+++新着+++
- 「肉のおかず」の項を新設しました(今後の投稿は、魚のおかず、乳製品などを予定しています)。
【基礎情報】
国名:パナマ共和国、Republic of Panama、首都:パナマシティー、ISO3166-1国コード:PA/PAN、独立国(1903年コロンビアより)、公用語:スペイン語、通貨:バルボア、米ドル。
【地図】
パナマは北米大陸と南米大陸をつなぐくびれの部分に位置します。西はコスタリカ、東はコロンビアです。
▲目次に戻る
◆米国が作った国に、スペインが作った典型的な食文化がある
世界にパナマを有名たらしめる、それはもちろん「パナマ運河」です。でもここにもともと国があったわけではありません。ここに大運河が作られた理由は、太平洋とカリブ海が接近する場所だったから。運河を作り利権を得るために米国が辺鄙な土地を独立国にし、パナマは「北米大陸の南端と南米大陸の北端」という、運河を挟んで「大陸の接点」を抱える国になりました。食文化の点では、米、トウモロコシ、豆、イモ、鶏肉、魚などをよく食べます。中世にスペインが来て、先住民の文化が壊された上にスペイン人が入植したという歴史が近隣の中南米諸国と共通することから、パナマ料理は、基本的には近隣の中米料理や、かつて同じ国だったコロンビアの料理と類似します。
ペスカドフリット(揚げ魚)やプラタノ(揚げバナナ)など典型パナマ料理。(撮影地パナマシティー)
パナマ運河を擁するパナマは、今や中南米における物流や経済の要衝です。でも運河を作る地理的魅力と運河の利権を欲しがる米国がなければ、パナマは国になっていなかった。事実、中世から続くスペイン領時代からパナマは今のコロンビアと同じ国でした(ヌエバグラナダ副王領)。だって単にコロンビアの端の僻地ってだけだもん。そしてそのことは、現在の中米8か国のうちパナマだけは南米側に属し、コスタリカ以北は中米連邦を形成していたという史実の根拠として重要です。
例えば煮込み料理「サンコーチョ」という料理名が他の中米諸国ではあまり浸透していない一方で、パナマ-コロンビア-エクアドル(かつてのヌエバグラナダ副王領ないしグランコロンビア)で共通してポピュラーなのは、「パナマが南米だった」史実と密接な関連があるだと思われます。コロンビアの国民食のアレパも、パナマではトルティーヤの名で存在します。パナマがコロンビアと同じ国だった時間はとても長いのです。
パナマ料理の背景は、簡単なようで難しいですね。
まとめると、
- 中南米各国と同様、先住民文化は壊され、料理や文化はスペインの影響が最大と言える。
- かつてコロンビア、南米の一地域だった。
- 米国による独立、傀儡政権、そして今も残る経済的つながり。
あと1つ付け加えて、 - 1人あたりの米消費量が多く、他の中米諸国よりも米をよく食べる。
今、パナマとコロンビアは陸続きとはいえ、実際はダリエンギャップ(広大な密林地帯)を隔てるため、車道はなく、人の行き来もあまりありません。現在のパナマ料理を語るは、第一には「中米の典型料理」を軸に、そして南米、米国、カリブとの共通点を加味して理解を進めていくと良いと思います。
▲目次に戻る
主食 Staple
中米の国々の中でも、メキシコ、グアテマラ、エルサルバドルあたりはとうもろこしが主食です。一方で中米南部すなわちコスタリカやパナマ方面にいくと、米食が多くなってきます。今回ここで語るのは、米食圏としてのパナマ、ということになります。
※参考:1人あたり年間米消費量(2012、単位kg、出典FAO Statならびに≫こちら)
メキシコ 5.5、ベリーズ 31.8、グアテマラ 5.2、エルサルバドル 10.1、ホンジュラス 15.3、ニカラグア 43.5、コスタリカ 49.5、パナマ 62。(参考:日本 43.9)
パナマの主食はアロース(米)です。すごいことに1人あたりの米消費量が日本のざっと1.5倍! 国内で稲作も行われ米農家の保護を含む政策も施行されていますが自給率は低く、多くの米を米国から輸入しています。白いごはんはアロースまたはアロースブランコ。また炊き込みごはんも好まれ、アロースコンポジョ(鶏肉炊き込みごはん)やアロースコンワンドゥ(豆ごはん)はパナマの国民食です。
ワチョはとろみのあるどろっとしたスープです。昔はニャメ(ヤム芋)を入れて作られていたそうですが、今は米を入れて作るので、ワチョは「雑炊」と言えます。にんにくや香草が入ってとにかく旨い。イカや貝が入ったワチョデマリスコス(いわば海鮮雑炊)が一般的で、その他ワチョデガジーナ(鶏雑炊)もあります。
中米各国のうち、メキシコやグアテマラではトルティージャ(トウモロコシ粉の生地を練って薄焼きにしたもの)が主要な炭水化物源ですが、米を多く食べるパナマではトウモロコシ粉の消費が少なくなります。そればかりでなく、トルティーヤ(中米他国ではトルティージャでもパナマ方言ではトルティーヤと呼ばれる)は形が変わり、トウモロコシのマッシュを小判型(コロッケのよう)に成形したもので、メキシコのトルティージャとは名前が似ても非なるもの。それはまるでコロンビアのアレパなのです。トルティーヤフリッタ(揚げたトウモロコシ粉コロッケ)やトルティーヤアサーダ(焼いたトウモロコシ粉コロッケ)として、チーズや卵を添えて朝食によく食べられます。
米とトウモロコシ以外の炭水化物源には、ユカ(キャッサバ芋)、ニャメ(ヤム芋)、ニャンピ(タロイモ)、オトエ(マランガ芋;サトイモに似た芋)、パパ(ジャガイモ)、プラタノ(バナナ)などがあり、ごはんやおかずの皿に添えられます。甘くないプラタノ(バナナ)はおイモ感覚で食べられますが、甘いプラタノはプラタノマドゥロと言い、日本人だと食後に食べたくなる味ですが、パナマ人は甘いバナナも食事として食べています。パタコンはいわば「2度揚げバナナ」。甘くないバナナを輪切りにして素揚げにし、より平たくなるように潰してから再度揚げて作るもので、中南米カリブで広域に食べられています。
▲目次に戻る
肉のおかず Meat
パナマ料理は米と豆と鶏肉の組み合わせが多いですね。鶏肉はポヨと言い、ポヨフリット(フライドチキン)、ポヨギサード(鶏肉煮込み)、サンコーチョ(鶏肉入りごった煮)が人気です。その他の肉料理では、モンドンゴ(モツ煮)、ビステク(牛肉薄切りステーキ)、ロパビエハ(牛肉を煮込んで裂いたもの)、チチャロン(豚皮サクサク揚げ)など。多様です。
▲目次に戻る
スープ類 Soup
パナマの国民的スープはサンコーチョです。料理名はスペイン語の「サンコチャールSancochar」(沸かすという意味の動詞)に由来し、鶏肉、イモ類、調理用バナナ(甘くないバナナ)、香草類が入っていて風味も旨味もある、あっさりした味付けでもボリュームのあるごった煮です。サンコーチョはヌエバグラナダ副王領(スペイン植民地時代の、今のパナマ、コロンビア、エクアドル、ベネズエラあたりは同じ国だった)時代に形成された料理とされ、事実、コロンビアやエクアドルにもサンコーチョというスープ料理が存在します。パナマ版のサンコーチョは鶏肉で作るのが定番なのでサンコチョデガジーナ(鶏のサンコーチョ)ないしこれをサンコーチョパナメーニョ(パナマ風サンコーチョ)とも呼びます。
▲目次に戻る
料理名一覧 Food & Drink Glossary
【主食類】
- アロース(Arroz)・・・米、白いごはん
- アロースコンポジョ(Arroz con pollo)・・・鶏肉炊き込みごはん
- アロースコンワンドゥ(Arroz con guandú)・・・豆ごはん
- アロースブランコ(Arroz blanco)・・・白いごはん
- オトエ(Otoe)・・・マランガ芋
- トルティーヤ(Tortilla)・・・トウモロコシ粉の生地の厚焼き/厚揚げ
- トルティーヤアサーダ(Tortilla asada)・・・焼いたトルティーヤ
- トルティーヤフリッタ(Tortilla frita)・・・揚げたトルティーヤ
- ニャメ(Ñame)・・・ヤム芋
- ニャンピ(Ñampi)・・・タロイモ
- パタコン(Patacon)・・・2度揚げバナナ
- パパ(Papa)・・・ジャガイモ
- プラタノ(Plátano)・・・バナナ
- プラタノマドゥロ(Platano Maduro)・・・甘いバナナ
- ユカ(Yuca)・・・キャッサバ芋
- ワチョ(Guacho)・・・とろみのあるどろっとしたスープ、雑炊
- ワチョデガジーナ(Guacho de gallina)・・・鶏雑炊
- ワチョデマリスコス(Guacho de Mariscos)・・・海鮮雑炊
【肉のおかず】
- サンコーチョ(Sancocho)・・・鶏肉入りごった煮
- チチャロン(Chicharrón)・・・豚皮サクサク揚げ
- ビステク(Bistec)・・・牛肉薄切りステーキ
- ポヨ(Pollo)・・・鶏肉
- ポヨギサード(Pollo guisado)・・・鶏肉煮込み
- ポヨフリット(Pollo frito・・・フライドチキン
- モンドンゴ(Mondongo)・・・モツ煮
- ロパビエハ(Ropa vieja)・・・牛肉を煮込んで裂いたもの
【魚のおかず】
- ペスカドフリット(Pescado frito)・・・揚げ魚
【スープ類】
- サンコーチョ(Sancocho)・・・鶏肉やイモ類のごった煮
- サンコチョデガジーナ(Sancocho de gallina)・・・鶏を使ったサンコーチョ
- サンコーチョパナメーニョ(Sancocho Panameño)