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- スープ類の項を記載しました(今後の投稿は、肉のおかず、ノンアルコールドリンクなどを予定しています)。
【基礎情報】
国名:タジキスタン共和国、Republic of Tajikistan、首都:ドゥシャンベ、ISO3166-1国コード:TJ/TJK、独立国(1991年ソ連解体)、公用語:タジク語、通貨:ソモニ。
【地図】
タジキスタンは中央アジアの国です。東西南北を、それぞれ、中国、ウズベキスタン、アフガニスタン、キルギスと接しています。
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◆シルクロードの料理と、ソ連の料理と、山岳の食文化
「サマルカンドにブハラ。タジク人の都には、シルクロードの浪漫を感じませんか」・・・と、ここまで書いて、「それってウズベキスタンの街でしょ」と言われそう? 確かに。でも。
タジキスタン最古の料理の1つ、クルトップ。固形ヨーグルトを水に浸して戻したもの。(撮影地カラクル)
中央アジアと言えば、一般的にはカザフスタン、キルギス(キルギスタン)、タジキスタン、ウズベキスタン、トルクメニスタンの5か国を指します。これら「スタン」系の国が出来たのは、ソ連が始まる頃、およそ100年ほど前のことです。
中央アジアの民族は、ソ連時代ならびに前ソ連時代の支配者層といえるロシア人(スラブ系)を除くと、主にテュルク系(トルコ系)とペルシャ系に大別されます。ペルシャ系とテュルク系では人の顔立ちも言葉も違います。ペルシャ系民族は古くからの定住民族で、中央アジアを代表する料理であるナン(ノン)というパンや、プロフ(パロウ)という炊き込みごはんは、ペルシャ系民族の調理技術が起源です。一方でテュルク系民族は、突厥(とっけつ、6世紀)などが徐々に西遊して中央アジアに到来した遊牧民であり、シャシリクやケバブと呼ばれる串焼きの肉料理は、これら遊牧民が起源と言われています。このように、中央アジア料理は、もともとあったペルシャの文化にテュルクの文化が混ざり、さらにこの100年でソ連の各構成国の料理が浸透しました。
「タジク人」と「タジキスタン料理」を理解するために、もう少し基礎知識が必要になります。
ロシア革命を経てソ連が始まった頃、中央アジア地域では「トルクメン人の国はトルクメニスタン」というように、表向きには民族ごとの国家が新設されてソ連の構成国となりました(実体は民族分布からずれたところに国境線が引かれました)。
タジキスタンは当初ウズベキスタン内の自治州でした。5年経って、「タジキスタン」(タジク人の国)として分離することになったとき、サマルカンドやブハラというタジク人の繁栄する都はウズベキスタンから取り戻せなかった(なおかつそこに住むタジク人は国籍をウズベク人とされてしまった)。結果として、「タジキスタン」が生まれた時点で、その国土は大半が山岳地帯というものだったのです。
タジキスタン料理の概要は、以下の通りです。
- ペルシャとテュルクが混交した、中央アジア・シルクロードに共通する料理
- 険しい山岳地帯の、牧畜に依存した肉や乳製品の料理
- ソ連の各構成国の料理
ソ連が樹立してもうすぐ100年。つまり、タジキスタンが生まれてもうすぐ100年。しかしシルクロードの歴史は長い。人々がそこで暮らしてきた時間はもっと長い。タジキスタンにある土着の料理は、はるかに長い時間をかけてその土地に根付いてきたのです。
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主食 Staple
主食としてよく食べられているのは、ノン(厚さ3cmくらい、直径20~25cmくらいの円盤状のパン)です。ナン、あるいはロシア語でリピョーシカとも呼ばれます。小さめのノンはクルチャと呼ばれます(大小に関わらずリピョーシカとかノンと言う人もいます)。
プロフ、別名オシュは、イラン料理のポロとルーツが同じと言われる炊き込みごはんで、タジキスタン版の定番は肉とにんじんと皮つきまるごとにんにくが入っています。油をたっぷり使ってパラパラに炊かれていて、中国新疆では「手抓饭」(ショウジュアファン)とも書かれる字に表れているように、古式には食事を囲む皆で手づかみで食べます。もちろん今どきはスプーンで食べたり一人分の器で提供されることも多いです。
麺料理は、中国を起源とするラグマン(ラグモン)があります。手打ち麺をトマトと野菜のスープ仕立てにしたものです。
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スープ類 Soup
シュルポ(シュルパ)は中央アジア一帯に広まる伝統スープで、骨付きの羊肉、角切りのじゃがいも、にんじん、玉ねぎなどを塩味で煮込んだ、羊肉の風味と旨味がよく出た美味しいスープです。ロシア料理で有名なボルシュもあります。また、茶色くて塩味のシュルポと対比しボルシュは赤くて甘いスープという位置づけで、ボルシュをビーツでなくトマトで作るレシピもあります。
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乳製品 Dairy Products
食材の名前は、食文化において重要な位置づけになるほど細分化されていくものです。例えば日本では魚の名前には敏感で、1つの種の魚にも成長段階に応じて呼称を変えたりしますよね(出世魚)。アラブ圏だと「魚は魚だ」(サマックはサマックだ)とひとくくりに呼ぶのはまさに文化の違いです。逆に日本人は発酵した乳製品を見れば、きっとみんなヨーグルトと呼んでしまうでしょう。しかし中央アジアやモンゴルでは生乳の発酵・加工段階に、まるで日本の出世魚のごとく細かい名前がついています。
モロコは生乳。モロコを90℃に温めて上澄みの脂肪分をすくい取った物がカイマック、カイマックを取ったあと発酵させたもので、薄くゆるいのがアイラン、濃いのがカティーク、アイランまたはカティークを布袋に入れて水気を切ったのがスズム、スズムを丸めて乾燥させたのがクルト。クルトは生乳の保存食と言えます。クルトにオブ(水)を足して戻したものは、呼び名もクルト+オブ=クルトップであり、ヨーグルト仕立てのスープになったところにパンをちぎって入れて浸して食べます。クルトップはタジキスタンの土地で最も古い料理の1つと言われています。
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ノンアルコール Nonalcoholic Drinks
タジキスタンの食事にはお茶がつきものです。紅茶や緑茶は陶器のティーポットで出され、ソーサーも取っ手もないカップ(ピアラ)で、お砂糖なしでいただきます。
タジキスタンの食の基本は、円盤状パン(ロシア語でリピョーシカとも呼ばれ、クルチャと呼ぶパン(≫こちら)もノンに含む)。そして飲み物はチョイ(お茶)。お茶は緑茶(タジク語及びパミール語でカブーチョイ)や紅茶(タジク語でチョイフォーミル、パミール語でタールチョイ)です。基本は無糖で提供され、客が好みで砂糖を加えて飲みます。
時にはミルクの入ったシルチョイширчойを。茶+ミルク+水(お湯)+塩」、つまり、中央アジアの遊牧文化に広がるミルクティーです。ここにバターを落としいれ、溶けて表面に浮かんだら、ちぎったノン(パン)を浸していただきます。
トレイには、ナッツや菓子が乗っています。
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料理名一覧 Food & Drink Glossary
【主食】
- オシュ(ош)・・・炊き込みごはん
- クルチャ・・・小さめの円盤状のパン
- ナン(нан)・・・円盤状のパン
- ノン(нон)・・・円盤状のパン
- プロフ(плов)・・・炊き込みごはん
- ラグマン(лагман)・・・手打ち麺をトマトと野菜のスープ仕立てにしたもの
- ラグモン(лагмон)・・・手打ち麺をトマトと野菜のスープ仕立てにしたもの
- レピョーシカ・・・円盤状のパン
【主食】
- シュルパ(шурпа)・・・羊肉とじゃがいも玉ねぎにんじんなどのスープ
- シュルポ(шурпo)・・・羊肉とじゃがいも玉ねぎにんじんなどのスープ
- ボルシュ・・・ビーツやトマトのスープ
【乳製品】
- アイラン・・・カイマックを取ったあと発酵させたもので、薄くゆるい
- カイマック・・・生乳を温めて上澄みの脂肪分をすくい取った物
- カティーク・・・カイマックを取ったあと発酵させたもので、濃い
- クルト・・・スズムを丸めて乾燥させたもの
- クルトップ・・・クルトに水を足して戻したヨーグルト飲料のようなスープにパンを入れて浸して食べる
- スズム・・・アイランまたはカティークを布袋に入れて水気を切ったもの
- モロコ・・生乳