モンゴル料理

+++新着+++

  • キャッチタイトルを修正しました(更新時点でモンゴルに滞在しています!)。

【基礎情報】

国名:モンゴル国Mongolia、首都:ウランバートル、ISO3166-1国コード:MN/MNG、独立国(1911年清(現中国)より)、公用語:モンゴル語、通貨:トゥグルグ

▲目次に戻る


【地図】

モンゴルは中国とロシアに挟まれるように位置しています。カザフスタンや朝鮮半島にも近いところにあります。

▲目次に戻る


◆モンゴルは変化の真っ只中!!遊牧民の肉と乳の食文化に、近世の小麦、現代の野菜。

かつて歴史上一番大きな国を作ったのはモンゴルです。馬に乗って世界を席巻し、世界最強の帝国を作りました。モンゴル人の生活は馬と家畜に支えられ、その馬と家畜を育むのは牧草であり、牧草の土壌は大地です。だからモンゴル遊牧民は大地を尊重し、家を建てるときも地面に柱すら刺さない。墓碑をたてる文化もない。モンゴル人は土を傷つけない民なのです。畑を耕さないから野菜がない。肉と乳製品と、遅れて定着した小麦粉が、モンゴル料理を語る柱となります。

モンゴルのゲル
家族6人が暮らすゲル(幅5mのテント)にホームステイ。調理を学んだ。(撮影地ウランバートル)<

モンゴルは「世界で一番人口密度の低い国」です。「人口密度が世界一低い」ということは、「世界で最も人が住みにくい国」ということでもあります。首都ウランバートルでさえ標高1300mもあり、モンゴルには草原のイメージがあるけれど、実は意外に山地が多くあります。草原も広がりますが、草原=耕作していない=人が定住していない土地=人が住めない土地、なのです。そして大きな川がない=水がない、なおかつ砂漠=雨が降らないのでは、人口はなかなか増えていかないですよね。「世界で一番人口密度の低い国」とは、そういうことです。

しかし、紀元前からそこには草原遊牧国家が建設され、人々はそのような環境に適応した生活をしてきました。モンゴル料理を理解するためには、その「遊牧民」としての暮らし方を理解する必要があります。

家畜は牧草を食べるので、人は家畜の食べる草がある場所を求めて、「ゲル」と呼ばれる家を分解して運び、住居そのものを随時移動します。

  1. 初夏、家畜の出産シーズンを迎え、乳を集めます。女性は、乳から脂肪分を取り、その残りを加工し、ヨーグルトや保存用ヨーグルトなど、大量の乳製品を作っていきます。
  2. 夏、羊毛を刈り取り、フェルトを作ります。彼らの家の壁は、羊の皮で作るフェルトが断熱材になっています。
  3. 秋、食肉にする家畜は太らせ、そうでない家畜は交尾させます。牛糞は雪が降る前に拾い集めます。牛糞は家の中で燃やすために使用します。糞を燃やす火が、調理をし、暖を取る、暮らしに欠かせないものになっています。
  4. 冬、肉をさばきます。屋外は天然の冷蔵庫又は冷凍庫なので、そのまま肉を保存することもできますが、干し肉もたくさん作って備えます。さばく羊は決して無駄にしない。1滴も血を落とさないのがルールであり、血は腸に詰めてソーセージにします。内臓を生活用の袋にし、皮をとり、すべてを活用します。大晦日から正月にかけ、蓄積しておいた肉をボーズ(肉シュウマイ)にして食べます。作るときは何百何千のボーズの下ごしらえ(包み終わった状態)をし、屋外でカチカチに凍らせておきます。こうすれば後はいつでも随時ボーズを食べることができるのです。
  5. 春になると、越冬用の肉は食べつくされますが、草原は雪解け、低地から順次草が生え、また初夏の出産シーズンを迎えていきます。

以上、簡単にモンゴルの四季を見てみました。こうした遊牧民の暮らし方を理解すると、、モンゴルの食文化において、生乳の加工品や肉がとても大事な位置を占めることが分かるのです。
▲目次に戻る

主食と小麦 Staple & Wheat

モンゴル人の主食は小麦製品です。パンを焼いたり、餃子やシュウマイの皮にしたり、麺をうって食べたりします。

モンゴルにおける小麦生産の歴史は19世紀末に始まります。
モンゴルにおける小麦栽培の歴史と現在の状況を調べました。

移住した中国人が自分用に栽培していたのがきっかけとのことで、やがては国家プロジェクトとなるまで小麦の生産には力が注がれます。現在はほぼ完全自給を達成しています。たった100年ちょっとの歴史しかありませんが、モンゴルにも小麦粉を利用する料理が普及しました。餃子やシュウマイっぽい料理としては、ボーズ(シュウマイ)や バンシュ(餃子)、ホーショール(大きな揚げ餃子)、シャルサンバンシュ(小さな揚げ餃子)、バンシュテイシュル(餃子入りスープ)、バンシュテイツァイ(餃子入りミルクティー)などなど、小麦粉を使う料理はたくさんあります。

ボーズ(シュウマイ)やバンシュ(餃子)は中国に由来すると思われますが、羊肉のミンチを使用する点で、日本や中国の主要な味とは異なる風味をもっていて、羊肉が好きな私にはモンゴル版のほうが美味しいと感じるほどです。

その他小麦粉を主体とした料理には、バンタン(小麦粉粥)やゴリルタイシュル(汁そば。ゴリル=麺や小麦粉、シュル=汁)などがあります。
▲目次に戻る

白い食(乳製品) Tsagaan Idee / White food

夏の食べ物は、乳製品すなわちモンゴル語で「ツァガーンイデー」(直訳して「白い食」)が主体となります。しかしモンゴル人は遺伝的に「乳糖不耐性」なのだそう。つまり生乳を飲むとお腹をこわす体質です。よって、生乳は直接飲まれず、加工されるのが特徴です。

「モンゴル5大家畜」とは、ヒツジ、ヤギ、ウシ(ヤクも含む)、ウマ、ラクダです。

うち、ヒツジ、ヤギ、ウシの生乳は、温めてウルム(脂肪分)を取ります。ウルムを加熱して黄色い脂肪分を得たものがシャルトス、シャルトスの残りの白い油がチャガントス、水分を含むクリーム状の残渣がツツギーです。なおウルムトルコやその周辺国ならびに中央アジア諸国でカイマックと呼ばれるものと同じものです。

系統図(略図)をまとめました。

スー(生乳)
┣━━━━━━━┓
┃      ウルム(乳脂肪分)
┃       ┣シャルトス(黄油)
┃       ┣ツァガントス(白油)
┃       ┗ツツギー(クリーム)
(脱脂乳)
┣━━━━━━━━━━┓
エドスンスー(低発酵)    (高度発酵)
タラグ(より発酵、ヨーグルト)  ┃
┃        アールツ(水きりヨーグルト)
ビャスラク(水きりヨーグルト)  ┃
エーズギー(煮詰めたチーズ) アーロール(乾燥チーズ)

このように、加工段階の1つ1つに名前がついているのは、「その民族の関心が深いものは語彙が豊富である」という言語学の基本の通りだと思います。なお、モンゴル国内でも地域による呼称差(あるいは調査研究者の報告の非統一性)があります。
モンゴル族の乳製品加工体系

ウルムを取ったあとの脱脂乳は置いておくと乳酸発酵を始め、私たちがヨーグルトと呼ぶものに近いタラグが生成します。タラグから水切りヨーグルトを作ったチーズがビャスラクで、タラグをそのままキャラメル状に煮詰めたチーズがエーズギー

脱脂乳を高度発酵させて水切りしたものがアールツで、アールツを薄切りにして乾燥させたものがアーロールです。アーロールは酸味が強いので砂糖を混ぜて乾燥させることも多くあります。
▲目次に戻る

赤い食(肉類) Ulaan Idee / Red food

一方で、冬の食べ物は、「ウランイデー」(直訳して「赤い食」)、すなわち家畜の肉です。「ウラン」は首都名のウランバートルのウランと同じで、赤という意味です(モンゴル人の発音はオランにも聞こえます)。遊牧民と聞くと肉ばかり食べていそうなイメージがありますか? でも実は肉もそうそう食べられるものでもなく、冬の間は少しずつ肉の備蓄を食べているのです。上述のボーズ(シュウマイ)やバンシュ(餃子)のほか、チャンスンマハはゆでた羊肉、ツォトゥガサンゲデスは腸詰め、ハウラカタエシュルはあばら骨スープ(ハウラカタエ=スペアリブ、シュル=スープ)、オーツは羊の背肉の丸茹で、ホルホグは羊肉の石焼き、ボードグはヤギ肉の石焼きといったように、肉類の料理の種類は多いです。

チャンスンマハかチャナサンマハか、の疑問から、モンゴル語のすごい母音ルールを知った。

なお、現在では冷蔵庫も普及し、市場では一年を通して精肉が売られていますから、肉類が冬の食べ物というのは都会に来るほど古い話とも言えます。

また、西部カザフ族は馬肉(カズまたはアドゥニマハ)を食べます。カザフ族はかつてモンゴル西部と今のカザフスタンに分布している民族ですが、カザフスタンのカザフ族はソ連時代に遊牧民の定住化促進政策などを受けて本来の伝統生活を早くに失ってしまいました。よって、カザフ族の暮らしを保持しているのは、カザフスタンよりもモンゴルであると言われています。

なお、豚は水浴びをする習性があることなどから遊牧には適さず、よってモンゴルでは豚肉を食べる習慣はありません。
▲目次に戻る


料理名一覧 Food & Drink Glossary

【小麦粉関連の食事】
  • ゴリルテイシュル(гурилтай шөл)・・・汁そば
  • バンシュ(банш)・・・餃子
    • シャルサンバンシュ(шарсан банш)・・・小さな揚げ餃子
    • バンシュテイシュル(банштай шөл)・・・餃子入りスープ
    • バンシュテイツァイ(банштай цай)・・・餃子入りミルクティー
  • バンタン(бантан)・・・小麦粉粥
  • ホーショール(хуушуур)・・・大きな揚げギョウザ
  • ボーズ(бууз)・・・蒸しシュウマイ
【肉のおかず】
  • アドゥニマハ(адууны мах)・・・馬肉(モンゴル語)
  • オーツ・・・羊の背肉の丸茹で
  • カズ(каз)・・・馬肉(カザフ語)
  • チャンスンマハ(чанасан мах)・・・ゆで肉
  • ツォトゥガサンゲデス(цутгасан гэдэс)・・・腸詰め
  • ハウラカタエシュル(хавиргатай шөл)・・・肉つきあばら骨スープ
  • ホーショール(хуушуур)・・・大きな揚げギョウザ
  • ボーズ(бууз)・・・蒸しシュウマイ
  • ボードグ・・・ヤギ肉の石焼き
  • ホルホグ・・・羊肉の石焼き
【乳製品】
  • アールツ・・・水きりヨーグルト
  • アーロール(ааруул)・・・乾燥チーズ
  • ウルム・・・脂肪分
  • エーズギー・・・煮詰めたチーズ
  • シャルトス・・・黄油
  • タラグ・・・ヨーグルト
  • ツァガントス・・・白油
  • ツツギー(цөцгий)・・・クリーム
  • ビャスラク・・・水きりヨーグルト
【酒類】
  • アイラグ・・・馬乳酒
  • アルズ・・・アルヒを再度蒸留したもの
  • アルヒ・・・蒸留酒
    • シミーンアルヒ・・・生乳由来のアルヒ
    • ツァガーンアルヒ・・・小麦由来のアルヒ
  • クミス・・・馬乳酒

▲目次に戻る


Link

▲目次に戻る