コシードマドリレーニョ
さて、クリスマスが近くなり、クリスマスで盛り上がるチキン料理を作るという話になって、「クリスマスって何だろう」と改めて考えてみました。クリスマスはイエスの誕生を祝う日ですよね。でもそのイエスが生まれたのはベツレヘムで、ベツレヘムはイスラム教徒のパレスチナの土地で、ユダヤ人が入植した土地で、同時にキリスト教徒の聖地でもあるという・・・。
3宗教が混ざると複雑ですね。でも、世界にはこの3宗教が入り組む場所って結構たくさんあって、もっと勉強しておかないとなーと思う今日この頃でもあります。
ちょっと大げさですけど、気持ちは凛と「料理のむこうに地球が見える」をテーマに、料理を通していろんなことを勉強することが私のライフワーク。
そして今回は、ごちそう料理を食べながら、家族や旅好きの友達と世界の理解を深める会話ができたらいいなと、スペイン料理の「コシードマドリレーニョ」を作りました(*^-^*)
* * *
「コシードマドリレーニョ」のルーツをたどると、もとはユダヤ人の料理であることは簡単に分かりました。でも驚いたのはその先。洋書で深く調べると、大昔はイスラム諸国のハリース(※)と同じ料理のようです。
※ハリース:このサイトでサウジアラビア等の料理として紹介している羊肉、麦、玉ねぎの粥。ハリサとも言うがチュニジアの唐辛子ペーストのハリサではない。
スーピーなコシードとどろりと粥状のハリースがあまりに似ていないからそれはそれは驚きます(@@)
でもイスラム教が興る前(※)は、今はイスラム国家と言われるサウジアラビアみたいな国にだってユダヤ教が主要宗教だったかもしれないわけで、そう考えると、滋養あふれるハリースがユダヤ教徒からイスラム教徒へ受け継がれたのではないかなーとか、あるいは宗教に関係なく人々の暮らしに根付いていたのではないかなーと考えるほうが、自然な気がします(この点、私はもっと勉強する必要があります)。
※イスラム教は7世紀に興ったが、ユダヤ教は紀元前からある。
さて、ユダヤ法のサバト(※)。
※サバト:安息日。金曜日没から土曜日没までを指す。シャバットとも言う。
サバトはお祈りの日であり、調理を含めたあらゆる労働が禁止されます。人々は前日のうちに鍋に材料を入れて釜に入れ、シナゴーグ(※)から帰ってきたら鍋の中で出来上がった料理を食べてきました。イスラエルの首都テルアビブに住むロシア系ユダヤ人のお友達の家でも似たようなことをやっていましたから、昔も今も、金曜日に仕込んで土曜日に食べる食習慣は大事みたいです。土曜日の日中はどのお店も閉まっているので、いずれにしても作り置きの料理が必要なんですね。
※シナゴーグ:ユダヤ教の集会所。教会や寺院のようなところ。
十字軍遠征より少し前の時代、スペイン北部のユダヤ人(※)は、ハリースをミシュナー(※)の言葉でハミンディトリゴ(温かい麦の料理)、略してハミンと呼び始め、ヒヨコマメやソラマメを入れ、より多くの水を入れた具だくさんスープへと形を変えていきます。肉も卵も野菜も入り、それ1つで完全な食事になります。
※ユダヤ人はアシュケナージ系とセファルディ系とその他に分けられる。アシュケナージはポーランドやドイツ方面に離散したユダヤ人、セファルディは北アフリカを経てイベリア半島(スペインやポルトガル)に離散したユダヤ人。ここで述べているのはセファルディ系ユダヤ人。
※ミシュナー:ユダヤの教え。時代に沿って変化している。
ハミンは北アフリカへ伝播してアダフィナやダフィナ(タフィナ)になり、一方でフランス/ドイツのアルザス地方から東欧にも伝播してチョレントやショレトになりました。
私、アダフィナとチョレントって漠然と類似料理だと思っていて、相同と差異が分かっていなかったので勉強には時間がかかりましたけれど、「サバトのための煮込み料理ハミン」を軸にして、そこから大雑把に北と南(すなわちそれはアシュケナージとセファルディ)に分けることで、随分と知識が整理できたように思います。このあたりにまつわるお話は、アダフィナやチョレントのレシピでも説明することにします。
スペインの記念すべき1492年。世界史が嫌いだった高校生の私も、この年号は絶対忘れない。海ではコロンブスが新大陸を発見し、本土ではレコンキスタ(※)が完了して、イベリア半島(※)がすべてキリスト教支配下に入る、スペインの絶頂の始まりといえるスペシャルな年。
※レコンキスタ:国土回復運動。キリスト教徒がイスラム教徒からイベリア半島を奪回する戦い。
※イベリア半島:スペインやポルトガルがある地域。
キリスト教一色にするのだから、ムスリム(※)のみならずユダヤ人の排斥令も発出されました。しかし住みかの移動を拒むユダヤ人は「見かけクリスチャンのかくれユダヤ人」としてイベリア半島に潜むことになります。
※ムスリム:イスラム教徒。
ユダヤ人の「煮込み料理ハミン」はイベリア半島の異端審問に使われました。豚肉やラードを入れて作って、それを食べられないならユダヤ人かムスリムで、クリスチャンなら問題なく食べられるというものです。逮捕や死刑から逃れて安心して過ごすために、自ら豚肉を入れて調理したコンベルソ(※)もいたのだとか。
※コンベルソ:ユダヤ教からキリスト教への改宗者。
でも豚肉や根菜の具だくさん煮物って美味しいですよね。異教徒探索に使われた「豚肉のハミン」は国民の大多数を占めるクリスチャンに人気を得て、やがてスペインの2大古典料理へと発展していくことになります。それがコシードマドリレーニョ(Cocido Madrileño、直訳はマドリッド(※)の煮込み)とオジャポデリーダ(Olla poderida、力ある鍋)(※)です。
※マドリッド:スペインの首都。
※オジャポデリーダ:オジャポドリーダ(腐った鍋)との名もある。
以上、コシードマドリレーニョの概観を学んだことで、個人的に結構盛り上がってきました! 「コシードマドリレーニョ」の興味深いところは、ユダヤ料理の原点と本質を探究できるレシピであり、キリスト教徒の証であり、人気のスペイン国民食であり、代表的なマドリッド料理です。
「なぜここに豚肉が入っているのか」、その答えに「審問料理」たる歴史的意義があるし、もっとさかのぼって「なぜ一晩も放置して前日から作る料理があるのか」って考えると、ユダヤ人におけるサバトの意義を、日本人が理解する一助になる気がします。
ユダヤ教だけじゃなく、キリスト教は日曜日が休日で、イスラム教は金曜日が休日。休日のための作り置きとして、宗教に関係なく人々に受け入れられてきた料理なのではないかと、料理を味わうすべての人の感謝の心が想い描けるのです。
なおこの料理は複数の種類の肉を使って極めて美味なる旨味を持っています。その旨味を吸った具と、美味しいスープとを別々に盛り付けて、1料理2役でいただきます。それでは作ってみてくださーい。
材料
(4~6人分):
- ヒヨコマメ(乾燥)
- 1/2カップ
- ヒヨコマメを戻す水
- たっぷり(※1)
- 水(※2)
- 1.5L
- 鶏肉(骨付きもも肉)
- 400g
- 豚肉(かたまり肉)
- 400g
- じゃがいも
- 4個
- 卵
- 4個
- 人参
- 1本
- 玉ねぎ
- 2個
- にんにく
- 1、2かけ
- ベイリーフの葉(乾燥)
- 1枚
- ローズマリーの葉(乾燥)
- 少々(好みの量)
- パセリ
- 少々(好みの量)
- こしょう
- 少々(好みの量)
- ナツメグ
- 少々(好みの量)
- パプリカパウダー
- 少々(好みの量)
- 塩
- 小1
- 油(ラードでもよい)
- 大2~3
- 砂糖
- 大1
- ※1:ヒヨコマメの3倍以上。
- ※2:豆を戻す水とは別。
調理時間
:半日(ヒヨコマメを戻す時間を除く)
作り方
:
- 作りはじめる前日にヒヨコマメをたっぷりの水につけ、戻す。
- 鍋にヒヨコマメ、新しい水、大きく切った肉や皮をむいて大きく切った野菜、卵、ベイリーフやローズマリーやパセリなどの香草類、こしょうやナツメグやパプリカパウダー、塩、油を入れ、よく洗った玉ねぎの皮を入れ、沸騰させ、沸騰したら火を弱めて1時間以上煮る。
- 煮ている間に、別の鍋に砂糖を入れて加熱し、カラメル色になったら煮汁を加えて溶かし、茶色い液体を作り、鍋に注ぎ入れる。
- 途中で卵を取り出し、殻を割って中身を鍋に戻す。
- 途中で玉ねぎの皮を取り出して捨てる。
- 味見をして塩加減などを調える。
- 鍋帽子やバスタオルなどで保温性を高くして、一晩置いておく。
- 食べる前に温め直して、スープと具を分けて盛り付ける。
- Enjoy!
材料と調理のこつ
:
- スープだけを最初に飲み、次に豆と野菜を食べ、次に肉をガッツリ食べます。1つの料理でコースになります。
- 分量や材料は地域や家庭により異なるので、適当に作って一向に構いません。ただ、現地でも定番の具材であるヒヨコマメや豚肉は是非入れてください。
- 美味しそうな色をつけるために、砂糖で作るカラメルや玉ねぎの皮を入れるレシピを採択しています。
- チョリソーやラードを入れるレシピもあります。
- 油っこいのが気にならなければ、油は是非入れてください。冷めにくいようにと伝統的に油を入れて作られています。
- スープだけを取り出して細いパスタ(カッペリーニ)を入れてゆでる食べ方も一般的です。
Tips about cuisine
- 「コシードマドリレーニョ」のスペイン語(スペインの公用語。アンドラとジブラルタルでよく通じる言語)の綴りは「Cocido Madrileño」。
- 「コシード」は煮込みの意味。マドリレーニョはスペイン首都のマドリッドを指す。
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