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- 「主食(パン)」の項にタンディルの説明を追記しました。
【基礎情報】
国名:アゼルバイジャン、Republic of Azerbaijan、首都:バクー、ISO3166-1国コード:AZ、独立国(1991年ソ連崩壊)、公用語:アゼルバイジャン語、通貨:マナト。
【地図】
アゼルバイジャンはコーカサスの国で、東側がカスピ海に面しています。北にロシア連邦ダゲスタン共和国、北西にジョージア(グルジア)、西にアルメニア、南にイランと接し、アルメニアのむこうに自国の飛び地であるナヒチェバンをもち、ナヒチェバンはさらにトルコと接しています。
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◆アゼルバイジャン料理は、豊かさを増したテュルクの食文化
アゼルバイジャン料理の特徴は、多くの文化要素がもたらされ、豊富な自然の産物で構成されていることです。アゼルバイジャン人はテュルク系の民族です。テュルクの遊牧の食文化は肉や乳をもたらし、コーカサス山塊の食文化とあいまって乳製品の使用が発達し、更にペルシャの農耕の文化は小麦や米や野菜やハーブを恵みます。そしてカスピ海があるから魚やキャビアもあり、温暖な気候ゆえ果物もナッツも日常食です。ハーブを刻んだ素晴らしい香りの料理が多く、アゼルバイジャン料理はとても豊かだなと感じます。
*アルツァフ共和国(2017年以前のナゴルノカラバフ共和国)は、独立宣言をした上で非独立3か国にのみ承認されている国家です。実質はアルメニアですが、国際的承認のもとではアゼルバイジャン内の自治共和国という地域です。ISO3166国コードを有さない(あるいはAZ:アゼルバイジャンに属する)ことから、当サイトでは、アルツァフを一か国としてみなさず、ナヒチェバンと並んでアゼルバイジャンの一地域として取り扱います。
名物料理はカスピ海で獲れる魚です。魚はバルックと総称します。(撮影地バクー)
「アゼルバイジャン料理」と聞いても、日本人は普通は訪れる機会のない国で、馴染みが薄く、なかなかピンとこないものです。
アゼルバイジャンの理解の入り口は、まず「コーカサス」の概念から。
航空写真を見てみると、黒海とカスピ海をつなぐように東西に雪山の白い色が連なります。これがヨーロッパ最高峰エルブルス山で知られるコーカサス山脈で、その北側(北コーカサス)はロシアの各共和国群(北オセチアやチェチェンなど)が並び、南側(南コーカサス)はジョージア(グルジア)、アルメニア、アゼルバイジャンがあります。民族紛争の絶えない地域という印象を持つ人も少なくないでしょう。
トルコ料理のページにも書きましたが、「トルコ人はもともと今のトルコにはいなかった」。彼らは、古くは今のモンゴルのあたりから西へ西へとユーラシア大陸を移動していったテュルク系遊牧民が起源です。今のアゼルバイジャン人が分布する地域はテュルク西進の通過点で、古くはペルシャの支配やアラブの征服ののち、11世紀頃から住民のテュルク化が進みました。アゼルバイジャン語はテュルク系の言語ですからアゼルバイジャン人の文化的基盤はテュルクの文化です。料理の点でも、アゼルバイジャン料理はトルコ料理にとても似ています。
次に「アゼルバイジャン人」の理解へ。以下はざっとした数値ですが、
- アゼルバイジャン人は3000万人
- アゼルバイジャンの人口は1000万人
- アゼルバイジャンのアゼルバイジャン人は900万人
- イランのアゼルバイジャン人は2000万人
・・・これがどういうことかというと・・・。
「アゼルバイジャン人」の主要分布地域は、現在のアゼルバイジャン共和国の本体と飛び地のナヒチェバンとイラン北部です。19世紀初頭、国土拡大を是とするロシアがコーカサス地方を支配するときに制定された国境線が、大多数のアゼルバイジャン人を残したペルシャ(イラン)と、その後ソビエト連邦構成体となるアゼルバイジャン共和国とを切り離します(ついでにこの線引きが飛び地のナヒチェバンを生みます)。
つまり、アゼルバイジャンはアゼルバイジャン人が大多数を占める国だけど、アゼルバイジャン人の大半はイランに居住している。つまりアゼルバイジャン人の文化は相当イランに広がり、イランの文化が相当アゼルバイジャン人に根付いている。これ、重要なことだと思います。実際、アゼルバイジャン料理には、イラン料理との共通点が多数見いだされます。
コーカサスって本当に難しいですよね。特にアゼルバイジャンは、その地理上、多くの勢力が東奔西走、南進北進した舞台です。でも、だからこそ、1)コーカサスの土地柄に、2)アゼルバイジャン人を形成する基礎となったテュルクに、3)アゼルバイジャン人が多いペルシャ(イラン)、それから4)ロシア/ソ連の影響も入り、多くの文化要素がもたらされました。そうして「肉と乳」を基礎とするテュルクの食文化はここではとても豊かなものになりました。産油国であることもアゼルバイジャン料理の豊かさに輪をかけていることでしょう。
以上、アゼルバイジャンとアゼルバイジャン料理を理解するための概要を紹介しました。以下各論では、項目別にアゼルバイジャン料理を詳解していく予定です。
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主食(パン) Staple (Bread)
アゼルバイジャン料理の主食はパンです。田舎ではタンディル(təndir)という土窯で焼かれますし、都市でも見かけます。チョレーチという厚さ約3 cm・直径20 cm以上もある円盤状のパンが一般的です。
アゼルバイジャン語ではパンがチョレーチという発音になる。
非発酵生地を薄く(まるで紙か布のように)焼いたラバシュというパンもあります。ラバシュはアルメニア料理として有名で、アゼルバイジャン内ではグバドリやザンギランなど、アルメニア人居住地域に多くあります。ラバシュは乾きやすく戻しやすいので、乾燥状態で何か月も保存が利きます。
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スープ類 Soup
ショルバはテュルクの文化を代表する塩味の澄んだスープです。羊肉、ヒヨコマメ、玉ねぎ、にんじんなどの具を入れ、大きな鍋で大人数分を作り、ときに仕上げに乾燥ハーブのみじん切りを加えて作ります。
ピティは1人分ずつ壺ないしティーカップ仕立てにして作る個別スープで、羊肉、ヒヨコマメ、玉ねぎ、じゃがいも(または栗)などの具が入ります。労働者の食事ゆえ動物の脂身も入ります。最初にスープだけをパンの上に注ぎ、スマック(日本のゆかりに似たハーブふりかけ)をかけて食します。続いて壺に残った具を皿にあけてマッシュアップし、脂肪分を他の具になじませて食します。ピティはアゼルバイジャンの国民食ですが、隣接するロシアのダゲスタン共和国や近隣の中央アジア各国で同じ名前で定着し、イランではディジやアーブグシュトと呼ばれています。
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料理名一覧 Food & Drink Glossary
【主食類】
- チョレーチ(Çörək)・・・円盤状のパン
- ラバシュ(Lavaş)・・・非発酵生地を薄く焼いたパン
【スープ類】
- ショルバ・・・塩味の澄んだ肉スープ
- ピティ・・・壺ないしティーカップで作る個別スープ