも粉もの料理に充てられる言葉です。
「Bánh」の「aの上にある/の記号」は、上げ調子で読むという発音指示です。
※この点で「/」や「\」が上げ下げを示さないフランス語とは決定的に異なります。
ベルギーのサラダから、フランス語料理名におけるアクサン(éやè)が分かる。
実際にベトナム人が解説する「Bánh」の発音を動画(≫こちら)で聞いてみました。
・・・うわ、確かに「Bánh」はバインではなく「バン」だ。そして確実に上げ調子で読まれています。
◆「Bánh」(バン)が日本語で「バイン」と書かれる理由の考察
ここまで来て、「Bánh」(バン)が「バイン」と書かれる理由が推測つきました。もし「バン」と表記すると、日本人は「バ」にアクセントを置いて下げ調子で読んでしまうのです。ベトナム語ではアクセントが重要なので上げ下げの声調が変わると意味が通じなくなることもあるでしょう。しかし、文具のバインダーのように「バイン」と表記すれば日本人は上げ調子で読みやすくなり、声調が一致しているのでベトナム人にも通じやすい。
もうひとつ。
「Bánh」の「Bá」は「バ」と読めますが、日本人には「nh」が読めませんね。「nh」の発音を解説するサイト(≫こちら)を見て、「口を横に開いて、舌を前方に出す」という口の形は、日本語の「イ」に近いと思いました。事実、ベトナム人女性が読み上げる上がり調子の「バン」の中には、わずかに「イ」の要素が聞こえることがありました。よって、「バンと書いて下げ調子」で読まれるより、「バインと書いてイが強く読まれ過ぎたとしても上げ調子」のほうがベトナム語の「Bánh」に近い。ただし、もちろん「上がり調子でバンと読む」のが良いことには論を待ちません。
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◆今回のことより得た結論と当サイトの方針
- ベトナム人の「Bánh xèo」の発音は「バン」を上げ調子で読む「バンセオ」である。
- でも「バンセオ」とカタカナで書くと日本人は下げ調子で読んでしまうため、上げ下げの声調が逆転してしまい、正しい発音とかけ離れる。
- そこで、「バインセオ」とカタカナで書けば、日本人は「バイン」を上げ調子で読みやすく、正しい発音に近くなる。
- 最も現地の発音に近いカタカナ表記は「バンセオ」であり、日本語として浸透しているカタカナ表記は「バインセオ」であり、今後サイト内表記をどちらかに統一するよりも、両方を併記するほうが良いと思われる。
- そこで当サイトでは、レシピページでは「バンセオ」と「バインセオ」の両ページを作成し、各国料理や日記などの記事中の表記は「バンセオ(バインセオ)」のように併記する。「バンミー(バインミー)」など、他の料理も同様に取り扱う方針である。
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写真は、ベトナムから中国へ国境を越える日、ベトナムで食べた最後のお昼ごはん、バンセオ(バインセオ、Bánh xèo)です。米粉で生地を作り、少しのひき肉を具にして薄焼きにして、生野菜を添え、オブラートで包み、タレをつけていただきます。
私が初めてベトナムに行ったときは、言語が簡単とされるマレーシアやインドネシアをまわった後でした。なのにホーチミンから入国して、いきなり言葉の発音が難しくなり、人々の発音をメモすることさえ困難を極め、面白さを感じ得る前にベトナムから離れてしまいました。
今回、日本語が話せるベトナム人女性のおかげで、このベトナム料理名の発音がしっかりと解決できました。ただ一つの単語の読み方が分かったことが嬉しいというよりも、それ以上に、ベトナム語に面白さを感じるようになれたという私自身の変化を感じることができた、それが何よりも嬉しいのです。こういうポジティブな思いを抱ければ、私自身ももっとベトナム語を尊重してベトナム料理の世界に入っていけるのだと思うのです。これからも、努力を続けていこうと、改めて思いました。チャウちゃんありがとう!